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神様に「やめじゃ」と言われて最底辺転生  作者: TKG
第一章 始まりは最底辺
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第九話 ステータスを見よう

 目が覚めると、そこは田舎村の一室だった。


 体を起こすと、ベッドの上に寝かされていたのがわかる。周囲を見ると、木製の家具や調度品などが目に入る。部屋の間取りはそこそこ広い。村のなかでは立派な家屋なんじゃなかろうか。


 服を見る。白い寝間着のようなものを着ている。村人Aの夜の格好。前に着ていた服はどこにあるのだろうか。一張羅だからあれがないと困るなぁ。


 体を見る。あちこちにできていた擦過傷が何もなかったかのように消えている。あれだけがむしゃらに走ったというのに体の疲労も筋肉痛もない。異常なまでの回復力だ。インドア派からアウトドア派に寝返ろうかな。


 …さてと、判断材料は集まった。

 僕はあのクソったれのゲス野郎対女剣士ユティスとの闘いを見届けた後に疲労で気絶。その後、この村に運び込まれて治療を施された…と、こんなところだろう。


 寝室に選ばれたこの部屋がそれなりであること、寝間着の質も同様にそれなりであることから中々の待遇であることがうかがえる。家を出た瞬間に石を投げられる心配はなさそうだ。


 ある程度の状況確認がすんだところでガチャリと扉が開く。入ってきたのはまさかの女剣士ユティスだった。

 彼女は僕と同じような白い寝間着に身を包んでいる。その頬はほんのり赤く染まっており、射るような視線が僕を捉え…ってなにこれ?ていうかここは彼女の家なのか?同じ屋根の下?寝間着の二人が?寝室で?見つめ合って?なにこれ?


 そういえば聞いたことがあるぞ。田舎はあまりにも娯楽が少ないからチョメチョメにゃんにゃんワオーンが盛んだって…。


 そうつまりっ!これはっ!夜這いイベントだッ!!


「あー、ゴホン」


 咳払い頂きました!くる?くるのかついに!待って、まだ心の準備できてないから!シャワー浴びて来るから待ってて!


 ………え、な、なに?その動き?


 両手で自分の体をポンポンと叩き、掌を上にして両手を僕に向けて突き出し、首をかしげる。

 両手でお腹をさすって、掌を上にして両手を僕に向けて突き出し、首をかしげる。

 左手を口の前に添え、右手をスプーンを持つような形にして軽く口の前で動かした後、掌を上にして両手を僕に向けて突き出し、首をかしげる。


 ………求愛ダンスにしては変わってるな。



「やっぱり伝わらないじゃん…イーヴェンさんのあほ。うーん…どうしよ…」


 沈黙に耐えかねたのか、彼女はそんな独り言を漏らして頭をポリポリと掻いた。

 これは…結構な破壊力を持ったギャップですねぇ。なんか毒気を抜かれた気分だ。とても僕を殴った方と同一人物とは思えな…………言葉が…分かる?


 ―――そうだ!思い出したぞ!あの夢?のような出来事は恐らく本当だったんだ!神様からことのあらましを聞いて、スキルをいくつか貰って、それで…えーと…どうなったんだっけ?


 まぁいいや!重要なのは言語スキルを取得出来たって事だ。言葉さえ分かれば完全詰みからは脱却できたようなもんだ。


 それに僕は後二つスキルを貰っている。早着替え…うん、これはいいや。だが、交渉スキル!これさえあれば頭の使いようで冒険も金儲けも出来るだろう。優秀な装備を整えて、雑魚を倒して堅実にレベルアップして、各地で善行を積んで更なるスキルをゲットして…これだよこれ!いやぁ…ようやく楽しくなってきたじゃないか。


 え?もう一つのスキル?知らんな。


 っと、舞い上がってる場合じゃないか。不思議な踊りを披露した彼女は僕の命の恩人だ。折角喋れるようになったんだから、ちょっと恥ずかしそうにしてる彼女に何か気の利いた言葉を掛けてあげなければ。





「とても可愛らしいダンスですね。可憐な妖精が舞っているみたいで素敵でしたよ」


 はああぁぁぁぁぁ?なにこいつくっさ!!くっっっっさあああぁぁぁ!!

今日日(きょうび)こんな歯がゼログラビティでフライアウェイしちまうような台詞を真顔で言っちゃうとか無いわぁ!聞いてるこっちが恥ずかしくて体が痒くなっちまうよHAHAHA!



 え、今の僕が言ったの?嘘やん。


 ほら、昭和のキザ男でも言わないような台詞を言うもんだから『何言ってんのこの人』みたいな目で見られてんじゃん。ポカーンって表現まんま。

 お口は閉じなさい。美人が台無しですよ。


「か、かわ、可愛らしいとか妖精とかっ!な、何を言ってるんだお前は!こ、言葉が分かるなら早く言え馬鹿者!!」


 真っ赤な髪に負けないくらいに顔を真っ赤にした彼女は、物凄い大声で僕を怒鳴り付けた後に部屋から出ていってしまった。


 これ見たことある!天然女たらしな主人公にありがちな展開のやつだ!言動一つ一つが的確に女の子の心を揺さぶっていることを本人は自覚してないやつだ!

