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説明回です。作中で描く予定でしたが、実力不足で詰め込めなかった要素に触れます。
時計塔の崩壊から逃れ、何とか地上に降りたハルトたちの前に、複製体とは違う本物の神獣たちが待ち構えていた。
しかし、その様子はどこかおかしい。すぐに襲ってくることもなく、むしろ足を折り頭を下げている。それは、帰国した王の凱旋を出迎えるようなそんな態度に見えた。
「一体何が起きているんだ?」
「それは私から説明しましょう」
そう語ったのは、不死の神の一柱であるプロメテウスだった。
「説明してくれるならありがたいな」
「ではこちらへ」
そういって、彼は指を鳴らす。するとハルトの視界が暗転する。視界に映る情景が一変したことで酔ったような感覚に陥る。
「2人はどうなった?」
「危害は加えていません。ただ、私の話を聞いてもらうにはあなた1人の方が都合が良かったので、こちらに連れてきました」
「事情は分かったが、もしその言葉が嘘なら俺はおまえを消す。クロノスと同じようにな」
「肝に銘じておきましょう」
真っ先にアークとフロアの2人の安否を確認する。クロノスを倒したことで、その権能の一部を獲得した今、ハルトは多少強引にはなるがこの空間を破る力がある。しかし、下手に力を使えば権能に取り込まれる。要はクロノスの代わりにこの世界の時間の管理をさせられかねない。それは困るので、力の行使は最低限に留める必要があった。
誘拐に近い手段で隔離された手前、信用できる相手ではないが、それでもひとまず2人の無事を約束させた。実際、アークはともかくフロアはこの世界の住民だ。プレイヤーとは違い、神獣たちに手荒な扱いをされることはないだろう。そう信じ、ひとまずは交渉の席に着く。
懸念を1つ解消したことで、多少周りを見る余裕も出てきた。空間転移かそれに近い力だろう。この視界が暗転する感覚と、その直後の酔い。それにはどこか覚えがあった。記憶を辿っていると、あの時、プレイヤー達が救援部隊によって現実に帰還していく光景を眺めることしかできなかったあの空間を思い出す。
「あんた、パンドラの連中と繋がってるのか?」
「内通者がいた方が、上手くことを運べるでしょう」
「なるほど。通りでパンドラの連中が俺を狙うようなことがなかったわけか」
「それは、あなたの素体を奪った存在が目くらましになったのもあるので、私の力だけではないですね」
パンドラの連中と仲良くしたいわけでもないが、内通者であることが露見するのもまずい。そのうえで、ハルトという存在に何かを期待していたのだろう。だからこそ彼らの目に付かないように、けれど現実に帰還して手が届かない状態にはならないようにと手をまわした。
ずいぶんと手間がかかることをしていたようだが、そこまでして自分に何を望むのか。ハルトは皆目見当がつかなかった。
「残された時間は長くないので手短に語りましょう」
「わかった。正直なところ何もわからないからな。自分のことなんだ。事情くらいは知っておきたい」
プロメテウスは語り始める。
最初に口にしたのは、この世界の成り立ちだった。
この世界がたった1人のために造られた世界に過ぎないこと。
その1人のために用意された世界は、その1人に不要とされたため主なき世界となったこと。
「この世界の創造主は、唐突にいなくなりました。それこそ、誰かに殺されたかのように。しかし、仮に殺されたのなら、この世界を手に入れることが目的のはずでしょう。けれど、この世界に干渉する者はいなかった。それが創造主が用意したプロテクトによるものだったのか、それともそれ以外の理由なのか、我々には判断する術がありませんでした」
未完成の世界で、創造主を失った神獣たちは眠りについたという。
その結果、この世界に残されたのは、主である人間、それがこの世界で生きていけるかどうかを確かめるために用意された人を模倣した実験体、キャラクター達であった。
神獣たちが脅威にも思っていなかったキャラクター達。というのも始め、彼らに自我は無かったのだという。しかし、神獣たちが眠った世界で長い時を過ごす中、彼らは自我を獲得するに至った。これが最初のイレギュラー。転換点だったという。
「彼らの築いた文明、それが旧文明。神獣の権能や魔法に依るところの少ない技術体系を持った文明です」
「アンダイイングやEは、その時代の人間か」
「その通り。キャラクター達が自我を獲得して間もなく、ゼウスと名乗る組織が設立されました」
しかし、ゼウスの本来の目的は、現代に伝わっているものとはずいぶんと異なっているという。
「創設者の目的は、創造主の安否を確かめること。次点で、この世界の存在意義である奉仕対象を発見、この世界に連れてくることでした」
人間の体を奪い、現実に干渉する。それはあくまでその手段に過ぎなかったという。目的を果たすため、協力者を募る過程でその目的とは関係なく、この世界が停滞し、限られたリソースを消費しながら維持されたものであることを知り、人間の体を得ることを目的とする奴らは現れたが、それは意図せず発生した者たちに過ぎなかったという。
「神獣たちは現実に干渉するという大それた行動に出たキャラクター達の同行により眠りから目覚め、彼らとの戦いが始まりました」
「どうしてキャラクターたちと神獣は戦ったんだ?」
「現実への干渉は禁止事項に設定されていた。ただそれだけです。しかし、神獣たちは力及ばず、最終的にゼウスの目的は果たされました。
しかし、その結果は悲惨なものでした。この世界の存在意義であるたった1人が、すでにこの世を去っていたという事実。そして、それをきっかけに創造主がこの世界を見捨てたということがことの真相である。わかったのはただそれだけでしたので」
人格を電脳化し、永遠に生き続ける。それを可能にする超技術を捨てるほどの出来事。
