第八十三話
続きです
あまり話は進みません
第三部を書き終えたら、投稿間隔狭めて投稿を早める予定
「ああ、少し確かめたい事があってな。アイツは何のかんのと忙しい奴だから、確実に時間を取ってもらうには、直接訪ねるのが一番なんだよ」
米原との付き合いは決して長くない
高校に入ってすぐ、席順が五十音順であった事で、舞島と米原が前後で隣り合った
その時、米原の名前を百合が気に入って、話を始めた流れで俺も巻き込まれ、そして仲良くなった
因みに、その時の席順は、前から俺、百合、米原だった
どうやら、俺と百合は名前までソートの対象になって決定されたらしい
「さとる」と「ゆり」
五十音順なら、俺の方が前という訳だ
もし、百合が前で俺が後ろだったとしたら、俺は米原とは親しくなっていなかったかもしれない
そう考えると、偶然というものはなかなか粋な事をすると思える
尤も、逆もまた真なり、なのだが
そんな偶然得た新しき友人だが、こいつがまた付き合いの悪い奴なのだ
友人と言うが、俺は米原と一緒に遊びに出かけた事が無い
授業が終われば、誘われている料理部の活動か、即帰宅するのが常の米原
外を一緒に練り歩いたのは、食材の買い出しを手伝った時くらいだ
尤も、俺も人の事をとやかく言える身では無い
人付き合いの悪さなら、俺は米原以上と言ってもいいだろう
そんな俺とアイツだから、友人関係を続けていられるのだと思う
どちらも、互いを友人と目しながら、決して自分の都合を譲らない
せいぜいが、暇な時に相手の都合に付き合うくらいだろう
それでいいと、俺は思っている
さておき、そんなアイツに都合をつけるには、こちらから出向いてその予定を尋ねる必要がある
いつでもどこでも、アポイントメント無しで都合を付けられる様な相手では無いのだ
「ああ、確かに。食堂長からの報告じゃあ、一番早く来て準備をして、一番遅くまで残って準備をしているって話だったな」
それを聴いて、さにあらんと納得する
そのふくよかな体形と穏やかな人当たりからは想像出来ないほど、アイツは行動的で情熱的だ
そのうち睡眠不足で倒れるんじゃないかと心配している
とはいえ、その辺りは気を付けているらしいので、信用しておく
「そういう奴だからな。何か用向きが有るなら、こっちから直接出向く必要があるのさ」
自分で言ってて、それって当たり前のことだと思う
だが、現代社会の於いては、どちらかと言えば、アポイントメントのお願いには間接的連絡方法が用いられるのが主流だ
特に、極めて個人的な連絡手段が普及してからは、直接願い出る方が珍しいと言える
用事があるから、どこそこに待ち合わせ、何時に来れるか?
こんなのが主流だが、米原はそもそも携帯電話の類を使わない
殆どが家族経営の定食屋を手伝っている身で、そんな物が必要にならないというのがその理由だ
そんな生活をしている米原との連絡手段は、学校で直接顔を合わせて約束を取り付けるか、実家の定食屋を訪ねて約束を取り付けるか、この二つに限られる訳だ
尤も、これもまた人の事をとやかく揶揄できる身では無いのが、この俺なのだが
「そうか……じゃあ、俺も一緒に行くわ」
「予想はしていたが、そんなホイホイ予定を変えて良いのか?」
仮にも、ではなく、正真正銘この国の王様だ
本来なら、その予定は全て管理の元に在るべきものだ
「ああ?いいよ別に。飯くらい好きに食わせろって」
だが、当のおっさん本人がこの調子だ
昨晩襲撃事件があったばかりだというのに、些か危機感が足りないと思えてならない
「……そうだな。付いてくるのは構わんが、それはどうするんだ?」
何かあったら俺が対処すればいい
本調子とはいかないが、昨日の件から十分対応可能だと判断し、それ以上突っ込むのを止める
それより、俺と一緒に食うために、似合いもしないのに押してきたカートとそれに載せられた二人分の朝食の処分が気に掛かる
このまま廃棄と言うなら、そのふざけた事をぬかす口に、二人分の朝食を押し詰める
食べ物は大事に、お残しは許しまへんで
それが母さんの教えだ
そして、俺の友人の矜持でもある
