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真緒の魔術

「まったく……わしにあれだけ破壊するなと言っておいて自分は好きに壊しまくってるではないか」


 桜においていかれたわしはしばらく桜の戦闘を眺めていた。もし大変そうなら手助けをしようと思ってのことじゃったが、その必要は一切なかった。ほとんど問題なくハイゴブリンの群れと渡り合うことができておるように見える。


「仕方あるまい。ほれ『結界(バリア)』じゃ」


 桜と巣穴の間を中心とした結界をとりあえず張っておくとして……ふむ。今のは『飛閃』か? 随分と衰(・)え(・)た(・)も(・)の(・)じ(・)ゃ(・)な(・)。全盛期のあやつの『飛閃』には到底届かないじゃろう。あの程度ならば結界に当たれば消えるじゃろ。しかしあそこまで動けるものなんじゃな。やはり勇者時代の鍛錬した肉体とは違くともその経験は生きているということかの。


 それにしてもまさか『飛閃』を出すとはの。体力の温存か力試しか、あるいはその両方か。ということは他の『閃』も出すのかのぉ? それとも『桜』を出すか……。最後まで見たいものじゃがそういう訳にもいくまい。


「はぁ」


 思わずため息が零れる。まあよい。わしもそろそろ動かねばな。恐らく巣穴の中にいるであろう人間の救出をわしにさせようとしておるのじゃろう。確かに魔術の相性的にわしが救出した方がいいが……あやつまさか自分が戦いたいからわしに押し付けた訳じゃなかろうな?


 ……まあよい。今は邪魔をせんでおこう。決して悪鬼のような顔で戦ってる桜が怖いという訳ではない。……決して。


「しかし……桜の持っとる武器……まさか『夜桜』か? ……いや、あれは偽物……模造品か。 だとしたらなぜ本物を出さぬ?」


 ……分からんな。頭のよい輩は何を考えておるのやら、わしには一切分からん。わしが考えつくのはせいぜい変異種のゴブリンの王との戦いにとっておいてるくらいのものじゃ。


「やれやれじゃ。『隠蔽(ハイド)』」


 姿だけ隠して結界ギリギリのところを回って横から巣穴へと向かう。今はまだゴブリンどもは出てくる気配がないからチャンスじゃな。それにしても地面に空いている巣穴は大型のゴブリンどもが出入りするためか、割と大きめに作ってあるため入るのは容易じゃな。……む?


「今のは『飛閃』か。にしてはまだ残っておるが……避けられたか」


 一瞬前に『飛閃』で半分を斬り裂いたのは見えたが流石に一度見せれば避けるのは訳ないじゃろう。ハイゴブリンはともかくゴブリンソルジャーは運動能力が高く出来ておるからのぉ。しかもあの距離じゃからな。流石に避けられるじゃろ。


「それで勝ったと判断するのはちと甘すぎるがの」


 桜はもう一度『飛閃』を放つ。余裕を持って迫っていたハイゴブリンは紙のように斬り裂かれていくが一番奥で待機していたゴブリンソルジャーとゴブリンメイジは軽々と避ける。余裕で避けたからか桜のことなど見ていない。それが敗因じゃ。奴らが気づいたころにはもう目の前に斬撃が迫っている。慌てて躱すがもう遅い。一度捕まれば終わりじゃ。


「なるほどのぉ。一回ではだめなら何回も斬ればいいとかあやつ実はバーサーカーではないか?」


 おっと、こんなとこで見物してる場合ではない。桜の『閃』も久しぶりに見れたことじゃし、早く救助に行かねばの。しかし桜のやつはあんなに魔力を使って最後まで持つのかのぉ。まあちまちま一体ずつ斬っていくよりかは効率が良いのじゃろうが、あれは魔力を飛ばしてるからのぉ。魔術より消費魔力は少ないと聞いたが……まあ時間稼ぎは変異種が出てくるまでにわしが中の人間を助ければ十分じゃろう。


 よし。巣穴からゴブリンが出てきたが気づかれずに入れたぞ。それにしてもほんの少し寒気がするんじゃが……しかも後ろから……。い、いや、気のせいじゃろう。


「しかしどうやって探そうかのぉ。地道に探すか魔術で探すか……。魔術で探すかの。早くせんと、桜の魔力よりも先に体力が持たぬからの」


 こうしてる間にもわしの横をゴブリンの群れが通り過ぎて巣穴の入口へと殺到していく。ええい! 悩んどる時間がもったいないわ!


「むぅ……しかしこれはかなり疲れるんじゃが……やむを得んな。ここから全体を探そうではないか。『影接続(シャドウリンク)』」


 魔術を発動した途端に体中から大量の魔力が噴き出す。噴き出した魔力は洞窟中に広がりやがて全ての部屋を魔力で満たす。


「接続完了。そして『接続共有(リンクシェア)』じゃ」


 全ての部屋を魔力で満たしたと同時に視界が大きく広がり、周りの景色を影から見ることが可能になった。これが闇属性魔術の使い勝手がいい所じゃな。悪い所でもあるが。さて、これで洞窟全体の影から全てを見ることができる。


 ……どこじゃ? これは魔力を全方位に薄く敵にバレないように放出しておるから、それなりにきついんじゃが……。違う。ここではない。ここも違う。……ここもか。一体どこにおる?


