夫婦喧嘩は犬も食わない(5)
結論から言うとだな…言わされた…
あげはの家で喋ってた恥ずかしい台詞、全部!!
くっそー。なんで、盗み聞きした上に、待ち伏せなんてしやがるんだ…
だんだん、アキラのすること犯罪めいてんだけど!?
悶絶しながら、俺はソファに突っ伏して、文句を言いながら砕け散った自分のプライドを必死に修復していた。
「まったく、この子は、初めから理由を言ってくれたらいいのに」
「うるせぇ…あんたこそ、たまには休んで遊びやがれ」
「アタシは良いのよー。蓮や優奈や紗奈が笑って傍に居てくれたら、それだけで疲れ何か吹っ飛ぶんだから。要らない心配なんてしないのよ?」
だからそうやって、俺を甘やかすなっての。
「あんたもう、中年のおっさんなんだからな。いつまでも若いと思うなよっ!」
捻くれた事しか言えない俺は、その言葉を言って、しまったと思った。
せっかく、あげはが色々とアドバイスくれたのに、素直に言えねえ…。
「ホントに、蓮は素直じゃないわねー」
ぎしっと、ソファのスプリングが軋んで影が出来る。
何事かと思ってそっと顔を上げれば、くるっと体の向きをうつ伏せから仰向けにひっくり返された。
「まあ、そこが蓮の可愛い所なんだけど」
「ちょ、ば、馬鹿っ!ここはリビングだっつーの!」
「あら、寝室なら良いのしら?エッチねー、何期待してるのよ」
とか言いながら、器用に俺のシャツのボタン外してる不埒な手の持ち主は、そっちだっ!
嫌でも、先の展開が読めるっつうの。どんだけ俺がアキラに剥かれたと思ってんだー!
「ちっげーよ!あげ足、取ってんじゃねーっ!」
ソファの上でマウントポジションをとられ、あれよと言う間に、アキラが俺の服を剥いて、ニヤリと笑う。
「そんなに大声出すと、優奈と紗奈が起きちゃうじゃないのー」
だったら、俺が声荒げる様な不埒な真似すんじゃねーよっ!
って、言ってやろうとしたら速攻で口塞がれた。
悔しいけど、アキラとのキスは好きなんだよ。気持ちよくって、つい気が緩む。
だから、あっという間にアキラのペースにのまれて、快楽に引きずられる。
「ねえ蓮、アタシ、自分が一人っ子で親は肩親で働いてばっかりだったから、子供の時、すごく淋しかったの。だから、家族がいっぱい欲しいって思ってた…でも、自分もこんなだから、結婚しても、子供を作っても上手くいかないんじゃないかって、諦めてた」
口づけを止めて、アキラは俺の髪を撫でながら、そう呟いた。
アキラが自分のことを話するのって、滅多にない。
「だけど、蓮に出逢って、この子と家族になりたい、家族を作りたいって思ったの…まあ、既成事実で蓮を縛り付けて、色々、人生設計狂わせちゃって…悪かったとは思ってるのよ、これでも…」
「…ホントだよ。俺はお堅い公務員になるかと思ってた」
自分のやりたかったこと諦めて、堅実な仕事について、たぶん結婚もしないまま。
今ある幸せ全部知らない、そんな人生…
もし人生がやり直せるとしても、たぶん、俺は今の人生を選んでる。
俺は、そっとアキラの唇に触れるだけのキスをする。
「でも、今の人生の方がずっとずっと良い。だから、許す」
「蓮…」
「三人目も……ちゃんと、家事も子育ても分担してくれるなら…いいぞ」
「本当に?…じゃあ、子供たちのためにも、頑張らないとな」
うわぁ、久しぶりだ。思いっきり欲情した顔するアキラを見るの。嫌な予感しかしねえ。
「ちょ、まだ駄目だからな!?まだ、優奈と紗奈に手かけてやたいんだからな?」
「娘よりもまず、俺と仲良くしないとな?」
極上の笑みでシャツを脱ぐアキラに、ぞくっとする。
やっぱやる気かよ!
四十路近いのおっさんの癖に、贅肉なしで腹筋割れてるとか詐欺だろ!
何でこんな色気駄々もれでやる気満々なんだよ!
こう言う時だけ、途端に男に戻るのも反則だろ!?
「愛してるよ、蓮」
「…て、手加減しろよ?」
そう言って重ね合わせた唇では、声にならなかった。
そして俺は、散々、アキラに良いように弄ばれて啼かされた。
その結果と言うべきか…数カ月後には第三子を妊娠していることがわかった。
旦那と旦那にそっくりな顔をした娘二人は大喜びで、まだどっちかもわからねえし、夜遅いって言うのに、ベビー用品を買い出しに行こうとする始末。
慌てて止めて、風呂に入れと三人を追い立ててから、ダイニングの椅子に腰をかけて、俺は大きなため息をつく。
「まったく、せっかちな父さんと姉ちゃんだなー」
静かになった部屋で、まだペッタンコの腹を撫でながら、お腹の子供に話しかける。
「お前、大変だぞー。姉ちゃんたちに負けないくらい、元気でたくましく生まれて来いよ?」
風呂場から、父親と娘のじゃれている楽しげな声が聞こえる。
弟が良いだ、妹の方が良いだ、じゃあ名前はどうするとか…ホントに気が早過ぎる。
でも、家族のそんな嬉しそうな会話を聞いていたら、やっぱ俺って幸せなんじゃね?…なんて思ったり。
まあ、なんだかんだあるけれど幸せだ。
-END-
これにて、番外編終了となります。
お読みいただきありがとうございました。