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エッセー拾遺 ― 文芸誌のコラムから  作者: 坂本梧朗
1980年代

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第6説 歌

  

 彼は歌がすきだった。機会も時間も立場もなかったので、人前で歌うことはなかったが、ひとりの時、彼の唇からはしばしばリズムがこぼれ、メロディーが流れだした。

 自分には絵の才能があると彼は考えていたので、仕事の合間の乏しい時間を絵の研鑽にあてていた。しかし、ラジオから流れる歌を一度聞けば口ずさめたし、手に箸でも鉛筆でも持てば自然にリズムをとっていた。

 たまに出かける酒場で歌うと、見知らぬ客が水割りのグラスをおくってよこした。

 ある時、ふと彼は気づいた。それは予感だった。歌に打ちこめばものになるかも知れないと。

 しかし、彼に何ができたろう。時間は切りつめられていた。絵のための時間すら生活から盗んできているのだ。

 この欲求は暮しに合わない。彼はそう結論づけた。

 この世ではたった一つの事に打ちこんでこそ成功するのだ。一将功成って万骨枯る。端折った多くのものの果てに、たった一つの花が咲く。彼はそんな話を幼い頃からよく聞かされてきた。そしてそれは現在も真実だと思われた。つまり、あれもこれもは、世の人の納得しないぜいたくな欲求なのだ。

 酒場のカラオケが、彼が歌のために用意できたすべてだった。月に一度か二度出かける酒場。その時だけ葬られた彼の一部は彼となって甦った。


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