63,本当はずっとそばにいたいことと生野にエロい顔だと言われたこと
学校生活や仕事に支障が出ない付き合いをしようということになったのだ。とは言え、有希はいつも日曜日まで待てなくて、結局、週に一、二度は部屋に行ってしまうのだが。
伸が働いている、フォレストランドというテーマパーク内のレストランは、終業時間が早いので、泊まらなくても、それなりに二人でゆっくり過ごせるし、優しい伸は、有希が約束を破って会いに行っても、怒ったりしない。休みが重ならないために、一日中一緒にいられないことを、有希が寂しがっていることを知っているから。
本当は、ずっと伸のそばにいたいし、出来ることなら一緒に暮らしたいと思っている。さすがに、高校に通っているうちは早過ぎるのではないかと思い、まだ口に出したことはないのだが、いつか、伸と一緒に暮らすことが夢だ。
ナイトクラブを三店経営している有希の母は、理解があって、伸の人柄も、二人の仲も認めてくれている。だが、それはかなり特殊な例らしく、伸の母や同僚には、二人の関係は話していない。
別に、それでかまわない。有希はただ、伸のことが大好きで、伸のそばにいられれば、それだけで幸せなのだ。
昨夜の伸との行為を思い返し、にやにやしていると、突然、屋上に上って来る階段へ続くドアが開いた。有希は表情を引き締め、あわてて立ち上がる。
ドアの向こうから現れたのは、同じクラスの生野公太だ。大学までエスカレーター式で、裕福な家庭の子息が多く、のんびりした校風の中で、彼は押しが強く、成績優秀で、クラス委員長も務めている、ある意味異色のキャラクターだ。
その生野が、真っ直ぐこちらに歩いて来る。ほかに人はいないので、有希に向かって来ているのだろうが、何か委員長に注意されるようなことをしただろうかと、少し不安になる。
長身で眼鏡をかけた、一見無表情な生野が近づいて来ると、妙な威圧感がある。
「おぅ」
生野が、こちらに向かって軽く手を上げた。やはり、有希に用があるらしい。
「何か用?」
見上げる有希を見て、生野がにやりと意味ありげに笑った。
「……え?」
生野は、まだにやにやしながら言う。
「お前今、エロいこと考えてただろ」
「なっ……」
内心ぎょっとする。なぜわかったのだ。だが、有希は反論する。
「何を馬鹿な。そんなわけないだろ」
「そうか? 今、めっちゃエロい顔してたぞ」
そう言いながら生野は、有希と並んでフェンスにもたれかかった。
「エロい顔なんてしてないよ」
ムキになる有希に、生野はふふっと笑う。そのまま何も言わないので、有希はもう一度聞いた。
「何か用?」
生野は、笑いをたたえた表情のまま有希を見下ろす。
「いや、別に。さっき階段を上がって行くのが見えたから」
見えたからって、なんで用もないのについて来るのだ。訝しむ有希に、生野が言った。
「お前って、変わってるよな」
ますます意味がわからない。いったい、自分のどこが変わっているというのか。
黙ったまま見上げていると、生野が言った。
「人との距離感っていうか。みんなとしゃべってたと思ったら、いきなりふらりと一人で屋上に来たり」
そう言いながら、足元の床を指す。
「変わってるかな」
自分は小さい頃から、ずっと普通にそうしているのだが。
「変わってるよ。普通は、みんな一人になるのを嫌って群れたがるだろ」
「そうかもしれないけど……」
そこで、ふと気づく。
「そういう生野こそ、一人でこんなところに来てるじゃん」
生野が、声を上げて笑った。
「そう言やそうだな」
さもおかしそうに、いつまでも肩を揺すって笑っている。
何がそんなにおかしいのだ。せっかく、伸のことを考えて幸せな気分に浸っていたのに、突然やって来て、人の邪魔をして……。
そう思って横目で生野をにらんでいると、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り出した。




