最終章 光莉の章「光莉の旅路」プロローグ
【冒頭】
「彼女の計画外伝」最終章として、光莉の「その後の物語」をお届けします。父・拓が残した言葉と数字。母・瞳が見送った背中。そして、光莉自身が選び取ったその後の旅。
この作品は、同じ内容で「彼女の計画本編」、「独立短編」としても置かれています。
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プロローグ「旅立ちの日」
あの日、光莉はバッグを一つだけ肩に掛け、旅に出た。
振り返らなかった。
振り返れば、母・瞳の顔が浮かぶことを知っていた。
父・拓が残した言葉も、頭の片隅で繰り返されている。
「わからなくても、歩け。」
それだけだった。
それで十分だった。
駅までの道は、いつもより長く感じられた。
でも、足を止めなかった。
止めたら、もう二度と動けなくなりそうだったから。
ホームに立ち、電車を待つ間、彼女はポケットから一枚の紙切れを取り出した。
そこには、
「0612」
という数字だけが書かれている。
意味はわからない。
でも、それが何か大切なものの一部であることだけは、なんとなく感じていた。
光莉は、その紙をもう一度ポケットにしまった。
そして、ふと足元を見る。
ストッキングが伝線していた。
「……幸先がいいのか、悪いのか」
光莉は、くすっと笑った。
直そうとはしなかった。
不完全なものが、なぜか愛おしく思えた。
そのままにしておくことにした。
電車が来た。
光莉は乗り込んだ。
窓の外には、見慣れた街並みが流れていく。
見慣れた道。
見慣れた駅。
見慣れた景色。
それらは、少しずつ遠ざかっていった。
やがて、見知らぬ風景に変わる。
光莉は、それを黙って見つめていた。
そして、静かに思った。
(この旅が、何かを変えるわけじゃない。)
(でも――)
(変わらなくていいと思える場所を、探してみたい。)
窓に映った自分と目が合う。
光莉は、ほんの少し笑った。
もう、後ろには戻らない。
けれど――
帰る場所まで、なくしたわけではなかった。
電車は、知らない場所へ向かって走っていく。
――光莉の旅は、動き始めた。