 流石に広いのぉ。これは時間がかかるやつじゃな。間に合うか? 今でもわしの横を通り抜けてゴブリンどもが地上に出ていっておるというのに。まずいのぉ。時間がかかればかかるほどわしにも負担がかかるんじゃがなぜ見つからん。




 違う。




 ここも違う。




 ここもおらぬ。




 ……ここもか!






 ……つっ、ぐう! 時間をかけすぎたからかきっついのぉ。20分というところか。じゃが、見つけたぞ。数は三人。当然じゃが全員が女。気を失ってるのかぐったりしておるな……。


 しかし……意外に近いではないか。まったく、厄介なことになったのぉ。……まさか変異種の隣にいるとはの。しかも場所は最下層、玉座のようなものに座っておるな。


「ちっ! なんちゅうサイズじゃ。変異種の中でもかなりの上位じゃろう。5メートルは余裕であるかの?」


 体はゴブリンと思えない程に隆々。一撃で悉くを潰せるような無骨な剣のようなものを脇に置き俯いている。そして取り巻きがおらぬ点から見ても、やはり変異種じゃろうな。


 影から変異種の観察をしておると、唐突にそいつはこちらを向いた。今までずっと下を向いておった癖に急に見上げたということは……


「グウゥオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


「っ! 『影縛り(シャドウバインド)』!」


「!? グオオオオォォォォォ!!!!!」


「しばらくそこで止まっておるがよい。しかしなんちゅう声を出すんじゃ。お陰で貴様の隣の娘どもが起きてしまったではないか」


 怒声というか叫び声が響いたせいで意識が戻ってしまった女達は悲鳴をあげようとする。今はまずいからそれは止めさせてもらおう。


「き、むぐぅ!?」


 影から手を伸ばし娘の口を抑える。この手も影じゃが、本当に闇属性は使いやすいのぉ。っと、そんなことを思っとる場合ではなかった。場所は分かったから魔力をそこに向かわせる。……よし。


「聞こえるか?」


「!? むぐっ! むぐぐっむぐぅ!?」


「騒ぐでない! よいか? お主達は今声を出すと目の前の奴に殺される。今はわしが抑えておるが直にそれも外れるじゃろう。その前にお主達を回収する。分かったら頷け。声はいらん」


「「「……(コクコク)」」」


「よし。ならば目をつぶれ。少々目に毒なんでな。ではいくぞ。『影穴(シャドウホール)』」


 女達の真下に影で穴を作りそこに娘達を落とす。そしてこっちで回収すれば完了じゃ。


「『影穴』」


「きゃあ!」


「いたっ!」


「うっ!」


「ほれ『隠蔽』じゃ。……よし。無事じゃな。怪我はない……訳ないじゃろうな。じゃが今は時間がない。早く外に出るぞ!」


「「「は、はい!」」」


 ふむ。今初めてしっかりと見たが、こやつら冒険者か? それにしては装備が新しいが……新米か。わしと同じくらいの少女が二人。大人ではないじゃろうが背が高い者が一人。どういう関係じゃろうか。少女の方は容姿がそっくりじゃし双子かの。背が高いのは保護者みたいなもんじゃろう。そう思っておこう。


「行こうかの……あ」


 入口を振り向いてわしはつい声をあげる。入口はわしの後ろ数メートルにある。忘れておったが、そこには大量のハイゴブリンとゴブリンソルジャー、ゴブリンメイジが殺到しておった。そんなものを見れば当然驚く。


「「「!!!!!!!」」」


「落ち着け。忘れておったが別に問題はない。救助は終わったしのぉ。おおそういえば、お前達の他に捕らわれてる人間はおるかの?」


「い、いえ。いないと、思います……」


「よし! ならば問題ない! ここは崩してしまおう!」


「で、できるのですか……?」


「できる。ひとつだけ問題があるがの」


「え?」


「気にするでない。では前の奴らを片付けるから待っとれ。直ぐに終わるでな。気づかれると面倒じゃからお主らは声を出さぬように口でも抑えておくがよい。分かったか?」


「「「……(コクコク)」」」


「それでよい」


 ほんの少しだけ笑い一番近くにいた少女の頭を撫でる。ふむ。さらさらした髪質じゃな。いつまでも触っていたいがそうはいかん。


「あっ……」


 そんな声をあげるでない。後で存分に撫でてやろう。そしてわしは『隠蔽』を解除してわざと音を立てる。ほんの小さな石を蹴るような音。じゃがそれに気づいてくれたようで大量のゴブリンどもが止まりこちらを見る。


「「「……!!!」」」


 後ろで三人が必死に声を抑えようとしておるのが聞こえる。大量のゴブリンに睨まれたことがないのじゃろう。それもそうであろうな。普通ゴブリンと戦うといえば5〜6体くらいのものらしい。しかも普通のゴブリンならいざ知らず、相手はゴブリン以上の進化を経験した個体しかおらぬ。ゴブリンとは格が違う。


