シナリオ #09
しばらく経ってから、フィオナは従者からの愛の告白(?)に応じました。
「うれしいわ。あなたがわたしのことを、こんなにも強く想ってくれていたなんて。
亡者となったわたしには、もう……あなたしかいないのよ、ディオス」
もちろん、これは演技です。
彼をそそのかし、都合のよい駒にすること。そのための、偽りの愛の甘言にすぎません。
復讐計画を練るなかで、彼女はすばらしいアイデアをひらめきました。
リリアとエリオールの婚約祝いを壊す際、どうせだったら派手にめかしつけてやろうと考えたのです。
絢爛豪華な婚礼衣装で、死したこの身を飾るのです。『わたしこそが真の花嫁である』と、主張するためにも。
その凝った演出に必要な衣装道具を、ディオスに集めさせようという魂胆です。
必要なのは花飾り、純白のドレス、そして宝石。
フィオナはたくみに従者をたぶらかします。
わたしとあなたが結ばれるため……神の前で、夫婦の誓いをするために必要なのだと。
令嬢の甘い言葉に、ディオスの返事は変わらぬ色を帯びていました。ただひと言、「御意」と彼は応えるのでした。
* * *
愉快な目標が定まったところで、もはやこんな陰気な教会には長居は無用です。
蝋燭の火を吹き消し、二人は教会を後にしようと扉を開けました。
するとなんと、出口を塞ぐよう待ち構えていたのは──見上げるほど巨体な化け物でした。
その頭部は複数に分かれて、墓地で襲ってきた野犬の集合体であるとひと目でわかりました。
「な、なんなのよ、あれはッ!」
「あれは『幽鬼』です」
悲鳴を上げるフィオナに、ディオスが説明します。
「幽鬼とは死者の門に導かれず、正しく生を終えなかった者たちのことを指します。
今生の執念などに囚われ、幽体、もしくは受肉の残った者すべての総称のようです」
とにかくなんとかしてほしいと令嬢が頼むと、従者はまた「御意」と短く返事をして前に出ます。
どこからともなく、白い靄が彼にまとわりつきます。気づけば、その両手には二振りの細身の剣が握られていました。
それから、あっという間でした。
彼は犬の頭部をすべて切り落とすと、化け物を闇に屠ってしまいました。
戦いのさなか、攻撃がかすったのでしょう。
紐が千切れて、仮面が床に落ちました。
「!」
晒された顔を見て、フィオナは息をのみました。
ディオスの目元には横一閃の傷跡が走り、黒かった瞳はいまや白く濁っていました。
死んだ主を生き返らせるために、禁忌に手を出した愚かな従者──その彼もまた、人成らざる者と化していたのでした。