「ああ……おい、これを片付けておけ……ああ、俺の朝飯だが、気が変わって食堂に行く事にした。代わりに食べといてくれ」
「おい」
近くを通った人を捕まえて、そのカートごと押し付けるその様に、少し理不尽さを感じる
ここを通る流れに乗っているという事は、その人は食堂を目指す空腹者なのだろう
時間が時間だ、それはしようが無い
だが、だからと言って、食事を押し付けるのはどうかと思う
食事というのは自由なものだ
周囲を不快にさせないなら、何を食べたっていい
職業選択の自由は現代社会の骨子の一つだが、食事内容選択の自由は生物の大原則の一つであるべきだ
その人にだって、今から何を食べようかと考える自由があって然るべきで在り、またその喜びを享受する権利がある筈だ
自分で選んだ食べ物を、実際に口にする喜びを味わう
その幸福を邪魔する権利は誰にもない
「本当によろしいのですか?」
……その人が何だか喜んでいる点を除いて、俺の抱いた義憤は間違いでは無い筈だ
お前に自らの意思を貫く気概は無いのか
「ああ、せっかくの一等肉だ。このまま廃棄するのは良くないからな。誰か同僚を誘って食べると良い。食べた後は、その辺の使用人に引き渡せ」
「了解しました!」
そういうやり取りの後、差し出されたカートの持ち手を握って、去っていく背中を見る
心なしか、肩が弾んでいる様に思えた
「……いいのか?」
去って行った人が、なぜ嬉しそうにしていたのか
それは、会話の中でそうと推測出来る事が示された為、もう気にしていない
だが、それならば、逆におっさんに悪い事をしてしまったのではないか
そういう意図で尋ねる
「ん?いいよ別に。俺、高級品嗜好とか無いしな」
毎度思うが、このおっさんは権力者としては大層変わり者だと思う
潤沢な資産を保有する者は、大抵が高級品を嗜好する
高ければ高いほど良い
実際にそんな事を考えている輩に、何度もお目にかかった事がある
値段設定には理由がある
安かろう悪かろうという言葉には、それに相当する理屈があるものだ
ならば、逆もまた然り
金銭の詐取目的でもない限り、高い物は相応に良い物なのだ
それを嗜好する事は、ある意味合理的と言えるだろう
尤も、俺にそんな嗜好は無い
良い物は確かに良いが、それが好ましいかはまた別の話
俺がそんな人間なら、特売で一缶100円のサバ味噌缶を買い溜めたりしない
縦に積んだ缶詰が崩れて、部屋のフローリングに盛大に傷を付けて母さんに怒られても、こればかりは止められない
こんな俺には、おっさんを変わり者呼ばわりする資格は無い
「あ、サトル。お前、もしかして食べたかったか?」
サプライズイベントに失敗した様な顔をしたおっさん
だが、それは大いなる勘違いだ
「いや?俺も似た様なもんだ。高い物を有難がる気は無いな」
「そうか……」
俺の言葉に、一転安堵した表情に変わるおっさん
或いは、同じ趣味嗜好に共感を覚えたのかもしれない
その後、適当に話しながら、食堂への道を共に歩いた
内容は、仕事の愚痴や家族の話、そして
「それでサトル。マイバラ少年に用というのは、昨晩の件と関係しているのか?」
他でもない、俺が何かしらの考えに至った件だ
あの場にはおっさん達が勢揃いしていた
こう言っては何だが、強かで聡い、老獪な連中だ
確実に、俺が考え付いた事がどういう方向性のものかを勘付いている筈
エドガーさんはそれを訊ねなかった
俺から明かすのを待つ気なのかもしれない
他の二人、ヘクターとリチャードも同様なのだろう
だが、このおっさんだけはそうはいかない理由がある
「やっぱり気になるか?」
気になっているのは全員だろう
しかし、その中でも格別に気掛かりであろうおっさんに、敢えて気になるかと訊ねる
嫌味や揶揄の類では無い
言うなれば、俺が安心したいから、だろう
「……正直言えば、今でも半信半疑といった感じだがな。お前で無ければ、馬鹿げた話だと流していたかもしれん」
かもしれん、か
俺としては、俺が考え付いた事は常識の範疇でしかないのだが、この世界では非常識を超える人跡未踏の域らしい
