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第七十六話

続きです

今回からアイギナ視点が始まります


「「「かんぱ~い!」」」


私の私室に女三人の音頭が心地良く響き渡る

今日はユリとミキが新天地へ出立する前の日

明日には、二人は更なる強さを得る為にこの王都を離れて遠くへ旅立つ


「……ふぅ」


一日酷使し続けた喉を、爽やかな茶の香りが通り抜け、その渇きを潤していくのが実感出来る


「お疲れ、アイギナ」


ミキが労いの言葉を掛けてくれる

その雑な気安さが、とても新鮮でとても喜ばしい


「ありがとう、ミキ」


私も雑に返礼する

常なら、馬鹿みたいに修飾させて着脹れした美辞麗句か、隙を晒さない様に努めて冷徹な厳しい言葉ばかりだ

だが、彼女達にその様な形式ばった応酬は必要ない


「ここ数日掛けて、クラスメイト全員と面談したんでしょ?ホント、そりゃあ疲れるよね~」


こちらは実にあっけらかんとしたものだ

ユリはグラスを一気に傾けると、中のお茶を一息に飲み干した

実にはしたない有り様だが、思えば彼女と仲良くなった経緯からして、お淑やかさとは無縁であったので、それもまたそういうものとして受け入れていた


「ユリ。お茶の味はどう?美味しい?」


まるで子供に訊ねる様だが、どうしてもユリを年相応に見るのは難しい

行動や発言の一つ一つが無邪気で稚気に溢れているのが、その原因だろう


(そういえば、カリドとアミリアも昔はこんな感じだったかしらね)


二人の弟妹の小さい頃を思い出し、とても優しい気持ちになる

今は二人とも、相応に成長して頼りがいも出て来たのだが、やはり姉としては少し寂しさも感じていただけに、ユリの無邪気さがとても愛らしく思えた


「うん、美味しいよ。でも、やっぱり晩餐の後じゃあ、あまり入りそうにないね~」


表情でその感想に嘘は無いと判るが、同時にお腹を擦る手が、その腹具合を如実に物語っていた

かく言う私も、流石にお腹の上限が近い


「その為に、軽いお茶だけにしたのだけど……やっぱり、少し苦しいわね。ごめんなさい、気が付かなくて」


自らの至らなさに、自己嫌悪を覚える

気兼ねなく付き合えると言っておきながら、こうして形式ばった謝罪をしてしまう辺り、自身の個人的な対人関係技量の低さに、更に自己嫌悪を募らせてしまう


「あら?私は有り難かったのだけど……流石にああいう場は経験が無くて、大分緊張してしまって……気疲れしてしまったから、落ち着いて一服出来るのは助かるわ」


「そうそう、思ってたより王国の人は少なかったけど、やっぱり知らない人いっぱいの場所って疲れるよね。私もさ~」


「はいはい。アンタの愚痴はまた今度にしなさい。今日は皆疲れてるんだから」


「ちぇ~」


……これは気遣ってくれたと受け取って良いのかしら

それとも、本心から疲れたと?


「……出来るだけ関係者だけの出席に留めたのだけど……やはりああいう社交の場は良くなかったかしら?」


これは、先程の様な自虐的な言葉ではない

思わず口を突いたのは同じだが、どちらかと言えば事務的な、反省点を洗い出す為の言葉だ


「え?そうなの。私、そんなの全然気づかなかったよ……美樹は気づいた?」


「いいえ……正直、そんな余裕は無かったわ。出席者の服装は普通だったけど、やっぱりこの国の偉い人たちが居るんだと思ったら、緊張してしまって……本音を言うと、あまり食事の味も覚えていないの」