この世界の完成が間に合わなかった。死に瀕したその人を生かすための世界は、その人が永遠に失われた後、何の意味もない世界となる。故にこの世界は放棄されたわけだ。
「ゆえにこの世界は神話というものを核に現実からの中途半端な影響を受けているのです。未完成ゆえに足りない部分はつぎはぎした結果、|正史にそぐわない生存者や、|ただの概念になり果てたもの《ゼウス》なども出てしまいました」
神話の追想というには淡白で、名前を借り要素を搔い摘んだような神獣たち。彼らの出自についても彼は語った。
魔法的な要素が無いとは言わないが、どちらかといえば科学技術に近い体系の技術。旧文明の遺産にはハルトも触れている。それらが神獣たちが消えたあと、人を模した存在キャラクター達の試行錯誤の結果であるというのは、ある意味納得のいく話だった。
「真相に辿り着いた後、ゼウスは活動を縮小。最後には崩壊しました。同時期に、多大なリソースを食う発展した文明は、その負荷に耐え切れず破綻し、文明は崩壊しました。
その中で、この世界が終わることを受け入れられない者たちがいました。彼らは現実で肉体を得たことで、この世界のリソース不足を解消する算段を立て始めました。……それが、この世界の崩壊を加速させるとも知らずに」
「――プレイヤー。彼らはカテゴリとして、創造主や奉仕対象であるその人と同じ人間でした。故に、不完全なシステムは誤作動を起こし、彼らに無数の権限を付与するに至りました。
キャラクタークリエイト、レベル、アビリティ、そういったものは本来、奉仕対象であるその人だけが得られる特権だった。それを無数の人間が獲得し行使する。それが多大な負荷となるのは当然の流れでした」
この世界は不完全なものだからこそ、歪みと同時にあらゆることを許容するということ。ただの人が、主となったはずの存在と同じ人間というカテゴリに属するというだけで、この世界に現れた人間は、この世界の一部の権限を自由にできた。
他の存在から権限を奪い、多くの権限を保有することで上位の権限を持っているかのようにシステムへのアクセスが可能になる。それ自体が、現実世界の人間に許された特権だということらしい。
「そういった越権行為、それらにパンドラの連中が偽装のために余計なゲームらしさを付与していましたが、あれらシステムの本質は不正アクセスの塊なのです。そして、そんなことをし続ければこの世界の維持はさらに困難になる。
――端的に言えば、この世界はもうすぐ終わるのです」
長い前置きの果てに、彼はそう結論付けた。
「パンドラが求めていた永遠に続く命と世界。それは幻想に過ぎなかったわけか」
「他人の思惑に巻き込まれて、そしてそんなことをしてまで追い求めたものが実際には存在しない虚構だったというのは、全く皮肉な話です」
「とはいえ、プレイヤーは所詮巻き込まれた奴らだ。何故神獣たちはそこまで敵意を持つんだ?」
「一番はプレイヤーとパンドラの区別がつかないことです。細かい理由は他にもありますが、語ったところで意味は無いでしょう」
プレイヤーと神獣の敵対理由に興味を示したハルトだが、プロメテウスは些末な問題だと語って話を終わらせてしまう。
「それで、今の状況についての説明は無いのか?」
「確かにこの世界は終わりかけている。神獣の多くはそのことに納得している。ただ、それを受け入れられない存在も一定数居てね。そこで君に相談がある」
「面倒ごとの予感がするな」
「そう言わないで聞いてください。この世界を初期化した後、その世界の創造主になっていただきたい」
予想していなかった内容に動揺しつつ、プロメテウスの真意を確認するためにも、彼は問いかける。
「なんで俺がそんなことをしなきゃならない?」
「適性があるからです。プレイヤーの権限を持って、クロノスの権能を奪ったこと。彼が神獣ではなく本物の神に近づけた存在であること。そして、あなたがこの世界なしでは生きられない体質であること」
「『この世界なしには生きられない』だって?」
「ええ。自分の出自くらいはもうご存じでしょう。この世界に来る前、親和する以前であれば体調不良程度で済んだでしょうが、既に手遅れ。あなたはこの世界のデータマテリアルの供給が無ければその生命活動を維持できない」
ハッタリだと一蹴することもできるだろう。しかし、割り切るにはリスクが高い。せめて自分の素体を取り戻さなければ、自我を現実の肉体に戻すことは叶わない。ハルトにはその自覚があった。
「……具体的に何をすればいい?」
「話の早い方は好印象ですよ。まあ、あなたはいわゆる神輿です。あなた自身に何かをしてもらう必要はありません。残りは私たちでどうにかします」
「わかった。猶予はどれくらいあるんだ?」
「クロノスが存在しなくなったことで、この世界は既に崩壊を始めています。あと1日程度でしょうか」
「恐ろしく短いな」
世界が滅びるまであと1日。そういうのは映画か小説の中の出来事だと思っていた。
自分の父親が存在していた世界。故郷というにはなじみのない、けれど魂に深く結びついている場所が消える。その事実に対して、上手く言葉が出てこない。
同時に、この世界が終わった後、一体自分が何者になるのか。結局現実への帰還が叶うかどうか怪しい状況に、彼はため息を吐く。
「世界が終わるなら、最期に1つだけ、やり残したことがある」
「あなたの身を危険に晒す可能性があるので、できればこの部屋でおとなしくしていていただきたいのですが……」
「なら、相談なしで逃げ出す方がいいか?」
「わかりました。降参です。それで、一体何を言い出すつもりですか?」
身勝手なことをされるのは困る。はっきりとそう告げるプロメテウスに対し、最期くらいは自分の好き勝手にさせてもらおうと、ハルトは一つ提案をする。
その提案に、プロメテウスは渋い顔をしながら、クロノスの権限を手に入れたハルトを止めることはできないと、条件付きで提案を承諾するのだった。




