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テンプレは一度は言ってみたいよね

「……なるほどね。要するにまたあんたはテンプレみたいなのに巻き込まれた、と」


「そ、そうじゃ! わしは悪くないんじゃ! だから許してもらえんかのぉ……?」


「そうだね。今回は真緒に責任はないみたい、と言いたいところだけど……」


 そこで言葉を止めてぐるりとギルド内を見渡す。


「……ここまでする必要、あった?」


 ギルドの中は見渡す限り冒険者の亡骸のような姿(死んでないけど)が散らばっており、あちこちから呻き声が聞こえてくる。真緒に喧嘩を売ったのはひとりらしいんだけど、どう見てもこの場にいた冒険者全員が倒れている。まるで()()()()()()()()()()()()()()()全員が床に這いつくばっている。


「……あんた、力加減間違えたとかないよね?」


「い、いや、力加減を間違えたとかではないんじゃ! ただその、じゃな……」


「そうよね。私はあんた以上に魔力制御をものにしてる奴なんて知らないしいないと思っている。それほどあんたは魔力というものを理解して緻密なコントロールが出来ている。そんなあんたがまさか魔力制御をミスるなんてこと、無いわよねぇ?」


「は、はは、ももももちろんじゃ。だからあれはそのぉ……。そやつ以外に変なやつがおってのぉ。どこにいるか分からんかったから……てへ、じゃ」


「「マオさん可愛い」」




 ゴズッッッ!!!!





「ぬああああ!!」


「反省しなさい」


 まったく。力加減を間違えるならともかく、変なやつがいたからとりあえず全員潰すってどれだけ脳筋なんだか。まあいいや。それで……なんだっけ?


「あの〜……そろそろ話を聞いてもらえませんか〜?」


「ええ。ごめんなさい。それで今は何をすればいいの?」


「ぐぬぬ。というかお主、桜に手は出てないと証言してくれと言ったではないか……」


「どう見てもこれ真緒の仕業でしょうが。というか真緒はやりすぎなのが問題なの」


「え、ええと。それでですね。まずはおふたりに確認を。変異種を討伐したというのは本当のことですか?」


「まあそうだね」


 ザワッ!


 ん? なんか後ろが騒がしくなった? まあ無視でいいや。


「え、ええと、ですね……。それではそれを証明できるものはお持ちでしょうか?」


「証明、といえばあれじゃろう。桜が持っておるやつじゃな」


「ああ。そういえば回収してたっけ。えっと、どこか広いところある?」


「素材解体場がございますが、ちなみに何をお持ちで……?」


「そんなもの決まっておるじゃろう。変異種の死骸じゃよ」


「「「「「なっ!!!!????」」」」」


 いや、なんでもかんでもばらさないで欲しいんだけど。今回は別にいいんだけどさ。いつか大事なこともばらしそうで私は少し心配だ。


「そ、それではこちらへどうぞ……」


 私と真緒は受付嬢の後ろをついていく。どうやらギルドの裏にあるらしく、受付の脇にあった扉から素材解体場に行けるようだから案内してくれる受付嬢の後ろを私達は大人しく着いていく。着いて……いくんだけど……。

 

「こちらが素材解体場になります」


「うん。それはいいんだけどさ……なんで他にも着いてきてるやつがいんの?」


「「「「「「変異種とやらを見たくて」」」」」」


「もう一度威圧して欲しくて」


「「「「「…………」」」」」


「誰じゃ!? お主のせいでえらい目にあったんじゃが!? というか出てこんか!」


 ……いや、聞き間違いだろう。そうに違いない。そうであってくれ。


「え、ええと、ですね……今ここの責任者を呼びますので少々お待ちを――「なんだいこいつは?」――あら?」


「おうおう。団体さんで来たな。ここはいつからこんなに大勢が来る場所になったんだ?」


 おっと。変なことに気を取られてるうちに誰か来てた。ていうか真緒が言ってた変なやつってさっきの声のことか。……うん。あとで真緒に謝ろう。


「スライさん。いえ、彼女達がとんでもない魔物を仕留めたそうなので皆さんが見たいと着いてきてしまいまして……」


「とんでもない魔物? というか嬢ちゃん達は誰だ?」


「初めまして。私は桜。こっちの小さいのが真緒。他は気にしなくていいわ」


「何じゃその紹介は! 小さくて悪かったの! 聞いたなデカいの! わしが真緒じゃ!」


「おぅ! 俺はスライってんだ。よろしくな嬢ちゃん達」


 名乗ったんだから呼べよ。まあいいけどさ。隣で真緒がいや呼ばんのかい! とか叫んでる。あんたそんな性格だっけ?


