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桜の剣技

 駆け出した私の速度にハイゴブリンはついてこれなかった。けどそれはしょうがないと思う。私も自分の速度に少し驚いている。身体強化をかけてる訳じゃないけど、元勇者をもってしてもそれなりに早いと思う速度だ。たかがハイゴブリン程度に追いつかれる訳がない。


 先頭のハイゴブリンとの距離を詰めるとそのまま一番近いハイゴブリンの首を斬り飛ばす。そしてそのまま流れるように隣のハイゴブリンを斬った。2体のハイゴブリンの死体を前方やや右に思い切り蹴り飛ばして反動をつけて反対側のハイゴブリンを2体斬り捨てる。


 そこでようやくハイゴブリン達は私が目の前まで来ていることに気がついたようだ。私の予想より少し早いけど、でももう遅い。前の4体のハイゴブリンを斬ったことで空いた隙間を強引に奥まで通っていく。そのとき通り過ぎるハイゴブリンを斬っていくことも忘れない。


 外にいるゴブリンの群れの一番後ろを通り過ぎて止まる。目的はゴブリンメイジを先に片付けること。こいつらの遠距離からの援護は本当に鬱陶しいから真っ先に片付けるのは冒険者の間では常識らしい。


「……いた」


 私が通ってきたゴブリンの道より100メートル程左右に別れた場所に3体ずつ。私にとっては目と鼻の先にゴブリンメイジは群れでいた。……中心にいるとばかり思ってたから真ん中通ってきたんだけど全然端っこにいるね。ゴブリンソルジャーの後ろにいるのは知ってたけどゴブリンソルジャーはちらほらいるから場所が把握しにくいんだよね。


 ゴブリンメイジはこの場には6体。巣から出てきたばかりで半分ずつまとまっているから分かりやすい。ゴブリンメイジは遠距離の援護をしてくるが、近距離を詰められるとどうしようもなく弱い。だから必ずゴブリンメイジはゴブリンソルジャーの後ろにいる。その突破法としてこうして群れの一番後ろに来れば簡単にゴブリンメイジをやれるのだ。問題はゴブリンメイジの位置を把握することだけどまあそれは慣れで判断するしかない。


 私はまず左のゴブリンメイジとの距離を走って詰めると3体のゴブリンメイジの首を斬り飛ばした。ゴブリンソルジャーに守られていないゴブリンメイジなど最早案山子と変わらない。背丈も私の首元までしかないゴブリンメイジだ。簡単に斬り飛ばすことができた。これで遠距離からの援護を半分断つことができた。


 ゴブリンメイジが斬られたことに気がついたゴブリンソルジャーが、怒りの表情のようなものを浮かべて私に錆びた剣を叩きつける。それを私は大きく後ろに下がることで避ける。


「グゥオオオオオオオ!!!」


 避けられたことに気づいたのか、あるいは避けられると思ってなかったのか、目の前にいたゴブリンソルジャーは大きな雄叫びを上げる。その雄叫びに合わせて周りのゴブリンソルジャーも私を殺そうと剣を振り上げながら距離を詰めてくる。


 でも私には響かない。私には届かない。ハイゴブリンは背丈で言えば真緒と同じくらいの高さしか無かった。ハイゴブリンでさえその程度しかないというのにゴブリンソルジャーにいたっては私と同程度なのだ。私と同じ高さ程度の魔物に一体何を恐れると言うのか。


 迫り来るゴブリンソルジャーを見て私は妙に懐かしい気持ちになる。何故かは分からない。でも多分あの日々が刺激的だったからだろう。何もなかった人生に色がついたように、たった一年だけしかこの世界で戦ってこなかったあの日々が、未だに鮮烈に私の記憶に残っているからだろう。


 ふふ。今まさに殺されかけているというのに随分と余裕をかましているよ。お陰で少し笑ってしまった。きっとそれが許せなかったのだろう。


「グゥウウオオオオオオオオオ!!!」


 他のゴブリンソルジャーに合わせて、最初に攻撃してきたゴブリンソルジャーも突撃してくる。最初と同じようにただ錆びた剣を大きく振り上げて下ろすだけの攻撃だ。



 それが通じないとなぜ分からないのか。



 少しだけ哀れに思いつつ、極めて冷静にゆっくりと構える。その構えはまるで刀をしまってるようにゴブリンソルジャーには見えたのだろう。ゴブリンソルジャーがニタリと嗤ったように私には見えた。


「すぅ……はぁ……」


 深呼吸を一つ挟んでから腰を落として大きく左に体を捻る。残念ながら鞘はないけど、まあ十分な威力にはなるでしょ。


 ――閃の型壱番。


「『飛閃(ひせん)』」


 ただ刀を振り抜く。それだけで目の前に蔓延っていたゴブリンソルジャーとハイゴブリンは半壊した。『飛閃』は魔力を斬撃に乗せて飛ばす技で、私が勇者時代に創ったオリジナルの技の一つ。久しぶりだから加減なんて勿論できやしない。そもそもする必要がない。斬撃は大きな三日月を形作って前に飛んでいく。ゴブリンソルジャーは何が起きたのか分からないような表情をしたまま斬られていく。


