第5話
大変お待たせしました。あまり進んでませんが、どうぞ。
「エドワード…。」
少し眉をひそめた愛妻ソフィーに怯えた様子のエドワードの姿はとても国王とは思えませんでした。
たらりと冷や汗を流し、
「あ、あ…、それはだなソフィー。」
「何ですの、エドワード?」
にこやかな顔でしたが、ソフィーの目は決して笑ってはいませんでした。
険悪な空気を察したのか、側に控えていた王妃の侍女長のクララが気をきかせて、
「まあま、陛下、王妃さま。大事なお話しなようですから、私室でなさってはいかがでございますか?」
「それもそうね。ではエドワード、後でゆっくり話しましょうね。」
ソフィーはそう言うと食後の紅茶をゆっくりと飲みました。
「わ、分かった…。」
エドワードが少し助かったような表情で答えます。
「それからアーサー、あなたも一緒にいらっしゃい。」
カチャリと紅茶のカップを置いたソフィーは王太子アーサーに声をかけました。
「えっ!僕もですか…?」
不満そうな顔でアーサーが答えます。
「ええ、どうやらアーサーにも関係があることのようですから後で私の部屋に父君と一緒にいらっしゃい。よろしいわね?」
アーサーは不満そうでしたが、
「分かりました、父君と一緒に伺います。」
チラリとエドワードの方を見て、
「父君、よろしいですね。」
ムッとした様子でそう言うと、いつものように礼儀正しくお辞儀をして侍女とともに食堂を出て行きました。
それからどのくらいたったでしょうか。エドワードの私室にアーサーが迎えにやってきました。
「父君、参りましょう。」
冷ややかな声でアーサーがエドワードに言います。
「いや、いま行かなくても…。」
エドワードが父親の貫禄なしの様子で怯えたように答えます。
「父君…。逃げても仕方ありませんよ。さあ、参りましょう。」
アーサーが一睨みして、一緒に連れてきた護衛に目配せをしました。
「いや、後から参るゆえ…。」
エドワードが逃げ口上を言うと、アーサーに命令された護衛たちがエドワードを取り囲みました。
「申し訳ございません、陛下。王太子さまのご命令でございますので、お許し下さい。王妃さまのもとへお連れ申し上げます。」
護衛たちが申し訳なさそうな表情でしたが、しっかりと両方からエドワードを捕獲しました。
「おまえたち、無礼だぞ!」
エドワードが悪あがきのように護衛たちに文句を言います。
「父君、往生際が悪いですよ。国王らしくなさって下さい。さあ、行くぞ!」
アーサーがまだ少年であるのにも関わらず、威厳をもって王妃の部屋に向かいました。
コンコン…
「失礼します。母君、アーサー参りました。」
「よく来たわね。あら、父君も一緒なのね。エドワードは来ないかと思ったけれど…。さあ、こちらへおいでなさいませ。」
ソフィーがにこやかな表情で二人を席に案内しました。
「…それでどういうことなのかしら?」
ソフィーがズバリ聞いてきました。
「はい、母君はその件につきましてお答え申し上げます。」
アーサーが仕方なさそうに話し始めます。
「アーサー、申し訳ないけれど、母は父君から聞きたいと思っているの。」
ソフィーは複雑そうな表情で二人を見つめます。
「あ、はい。」
アーサーは殊勝げにソフィーに答えると、チラリとエドワードの方を見ました。
エドワードは罰が悪そうな顔をしながら、
「ソフィー、怒らない?」
「内容によるわね。」
「あの、実は…。」
エドワードはアーサーの様子がおかしかった原因、それのため隣国への留学を決めたことを話しました。
「そうですか。でも、どうして決める前に私に話して下さらなかったのですか、エドワード?」
少し複雑そうな表情でソフィーが問いかけます。
「それは、つい言いそびれて…。すまない。」
エドワードがすまなそうに答えます。
「つい、ではないでしょう?私に気を遣ったのでしょう、エドワード。」
ソフィーは悲しそうに言います。
「ソフィー?」
エドワードは怪訝そうに言います。
「何年も前のことなのに、私に気を遣って隣国との付き合いに支障が出ていると聞いております。」
ソフィーは何ともいえない表情で言います。
「それは、支障というほどではない…。」
「でも、私に気を遣っておいでなのでしょう?」
エドワードはため息をついて、
「それは私が命じたことではないが、皆が気を遣ってしたことだ。許せ。しかし、言わなかったのはつい、だ。申し訳ない。」
そんなエドワードの姿を見て、ソフィーはぷっと吹き出して、
「まったくエドワードったら、だから私はあなたが好きなのですわ。」
「ソフィー…!」
「エドワード!」
二人は見つめあっていい雰囲気になりましたが…。
「何かお忘れでは?」
居心地の悪そうな顔をしたアーサーが不満そうに言います。