第1話 1929年 アメリカ
ヨーロッパ大戦が勝利に終わってから10年後の1929年を迎えた北アメリカ大陸にあるマサチューセッツ湾。
東海岸でも悪名が広まっていた一大マフィア「カルティオネ家」に席を置くジョン・マクノエンは、この日の荷下ろしの監督をするために、部下たちと共に港に入港していた貨物船「ヒックス」のもとに向かっていた。
幾度となくやって来た受け入れ業務とはいえ、品物が入らなければ安心する事は出来ない為に、彼を含めた一同の顔に緊張感が張り付いていた。
この日の荷降ろしは、何時もの《《気付け薬》》だけでなく、ファミリーの上役が欲しがっていたヨーロッパの骨董品もあった為に、失敗する訳には行かなかったのである。
「落ち着けよジョン。上手くいくって」
横についてくれていた兄弟分のマロリー・ドミニクが微笑みながらしゅわくちゃになったラッキーストライクの箱を差し出す。
「緊張しちゃいねぇよ。ただ、オジキの望んだ品が無事なのか気にしているだけさ」
ジョンは、差し出されたタバコを受け取ると、ポケットのマッチにて火をつけた。
「確かにな。オジキがヨーロッパで見初めた逸品なんだろ。無事に届けたら、お前の株も上がるだろうから、気合もはいるわな」
「それもあるが、今日の荷下ろし変に気になるんだよ。嫌な感じなんだ」
「お前さんらしくない。『鋼鉄の心臓』の異名を持つお前らしくないじゃないか」
「そのあだ名は、よしてくれよ」
顔を背けたジョンをマロリーは、ケラケラ笑いながらたしなめる。
「着いたみたいだな」
乗ってきた車のブレーキ音を聞き、2人が外に出ていった。
貨物船の前には、見慣れないトレンチコートの男が2人に指をくねらせながら出迎えていた。
「はじめまして。私は、シュワルツと申します」
そのように名乗るトレンチコートは、無理やり陶器人形を笑わせたような、不器用な笑みを浮かべていた。
「はじめまして。マロリーとジョンだ」
交渉役であるマロリーがシュワルツと握手する。
「早速だが、荷物を見たい。重要なものだからな」
ジョンは、ぶっきら棒に荷物の在処を言うように首を振るとシュワルツが慌てて奥にある箱を示した。
「あちらにございます。ご確認ください」
シュワルツの指した先にジョンは、スタスタと歩いていった。
密輸品の箱が並ぶ中で小さめの木箱にたどり着いたジョンは、近くに立て掛けてあるバールにて、その箱をこじ開けた。
中身は、一冊の本であった。
独特な質感に向こうの言葉で書かれたタイトル、触っているだけで気味の悪さを感じる表紙の素材。
「この気持ち悪い本が、頼まれた品か?シュワルツさん」
ジョンがそういいながら振り向こうとするタイミングで「カチャ」という金属がかみ合った音が聞こえてきた。
振り返ると、数人の船員が手ごろな武器や護身用の拳銃を抜いた奴ら近づいてきていた。
「やろうっていうのか!」
ジョンは、懐にあるホルスターからM1905を抜いて、そのまま拳銃を持つ船員を撃ち抜いた。
「兄弟!」
マロリーが近くにある木箱をけり渡すと、箱の中に入っていたトンプソン短機関銃を取り出す。
「ダンスの時間だぜ!きれいに踊りな」
銃口から、勢いよく飛び出してくる鉛玉が吐き出され、周囲にいた船員たちをハチの巣にしていく。
「おい!話が違うじゃないか」
シュワルツが混乱した様子で声を掛けると、マロリーが突き出したM1911を構えていた。
「おま!」
その言葉が続く前にマロリーのM1911が黙らせる。
シュワルツの頭は、ザクロのようにはじけ飛んでしまった。
ジョンの方もトンプソンにて、歯向かってくる奴らを黙らせたのか、余韻を残した銃口の煙をふかしながら肩に担いだ。
「兄弟。助かったよ」
ジョンは、マロリーに手を伸ばしながら礼を言うも、彼の持っているM1911から撃ち出された裏切りの一発が襲い掛かってきた。
マロリーの放った鉛玉は、ジョンの胸元をえぐり取っていき、赤黒い液体をどろどろと吹き出していった。
「どういう事だ……兄弟」
「仕方ないんだよ。俺の出世には、お前が邪魔なんだ」
「てめぇ」
ジョンがトンプソンを構えようとするも、マロリーが続けて放った弾を数発によって止めを刺されてしまった。
「今更どうとは言えないが、今までありがとうよ。兄弟」
ジョンを樽に詰めたマロリーは、そのままマサチューセッツ湾へと送り出していった。




