FJC第20話「じゃあヤキソバ食べたい!」
食べ物のニオイを嗅ぎつけたルルは神社の中へ入ってしまい、後を追った佑が目にしたのは、屋台が立ち並ぶお祭りの光景だった。
(うわっ、コレだったか……)
佑は頭を抱えた。まさかお祭りがあるとは……お祭りといえば屋台、屋台といえば……焼きそば、たこ焼き、りんご飴……つまりここは「屋台が立ち並ぶ参道」というより「高カロリーが立ち並ぶ参道」だ。ダイエット目的でウォーキングをするハズが、これでは逆効果だ。
「ねぇたすくー……」
「買わねぇぞ!」
「えっボク何も言ってないよぉ!」
「どうせ焼きそばや唐揚げが食べたいって言うんだろ?」
「ううん、そんなんじゃないよ!」
「え?」
と言うとルルは笑顔で「金魚すくい」の方を指さし大声で
「ボク、あの金魚が食べたーい!!」
屋台のオヤジの顔は引きつり、金魚すくいを楽しんでいた子どもは泣き出し……金魚はルルから一番離れた場所に移動した。
※※※※※※※
「オマエなぁ、もう少し人間らしい発言しろ!」
「えぇっ、あれ食べ物じゃないの!? 魚じゃん」
やはり元は犬……人間の常識は通じない。
「じゃあヤキソバ食べたい!」
「却下だ! オマエ今から何しに行くのかわかってんのか?」
「えぇっとぉ、スポーツ公園にぃ、ヤ……」
「焼きそばは食べないぞ!」
言いたいことすら言わせてもらえないルルはふくれっ面をすると、
「ひどーいっ!!」
突然、周囲に響き渡るような大声で叫んだ。お祭りに来ていた人たちの動きが一瞬止まり、佑とルルの方に振り向いた。
「ボクは今日のおまつりをずぅーっと前からたのしみにしていたのに……ヤキソバすら食べさせてくれないなんて! これじゃあ何のために来たの!? 朝ゴハンも食べさせてくれなかった上にヤキソバも……ボクを飢え死にさせるつもり? これは虐待だぁー!」
こっ、コイツ! お祭りやっているのは偶然通りかかって知っただけだし、本当の目的は公園でウォーキングだし、コイツ朝ごはんガッツリ食っているし……よくこんな「口から出まかせ」を次々と……佑は怒りを通り越して呆れかえった。
するとお祭りに来ていた人たちがザワザワし始めて、
「ひどーい、あんなカワイイ子を……」
「うわー児童虐待だ」
「警察呼んだ方がいいんじゃね?」
次々と佑に軽蔑のまなざしを向け始めた。
「わっわかったよルル! 買ってやるよ」
佑は、ルルの「悪知恵」に完全敗北した。
※※※※※※※
佑とルルは焼きそばの屋台の前に来た。
「すみません、焼きそばひとつ!」
「はいよっ!」
佑は焼きそばに玉ねぎが使われていないことを確認してから注文した。ちなみに紅ショウガは問題ないらしい。ただし塩分が多いので、実際の犬に焼きそばは食べさせないほうが無難だ。
「あれ? たすくは食べないの」
「いいよオレは……ダイエット中だからな」
佑はルルに皮肉を言った。佑自身はダイエットする必要がないけれど、それを聞いたルルが食べるのをためらうのでは……と、わずかながらに期待していた。
「ヤッキソバー、ヤッキソバー♪」
だがそんな皮肉はルルに通用しない。ルルの脳内は焼きそば=十に対しダイエット=ゼロである。佑の皮肉が入り込む余地など一ミリもない。
〝ジュワーッ〟
屋台の兄ちゃんは威勢よく焼きそばを焼いている……だが心の中で「ある問題」を抱えていた。
(やっべぇ! さっき鉄板にカナブン飛んできたけど……そのまま焼いちまった)
虫が入ったから「むし焼き」などと言ってる場合ではない。取り出そうと思ったが、ソースをかけて勢いよく混ぜている最中だったのですでに焼きそばの中……どこに入っているのかわからない。
(ま、いっか……どーせ味なんかわからんガキが食うんだ。知ったこっちゃねぇ)
屋台の兄ちゃんは開き直り、焼きそばをパックに詰めて渡した。
「はぃお待ち!」
「おいしそう! いただきまーす!」
(おい! その場で食うなよ……どっか遠くに行け!)
