FJC第21話「ボクもおどりたい!!」
「はぁ~~い!! げんきばっくはつじがじさぁ~ん!! みんなのじ~元アイドルぅ~……忍野萌海だよ~ん!!」
神社の境内にはステージが置かれ、地元アイドル・忍野萌海がコンサートをしていた。だが、すっかり地元ではお馴染みのアイドル……かつて彼女が所属していたグループは全国進出しているにもかかわらず、客はまばらだ。
「それじゃあ次の曲、『てっ! キレッキレじゃんけ!』聞いてくださーい!」
イントロが流れると忍野萌海は踊りだした。地元アイドルとはいえ、全国進出したグループで活躍していただけあってダンスはキレッキレだ。だが、なぜか歌っている途中で一瞬動きが止まった。が、さすがはプロ……すぐ元の振り付けに合わせ直している。すると、
「おもしろそう! ボクもおどりたい!!」
「えっ!?」
ルルが突然、忍野萌海の歌に合わせて踊り出した。ルルのダンスは……いや、ダンスと言えるような代物ではないが、曲に合わせてノリノリで動き回っている。
それを見つけた忍野萌海がルルを手招きしてステージに上げた。ステージ前の客は相変わらずまばらだったが突然の「ハプニング」に大喜びだった。
一方の佑は、自由すぎるルルの行動に恥ずかしさを感じていたが……
(あ……でもココで踊れば少しはカロリー消費すんじゃね?)
と、ダイエットを期待しながら他人のふりをしていた。
※※※※※※※
「みんなー! ありがとー!! かわいいバックダンサーにも拍手ー!」
忍野萌海のドサ回り……もとい、コンサートが終わった。
「この後サイン会&握手会がありまーす! よろしかったらご参加くださーい」
スタッフと思われる人が拡声器で宣伝している。トップアイドルなら宣伝しなくてもファンの行列で埋め尽くされるが、そこは田舎の密着型地元アイドル……すでに物珍しさすら感じられず集まったのは数人。それでも二〇一四年のジョイ何とかマンとかいう芸人のサイン会よりは多い。
「せっかくだから……サインもらってくるか?」
「うん!」
佑とルルは、ヤワオクに出しても落札者が出なさそうなサインをもらうために並んだ。前の方には小学生だろうか、ルルより背の低い女の子が並んでいた。
「あっ『らぁてる』ちゃん! いつも来てくれてありがとー!」
テーブルの向こうに立っている忍野萌海のテンションが上がった。どうやら前に並んでいた『らぁてる』という子は常連のファン……追っかけらしい。
「そういえば『らぁてる』ちゃん、今年から高校生だったよね? どこに通ってるんだっけ……あっ、釜無高校なんだ!」
えっ、高校生なの? 佑は驚いた。
「あっそうだ、今度また『萌海ちゃんねる』でライブ配信するからコメントよろしくねー! じゃあねー!」
「次の方どうぞー」
スタッフに促されて佑とルルが前に出た。この並び……正直スタッフ必要ない。
「あっ、さっきの子!? ありがと~っ! 一緒に盛り上げてくれて」
忍野萌海はとても嬉しそうだった。目の前でサインを書くと、ルル……それから佑と握手をした。だが……
「!?」
忍野萌海と佑が握手をしている間、ルルが何かに反応した。しきりに鼻をクンクンさせている。
「クンクン……クンクン」
ルルは折り畳みテーブルに身を乗り出すと、忍野萌海の腰あたりをしきりに嗅ぎ出した。忍野萌海はビクッと反応し、半歩ほど後退りした。
「おっおいルル! 何やってんだよいきなり」
するとルルが真顔になり、心配そうな声で忍野萌海に話しかけた。
「おネェさん! だいじょうぶ?」
「……へっ?」
忍野萌海がキョトンとした顔をしているとルルが小声で
「おネェさん、オシリから血のニオイがするけど……ケガしてない?」
イヌ娘のルルの嗅覚はもちろん犬並み……ルルの物騒な発言に佑は焦った。だが実は佑の想像しているアレとは全く違った理由である。
