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鏡に呪うよりも  作者: こす森キッド
13/13

鏡に呪うよりも 12.(終)

12.



二〇×四年 九月三日(月曜日)


 小学校の頃、『夏休みの終わり=この世の終わり』みたいに本気で思っていたことがある。

 休みが始まる前に立てていた、あれもやるこれもやるという計画は全く達成されず、ダラダラとゲームなどして遊んでいるうちに、気づけば八月は終わっていた。

 どうしよう……、夏休みの宿題のうち、あれとこれは結局今日までに間に合わなかった……。

 忘れ物してきたと誤魔化して、始業式が終わって家に帰り着いたら、午後から急いで片付けなくちゃ……。

 こんな具合に。


 しかし、このX高校では、夏休みの宿題など出されない。

 そもそも、夏休み中ずっと課外授業が行われているわけだから、その毎日の予習にプラスアルファで宿題を出されたところで、生徒がそこまでやれきれる訳がないからだ。

 乙倉は、あの事件から数日間は入院して経過観察を受けていたが、異常なしということで難なく退院することができた。

 そこから改めて、毎日空き時間を見つけてはコツコツ予習を貯め始めたおかげで、乙倉は心置きなく二学期を迎えることができている。

 “貯金”がある状態で休み明けを迎えたことなんて、小学校や中学校の頃はなかったな、なんて乙倉は思う。



 甲田が雌蕊を取り返し元の生活に戻ってからしばらくの間、乙倉と甲田はそれぞれ事後処理に追われていたので、直接話をする機会はなかなかなかった。

 それでもある程度は情報共有や互いの現状確認もしておきたかったので、毎日何かしらメッセージのやり取りはしていた。

 雌蕊を失った状態の甲田が色々しでかしてくれたこともあり、気まずい雰囲気にならないだろうかと勝手に心配していたが、元に戻った甲田は意外と平気そうにしていたので、乙倉はホッとした。

 ただ、雌蕊を失っていた時の記憶も甲田にはしっかり残っているようで、「あの時のことは早く忘れてほしい。あの自分は、本当に、今の自分とは別人だから」と繰り返し念を押された。

 乙倉としても、気まずい感じになるのは歓迎しておらず、その辺りは甲田にとってデリケートな部分であることは分かっていたので、雌蕊のことについてあの日以来触れることはなかった。


 二人とも、警察から事情聴取を二回ほど受けた。

 甲田の身を保護できた時点で、これ以上嘘を重ねる道理もない。

 二人で最低限の共有認識だけ確認しておく程度で済ませ、もし乙倉が最初に証言した内容についての嘘がバレてしまっても、それはもうしょうがないと割り切ることにした。

 ただ意外にも、乙倉の嘘は、いつまでもバレる気配がなかった。

 あの男が消息を絶ったままだからだ。

 数日前、男が乗っていた黒い車だけが、隣県の山中で発見されたのみだった。

 甲田によれば、もしかしたらあの男は完全に人間を捨てて、植物として自然に帰っていったのかもしれない、という。

 そのことをどう思うかに関しては、いまだに心の中で消化しきれてない部分が大きい。

 ただ、とりあえず向こうしばらくは、自分が警察への証言で嘘をついたのだという事実を背負って生きていこうと、乙倉は思うのだった。



 学校の方では、生徒らの心情や心労、事務的対応にかかる負担を考慮し、夏休み期間中の課外授業と体育祭の練習は中止とされていた。

 しかし、乙倉をはじめとする被害に遭った生徒らと、実行犯に拉致されていた甲田が無事に帰還し、校内の安全も確認されたことで、始業式翌日の九月四日から、生徒側からの要望通り体育祭の練習が再開されることとなった。

 中止期間の影響はかなり大きく、スケジュールは相当厳しい。

 ただ、怪我の功名と言っていいものか、『侵入者が起こした理不尽な事件』という共通の脅威に直面したことで、生徒たちはより結束し、体育祭をやり遂げてやろうという学校全体の士気が上がっていっているのを乙倉は肌で感じていた。

