山頂でカップ麺を
腹ごしらえをしたボクらも、山登りを開始する。
魔王と玉座が、二人横並びになって歩く。
「軽めだったから、すぐにお腹が空きそうね! お菓子を買っておいて正解だわ!」
先頭を歩くマミちゃんが、ガハハを笑った。
「マミ様は、こうなることを予め見越してらっしゃいましたよね」
「あなたは余計なことを言わなくていいのよ!」
「フング!」
付き添っているケイスさんの脇腹に、マミちゃんが固めた拳を叩き込む。
「ネウロータは、辛くない?」
「この程度。高山病にかかるわけじゃないし」
「ウフフ。辛くなったら、膝枕してあげてもいいのよ」
「バ、バカ言うな! トシコさんはすぐにからかうんだから!」
赤面しながら、ネウロータくんは先行した。
「元気そうでよかったね、チサちゃん」
しかし、チサちゃんは少しうつむきがちである。
「どうしたの、ごはん足りなかった?」
「そうじゃない。ククが心配」
言われてみれば。たしか、ククちゃんってヴァンパイアだから。標高が低いとは言え、太陽が照りつけるお山ではツライのでは。
「あ、あそこにいるのは」
木陰で休んでいるのは、派手なゴスロリの少女である。付き添っているのは、ヨアンさんだ。
「どうして、山登りなんてあるのかしら?」
ぜえぜえ言いながら、ククちゃんは岩に腰掛けている。
「仕方ないですよ。元々は神事なんですから」
「山の神様に安全祈願をする必要があるのは、分かりますわ。でも、夜でもよくはなくて?」
「夜だと魔物が出て危険ですよ。寺院も開いていませんし」
「あーもう。融通がきかない神様ですわね! そっちからいらっしゃればよろしいのに!」
神様相手に、無茶振りするなあ。
「大丈夫、ククちゃん?」
ヨアンさんが、こちらに気づいた。
「これはダイキ様。お見苦しいところを」
苦笑いを浮かべながら、ヨアンさんはククちゃんを介抱する。
「ゴハン食べたの?」
マミちゃんの質問に、ヨアンさんは首を振った。
「ワタシは、エナジーバーをかじっただけです。クク様は、お腹が痛くなるからと、何も口にせず」
「それって、ハンガーノックじゃない!」
ハンガーノックとは、空腹で動けなくなることを言う。山道では、避けなければならない。だからこそ、登山家はおやつなどを携帯しておくのだ。
「無理して燃費の悪い高級車なんて、乗り回すからよ! それに、ヴァンパイアでしょ? 歩いているだけで消耗も激しいわ!」
マミちゃんが叱責する。
「うるさいですわね。あなたに言われなくても分かっていますわ」
だから、大量のお菓子が必要だったのか。
「元気出す」
チサちゃんは、お菓子の袋を開けて差し出す。
「礼など言いませんわよ。元々わたくしのですから」
「いいから、黙って食べる」
お菓子に手を入れて、ククちゃんはモグモグと咀嚼する。やがて、少しずつ元気を取り戻したようだ。
「ありがとうございます、魔王チサ様。主人に代わって、お礼をいたします」
「構わない。友達が元気がないのはつらい」
「友達、そう呼んでくださるのですね」
起き上がったククちゃんを連れて、みんなで山頂を目指す。
幸い、娯楽目的の小さな山だったので、あっという間に山頂へ。
寺院でスタンプを押してもらい、ノルマは達成した。あとは下山して、次の朝まで待てばいい。それまでは、自由行動だ。
「景色のいいところで、ラーメン食べる」
チサちゃんが、展望台へ。本来の目的を達成しに。
「展望台なら、屋根もある。ククも大丈夫」
「わたくしは、早く下山したいですわ」
「まだ明るすぎる。今行くとまた倒れちゃう。ここで日が少し陰るまで、待ったほうがいい」
夕方前までに、山を降りればいい。調理場にはライトもあるから、暗い中で料理をすることもないのだ。ゆっくり行けばいい。
「そういうことでしたら、ご同行しますわ」
渋々といった感じで、ククちゃんも展望台へ向かった。
階段を上がって外に出ると、遠くに町並みが見える。
「あれが、第二チェックポイントの街よ!」
マミちゃんが教えてくれた。
「わああ」
さっきまでの疲れていそうな顔は、どこへ行ったのか。ククちゃんは、外の景色を見て一番感動していた。
「これが、わたくしの統べることになる世界ですのね?」
「まだそうと決まったわけじゃないけどな!」
ククちゃんの言葉に、ネウロータくんが即ツッコミを入れる。
「いいか? 魔界の次期支配者はこのぼくだ。忘れるなよ」
「うぬぼれもそこまでになさいませ」
ひと悶着やらかしそうなところで、チサちゃんが「まあまあ」と間に入った。
ボクは水筒を出して、みんなのラーメンにお湯を注ぐ。
「ラーメン食べて、元気出す」
チサちゃんは、お箸二つと、自分の食べる分を差し出した。
「一つしかないから、二人で分けて」
「あなたのラーメンがありませんわ」
「わたしは、ダイキとシェアするから平気」
ボクは納得して、チサちゃんと小さいカップ麺を分け合う。
「どうぞ、ダイキ」
「ありがとう、チサちゃん」
チサちゃんがボクに、最初のひとくちをくれた。子どもでも食べられる、優しい味だ。
「おいしいわね! 外で食べるラーメンは裏切らないわ!」
「ほんとね、少し塩分が物足りないけど、満足感が違うわ。外で食べてるからかも」
小さなラーメンをすすりながら、ボクらは景色を堪能した。
「ほら、あなたも食べなさい」
まず自分が食べる前に、ククちゃんはヨアンさんに、麺を持ち上げて差し出す。
「よろしいので?」
「味見しなさい」
「では、遠慮なく」
ヨアンさんは、少し多めの味見をする。
「おいしいです。では、お嬢様も」
二人は、小さいラーメンを分け合った。




