第1章 Eの章 Eの真実 第5話 【考え続ける日々】
その夜、Eは一晩中考えた。
純の言葉が、頭の中で繰り返される。
「あなたが見たこと、あなたが感じたことは、あなたの中で確かにあったことだよ。」
「正しいと思うことをすればいい。」
(私が見たものは、確かにあった。あの日、あの場所で、誰かがいた。それを見ている人もいた。その「事実」だけは、確かだ。)
(でも、それが誰だったのかは、わからない。わからないまま、どうすればいいんだろう……)
Eは眠れない夜を何度も過ごした。
ふと、あの日付が頭をよぎる。
3月11日。
あの日、あの時間——何年も前に、この国で何かが大きく崩れた日。
あの時も、自分は何もできなかった。テレビの映像を見ているだけだった。
(また、同じなのか。何もできずに、ただ見ているだけなのか……)
〈中学の時〉
親友がいじめられているのを見た。でも、「いじめかどうかわからなかった」から、何も言わなかった。
その後、親友は転校した。最後の日、親友がEを見た目を、今でも覚えている。
(あの時、もし何か言っていたら……)
〈大学の時〉
自分が作った資料で他のメンバーが賞を獲った。でも、「自分からアピールするのは違う気がする」と思って、何も言わなかった。
その後、そのメンバーたちは就職でも成功した。Eは、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていた。
(あの時、もし「私も作りました」って言っていたら……)
〈今〉
また、同じ状況が来ている。
「わからない」から、何もしないのか。
それとも——
(わからなくても、行動することはできるのか?)
Eは、純の言葉を思い出した。
「正しいと思うことをすればいい。」
(正しいと思うこと——私が正しいと思うことは、何だ?)
Eは、自分に問いかけた。
あの日、非常階段に誰かがいたこと。
それを見ている人がいたこと。
その「事実」は、確かにある。
そして、今、社内で噂になっていること。
その噂が、もしかしたらあの日の「事実」と関係しているかもしれないこと。
(もし、あの二人が拓さんと瞳さんじゃなかったとしても——それでも、あの日、あの場所で「何か」があったことは確かだ。)
(それを、誰かに伝えることは、間違いなんだろうか?)