屋台の兄ちゃんは焦った。頼むから(虫が)入ってるなよー! 入っても気付くなよ……と。するとルルの口から、
〝ポリッ!〟
明らかに焼きそばの咀嚼音とは違う音が聞こえた。
(うわっ食いやがったこのガキ……気付くなよー!)
ルルの動きが止まった! そして屋台の兄ちゃんに話しかけた。
「ねぇお兄さん……」
(畜生! 気付きやがった。仕方ねぇ、天かすとか言って適当にごまかすか)
「この『カナブン』すっごくおいしい!!」
ルルは屋台の兄ちゃんにそう言うと目をキラキラ輝かせて大喜びした。
「へっ……?」
屋台の兄ちゃんは目が点になり、佑はギョッとした目でルルを見た。
「カリッと香ばしくておいしい! 脚も食べやすい! すごいねお兄さん、こんなに上手に焼けるんだ! 今度はもっとたくさん『カナブン』入れてね!」
「あっああああそう……ははっ、ま……まいどありー」
ルルは手を振って屋台を後にした。
「お兄さんありがとー! おいしいカナブンだったよー!」
その後、屋台のお兄さんは店を畳んだ。
※※※※※※※
「おい、もう焼きそば食ったんだから食べ物はナシだぞ!」
「わ……わかったよぉ」
それにしても……虫入りの焼きそばを出す方も出す方だが、食う方も食う方だ。佑は常識の範ちゅうを超えたルルの言動にただただ呆れていた。すると……
「ねぇたすく、『くじ引き』だって! やろうよ」
ルルの視線の先には『ハズレなし』と書かれた「くじ引き」の屋台があった。
「え゛っ……」
佑はあからさまに嫌そうな顔をした。なぜならこの類のクジ引きは概ね当たりなど入っていないからだ。左端に「特賞」と書かれた最新ゲーム機の箱が置かれているが、これは空箱で中身は初めから無いだろう……佑は乗り気ではない。
「やろうよぉ! ゲーム機当たるよ! たすく、ウチはたしかドソームキャストしかないよね?」
「それオマエが犬だったときの記憶だろ? さすがに処分したわ」
さっきみたいに大声を出されては敵わない……佑は一回だけという条件でルルにくじ引きをさせた。
「おばちゃーん、一回ね」
「……」
くじ引きの屋台のバァさんは無言でルルからお金を受け取ると、「くじ」と書かれた赤くて小さい厚紙が入った箱を差し出した。
ルルが箱の中からクジを一枚選んで開けてみると……
数字は「十一」で六等……要は「ハズレ」だ。
「……」
バァさんはしたり顔でカゴを指さした。カゴの中にはピンポン玉より小さい、いわゆる「スーパーボール」が入っていた。
原価だと十円もしないであろうオモチャを三百円で……。佑は、阿漕な商売してやがる……と思いつつ三百円はドブに捨てたモノとあきらめていた。
だが、この女子中学生は反応が違っていた。
「うわぁっすごいよたすく! ボールが当たったよ!!」
佑と屋台のバァさんがキョトンとしているとルルはさらにテンションを上げ、
「わぁーステキなボール! やったぁー! ボク、一生の宝ものにするねー!」
ルルは屋台のバァさんにそう言うと目をキラキラ輝かせて大喜びした。
「おばちゃんありがとー! ステキな六等だったよー!」
ルルは手を振って屋台を後にした……その後、屋台のバァさんは店を畳んだ。
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「ルル、せっかくだから神社にお参りに行くか?」
二人は神社の境内に入った。境内にはステージが設置され、芸能人と思われる人がコンサートをしていた。
「はぁ~~い!! げんきばっくはつじがじさぁ~ん!! みんなの地~元アイドルぅ~……忍野萌海だよ~ん!!」
そこにいたのはジもち……じゃなかった地元アイドルの忍野萌海だ。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだまだ続くよー!」