だからこそ、その「かもしれん」に込められた意味に、娘への深い愛情を感じて、とても喜ばしい気持ちになる
信じられない事でも、それが娘を救う可能性なら縋り付きたい
ならば、俺もその深い親の愛情に、真摯に答えよう
「可能性はある。実際、俺には変化があった」
その返答に、おっさんが僅かに身動ぎしたのが判った
明らかに動揺しているおっさんを、しかし俺は敢えて気にせず話を続ける
「俺の身体能力値が何故か変化していた。この世界で、レベルを上げずに身体能力値を変化させる方法は在るか?」
「在る。だが、それは石板では表示出来ないものだ」
俺の知る限り、その方法は一つだけの筈
「装備か?」
装備品には身体能力値の補正効果がある、とは最初にヘクターが説明した時に言っていた事だ
装備品の効果は、それ以外に現実的な物理効果
盾鎧兜が剣戟を防ぎ、手に持った剣が敵の肉と骨を裂き断つ
どちらも普通の生身ではあり得ない事だ
「そうだ。だが、そんな事じゃないんだろう?」
「当然だ」
「ならば、無いと答えよう。少なくとも、お前の身に起こった事は、俺には皆目見当が付かんよ」
真剣な眼差しで、しかしおどけた様に振る舞う
その姿は、とても強い動揺を感じさせた
誤って洗面台の排水口に流してしまった結婚指輪の行方を知った時、こんな振る舞いをするのかもしれない
それは、あまりにも哀れを誘う姿だった
「具体的にはまだ明かせない」
俺の言葉で一喜一憂するおっさん
今は、目の前の探し物を取り上げられた様な、失望と怒りが眼差しから感じられた
俺は、それでも誠心を以て理由を説明する
「そんな顔をするな。別に意地悪をしている訳じゃない」
俺の言葉で、やはりその表情を変えるおっさん
最早為政者のそれでは無く、完全に娘を思う父に、その心を征服されていた
故に、俺はそれらを揶揄しない
今この時だけは、俺も自らの父を思い浮かべる
似ても似つかないその暴虐で我が儘で幼稚な姿に、今隣を歩く理想的な父親の姿を投影し、少し己を慰めた
「……すまん、話を続けてくれないか?」
その姿も言動も、やはり王たらんとするものではない
アイギナに、羨望と少しの妬心を感じる
「続けよう。理由は簡単だ。俺はこの世界の人間ではないから」
それ以上を仔細に説明しないのは、俺の中の妬みが故
だが、同時に確信してもいる
おっさんは、これで理解する筈だ、と
「……サトルだけに起こった、特異的な現象かもしれない、という事か?……そうか、だからなんだな?」
……やはり、素晴らしい
子を想う父の姿に
そして、その為に知性を働かせるその姿勢に
心からの賛辞を、心の中だけで送る
「そうだ。今この城には、俺以外にも同郷の人間が居るだろう?」
「マイバラ少年……」
正確にはそれが理由では無い
そもそも、おっさん達の直接の監督下から離れたとはいえ、俺が依頼すれば、いやそうでなくとも
同様の現象が他のクラスメイト連中に起きていないかを調査させる事なんて、このおっさんには赤子の手をひねるよりも容易い事だろう
勿論、彼らの身体能力値、正確には現レベルやレベルアップの動向は具に確認、把握しているだろう
ならば、彼らの身体能力値に異変が無い事は知っている筈だ
つまり、俺の理屈は本来ならおっさんには通じない
或いは、通じないままで、敢えて見過ごしてくれているのかもしれない
だが、事がアイギナにも波及する可能性を思えば、敢えてそうするだろうか?という疑念も残る
しかし、その事には言及しない
おっさんも、言わない以上はこちらを追及する気は無いのだろう
結果が付いてくるならそれでいい
そういう考えなのかもしれないし、全く未知の事態に対して自らが嘴を挟んでご破算になる事を躊躇しているのかもしれない
別に、そのどちらでも、或いはどちらでなくとも構いはしない
おっさんにおっさんの思惑がある様に、俺にも俺の思惑がある
アイギナを救う
結果として、そこへ辿り着ければそれでいい
いや、その選択へとアイギナを連れていければ、かな
(内容的に特筆すべき点が)ないです
次回投稿は5月22日です
いや、本当に今回は後書きで述べる事が思いつかない
困ったね




