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プロローグ


澄んだ冷たい空気に朝の光が差し込み始める早朝。広大な大地には見事な牧草地と畑が広がり、遠くを囲む木々が風に揺れている。

牧歌的な風景に彩られたこの場所は、国の中心である帝都からは遠く離れた田舎の地であった。都市部のような華やかさも利便性もないが、豊かな自然に囲まれてゆったりと時間が流れる平和な村が点在している。

陽の光に誘われるように徐々に動物たちが活動を始め、やがてそこに村の人々が加わっていき、静けさに包まれていた空間は賑やかさを増していった。


「おはよう」


「おはよ。だんだん朝の空気も冷たくなってきたね」


動物達の餌やりのため家から出てきた少女たちが挨拶を交わす。二人とも動きやすい簡素な作りの服を着ていた。


「夏が来た~と思ったばっかりなのに、もうそれも終わりかぁ」


「秋になるとまた忙しくなるよね。お母さんが今年の実りはいいって言ってたし」


「うわ、また全身筋肉痛になる!豊作なのは良いことだけどさぁ…」


準備した餌を牛や馬、鶏などの家畜たちに順番に給餌していきながら、彼女達はこれからの生活を思い溜息を吐く。

まだまだ緑が広がっているが、その端々に僅かに黄色や赤が混じり始め、秋の訪れの予兆を感じさせていた。作物や家畜などの農業を生業としている彼らにとって、これからの季節は今までの努力の結果が出る重要な時期でもあった。実りが多ければそれだけ仕事も増える。大変ではあるが、この先の生活が充実する証でもあるのだ。

少女たちは口では文句を言いながらも、その表情は生き生きとしていた。


「そういえばさ、あの子最近見ないね」


一通りの餌やりと水替えを行い、来た道を戻りながら少女がぽつりと呟く。


「あの子?」


「ほら、わざわざ隣村からよく遊びに来てた子がいたじゃない。すごいおしゃべり好きな子」


「ああ、ルーナね。もっぱら自慢話が趣味の」


「そうそう、顔は結構可愛いのに口を開くとちょっと残念だったよね」


「明るくて元気だし悪い子じゃないんだけどね…」


話題の少女を思い浮かべたのか二人とも苦笑いの微妙な表情になる。


「あの子ならもうここらにはいないみたいだよ」


「え、そうなの?」


「父親の仕事が上手くいってるって前に言ってたじゃない?なんでも事業で成功したお金で爵位を買ったらしいよ」


「ええ!?」


「で、それを機に最近帝都の方に移ったんだって」


「うわぁ、じゃあ商人の娘からお貴族様になっちゃったってこと?」


話を聞いた少女は驚いたように目を見開く。


「そういうこと。ルーナいつも言ってたからなぁ。こんな田舎いつか出てってやる~って」


「そういえばそんなこと言ってたね。自分はもっと華やかな暮らしが似合うとかなんとか」


「で、いずれは王子様が迎えに来てくれる!ってね。今思うと結構夢見がちな子だったよね。悪いことじゃないけどさ」


「なんかそういう本好きだったもんね」


笑いながら二人はのんびりと歩き続ける。

彼女達にとって貴族の人間や帝都での生活などは縁のない遠い世界の話であった。憧れが全くないとは言わないが、今の身の丈に合った生活に十分満足している。


「私はここでの生活も好きだけどな。確かに代わり映えしない毎日だし、体力仕事も多いし、話に聞くお洒落に着飾った優雅な生活なんてできないけどさ。ここにはここにしかないものがいっぱいあると思うんだよね。綺麗な空気もたくさんの緑に囲まれた暮らしも悪くないし、食べ物だって凝ったものはないけど新鮮で美味しいし、なにより気ままな生活が気楽でいいしね」


「確かにお貴族様の会話とかマナーだとか、肩凝っちゃいそうだよね。腹の探り合いとかも無理だし、息苦しくて気疲れしちゃいそう。私も今のままでいいな」


憧れは憧れのままの方がいいというのが彼女達の考えだった。急な環境の変化についていくというのは、口で言う以上になかなか難しいことだ。


「そういう意味では、あの子の夢が叶ったってことなのかなぁ」


「そうだね。でも大丈夫かな…」


「何が?」


何とも言えない顔をする一人に、もう一人が首を傾げる。気づけばもう家のすぐ近くまで戻ってきていた。


「だって、ルーナってなんていうか空気読めないじゃない?人の話も聞かないし、思い込みが激しいというか。根が悪い子じゃないのは分かるけど、だからってそれで全部許されるわけじゃないし…」


「う~ん、確かに。気が合わない子とはとことん合わないしね。だからって自分が譲ったり遠慮したりとかは絶対ないし。お貴族様相手に同じような態度取ったら色々大変だよね。まあ、そこまでお馬鹿じゃないと思うけど」


「だよねぇ。小さい子じゃないし、さすがに考えすぎか。それに気にしたところで、もううちらと関わることもほとんどなさそうだしね」


「そうそう。私達ができるのはあの子がトラブルを起こさず、お貴族様たちの仲間入りして少しでも早く馴染めるように願うくらいだよ」


「どっちにしても帝都の情報なんてほとんどこっちには入ってこないしね。って、ヤバ!もうこんな時間じゃん!」


「わ、ちょっとゆっくりしすぎちゃった!私畑に行ってこなきゃ!」


「私もパン切らしてるから買って来いって言われてたんだった!じゃあまたね!」


それまでのんびりしていたのが嘘のように、少女たちは別れの挨拶をして慌ただしく駆け出していく。

その余韻をかき消すように、冷たさを含んだ秋の風が葉を巻き上げながら彼女達を追いかけて行った。


また新しい章が始まりました。このお話ではルルアンナの悪役令嬢っぽさをたくさん取り入れていく予定なので、楽しみにして頂けたらと思います。秋の章でもよろしくお願い致します。

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