 そんな奴らに向かうわしがまるで自分達を守るために死ぬように見えておるのじゃろうか。安心せい。わしはこの程度では死なん。


「ここからは目と、できれば耳も塞いでおれ。あまり気持ちのよいものではないからのぉ」


 後ろから急いで手を動かす音が聞こえてきた。ふぅむ。健気なものじゃな。しかし……なるほど。これがそうか。これが桜が感じていたものか。これがわしが今まで壊してきたものか。


「まったく……もう終わったというのに……やり直してから気づくとは、やはり人生とは何が起こるか分からぬから面白い」


「グギャアアアアアア!!!!」


「うるさいぞ。たかがゴブリンがあまり調子に乗るでない。残念じゃがお主ら程度ではわしに届かん。それにわしは優しくないんでな。動く猶予というものを与えることはせん」


 静かに魔力を練り上げながら、言葉など通じていないであろう相手にわしは告げる。繰り出すは汎用性の低い闇属性中級魔術――


「ではさらばじゃ。『影槍(シャドウランス)』」


「グギャアアアアアア!!!!!!!」


 洞窟のあちこちから影でできた槍がゴブリンどもに突き刺さる。何かが潰れるような音と奴らの悲鳴だけが洞窟内にこだまする。その叫び声は先程とは全く変わり、まるで断末魔のようじゃった。


「ふぅ。『影穴』で回収じゃ。さて、終わったからにはここから出ねばな。早くせんと奴が来てしまうからの」


 そして振り返ると三人のうちの一人と目が合った。


「………………」


「…………………………あ」


「待たぬか! あ、じゃないわ! あ、じゃ!」


「な、何も見てません!」


「しかも聞こえておるではないか!」


「こ、これは違います! その……勝手に口が反応してるだけです!」


「なんじゃその言い訳は……まあよい。早く隣にいる二人の手を耳から離すように……お主らも見てるではないか!」


「「(ギクッ!)」」


 目をつぶれと言ったはずなんじゃがなあ。


「はぁ。まあよい。さっさと出るぞ。こっちに来い」


「「「は、はい!」」」






 パキン!






 ここで気づけたのは僥倖というべきじゃろう。今ここで奴(・)にかけた魔術が解かれる音がわしには確かに聞こえた。


「……ォォォォォ」


「! 走れ!!」


「「「え?」」」


「来るぞ! 奴が!」


「…………ォォォオオオオオオオ!!!!!!!!」


「「「!!!」」」


「早よう走れ!」


「「「はい!」」」


 三人の娘と合流し入口へと走る。入ってすぐの場所で探して良かったと今更ながら思いつつ外へ出る。その際にわしだけ『隠蔽』を解除することも忘れない。


「よし! 出たぞ! 桜!」


「……ハァ……ハァ……? 真緒?」


「なんじゃこれは……」


 そこにあったのは大量の斬撃の跡と肉塊のように転がる大量のゴブリンの死骸。そして遠くには夜桜を地面に突き刺し寄りかかる桜の姿だった。色々気になるが、今はそれどころではない。


「いや、今はいい! 聞こえたな!? 奴が来るぞ!」


「……ハァ……よし! 真緒! 今すぐここを潰して!」


「心得ておる! お主らも離れておれ!」


「「「は、はい!」」」


 目の前に広がる惨状とも呼べるような光景から目を逸らす。今はそんなことを気にしている場合ではない。洞窟へと振り返り、遠くから僅かに届く地響きを無視して魔術を発動する。


「今日だけで魔力を使いすぎたが……果たして効いてくれるかのぉ。『重力(グラビティ)・超(オーバー)』!」


 範囲指定した場所だけに重力がかかる超(・)級(・)魔(・)術(・)。持っていかれる魔力も半端ないが、少しは効果があるじゃろう。


 発動した魔術によりゴブリンの巣穴は周りの地面ごと陥没していく。元々地面が穴だらけなのじゃ。崩壊など秒で起こる。


「グオオオオオオオオ!?」


 穴の中から奴の叫び声が外まで響く。僅かに驚きが含まれていたように聞こえた。やがて巣穴は崩落していきその場には大きな穴だけが残った。


「これで終わり……という訳にはいかんじゃろうな」


 遠くから聞こえてくる叫び声と僅かな振動が足元を揺らす。急いで桜の元まで下がり、そして――



「グゥゥオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」



 ――絶望と呼ばれるに相応しいであろう巨体が、怒りを剥き出しにして現れた。

お久しぶりです。高澤です。

前回からかなり開きましたが、なんとか更新しました。

ここ最近どうしても書ける状況ではなくて、全く投稿出来ませんでした。ごめんなさい。


さて、今回の話は真緒視点となっております。上手く伝わってくれるといいのですが……。

技名とか、効果がどのように起きたかの描写ってめちゃくちゃ書きづらいですね。自分だけですかね。どうしても簡略化してしまうので自分以外に伝わらない気がしてならないんですよね。


一応誤字や脱字に一番気をつけているのですが、もしミスがあったら教えていただけるとありがたいです。


それではまた次の話で。

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