その返答に、自身の考えの至らなさを思い知らされる


「そうね……二人とも、いいえ、異世界人の皆様は、元の世界ではごく普通のご家庭で過ごされていたのでしたね……盲点だったわ……」


私達は私達の常識で以て、彼らの労苦に報いる方法を考えた

だが、それが必ずしも相手に通じるのかというと、それは違うのだ

それを失念していた


「い、いやいや……そんな難しく考えなくてもいいのよ?これはあくまで私たちの感想であって、他のクラスメイト達がどう感じたかは分からないのだから」


「そうだよね。実際、結構皆楽しんでた様に見えたけど」


「ですが」


それは、確かにその通りではある

主催者側の者として、賓客が楽しめているかを理解出来ない様では失格だ

そして、見た感じでは全体的に明るい雰囲気であったと思う

個々で見ても、嫌厭としている様子は見受けられなかった

それは、目の前の二人に関しても同様だった


「というかね、アイギナ。百合があまり乗り気になれなかったのは、単に舞島君が出席してなかったからよ」


急に冗談めかした、呆れた様な口調で話し出す美樹


「ああ、そうなんだよね。ねぇ、アイギナ。理は今何してるの?病院……あ、治療院か。お見舞いに行ってから、ずっと様子も見れてないんだよね」


それに同調する百合が、意外な事を口にした


「え?マイシマさん、ユリ達に会ってないの?」


それは、実に意外な事だった

マイシマさんは、ユリの事を殊更大事に思っている

言葉にも態度にも示す事は無いが、ただ一つの事実がそれを如実に物語っていた

つまり、強くなる……いえ、ユリ達の言を踏まえるなら、強さを取り戻す事に固執していたという事実


私がそうだから、とても共感できるのだ

力を強く求めるというのは、何の理由も無しに出来る事では無い

そこには確かな動機が存在する

私の場合は、お父さんとお母さんを手助けする事

では、マイシマさんは?

私は、ここに来てからのマイシマさんしか知らないけれど、一つだけ断言出来る事がある

それは、彼は己の為に生きられる人ではないという事

彼は、己に価値を見出せていない

それが、彼の一挙手一投足から、とても強く伝わってくる


(何故なのか……それは判らないけれど)


彼と初めて話した時

とても強く感じたのは、焦燥感だった

最初は、唐突に放り込まれた異境に戸惑い、それでも何とかしようと頑張っているのだと好感を抱いた

だが、直ぐにその評価は、驚きとともに訂正する事になる


「アイギナ?」


唐突に呼ばれた名に、意識が現実に戻って来る

声のした方を見遣れば、怪訝な表情をしたユリとミキがこちらを窺っていた


「どうしたの?何だが呆けていたみたいだけど……やっぱり疲れてる?もうお開きにしようか?」


「何か考え事をしていたみたいね。貴女って、そういうところ舞島君にそっくりね」


心配している百合と、揶揄う美樹

対照的な両者だが、その共通するところは、私の様子の変化を気遣ってくれたという点だ


「……ああ、いえ。そうね、ちょっと考え事に耽っていたみたい……疲れてるのかもしれないわ」


だからこそ、私も真摯に答えを返す

下手に誤魔化して、その気遣いを無にすることこそ、彼女達への失礼に値するだろう


「ふふ……頑張るのもいいけれど、無理をしてまで私達との時間を作らなくてもいいのよ?」


「そうそう。別にこれっきりって訳でもないんだから」


以前の私なら、その言葉を邪推していただろう

そう言って気遣う振りをして、実は体良く距離を取ろうとしているのではないか


だが、今私はそれを実に素直に受け入れている

……それは何故なのか


「………どうやら本当に疲れているみたいね」


「……え?」


「そうね。早いけど、今日はこの辺りにしておこうか」


(あ……また考え込んでしまった……)


気を遣われる事自体は、とても有り難い事だけれど、気を遣わせてしまっている事は申し訳ない

それが自身の失態からなら、尚更に恥じ入るべきだろう


「あ……あの」


こういう時にどう言えばいいのか解らない

早々に身支度を済ませて席を立つ二人に、掛ける言葉が見つからない

結果として、戸惑いながら二人の動向を見ているだけしか出来ないでいる


「じゃあアイギナ」


「またね。今日はゆっくり休むのよ」


(………)