するとそれを聞いた忍野萌海は瞬く間に顔が真っ赤になり、そしてすぐに真っ青に変わった。まるで信号機のようだ。
「えっえええあっ……そっそう? けっケガしてるのかなぁ~」
「ホントにだいじょうぶ? イタくない?」
「うっうん、でもじっジ覚症状はないかなぁ~あっあはははは」
忍野萌海は完全に動揺して引きつった笑い方をしていた。すると、彼女の秘密を知っていそうなスタッフ(マネージャー)に
「はーいすみませーんそこまででーす! 次の方どうぞー」
手慣れた動きで佑とルルは制止され、その場を後にした。ちなみに「次の方」は横近習トメ子さん(八十九歳)、どうやら神社のお札をもらえると勘違いして並んでいたようだ。
※※※※※※※
ルルは忍野萌海のサイン色紙でパタパタと扇ぎながら佑と拝殿に向かった。
「ウゥゥゥゥ……ッ、アウンッ!!」
「こらこら、狛犬に威嚇するな」
「ねぇたすく、こっち屋台じゃないよ! ボク、おどったらおなかすいたー」
「お参りするんだよ、さっき言ったじゃないか」
途中で余計なイベントに参加してしまったが……。
「おまいり? どんな食……」
「食べ物じゃないぞ! 願い事をしにいくんだ」
「そっかー、じゃあ行こ!」
「ちゃんと作法があるからな。ま、どうせオマエにはわからんだろうからオレの言う通りにやれよ!」
「うん」
「さっき手水舎で手と口を清めたよな」
「ちょうず? さっきの水飲み場?」
「やっぱオマエ飲んでやがったな! どうも時間かかると思ったら……」
「えっちがうの?」
二人は拝殿の前に立った。佑は鈴緒を掴み
〝ガラガラガラガラーン!!〟
鈴を鳴らした。その瞬間
「きゃぃぃぃいん!!」
ルルが怯えだした。実はルルは大きな音が苦手だ……カミナリ、掃除機、そして大量の空き缶が入った袋を振ったときの音……なので神社の鈴の音も苦手だ。
「おぉすまんすまん! そしたらお賽銭を入れて」
〝チャリン、チャリン〟
「……商品えらぶボタンがない」
「自販機じゃない……で、二礼二拍手一礼、つまり二回お辞儀をして二回手を叩いた後に手を合わせてお祈りをする。最後に深いお辞儀をして終わり!」
〝パンッ、パンッ!〟
「ここでお祈りする」
「おいのりって……ねがいごとだよね?」
「そうだよ」
と言いながら佑は
(ルルのダイエットが成功しますように)
とお祈りした。一方のルルは……
「タコヤキ食べたいカラアゲ食べたいヤキトリ食べたいフォアグラ食べたいフランクフルト食べたいジャガバタ食べたいイカヤキ食べたいキャビア食べたいトウモロコシ食べたいベビーカステラ食べたいカキ氷食べたいトリュフ食べたいチョコバナナ食べたい……」
「あぁうるさい! 声に出すな……それとチョコバナナはNGだし、所々に屋台では絶対に売ってない世界三大珍味が入っていなかったか?」
ルルの願いはただひとつ、「何か食べたい」だ。
「しょうがねぇなぁ……わかったよ!」
ルルは一度欲求が出るとしつこい。ダメと言っても先ほどのように悪知恵を使ってしまう。佑はあきらめて財布を取り出した。
「じゃあ何かひとつだけ買って……ってオイッ!!」
時すでに遅し……佑が「じゃあ何か」と言った瞬間ルルは屋台を全てまわって買い漁っていたのだ。フランクフルトとかき氷とわたあめを持ち、さらに右手からタコ焼きとお好み焼きとベビーカステラが入ったレジ袋をぶら下げていた。
食べ物だけではない。頭にお面をつけて、左手には水ヨーヨーと大量の金魚をぶら下げていた……心なしか金魚に生気が感じられなかった。
(そんなに荷物があったら……もう無理だな)
佑は公園でのウォーキングをあきらめ、二人はタクシーで帰った。ルルの体重はさらに重くなり、佑の財布は軽くなった。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! ボクたちの前に並んでいた女子高生は別の小説のヒロインだよ! まだまだ続くよー!」




