第三チェックポイント 温泉宮廷 ビバノン
第三チェックポイントのある、温泉街マルーシダにやってきた。
山奥に来た、という印象を受ける。わずかながら、硫黄の香りがした。
「ホテルは、あそこか」
さらに山を登ると、目的地が見えてくる。【第三チェックポイント 温泉宮廷 ビバノン】と、看板に書いてあった。
「やけに急な坂だわ! ちょっと、登れるかしら?」
マミちゃんが、一車線しかない坂道に絶句する。
「大丈夫です。マミ様。スーパーサブは、こういう道を走破するために開発されたのです」
スーパーサブは、スイスイと坂を上昇していく。
ボクたちの車も、後に続いた。
「迷って山道に入らないでね!」
「平気。魔力をたどれば、道はわかる」
先行するマミちゃんのバイクに、チサちゃんがしっかりとついていく。
「ダイキ、平気?」
「なんともないよ、チサちゃん。ハチシャクはすごい車だよ、ホントに」
ところどころ目にする矢印を頼りに、到着する。
「すっごい和風ね! ちょっと意外だわ!」
着いた早々に、マミちゃんが口にした。
「はい。ここは魔界でも生粋の田舎町です」
リラックスできる辺境地として、マルーシダは魔王の修行場や、配下の研修を行う保養所として栄えた街らしい。
特にこのビバノンは、魔王観光協会から三ツ星を得ている宿だ。
アーティストやクリエイターが、プライベートでくつろぎに来るという。
「いらっしゃいませ」
女将らしき女性に、声をかけられた。
「え、ククちゃん?」
ボクは思わず、声に出してしまう。
浴衣姿をした、ククちゃんが現れたのかと思ったのだ。でも、ククちゃんはボクの隣りにいる。
「ククがいつもお世話になっております。ククの母でございます」
「す、すいません!」
失礼を働いてしまった。ボクは頭を下げる。
「よいのですよ。よく間違えられるのです。まだ若いということでしょうかしらね」
交互に見ると、姉妹にしか見えない。
同じ縦ロールでも、ククちゃんが肩までのツインテールなのに対し、女将さんは長いサイドポニーだ。
立ち話もなんだからと、チェックインの後でロビーに通された。
「このおまんじゅう、おいしい!」
お茶菓子を食べて、チサちゃんがハシャぐ。
ひよこまんじゅうならぬ、アヒル型まんじゅうである。
「ありがとうございます、チサ様。当店自慢の【ラバ太くんまんじゅう】でございます」
たしかに、アヒルのおもちゃの正式名称って、【ラバー・ダック】っていうもんね。
「感無量ですわ。あのククが、お友達をつれてくるなんて」
「お友達だなんて、そんな」
母親の隣に座るククちゃんが、謙遜した。
ボクたちを認めていないわけじゃない。
自分がふさわしくないと思っているんだろう。
「ククがご面倒かけてませんかしら?」
「とんでもない。いい子です」
ボクがそうやってククちゃんを称賛すると、ククちゃんが頬を染めた。
「ここにいるのはみんな、ククが悪い子じゃないって知っているわ! こちらこそ、よろしくね!」
マミちゃんが、他のみんなを正当に評価する。マミちゃんって、誰にでも親しく話すんだね。
「この子ワガママだから、みなさんと親しくできるか不安でしたの」
たしかに、自分勝手なところが見えたが、強がりの裏返しだとわかったから気にしない。
「ククッたら、田舎暮らしがイヤで、洋装までするんだから」
「お母様!」
ククちゃんが、女将さんをたしなめる。
「あなたがこの宿を継いでくれたら、うれしかったんですけどね」
「わたくしは、魔王になるって決めましたの! お母様といえど、指図は受けませんわ!」
女将さんとククちゃんは、あまり仲がよろしくないようだ。
「あらあら。ごめんくださいましね。この子、言い出したら聞かなくて」
困り顔で、女将さんは語る。
「アタシはむしろ、こっちに住みたいわ! ケイス、お城をこっちに移すことはできないの?」
「めったなことをおっしゃらないでください、マミ様」
「じゃあケイス、この温泉を引っ張ってくることは?」
「無理難題をおっしゃる!」
マミちゃんは、ここをかなり気に入ったみたいだ。
話がドンドン飛躍していく。
「にぎやかな方たちで、安心しましたわ。てっきりワタクシ共は、ククが一人寂しく、この地に帰ってくるのではないかと心配で」
「それでもよかったのですわ。班決めしているわけではございませんし」
ククちゃんの言う通り、ボクらはククちゃんを見捨ててもよかったのだ。
でも、誰一人として、提案をしてこなかった。
「みんなの思いは、ひとつです。ククちゃんと一緒に回ろうって」
「ククはともだち」
チサちゃんも、ボクの考えにうなずく。
「ありがとうございます。ククを友達とおっしゃってくれて」
女将さんが、ククちゃんの肩に手を添える。
「よかったですね。素敵なお友達に囲まれて」
黙り込んでいるが、ククちゃんはわずかに微笑んでいた。
「ヨアン様、今後もククを、よろしくお願いしますわ」
「とんでもない。私の方が助けてもらっているばかりでして」
手をブンブンと振って、ヨアンさんは首を振る。
「私の方こそ選んでいただけて、感謝しております」
「そうですの。今後も長いおつきあいを」




