運が悪いんじゃないかのぉ?
時は少しだけ遡り……。
「やれやれ。あやつらは自分達だけで説明できる自信があるか……」
別に説明できるのであれば良いのじゃがあやつらが襲われたのは変異種。本来は国を上げてでも討伐すべき対象じゃ(と桜から聞いた)。それをたかだかD、Eランクの冒険者が倒せるものではない。ならば倒した張本人が必要じゃろうというのに……。
「まあ良い」
無駄に意匠の凝っている扉を開ける。なんとなく想像はついているが果たして。
「だから! 私達が見たのはただのゴブリンじゃなかったのよ! それなのに依頼は失敗扱い!?」
…………帰るかの。
「落ち着いてリル……」
「エルも! 分かってるでしょ!?」
「それは……」
ふむ……。依頼失敗扱い……なんとなく状況が分かるの。
「落ち着きなさいリル」
「でもソラさん!」
「しょうがないでしょう。所詮ゴブリン退治は常駐依頼。そんな依頼に普通のゴブリンとは違うって言ったって一体誰が信じるというの? それに……」
「それに?」
「変異種が出ましたなんて言ったら生き残った私達の方がおかしいでしょう」
「「「「「なっ!?」」」」」
ほぅ……。なるほど。ソラのやつは中々面白いことをするものじゃな。今のままなら確かに3人は依頼失敗を免れんが依頼内容に齟齬が生じていたならば話は全く別物になる。
ソラは今回達成出来なかった依頼は自分達の実力不足とは別に内容が食い違っていた……つまり国とギルドに責任を押しつけるつもりじゃろう。
「考えたものじゃの」
「マオさん?」
「一応わしも当事者であるからの。どう説明するのかが気になって様子を見に来たんじゃが……どうやら上手くいったようじゃな」
ソラがやったことは変異種という嘘にしては突拍子もないことを口に出して逆に信じ込ませるというもの。その証拠にギルド内で聞こえていた者のほとんどがざわめきだしておる。信じる者半分、疑う者半分といったところか。
「へ、変異種、とおっしゃいましたか?」
「ええそうよ。それとも証拠が無い限りはDランク程度の冒険者の戯言とみなすのかしら?」
「い、いえ! そんな! 滅相もない! ただ、どうして変異種だと分かったのかと思いまして」
「ゴブリンの異常繁殖が見られたわ。ゴブリンメイジ、ゴブリンソルジャー、大量のハイゴブリン。ざっと3桁は越えるであろう数のこれらのゴブリン種。それなのにゴブリンジェネラルの不在……。ゴブリンキングよりも遥かに大きな巨躯のゴブリン。これだけ揃ってて変異種ではないと?」
「た、確かにそれは……変異種の特徴と一致します……」
「ねぇ受付嬢さん。依頼失敗扱いになるのはこの際仕方がないわ。私達は負けたのだから。でもこれだけ依頼内容との差異が明確にあって、変異種なんて本来国で対処しなければならない魔物を倒してもらって……まさかギルドには何も責任がありません、なんて言わないわよね?」
「は、はい! それは確かにそう、で、すが? ……倒してもらって?」
ようやく気付いたかの。少し遅い気もするが。
「待ってください。変異種は国、あるいは世界各国が集って対処しなければならない凶悪な魔物です。それを既に倒した?」
「そうよ」
「一体誰が? ……まさか?」
「じゃから言ったろう。当事者じゃと」
その一言で余計に騒ぎ出すギルド。
「嘘だ!」
「そんなことできるはずがない!」
「踏んでくれ!」
……最後に変なこと言ったやつがおったな。
「え、と、貴女はどなたでしょうか?」
「わしは今日この街に来た真緒という。冒険者じゃ。まあ登録したばかりでFランクじゃが」
「Fランクで変異種討伐?」
「やっぱり嘘じゃないか?」
「踏んでくれ!」
……このギルドにはとんでもない変態がおるな。さて、どうすれば信じてもらえるか……。
「マオさんですか。それで貴女が変異種を倒したのですか?」
「うむ。正確にはわしと相棒のふたりでじゃな」
「もしそれが本当ならとんでもないことに……ん? マオ? もしかして貴女の相方さんってサクラという方ではありませんか?」
「む? なぜ知って……ああそういえばギルドでは他国のギルド同士でも情報交換できる通信機のようなものがあるんじゃったか。それがどうかしたかの」
「ええ、その……アスレクト王国から指名依頼です」
「「「「「はぁ!?」」」」」
指名依頼じゃと? しかもわしらが召喚された国から? この間暴れたことがギルドマスターとかに伝わったんじゃろうか。面倒じゃな。
「詳しいことはギルドマスターからお話があると思います。今は不在ですが……そろそろ帰ってくると思われるのでギルドマスターの部屋に案内します」
「いや、行かぬぞ?」
「え?」
「わしはひとりじゃないしの。それにそやつらの依頼失敗扱いについてはどうなるんじゃ?」
「そ、それは……」
「お前達は失敗扱いを撤回してくれるだけで構わんじゃろ?」
「え、ええ。そうですね」
「わ、かりました……。失敗扱いを撤回しましょう」
「「よ、良かった……!」」
やれやれ。たかが依頼の失敗を撤回してもらうだけでもこんなに渋られるんじゃな。厳しいとは思うが実力不足による冒険者の死亡をなるべく避けるためじゃろう。良くできておるシステムじゃ。ふむ。桜が戻ってきたら相談してみるとしよう。返事は予想できておるが……。
「おい」
「む?」
ガキィィィィィィィィンンン!!!!