そうして、二人は私の返答を待たずに、部屋を出て行ってしまった


不思議と不快も不安も感じなかった





「ふぅ~……」


二人が帰ってから、少しだけ呆けた様に固まっていたが、何とか気を取り直して、人を呼んで食器を下げさせる


「二人には悪い事をしてしまったわね……」


別に疲れてはいない

この程度で疲れる様では、この仕事はやっていられない

つまり、二人の前で呆けてしまったのは、完全に私の失態だった


「まあ、過ぎてしまった事を悔やんでも仕方ないわ。少し早いけど、今日の出来事を纏めて、休む事にしようか」


日課で付けている日記を取り出し、今日の出来事を思い返しながら綴る


朝ご飯を終えた後には書類仕事

今日はマイシマさんが既に持って来てくれていた

内容は政務への意見書の返答、財務への予算申請書の内容確認と必要と判断した箇所の修正要請、陛下への仲介等々

不思議と軍関係はあまり回って来ない

これらはすぐに終わった

何故なら、今日は異世界人の皆様の壮行の晩餐会を予定していたから

これら書類仕事を早々に終えた後は、ここ何日かに分けて行っている異世界人の皆様への面談

これは、可能な限り丁寧に

しかし、時間は限られているので無駄なく滞りなく

幸いにして、皆さま非常に協力的で、概ね恙なく終えられました

ユリとミキに関しては、普段から相応に会話している事から、この機会でわざわざ話を訊く必要は無いと判断した


「って、そういえば碌に話してない……」


自らの失態を記す

とはいえ、変わった様子も無かった

全体的に大きな問題は無く

具体的な報告書を、明日纏めて陛下と三大臣で共有する予定


「……いえ、彼らの話があったわね」


問題ではない

だが、どうにも不思議な関係の三人組

彼らが元々そうなのか、それともこちらに来てからの変化なのか

それは不明だが、感じた事をここに纏める


異世界人達の中でも特筆して優れた成長率を持つ存在

ナミハラ ジュン

伝説に語られる三人の探検王

今の世の基盤を作ったとされる彼らだけが、この世界で最高の成長率を持っていたとされる

成長率1.1倍

それのみを有難がるのは間違いではあるが、実際、高成長率である場合身体能力値も十分優れているという前例から、この世界では大変に重視される要素である

……私も身体能力値のみなら、ごくごく平凡だったが

話を戻す

ナミハラ様のみでは無いが、異世界人達は全員がレベル上限100という凄まじさを持ち、間違いなくこの世界の窮状を救ってくれると確信を以て迎えられている

私も同様の考えだ……マイシマさんが居なければ

女神さまは、一体どうした意図で彼をこの世界に呼び寄せたのか

彼の存在だけが、明らかに異質だった

皆さまは……ユリやミキ、ナミハラ様ですらも、自らが強くなった事を喜び、強くなれる事を喜び、強くなっていく事を楽しんでいる

全て、マイシマさんだけが真逆だった

弱くなったと嘆き、強くなれない事に苦しみ、強くなる為に足掻いている

迷宮で次々と魔物を屠る皆さまと、一転最初で敗れたマイシマさん

あまりにも状況が違い過ぎる


「いけない。今日の出来事を纏めるのに……」


横道に逸れ過ぎた、修正しないと


ナミハラ様は、喜び勇む彼らの代表の様な状態だった

とにかく、暇さえあれば迷宮へ向かう

担当する特務の者は、その様を喜んでいた

また、その報告を受け取った特務隊長も同様だった

事実、彼ら三人のレベルは皆様の中で最も早く上昇している

驚くべき事に、二月と経たずにレベル30に到達したとの報告された

その事は、上層部には喜んで受け入れられたが、私は少し違和感を感じた

その原因は、同行する二人の様子だ


ユリと並んで二番目に高い成長率を持つ人

カミオ ヒロシ

この人は、正直よく分からない

何時もナミハラ様の後ろに付いて、何かを助言している様な振る舞いが目立つ

彼自身から何かを発言したのは、この世界に来たばかりの時