「それで早速だけど見てもらってもいい?」


「いいぜ。とんでもない魔物だってな。何を仕留めてきた?」


「変異種よ」


「は?」


「だから変異種」


「……いやすまない。どうやら俺の耳がおかしくなったようだ。何を倒したか聞き間違えてしまってな。悪いがもういっ――「変異種だって言ってんでしょ」――聞き間違えじゃなかったか……」


 何度も聞き直すなんて大袈裟な……いや大袈裟じゃないや。そもそも変異種なんてレア中のレアな魔物。滅多に出てくるものではないし、何より普通なら街がいくつも壊滅するレベルの化け物だ。高ランク冒険者が集って討伐しなければならない厄災だ。それを私達だけで倒したなんて言ったって頭がおかしいとしか思われないだろう。


「はぁ……とりあえず見せてくれ」


「うん。『空間庫』」


 ドサッ!! と音を立てて解体場の床にゴブリンエンペラーの死骸が落ちる。


「こ、これは……」


「……確かに通常のゴブリンの王であるゴブリンキングよりも遥かにでかい。しかしなんだこの傷は。とても戦闘とは思えない傷跡に斬られたと思われる四肢の断面……だがあまりにも綺麗すぎる。こんなことが人間にできるのか? いや嬢ちゃん達がやったって言うのか……?」


 ……うん。そりゃ騒ぐよね。でもこれは事実だ。どうしようもない程に変えられない事柄だ。いくら周りが騒ごうが否定しようが知ったこっちゃない。私達が変異種を倒した。これだけは揺るぎようがない真実だ。


「どう? まだ足りない?」


「いや、充分だ。これは俺の手にはおえん。ミリー、ギルマスに報告だ」


「わ、分かりました!」


 スライに指示されて私達を連れてきた受付嬢が急いで戻っていく。あの子ミリーっていうのね。


「それでスライ……じゃったか。お主はこやつを解体できるか? こやつは金になるのか?」


「そう、だな。はっきり言えば俺には解体できん。つーかそもそも世界中どこを探したって変異種を解体できる道具なんてものはねえだろうよ。あるとすればそれは最早武器と変わりゃしねぇ。……というよりゴブリンなんて素材はそもそも何に使うんだ?」


「言われてみれば確かにそうだね。ゴブリンの変異種と言われても所詮ゴブリンはゴブリン。そこそこの魔物程度なら耐えられるかもしれない。けど果たしてゴブリンの身体は防具になる程の堅さと着られる程の柔らかさを併せ持っているのか? ってことだもんね」


 まあそもそも素材解体場に来たのは解体するためじゃない。倒したという証拠を見せるために来ている。これを見たからには疑いようがないだろう。あとはエル達の依頼失敗が取り消しになるかと私達のランクがどうなるのかかな。あとお金が欲しい。っとそうだ、お金と言えばあれがあったな。


「つーかこの胸の傷。もしかしなくてもだが嬢ちゃん達、こいつの魔石持ってねえか?」


「持ってるよ。丁度今出そうと思ったところ。これ換金できる?」


 と言って『空間庫』から魔石を取り出す。取り出した魔石を見て周りが「おおっ!」とざわめきだす。いや、あんたらまだいんの? 早く戻れよ。


「ほぉ。こいつはデケェな。そうだな。30カルロバトってところか。流石変異種ってところか。王種を完全に超えてやがるぜ。しかしこいつを換金できるかってーと分からんとしか言えんな。そんな金がこのギルドにあるのか……それ以前にこいつがどれくらいの価値があるのか見なきゃならねぇからな」