 体育祭の練習と言えば、丙児は二学期に入ってからは普通に学校にも顔を出し、練習にも参加するとのことだった。

 何やら生徒皆がいつも以上に張り切っている空気にあてられて、丙児自身もお祭り気分が湧いてきたのか、自分もちょっとは頑張ってみようかという気分になったらしい。

 この調子でいけば、今度の体育祭は大成功を収められそうな予感がした。

 たとえ、本番で人文字にミスが何個も出たとしても、フォークダンスの振り付けが仕上がりきっていなくても。

 そういうもんだよな、と乙倉は心のどこかで思っていた。



 始業式が終わった放課後、乙倉は校舎一階の保健室を訪れていた。

 事件の際に心配をかけてしまった手前、養護の先生にお詫びとお礼の挨拶をしておきたかったのも勿論だが、それともう一つ用事があった。

 

「あなたも当事者な訳だから、知っておいた方がいいと思って」

 先生が、パーテーション越しに甲田へ声をかける。

「甲田さん、すぐそこで乙倉くんとしばらく話をしてるからね」

 カサカサカサ、と返事をするように、パーテーションの向こう側から葉擦れのような音が聞こえてきた。

 甲田は今、植物化した状態で養生しているようだった。

 そこは本来ベッドが置いてある区画であるが、しばらくの間は甲田のため特別に一箇所だけ巨大な鉢と、その中に栄養液を浸透させた水苔が用意されていた。

 甲田の精神不安定が落ち着いた時点で、身体の植物化の進行はひとまず落ち着いていた。

ただ、それですぐ元の人間の身体に戻れるという訳ではないらしく、完全に元に戻りきるには時間がかかるみたいだ。

 しばらくの間は一日一定時間、植物化の体に戻って養生をする必要があるそうだ。

 甲田が勇気を振り絞って養護の先生に相談してみたところ、一区画を遠慮なく使って良いということになった。

 その先生によれば、植物化という現象は多感な時期の若者の間でごく稀に発生するものらしく、実はこの学校でも前例が二回ほどあったのだそうだ。

 勇気を出して相談してみてくれてありがとう、と養護の先生は甲田に伝えたという。

「乙倉くんも、定期的に様子をみてあげてね」

 勿論、と乙倉は頷く。



 甲田の養生が終わった後、二人はいつものマ◯クに立ち寄った。

「えーと、エスプレッソとワッフルソフトのストロベリー、と……。

 それと、テリヤキバーガーのセットをください。

 ドリンクはコーラのLで、あとポテトもLでお願いします」

 カウンターで商品を受け取る時に、いつもの店員さんが「頑張ってくださいね」と、頼んでもいないのにスマイルと、応援の一言を寄越してきた。

 別に頑張ることなんてないのにな……、と照れながらも、あながち悪い気はしない乙倉だった。

 そう言えばもう十回目なんだな、と何だかしんみりした気持ちが湧いてきた。


 甲田に、最近の調子はどうだと聞いてみる。

 養生のために時間を割かなければならないということもあり、なかなか本調子には戻りきれないでいるが、可能な範囲で自分なりに頑張っているそうだ。

 ただ、部活に関してはどうしても都合が合わせられそうになく、現在練習への参加は休止していて、前から色々と考えていたこともあり、多分このまま退部するだろうという。

 そうか、と乙倉は一言だけ漏らす。

 これでうちの中学の、俺たちの代の卓球部員は、全員卓球から離れることになるのか、と乙倉は思った。

 いつかはこの日が来ると分かってはいたものの、なんだか喪失感に襲われた。

 こんなふうに理不尽なきっかけで突然終わりが訪れるなんてことは、何事においても、珍しいことではないはずだ。

 だからこそ、潔い、さっぱりとした幕引きに、人は惹かれるものなのかもしれない。

 でも、あの日乙倉が甲田に言ったように、これで何もかも終わったわけじゃない。

 甲田は、部活から身を引く代わりに、これからは乙倉を見習って勉強に力を入れていくと言う。

 きっと甲田なら、この一区切りを、自身の新たな飛躍のきっかけにできる。

 大袈裟に思われるかもしれないが、乙倉は本心からそんなことを考えていた。



 気づけば、互いが注文したものも全て食べ終えてしまっていた。

 近況報告も一通り済み、二人の話題は取り留めのない世間話へと移っていった。

 自分のクラスで、今日あんなことやこんなことがあった、とか。

 入院生活の間に規則正しい生活をしていたおかげか、前よりむしろ体調が良くなった気さえするけれど、やっぱり病院食のボリュームだと物足りなかったな、とか。