 取り巻きが『あいつわざとやってんのか』とか、『苦労するわねぇ○○ちゃんは』とかお決まりのように言い出すのだ。そして女の子は顔を真っ赤にして『まぁ、それが○○さんのいいところなんですけどね…』と、これまたお決まりのように言うのだ。そしてすかさず主人公は『さっきからなんの話をしているんだ?』とすっとぼけるのだ。


 なんでわかんねぇんだよおい!『命を救われたからなつかれてるだけで好意じゃない』、『あいつはまだガキだろ?恋愛感情なんて持ってるはずがない』、『そもそも好かれる様なことしてないだろ?』。そう言ってる内に、気付いたらハーレムが完成しているのだ。


 そして僕は天然女たらし必須スキルの一つ、『何気ない言動で女の子の心を刺激して顔を真っ赤にさせたあげくに怒鳴られる』を実行してしまった。大方、剣の稽古三昧で可愛いとか言われたことがなかったから免疫が無いとかであろうか。


 ハーレム系小説を読み漁り、穿った恋愛感を持ち合わせてしまったからか冷静に分析してしまう。気分は昼ドラに難癖つける主婦そのもの。確かに異世界楽しもうと思ったけど、こんなお約束ハーレムものまで忠実に再現してくれなくて良いのに。どうしてこうなった?


 そもそも、僕はあのくっさい台詞を喋った自覚がなかった。普通に「あ、言葉通じるんで普通に喋って貰って構いませんよ?」と言ったつもりだった。思考と行動が乖離している?二重人格?神様が変なスキルでも与えたのか?


 …だとしても確認する術が……あ!あった!


「ステータスオープン」


 独り言のように呟くと、ピキーンという音が頭のなかに響き、頭の中に直接情報が表示されてゆく。やはり新鮮な感覚だ。

おお、読めるようになってるじゃないか!どれどれ


 Lv 1


 攻撃力 12

 防御力 8

 素早さ 26

 理解力 18

 魔法力 0

 魔防力 0


 所持スキル

 言語理解 早着替え 交渉術 家具に足の小指をぶつけるのを未然に防ぐ


 称号

 異世界人 善人 力無き正義 引き弱 ` . -


 善行ポイント 0pt next 100pt



 まんまゲームだこれ。色々突っ込みたいところがあるけど放っておこう。

 レベルが1なのは分かるけど、ステータス低すぎない?素早さがちょっとマシな程度か。あれだけ必死こいてマラソンすればそうなるか。しかし魔法力と魔防力が極端に低すぎじゃない?0ってなんだよ0って。才能0ってことか?


 ―魔法力―

 大気中、もしくは体内の魔力に干渉し、望む現象を発現させる力。


 ―魔防力―

 魔力の干渉によって発現した現象に対する抵抗力。



 頭に浮かぶ項目に意識を向けると説明が出てきた。これはなかなか便利なことで。

 しかし…これ魔法の才能0ってあながち間違いではないかも。魔防力0って…かなりまずいだろ。魔法が直撃したら即死なんじゃないか?


 …悩むのは後だ。とにかく色々見てみるか。



 ―攻撃力―

 物理的影響を対象に及ぼす力。


 ―防御力―

 物理的影響に対する抵抗力。


 ―素早さ―

 行動、動作を速くする力。


 ―理解力―

 物事を読み解く力。


 言語理解 LV.10 全ての人種との会話が可能。


 早着替え LV.10 瞬く間に着替えられる。


 交渉術 LV.10 駆け引きで合意を得られやすくなるほか、人間関係を円滑に進められる。


 家具に足の小指をぶつけるのを未然に防ぐ LV.10 ありとあらゆる物理法則を捻じ曲げてでも家具に足の小指をぶつけるのを未然に防ぐ。



 異世界人―異世界人。


 善人―善き人物と称される者。他人からの評価のなんとあてにならぬことか。


 力無き正義―無能と自惚れの証明。正義とは力があってはじめて成り立つものなのだ。


 引き弱―確率に見放されし者。確率という概念にまで見放される確率とはいかばかりか。


 善行ポイント―善行によって貯まるポイント。次のスキルを取得するにはあと100ポイント必要。善意ある行為を善行と呼ぶのか、行為によって人が喜べばそれは善行なのか。道を外れなければ、どちらもきっと正しいのだろう。ならばなぜ、善意で舗装された道は地獄へと続いているのだろうか。






 なんだこの突っ込みどころの多さは。称号とか鳥肌立ったぞ。なに説明文が哲学始めてるんだよ。自由か。引き弱とかやかましいわ。


 …とにかく、先ほどの原因が分かった。交渉スキルの『人間関係を円滑に進められる』の部分に引っ掛かったのだろう。僕が言おうと思った言葉では、これからの展開に支障をきたすから交渉スキルが自動的に発動した…もしくは、人間関係を円滑にする=誰彼構わずナンパするという交渉スキルのバグ挙動か…。

 後者だったら最悪だ。自覚あり女たらしのハーレム建設(本人の意思ではない)…カオス。


 ふと視線を感じたので扉の方へ目を向けると、半開きになった扉から先程出ていった彼女がこちらを覗いていた。相変わらず顔は真っ赤だが、目付きは鋭く警戒心を露わにしている。


 …完全に怪しまれてるなぁ…さっきまで言葉を理解してなかった男がいきなりキザ男に変わってるんだから当然か。

 誤解をされたままだとめんどくさいし、まずは事情の説明から入ろう。




「妖精さんは恥ずかしがりやさんなのかな?そうしていたら可愛い顔がよく見えないよ。こっちにきて、少しお話に付き合ってくれないかな?」


 バンッッ!!と凄い音と共に扉が閉められる。


 ……こんなスキルはオフにしてやるバカヤロウ。


 いつの間にか消えていたステータスを再度表示させ、交渉スキルオフを念じる。すると、スキル表示の色が淡い白から灰色に変化した。これでもう暴発はしないだろう。


 交渉スキル、まさかのハズレ。厄介なことになったけど、考えるのがめんどくさいので二度寝をすることにした。なるようになっちまえ。

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