 確かにそうか。300年前に私が倒した頃と相場が変わってなければ、どれだけ下振れようと変異種の魔石は日本円で数千万の価値がついたんだけどね。それだけの金がギルドにあるのかと言われたらちょっと分からないよね。でもこっちの世界は地球と違って金貨とか銀貨だからあるとは思うんだけどな。確か金貨が1万(カムラ)とかだったような。日本円にするとだいたい100万円だったかな? やばい。よく覚えてない……。そもそも前回は急いで魔王討伐する旅だったからお金に執着してなかったっていうのもあってうろ覚えだ。

 ちなみにロバトが重さだ。1カルロバトは1キログラムと同じくらいと考えていい。1ロバトは1グラムくらいだ。


「こんなに大きい魔石初めて見ました」


「私も」


「まあそうでしょうね。私もこんなに大きな魔石は初めてです」


 大きな魔石を初めて見たらしいエル達3人。それもそうだろう。本来ゴブリンが進化するはずだったのは王種と呼ばれる存在。その王種の魔石でさえ変異種の魔石の半分程しかない。周りの冒険者が言う『大きな魔石』とは所詮その程度でしかないだろう。いやそれも十分大きいんだけどね。けど変異種の魔石は文字通りものが違う。


 そもそも魔石とは魔物の魔力が結晶化したものだ。そのサイズは魔物の魔力量と体の大きさに比例する性質があり、魔物がでかければでかい程、魔力が大きければ大きい程魔石もでかいのが取れると言われている。だからゴブリンの変異種よりでかい全ての魔物の魔石がでかいかと言われたら違うと否定できるのだ。


「この魔石だけで王種ではないと言えるな」


「この魔石だけで一体どれくらいの期間持つんだろう……」


「うーん……スライさんだっけ。この魔石、もし限界まで溜めたとしてどれくらいになると思う?」


「そうだな。この街の結界なら数十年ってとこか。かなりの魔力量だぞ。なにしろ王種の魔石ですら数年だからな」


「ふーん。そんなもんか」


 まあそんなもんでしょ。昔倒したゴブリンエンペラーの魔石の魔力年数を聞いたらそれくらいだったし。数十年しか保たないのは多分ゴブリンエンペラーが魔力を多く持たないからだと思う。


「さ、ささささサクラさん!? なんでそんなに平然としていられるんですか!?」


「わっ! どうしたのエル? 数十年なんて普通でしょ? 王種で数年なんだから予想つくでしょうに」


「なにを、言ってるんですか……?」


「何をって、このサイズなんだし数十年しか保たないなんて見て分かるでしょ? 出来ればもう少し、百年程度は欲しかったかなって考えてはいたけどたかがゴブリンだし期待はできないよね」


「サクラさんは今何を言ってるか、分かってないんですか……?」


「……?」


 さっきから騒いじゃってエルってこんなに元気だったっけ? うん? よくよく聞いたら周りの冒険者も騒いでるね。もしかして変異種の魔石って今どこにも残ってない感じ? だったらこれはやらかしたかな?


「おい桜よ。これはちとまずいのではないか?」


「もしかしたらね」


 もしかしなくてもやらかしたんだろう。明らかに変異種の魔石は広まってないことが分かる。貴重なものではあったけどナハトとセレンの二人も変異種の魔石持ってたし、なんなら普通に使ってたから知ってるものだと思ってたけど……今は違うのかね? もし違うのであれば少しまずいことになってるかもしれない。……まあ今は気にしなくていいか。今度ロリ女神に聞いてみることにでもしよう。早くあのロリ夢に来ないと困るんだけど。


 ていうかまだ騒いでんのね。確かこんな状況で言うセリフがテンプレにあったよね。




 「テンプレに則って言うなら……もしかして私、何かやらかしちゃいました?」




 ――実は一度言ってみたいと思ってたなんてことは内緒にしておこう。

お久しぶりです高澤です。大変遅くなりましたがようやく投稿再開です。と言っても不定期なんですけど。

あまりにも投稿していなかったので作者が失踪してんのウケるとかいうコメントまでもらいまして……これはまずいと思いましたがどうにも時間が取れず……遅くなりましたが少しずつ書きましてようやく投稿といった形になりました(まあそもそも読まれてる方がいるかは知りませんが)


今後はなるべく早く投稿していきたいと思っております。


高澤

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