 そんな、面白い話をしなきゃとか、オチを付けなきゃとか、そういうのが全くない、本当に何気ない世間話。

 でも何だか、甲田はいつもより楽しそうに会話をしていて、自分からもそういう話をポンポン出してくれる。

 乙倉も楽しかった。

 和やかな空気。

 今まで一緒にいた中で、今が一番良い雰囲気なんじゃないか、と乙倉は考える。

 仮に、やがて話題がなくなって二人の間に沈黙が落ちたとしても、今ならその沈黙でさえ心地よく感じられるのではないか。

 この時間がずっと続いてくれたら良いのに、と乙倉は恋愛小説のようなことを思ったりする。

 もしかしたら、甲田もそう感じていたりしないだろうか。

 この二ヶ月間を共にして、微妙な空気になったり沈黙が落ちたりする時間も少なくはなかったけれど、今では自分から色んな話をしてくれるようになった目の前の甲田を見て、そんなことを考える。

 どうなんだろう、気になる。

 と言うよりも、雌蕊がない“内側十パーセント”を失った時の甲田の様子を思い出すに、結構期待できるのではないか。

 でも、もし“内側十パーセント”では実際そこまででもないとか思っていたら?

 もしかしたら、もう甲田と二人きりでマ◯クに来ることもなくなるのだろうか。

 なんかそれは、寂しいな。

 だんだんと、乙倉の中でこの全十回の“放課後デート”が終わろうとしていることへの、意識が大きくなっていった。


 お花を摘みにいってくると離席した甲田を待っていると、両手にそれぞれホットコーヒーとオレンジジュースを持って戻ってきた。

「いやーなんか喉が渇いちゃって。

 どっちか好きな方飲んでいいよ。

 というか、自分ばっかり奢ってもらってるのが今更申し訳なく思えてきて。

 この間助けてもらったお礼だって、まだできてないのに」

 それでは遠慮なくということで、乙倉はホットコーヒーを貰うことにした。

 乙倉は、甲田からの助けてもらったお礼をしたいという申し出を、あれやこれやと言い訳しながら躱し続けていた。

 甲田のお礼が済んでしまったら、二人の間の繋がりが、それっきりなくなってしまうのではないか、そんなことを怖がっていた。

 この二ヶ月間で周囲に対する外堀が埋まっていったことともまた別に、乙倉自身の気持ちも、もしかしたら後戻りができなくなっているのかもしれなかった。

 後から頼んだオレンジジュースを飲み終わってもお喋りを止めない甲田の様子をみていても、やっぱり甲田も同じ気持ちなんじゃないか、そんな風に思えてきた。


 また一緒に来よう、と。

 一言、誘えば良いはずだったが。

 乙倉の内心では、この間あの洋館の一室で熱っぽく甲田に語りかけたあの一幕が足枷になっていた。

 もしかしたら、こっちからこれ以上ガツガツ行き過ぎると、押し過ぎなのかもしれない。

 温度差を感じられて、嫌われたり距離を置かれたりしたらどうしよう、そんな不安から、甲田を誘いたくても怖くて誘えないという心境に陥っていた。



 実はこの時、甲田も似たような心境だった。

 本当は、これからも乙倉と一緒に過ごしたい、そんなことを考えているのだった。

 雌蕊を取り戻してからは、受け身でプライドも高い性質に元通り戻っていて、なんとかローリスクで乙倉と二人きりになれる方法はないだろうかと、考えを巡らせているのだが。

 それまでの対人経験不足が足を引っ張り、せいぜい追加の注文をこっそり取ってくるくらいの行動を起こすまでが関の山だった。

 どうしても、ストレートに乙倉を誘う勇気を出すには至っていなかった。

 この瞬間だけ雌蕊を引っこ抜けたらどれだけ楽だろう、という考えがチラつくが、乙倉の気持ちを無碍にしてしまう気がして、すぐにそれを掃き捨てる。



 やがて、互いに思いつく話題も底を尽き、余韻に心地よさすら感じられる沈黙が降りてきた。

 何時間喋り続けただろうか。

 いつの間にか、窓の外をみると、あの日洋館に向かう森の中で見たものとそっくりの夕陽が顔を覗いていた。

 事件からもまだ日が経っておらず、あまり帰るのが遅くなってしまうと、また互いの家族を心配させてしまう。

 仕方がないが、そろそろ解散すべき時間かもしれない。

 同じ学校に通っているわけだから、そのうちまた誘う機会もあるだろう。

 そう、今日のところは諦めをつけて、乙倉は甲田に切り出す。

「そろそろ帰るか」

「えっ……」

 甲田は、乙倉に名残惜しそうな表情を見せていた。

「ん?

