第50話 さらば、マルサラ
ジョン・マクノエンの判決が決まり、マルサラにいるジョンファミリー幹部たちが、市街からの退去準備をしていた。
「ジョンよ。ついにこの日が来てしまったな」
ジョンを見送るために来たジョウノ・タピオスら数人が、見送りに来てくれていた。
「安心してください、市長。これが最後ってわけじゃないんですから」
「だが、10年もの間は来られないのだから……」
ジョウノが不安そうに顔を上げると、ジョンはにこやかな笑みを浮かべる。
「安心してください。今後は、こいつが窓口をしてくれるのですから」
「そうですか? 何分にも、疑わしい所がありますが……」
「そんなひどいこと言わないでくれよ。せっかく仲良くやろうと思ったのに」
ジョウノがその声の主に頭を抱えながら後ろを振り向く。
真新しいスーツを身にまとい、革製の靴をカツカツと鳴らしながら歩いてきたその男は、ジョンの隣に捕まっていた男であった。
「よう、ノーガンル《名無し》。今後は窓口を頼むぞ」
「ああ。任せてくれよ」
ジョンは、ノーガンルの肩を叩きながら声を掛ける。
ジョンが考えた対策とは、世間と一切関わってこなかったノーガンルと、ベースボールに参加しなかった者たちを加えたメンバーで編成した「マルサラリドリー」という窓口組織を作り、そこにジョンファミリーの荷を卸すという流れだった。
「この男に任せるっていうのは、何とも信用できないが……」
「そんな事を言ってくれるなよ。俺とジョンが決めた事だし、何より俺と市長の仲じゃないか。仲良くやろうぜ」
ノーガンルが肩を叩きながら、ジョウノに絡みに行く。
「絡むんじゃないよ。あんたはただの窓口なんだからな」
「はいはい。そんな怒らないでくださいよ」
「しかし、名無しっていうのはね……呼びにくい」
「そうかい? じゃあ、名前を付けてくれよ」
ノーガンルは、ジョウノやジョンへ顔を向け、考える仕草をした。
「だったら、ディ・マルサラってのはどうだ? 『マルサラの男』って意味だ」
「いいね。気に入ったよ」
ディは、笑顔でジョンが付けた名前を名乗り出した。
「ところで、ジョン。お前はどうするんだ?」
「そうだな。ジョン・ドーは入ることができないからな」
ジョンは少し笑みを浮かべた後、自分が持つスキルボールを見せた。
「ジョンは新しい人生を歩むのさ」
「?」
「まあ、案ずるなよ。うまく立ち回るからさ」
ジョンがそう言って、近くにある馬車へと乗り込んだ。
「馬車を出してくれ!」
ジョンの掛け声で、ジョンファミリーの一行は、本拠地であるラテラルへと走り出した。
馬車の中には、クラレット・シュナウとガティールが待っていた。
「これで、大きなしのぎを失ったわね」
「そうでもないさ。今後はディが窓口になるし、マルサラでの取引も俺がしっかりやっていく」
ジョンの回答に納得がいかない二人を前に、彼はスピーキーズの中へと入っていった。
「いらっしゃいませ。Mr.ジョン」
「おう。久しぶりだな」
ジョンを出迎えたリッチは、何も言わずにスコッチのグラスを目の前に差し出す。
ジョンは、グラスの中身を一口だけ口に含んだ後、本題に入るように手持ちのチップを差し出した。
「外科医を紹介してくれないか?」
短く、分かりやすい注文を聞いたリッチは、黙ってチップを受け取った。
「5日ほど時間の猶予をいただきますが、よろしいですか?」
「構わない。時間は、たっぷりできたんだ」
「それならば、ご要望にお応えしましょう」
リッチが恭しくお辞儀をすると、グラスの中身を飲み干したジョンが、チップを置く。
「リッチ。今後は大きな取引はしばらくないだろうが、大きな事業を行うための金庫を用意して頂きたいのだが、できるか?」
「ええ。最近、大きな取引をさせて頂いていたので、その手の物が必要になるだろうと思っていましたので」
ジョンはそれを聞き、少し笑った後に指を立てた。
「翌年にはできるようにしておいてくれ。それまでは、静かにするつもりなんだ」
「承知しました。それまでは、ゆるりとお過ごしください」
「そうするよ」
ジョンは、そう言って店から出て行った。




