一章③
第四戦、二戦ぶりに菜緒はベンチ入りする。
先発は初戦に好投した東別府、対するは羽田。
この試合は予想に反し、乱打戦となった。
5対4とシャークがリードを許し、六回の頭から復帰した菜緒がマウンドへ上がる。
ロージンに手をやり、ボールをしっかりこねる。
すると、キャッチャーの達河がやって来た。
「昨日、何食べん?」
「はい?」
菜緒は質問の意味が分からなかった。
「パスタです」
「ほか、まぁ、女の子やもんな」
「はぁ」
「よっしゃ、今日は勝ったで」
「えっ?」
「スパゲッティは縁起のいいもんや。間違いないで」
「・・・・・・」
「長いモンは縁起がいいんやで」
「はぁ」
「ま、何食ってても、縁起のいいことにしようと思うとったけどな」
達河は、にかっと笑った。
「・・・・・・」
「ま、おもいっきり投げて来い。絶対に後悔せんようにな」
達河はキャッチャーミットで菜緒の背中をポンと叩いた。
「はい!」
奇しくもバッターは初戦にサヨナラホームランを打たれた本間からだった。
掌中におさまるボールを見つめ、気合を高める。
達河はミットを思いっきり叩くと、乾いた音が響き、菜緒にさらなる気合を促す。
彼女の一投を待つ。
大きく振りかぶり、ライジングホールを放った。
ど真ん中のボールは、やや振り遅れ気味のバットをかいくぐり、ミットに吸い込まれる。
二球目はアウトコースにチェンジアップで見逃しのストライク。
三球目は、インコース高めのライジングボールで、コースギリギリの見逃しの三振を奪った。
ぐっと拳を固める。
続く後続を抑えて、この回で菜緒はお役御免となった。
チームはこの回で逆転、そのまま勝利をおさめた。
シャークのシリーズ初勝利、菜緒に勝ち星がついた。
続く、第五戦、先発7回まで好投、後を継ぎ菜緒がマウンドにあがり、二回を抑え、最終回はシリーズに間に合った小野が締めた。
二対一の勝利。