 まだ何か話し足りないことがあるのか?」

「…………」

 甲田は、何かを言葉にしたくて、でもそれを口にする勇気が出ない、というような様子だった。

「いいよ、ゆっくりで」

 乙倉は苦笑いする。

 いつもの歯切れの悪い甲田が戻ってきたようで、安心感すら覚えていた。

 甲田は少しずつ、各駅停車のごとく、言葉を紡いでいく。

「乙倉はさ……、雌蕊がない時の私のさ、

 いや、あれは本当の私とは全然別人なんだけど、

 別人なんだけど覚えたまんまだから……。

 雌蕊がない時の私が身体を、その……、くっつけた時にさ、

 あれがグッときたとか、あの時、言ってたじゃん……?」

「えっ!?

 う、うん……」

 なんでこいつ、いきなりあの時のことを自分から言い出し始めたんだ?

 こっちは気を遣って、触れないようにしていたのに……。

 もしかして、やっぱり雌蕊がない時の方が良かったとか言い出すんじゃあるまいな?

 そう考えているのを勘付かれたのか、甲田は慌ててそれを否定する。

「あ、いやその、あの状態に戻りたいっていうわけじゃなくて。

 そうじゃなくて……。

 あれは自分とは全く別人だし、

 別にああいうふうになろうとも思わないけれど、

 その……、後学のためにね?

 後学のために、あれの、どの辺がグッときたのかな、なんて、

 聞いとこうかな、なんて、思ったんだけど……」

「はぇ?」

 なんだか拍子抜けしてしまった。

 なんだ、そういうことか。

 例によって、甲田は受け身を拗らせた結果、色仕掛けによって相手からのアクションを引き出す作戦を企んでいるようだった。

 まあ、あの時の甲田にグッときたのは本当だし、なんなら時々あんな感じになってくれると言うのなら、こちらとしてもやぶさかではないのだが。

 しかし、ここは敢えて、甲田に自信を与えるべくビシッと言った方がいいかもしれない。


 乙倉は洋館で必死で説得した時と同じように、自分に気合を入れて想いを言葉にしていく。

「あのなぁ、甲田。

 確かに俺は、身体をくっつけてきた時にグッときたと、そう言った。

 でも、それは甲田が持ってる魅力のほんの一部分に過ぎない。

 確かにだ、確かに、俺の腕に甲田の胸の感触が伝わってきた時とか、甲田の顔が近づいてきた時とか、甲田の右胸のホクロが見えてしまった時とか、すごくグッときたし、すごくドキドキした。

 それは認める。

 でも、本当にそれは、甲田全体の魅力の中では一部分だ。

 俺が一番グッとくるのは、甲田が自分なりのやり方で一生懸命頑張ってる時なんだ。

 だから、もっと、今の自分に自信を持ってくれ。

 そういうやり方に頼らなくても、甲田は十分に魅力的な女の子なんだと、そのことだけは知っておいてほしい」

 甲田に喝を入れるべく、乙倉は自身の中に松岡◯造をインストールしたようなつもりで、熱い想いを言葉に乗せていく。

 言ってる内容の中に変な感じのことも含まれてて、松岡◯造さんごめんなさい……。


 さあどうだろう、今の言葉は、甲田の心に刺さってくれただろうか。

 甲田の表情を窺うが……、なんだか様子がおかしい。

 甲田の目が、こちらを睨んでいるように見えるのだが。

 その黒くクッキリとした眉毛も、一瞬ピクリと震えたような。

 あれ?おかしいな……。

 確かに、自分で言っておいてなんだが、前半部分は若干飛ばしすぎたことは否めない。

 でも、そもそも最初にこの話を持ち出してきたのは甲田の方だし、それで機嫌を傾けるのは違くないか?

 乙倉はそんなことを考えていたのだが、甲田が口にした怒気の理由は、もっと別のところにあったのだった。

「……今、『右胸のホクロ』って、言った?」

 右胸のホクロ……。

 言ったな、言った。

 見えてしまった時、すごくグッときたしすごくドキドキした、と言った。

 それがどうかしたのだろうか?

