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62,体中がかっと熱くなることと完全に一つになったことと昨夜の出来事を思い返すこと

「そういうときは、『四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ』って言うんだよ。そしたら僕が、『はい』って答えるから。


 ねぇ、言ってみて」

 

 やっぱりまた、有希のペースになっている。そう思いながらも、伸は、言われた通りにする。

 

「四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ」


「……はい。一生、僕をそばに置いてください」


 体中が、かっと熱くなる。何か気の利いた言葉を返したいと思うが、何も出て来ない。こんなに幸せなことが、ほかにあるだろうか。

 

 もちろん、人の心が移ろいやすいものだということは承知している。有希も、今はこんなふうに言っていても、いつか、伸に対する気持ちが冷めるときが来るかもしれない。

 

 だが、それでかまわない。たとえ有希が自分のもとから去るときが来たとしても、今、この瞬間の幸せな記憶があれば、それだけで生きて行ける。

 

 今までだって、自分は、そんなふうにして生きて来たのだから。

 

 感慨にふけっていると、腕の中で有希がつぶやいた。

 

「伸くん」


「……うん?」


「これからもまた、体の奥が疼いてどうしようもなくなったら、伸くんに鎮めてほしい」


「あぁ」


「そうなったときは、何度でも」


「あぁ」


 有希がそうなっているときは、きっと自分の体も同じようになっていることだろう。伸の痛いほどの疼きも、有希と一つになることでしか、鎮めることが出来ない。

 

「あのね」


 有希が、顔を上げて、伸を見つめた。頬が上気している。

 

「さっき鎮めてもらったばっかりなのに、また……」


 伸の体も、先ほどから疼き始めている。

 

「わかった」


 今度こそは、大人の男らしく、自分のペースで。そう思いながら、有希をあお向けにさせて組み敷く。

 

 されるままになって、潤んだ瞳で伸を見上げる有希の、なんと美しく、なまめかしいことか。伸は、遠い記憶をたどる。初めて行彦と、こんなふうに見つめ合った日のことを。

 

 有希は、墓地で倒れたとき、自分の中から行彦が抜け出たのだろうと言った。だが、伸は思うのだ。

 

 あのとき、行彦は、有希の体から出て行ったのではなく、完全に同化したのではないかと。行彦と有希は、完全に一つになった。

 

 伸と愛し合うために。 伸は、愛しい恋人の名を呼ぶ。

 

「ユウ」


 (第一部・終)




 最初に見つめ合ったときから、すでに体の奥が疼き始めている。長いキスの後、唇と唇が離れる頃には、体中が火照っている。

 

 キスの後には、伸の瞳も妖しく潤んでいる。乱れた前髪越しに有希を見つめる表情が、たまらなくセクシーだ。

 

「伸くん……」


 二人は、もつれ合うようにベッドに倒れ込む。

 

 

 

 フェンスに背中をあずけて腰を下ろし、ぼんやりと昨夜の出来事を思い返していると、うっかり体が反応しそうになり、有希は思わず、誰もいない屋上を見回した。気持ちを落ち着けようと、空を見上げながら深呼吸を繰り返す。

 

 有希は、高校三年になった。大学付属の私立高校なので、受験勉強の必要もなく、相変わらず、のんびりマイペースで生きている。

 

 去年、運命的な出会いをした年上の恋人、伸との仲も順調で、彼の仕事が休みになる前日の日曜日には、彼の部屋に泊まることが習慣になっている。昨日は日曜日だったので、何度も愛し合い、今日は少し疲れ気味なのだ。

 

 それで、昼食の後、友達の輪から一人抜けて、屋上に一休みしに来た。一応、一緒に昼休みを過ごしたり、ときには遊びに行くようなグループに属しているが、親友と呼べるほどの相手はなく、一人で過ごすことも好きだ。

 

 疲れたときは、一人になって、伸のことを考えている。出会ってからずっと、有希は彼にぞっこんだ。

 

 付き合い始めたばかりの頃は、放課後、ほとんど毎日、彼の部屋を訪ねては、遅い時間まで愛し合っていたのだが、それではさすがに体が持たないし、伸にも迷惑がかかってしまうので、話し合った結果、週末だけ泊まるという、今のスタイルになった。

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