 30体はいたであろうハイゴブリンとゴブリンソルジャーの群れと一緒に周りの木も全て斬り裂いた『飛閃』は、ゴブリンの群れを通り過ぎた後もしばらく消えずに一直線上の木を斬り裂いていく。


 ……あ、やりすぎた。真緒にあれだけ言った癖に私が真緒より森を破壊してどうするんだか。でもまだ足りない。私がどれだけ戦えるかの検証はまだ全然終わっていない。普通なら不完全燃焼だけどここにはゴブリンがまだ沢山いる。


 でもこれ以上やると周りの木が一本残らず伐採される恐れがあるから困りものだ。さてどうしようと考えていたら突然周りの色が変わった。……どうやら真緒が気を利かせてくれたみたいだ。私と巣穴を含めて半径30メートルくらいの半球型の結界が張られている。これで少しは被害が抑えられるね。


「とりあえずこの場ではあと半分かな。けど……よっ、と」


 やっぱり魔術が飛んでくるよね。ゴブリンメイジの『火球(ファイアボール)』だ。めんどくさいから早く片付けないと。でも遠いんだよなあ。結界があるとはいえあまり過信はできないし、だからといって威力を抑えるとゴブリンソルジャーに防がれる可能性がある。


「詰めるしかないかな……」


 けど問題はさっきゴブリンメイジを斬ったときとは状況が違うということ。反対側にいる時点で距離が空いてるということ。それとゴブリンメイジとゴブリンソルジャーが完全に私を捉えていること。さっきの速度で詰めても距離が空いてたら反応が追いつくかもしれない。


「じゃあやっぱりここから斬るしかないか。結界の強度は真緒を信じてみよう。まあ結界が斬れた程度なら真緒も修復できるでしょ」


 そして私は構える。さっきと同じように腰を落として体を左に捻る。まあさっきのを見てたんだから当然ゴブリンメイジから『火球』が飛んでくる。ついでに残っていたハイゴブリンとゴブリンソルジャーがこっちに向かってくる。これは少し集中しなきゃいけないから邪魔が入るとできなくなる。


「うわめんど。『飛閃』」


 詰めてきていたハイゴブリンとゴブリンソルジャーを斬り裂き一番奥にいるゴブリンメイジと護衛のゴブリンソルジャーへ斬撃は飛んでいく。けどやっぱり距離がある分対応するための時間も増す。飛んでくる斬撃をゴブリンメイジとゴブリンソルジャーは伏せて躱す。そのまま斬撃は結界にぶつかって消える。


「早くしないと次の群れが出てきちゃうんだよね。しょうがないか」


 結界の強度も確認できたし、近づいてきてた群れを斬り飛ばしたことで前に大きく隙間もできた。数も減らせたしもういいや。目の前の群れを片付けるためにもう一度私は構える。


「ふぅ。まあこれなら防げないでしょ。一回じゃダメなら何回でも、ってね」


「グギャアアア!!」


 魔物らしい叫び声を上げて放つ『火球』。でももう私には届かない。


「閃の型弐番――『円閃(えんせん)』」


 振り抜く。三日月型の斬撃はまだ残っていたハイゴブリンを斬り裂きながらゴブリンメイジとゴブリンソルジャーへ向かう。ゴブリンメイジはまた伏せて避ける。


 通り過ぎて安心したかのように立ち上がった奴らの目に映るのはもう目の前まできている新しい斬撃。慌てて伏せるゴブリンメイジとゴブリンソルジャー。何故? どうして? どうやって? なんて考えているだろうか。ゴブリンに知性があるのかは知らないけど。


 答えは簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()。私は振った後に体を回転させてもう一度振っている。そして振り抜いた後にもう一度回転して振る。この繰り返し。


 段々と躱しきれなくなってきたゴブリンメイジとゴブリンソルジャー。私がやろうと思えばいつまでも放てる斬撃はついにゴブリンメイジとゴブリンソルジャーを斬り尽くした。これのメリットは躱した先に狙って斬撃を飛ばすことができるということ。まあデメリットもその分あるけど、っと。


「とりあえず終わったね……。ああ、目が回る。全くしんどいったらありゃしないね。でも魔術はまだ使わない。今は『閃』だけでなんとかしたい。……急いでよ真緒。さもないと私だけでゴブリンの変異種を相手にしなくちゃいけないでしょ」


 私は唯一後ろにあった生体反応が巣穴に入るのを確認しながら愚痴を零す。その瞳には新しく巣穴から出てくるゴブリンの群れが映っていた。



 ……いや敵倒してってよ!

遅くなりました。どうしてもしっくり来なくて何日もかけてしまいました。(他にゲームもしてたからとか言えな(ry)

次は真緒視点になる予定です。予定。


誤字脱字は気をつけているので少ないとは思いますが、もしあったら報告して頂けると助かります。


それでは次の話も読んでいただけたら嬉しいです。

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