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アカメの悪魔  作者: 海蛙
4巻(想定)

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85話 カリスタ

 露わになった素顔は、美しさの極致の一つを体現したかのような容姿であった。


 絹のような艶やかな髪に凄まじいほど整った一つ一つのパーツ。どこを切り取っても絵になってしまうような、そんな女性であった。


 姉さんも美人であるが、美しさの中に幼さが残るのが姉さんで、純度百パーセントの美がこの人って感じであろうか。


 だが、何だこの感覚…顔が熱くなる。


 否が応でも惹きつけられる…目が離せなく…


「だめぇえ‼」


「ッは!姉さん⁉」


 突然視界に姉さんが割って入り、弾かれたように意識が戻る。


 何だ今の…いくら美しく見えるからってこんな風になるものか…?


 姉さんが半ばキレたような態度で外套の女性を指指す。


「カリスタッ!またあんた魅了しようとしたでしょ‼」


「ごめぇんレイ。いい男を見るとつい無意識に出ちゃうのよぉ」


「アカメはまだレジスト出来る水準にないんだから!気を付けて!」


 カリスタ、そう呼ばれた女性は悪びれるでもなく「わざとじゃないのよぉ」と宣う。


 魅了、って言ってたな?固有能力ってことか?


「…僕に会いたいって、どういうことですか?」


 姉さんの影に隠れながら心を落ち着かせ、先程気になった発言を聞く。


 一度も面識がなかったはずだが、なぜ急に?


「あら?私以外誰も来てないのぉ?アヴァリスの剣闘試合で君とお近づきになりたいと思った悪魔は多いはずなのにねぇ」


 剣闘試合、そう聞いて納得がいった。


 そうか…あそこで僕の存在を知ったのか。


 我ながら頑張ったとは思うが…実力自体はまだまだなはず。そこまで多いのか?


「何故?僕は貴方より弱いですよ?」


「今はねぇ…貴方は王と同じ力を持っている。それにその成長速度、今のうちに仲良くなりたいと思うのは自然だと思わない?」


 王…度々聞くし、もう薄っすら気づいてはいたけれど…。


「…王って、ベルの事?」


「あらぁ?知らないの?」


 カリスタさんは姉さん越しであるにも関わらず、スッと顔を近づけてくる。


「悪魔の王、ベル。かつてこの世を絶望の底に墜とし、勇者と死闘を繰り広げた正真正銘の怪物よ。それと、貴方は同じ力を持ってるの」


 そこまでだ、とでも言うかのように膨れ顔を作った姉さんがカリスタさんを引き離し、キッと睨みつける。


「勝手なこと言わないで。ベルの事何も知らないくせに」


「でも事実ではあるわ。それに、今の時点でも君と仲良くなっておくとベルへのパイプが出来てお得って視点もあるわねぇ」


 なるほど…ベルが、歴史の教科書にも載っているような魔王…か…。


 強さ的にはあり得なくもないかもしれないが、あのベルが…。


 いや、あのベルが、なんて言えるほど僕はベルの事を何も知らない。


 …一体、何が…。


「考え込ませてしまったようねぇ」


 カリスタさんは懐から紙を取り出し、僕に差し出す。


「それ名刺ね?とりあえず、今日は挨拶だけのつもりで来たの。また来るわぁ」


「もうこないでっ!」


 カリスタさんがのらりくらりと帰っていき、姉さんは「きーっ!」と威嚇していたが、その間も僕は元気が出なかった。


 それを見て取った姉さんは、僕の頭を優しく撫でた。


「…不安になった?ベルの事?」


「…いや。思えば、僕ってベルの事全然知らないなって」


 あいつには何だかんだ助けられてばっかりだ。


 今までがむしゃらに走ってきたけど、一回もあいつの事を知ろうとしたことはなかった。


 思えば、皆の事も。どんな過去を持っていて、どうやってここに集まったのか。


 自分の過去も碌に覚えていないくせに、とは思うが、それでも知りたくなった。


「…これから知っていけばいいよ。一緒にいるんだから」


「…うん」


 姉さんは招くように手で呼んでくれて、隣に並ぶと背中に優しくポンっと手を置いてくれた。


 それが温かくて、自然と表情が綻ぶ。


 屋敷の扉を開けると、僕の元に飛び込んでくる小さい影があった。


「お兄っちゃん!」


 胸に飛び込んできたのは、髪を綺麗に三つ編みにして貰ったリアだった。


「リア、髪の毛やって貰ったの?いいねぇ。いい子にしてた?」


「うん!フレイお姉ちゃんに!えへへぇ…」


 僕に見て貰いたかったのか、褒められて上機嫌そうだ。


 リアに続いて奥からフレイがやってくる。


「アカメさん、お疲れ様です」


「あ、フレイ。この髪の毛フレイがやったの?」


「はい!喜んでもらえるように練習しました!」


「凄いよフレイ、凄く可愛い!」


「ありがと!フレイお姉ちゃん!」


「~!感無量です!」


 頑張った甲斐があったと思えたのか、ガッツポーズで応えられる。


 表情は包帯で見えないが、きっと喜んでいるのだろう。


「おぉ、アカメ。来たか」


 何か変な声だな、と思って見ると鼻を摘まんだアルマくんだった。


「ど、どうしたのアルマくん?」


「あの女が来てたんだろ?臭くて敵わん」


 そういえば香水のような匂いが漂ってたっけ?


 もしかしたらあれが固有能力だったりして…はたまた本当にただの香水なのか。


 アルマくんは一瞬手を離して僕を嗅ぐと、もっとしかめっ面をして鼻を摘まんだ。


「…お前、一回風呂入って来い。訓練はそれからだ…」


 え、普通に傷つく。


 てか、どんだけ鼻いいのさ。


「…カリスタさんの匂いってことでいいんだよね?」


「そうに決まってんだろ。あとその紙も捨てろよ、一番匂いが濃い」


 紙?そう言えばカリスタさんから貰ってたっけ。


 名刺って言ってたっけ?と確認しようとすると、リヒトさんが突然現れアルマくんの肩に手を置く。


「止めてやれアルマ。アカメもそういう年頃だ」


「…あぁ、なるほどな」


 何か二人してニヤニヤし始めたが…何だ?


 訝し気に思いつつも名刺を確認すると……。


「あ、アカメさささ…!えっととと…!」


「これなぁに?」


 横から覗いたフレイが露骨に動揺し始め、リアは何か分からず純粋な疑問を投げてくる。


 それは……娼館の名刺だった。


 オーナーのところにはカリスタさんの名前が…なるほど…。


「からかったなリヒトさんアルマくん⁉」


「何のことだ?今日の訓練は中止でもいいぞ?」


「あぁ、落ち着かないだろうからな」


「すぐ行くから!五分でシャワー浴びてくるから!」


「あ、アカメさ……そこに行かれるぐらいなら!わ、わわわたひがッ⁉」


「何言ってるのさ⁉」


「あー!アカメそんなものダメ!没収です!」


「ちーがーうーッ!」


 なんッでなんだよ!僕は無実のはずだ⁉


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