ヘクターおじさまが主催した、説明会においてのみらしい

とにかく、ナミハラ様の陰に隠れて、個人の印象が薄い

そんなカミオ様だが、最近のナミハラ様の強引な迷宮進行を頻繁に諫めているらしい

全体的に見て自分達の進捗状況が逸脱している、少し他に足並みを揃えるべきだと

また、迷宮内でもかなりの独断専行が目立つらしいナミハラ様へ強く意見しているとか

初めにその報告を読んだ時は少し意外感を感じたけれど、どうにもあの三人組に於いて、カミオ様が務める役目は、そうした歯止め役らしい


そして、彼らの中の紅一点

タカダ リエ

カミオ様を指して、よく分からないと評したが、そうした意味で表せば、タカダ様の方がより私の理解を外れている

彼女の振る舞いを纏めてみる

ナミハラ様が何かをすると、それを徹底的に肯定する

何かを言えば、その通りだと

何かをすれば、凄いことだと

彼女はナミハラ様を否定しない

初めは、ナミハラ様に追従するだけだと、そう評価していた

それが、男女の感情から来るものなのか、或いは、ある種の主従関係からのものなのか

どちらにせよ、ナミハラ様の個人への度外れた肯定精神の現れだと思っていた

だけど、先述のカミオ様の存在が、それを一概に言い切る事が出来なくさせる

ナミハラ様への信奉者染みた肯定だとしたら、カミオ様がナミハラ様へする助言は何なのか

いえ、こういう表現は正しくない

カミオ様の助言は、ある意味ナミハラ様の言動への否定とも言い表せる

ならば、タカダ様はそれに強く反発しなければおかしいのでは無いだろうか

事実として、周囲がナミハラ様の振る舞いへ苦言を呈した時には、タカダ様が声高く罵倒してきたとの報告が上がってきている


解らない


ナミハラ様ご自身は、些か行き過ぎた行為が目立つ事もある

身の回りの世話をする者の、些細な失敗を許さず、強硬に叱責した事

そうかと思えば、自身の失敗を認めず、それを徹底して失敗ではないと押し切る事

両者とも、一度や二度ならこちらとしても無かったことに出来るのだが、本当に些細な失敗でも認めない点や、ナミハラ様ご自身が……言い方は悪いが、気の抜けたところがあるのか、大小様々な失敗を繰り返す方なので、正直世話をする者達からの陳情苦情が後を絶たず、こちらとしても苦慮している

実は、今回の皆様へ新天地へと向かってもらう事になった背景には、このナミハラ様の乱行が大きい事も、せっかくなのでここに記しておく

………ここに私の私見を記す

ナミハラ様の振る舞いは、とても強迫的だ

こうでなければならないという思想が見える様に思う

そして、強迫的であるが故に、けして妥協する事が無く、妥協案も受け入れる事が無いだろう

ならばこそ、カミオ様がナミハラ様を一定程度是正できる事に驚き、そのカミオ様をタカダ様が受け入れている事実に疑問を抱くのだ

この三者の関係性は、今後も注意深く観察する必要があるだろう


「……こんな所かしら?」


殆どがナミハラ様、カミオ様、タカダ様の事になってしまったけれど、今後の展開に彼らが占める割合はとても大きいと考えられるのだから、その動向に注視するのは、私の務めとして問題無い筈


最後に、ユリとミキと話した時に感じた事を備忘録的に記して終わる


ユリに当初の力強さ、強引さが無い様に思われた

あくまで印象だが、記憶に留めておく

ミキも同様に、いつも感じる理性的な部分が弱かった様に見えた

二人が共通して調子を崩しているのなら、その原因は……


今回で、すこーしだけ波原某達に触れました

やはり彼らの出番はまだまだ先です

でも、いい加減にその存在を主張してやらないと忘れられそう

一応、波原くんはクラスメイトの中で最強()です


次回投稿は3月…は終わって4月3日ですね

新生活を始める方もいらっしゃる事でしょう

気温の変化が激しい時期なので、体調には特に気をつけてください

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