 怒気怒気した様子の甲田は、続けてこう言った。

「私、乙倉には、自分の胸を見せたことは、ないはずなんだけど。

 なんで乙倉は、私の右胸にホクロがあるって、知ってんの?」

「……あっ」

 乙倉は自分の記憶を辿っていき、間もなく自らの過ちに気がついた。

 やべえこれ。


 乙倉が甲田の右胸にあるホクロを目撃した回数は、実質的に二回だ。

 一回目は、丙児から裏アカウントを教えてもらった時に、そこに投稿されていた写真を見た時のこと。

 もう一回は、体育倉庫の奥で虚ろな表情をした甲田が胸を晒け出して花びらや葉っぱを取り除こうとしている場面に居合わせた時のこと。

 この二回の目撃によって、乙倉は甲田の身体に大きな異変が起きているということを確信したのだった。

 一方で、二人の間の雰囲気が変にならないよう、乙倉は甲田に対しては、その二回の目撃については伏せたままにしていたのだ。

 せっかく怪しまれずに乗り切れそうだったところを、勢い余って乙倉は自分から尻尾を出してしまったのだった。


 これは、どう説明しようと、甲田の機嫌を損ねずに済むビジョンが浮かばない……。

 実は甲田の裏垢の存在を知ってました、と正直に白状するのは、一番ダメな気がする。

 多分あれは、甲田の中でも最上級の黒歴史と化していることが、想像に難くないからだ。

 では、体育倉庫の方はどうだろう。

 こっちも微妙だ。

 あの場に居合わせたこと自体は、実際不可抗力だった。

 しかしそれでも、だ。

 お前、あの場で私が辛そうに胸を晒け出してる様子を見ながら、グッとくるとかドキドキするとか、そんなこと考えてたの?ってなりそうだ。

 うーんこれは、どう転んでも無事では済まなそうですね……。


 脂汗を流しながら黙り込んでしまった乙倉の様子を眺めながら、甲田はハァと溜め息を吐き、呆れたようにこう言った。

「まあでも、乙倉のことだから何か考えがあって黙ってたんだろうなって、なんとなくは分かってるよ。

 だから、あと十回、ここで奢ってくれるのなら、許してあげようかな」

 えっ、と乙倉は俯かせていた顔を上げて、甲田を見る。

 その顔は、いつも通りのニヤニヤした表情を浮かべていた。

「ただ、自分ばっかり奢ってもらうのも申し訳ないから、半分の五回くらいは逆に私が奢ってあげるね」

 目を細めた、したり顔で。

「乙倉、私を取り戻してくれて、本当にありがとう」

 以前は小憎らしく映っていたその表情に、乙倉はこう思った。

 悔しいけれど、グッときた。




注意.

 本作の内容は、実在の人物、団体及び実際に発生した事件等とは一切関係がない。

 特に、劇中事件の発生経過やそれに対する組織的対応、医療に関係する描写など、専門的知識を要する部分に関しては、作者自身の調査不足・勉強不足から、間違った内容や現実的にはあり得ない内容が含まれている可能性が高い。

 また、本作は、特定の思想や個人・団体に対して批判する目的や、一部登場人物が取る反社会的な行為を肯定する目的のために書かれた物ではない。



主要参考文献


参考書籍

・別冊NHK趣味の園芸(2008).洋ランの育て方完全ガイド,日本放送出版協会

・日本のラン ハンドブック①低地・低山編(2015),文一総合出版

・森昭彦(2016).身近にある毒植物たち “知らなかった”ではすまされない雑草,野菜,草花の恐るべき仕組み,SBクリエイティブ


参考Webページ

・田中裕之(1990).『デンドロカカリヤ』論 ─《植物病》の解明を中心に─,国文学攷,128号

( h ttps://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/21317/20141016140715119159/kokubungakukou_128_1.pdf )(2023年4月4日アクセス)

・一般社団法人日本中毒学会.消化管除染(1)胃洗浄

( h ttp://jsct-web.umin.jp/shiryou/standardtreatment/急性中毒の標準治療/hyojyun4_1/ )(2023年4月12日アクセス)



※本作はPixivと同時掲載予定です。

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