「「「マオさん!!!」」」
後ろから声をかけられたから振り向いたら……なんじゃこれは。斧か? いや、ハルバードというんじゃったか。それが眼前に振り下ろされておるな。今はわしに届く一歩手前で止まっておる。当たればそれなりに怪我するかのぉ。
「な、なにをしてるんですかドルクさん!」
「いやよォ。さっきから聞いてたがよォ。変異種を倒しただのよォ。国からの指名依頼だのよォ。ちィっとばかり調子に乗ってんじゃねェかって思ってよォ!」
なんじゃこいつ……。随分と濃いやつじゃのぉ。というか調子には乗っておらんわ莫迦者め。
「マオさん! なんでそんなに落ち着いているんですか!?」
「落ち着かんかリルよ。当たっておらんから落ち着いておるのじゃよ。当たらんものに慌てるなど三流以下のすることじゃ」
「言うじゃねェかよォ!」
「やめてくださいドルクさん! ギルド内での私闘及びギルド員同士の戦闘は禁止だとわかってますよね!? 最悪冒険者資格を剥奪されるんですよ!?」
「じゃそうじゃが?」
「問題ねェな! これは戦闘じゃねェ! 教育だからよォ!」
バチィィィィィ! と音が響きドルクとかいう男が後ろに下がる。さて、やり返しても良いが冒険者資格を剥奪されるのは困る。というかそんなことになれば桜に怒られる。それだけはごめんじゃ。
「そこの受付嬢」
「マオさん? なんでしょうか? 今すぐ逃げた方がいいのでは?」
「わしは一切手を出さなかったと桜が来たら証言してくれんか?」
「え、ええ。マオさんは一方的に襲われただけですが……一体なにをするつもりで……?」
「それだけ聞ければ良い。おっ、と、そうじゃお前達」
「「はい!」」
「マオさん?」
「受付の前で固まっておれ。余波を受けるぞ」
「「「は、はい!!」」」
さて、これで邪魔されることはないじゃろ。手を出していないことを強調するために腕でも組んでおくか。
「面白ェ。殺れるもんなら殺ってみやがれェ!」
グシャッッッッッ!!!!
「あ、がっ!!」
「どうした? わしはまだ手を出してはおらぬぞ?」
「ぐ、が、てめ、ェ……!」
「ほぉ? 話せる余裕があるとは流石といったところか。これはやはり桜の言う通り力の出力が落ちておる……ということじゃろうか。参った参った。これではとてもあやつらを守ることなどできぬな。しかし……」
ぐるりとギルド内を見回す。それは惨状とでも呼ぶべき光景が広がっておった。簡単に言えばソラ達よりも前にいた冒険者全員を巻き込んでしまったというだけじゃが。
「う……あ……」
「ぐ、お、おぉ」
「はぁ……はぁ……きもち、いい……!」
マジか。いやそんなことを言ってる場合ではない。まさかここまで。これほどまでに自分の力が失われているとは。あのロリ女神め。少しは残しておけっちゅうんじゃまったく……。そういえばロリ女神で思い出したがそろそろ桜にロリ女神が夢に出て話してきたことの内容を伝えねばな。結局召喚やら脱走やら野宿やらで忙しなかったしのぉ。街に着いたことじゃし話してもええじゃろう。
そんな風に悠長に考えてたのがいけなかった。やつが来てしまったんじゃ。わしにとって最も怒らせたくない相手が。
「どれどれ……ん?」
「…………」
「…………真緒?」
言い訳させて欲しいと願ってからわしは天井を見上げた。わしはもしかして誰よりも運が悪いんじゃないかのぉ?




