第六十四話
続きです
短いです
「で、こいつをどうしろと?」
気絶したアルベルト……まあ、俺が気絶させたんだが
そんなお荷物を背負わされて、突然部屋を追い出された
「任されたって事なんだろうけど……」
それだけ信用されている、とも受け取れるが、どちらかと言えば厄介払いの様な形だった様に思う
そう、つまり
「やっぱり変な人だな……」
それも、近く関わる人にとって迷惑になるタイプの奇人変人だ
きっと、おっさんもアイギナも、こうやって迷惑を被って来たんだろう
「そんな事を共有したくは無かったな……はぁ……」
とはいえ、愚痴っていても仕方ない
ああいう手合いは、反発するだけ損を見る
押し付けられたお荷物をさっさと片付けて、退散するとしよう
「しかし、ここ何処だ?」
当然と言えば当然だが、気絶している間に移動させられたので、ここまでの道中の記憶が一切無い
なので、帰路の道順とか全く分からない状態だ
「今深夜だって言ってたよな……」
背中に背負ってる奴がそう言っていた……確か
その後のゴタゴタが印象的過ぎて、その辺の記憶に自信が持てない
加えて、この建物内はまるで昼間の様に明るく照らされている上、窓が一切無い……辛うじて通気口らしきものが見えるのみで、外界の情報が一切入ってこないのだ
なので、時間間隔にも自信が持てなくなってしまっている
「深夜だとしたら、人とかもう殆ど居ないんじゃなかろうか?」
つまり、適当に進んだ先に居た人に道を尋ねるという最終手段が封じられてしまっているという事ではないか……
「いかん、考えれば考える程、不安になってくる」
進むべき道が解らないという状態は、生物に取って非常にストレスを受ける状態だ
何とかなるさ、と考えられる内はまだいい
だが、それすらも無くなった瞬間に、先行き不安という感情は一気に押し寄せ圧し掛かってくる
伊達や酔狂で子供が泣く訳では無いのだ、迷子と言うものは非常に恐ろしい状態なのである
こういう場合の解決策は、そう多くない
「とりあえず、ここでじっとしてても仕方ない。建物の中なんだ、進めば何処かに行き当たるだろ」
「……ここ、さっきも通った気がする」
病院や学校といった、一つの目的に沿って建てられた大型の建築物というのは、概ね内部の変化に乏しい造りをしているものだ
そうすることで、利用者が不平等感を抱く事を回避したり等の効果があると考えられる
つまり何が言いたいのかといえば
「変化が無さ過ぎて、今何処に居るのかが全く解らん」
鬱蒼とした森の中で迷う場合、知らぬ内に同じ所をグルグルと周回している事が多いらしい
明確な目印も無く、先の見えない道なき道を行くと、そういう事態に陥り易いのだとか
ああ、確かに
今俺は、その事を強く実感し、遭難者達の心情に強く共感しつつ在った
「クソッ!ホント、ここ何処なんだよ……というか、案内表示とか無いのかよ……」
激しく首を左右に行き交わせ、故郷で馴染んだ矢印やらの書かれた案内表示を探す
勿論、そんなものが在ればとっくに見つけている訳で
そして、現実として俺は迷子になっている
「ああああ!!イライラするっ!」
末期的か、或いは初期的か
その判別は付かないが、今の俺は絶好調で錯乱状態に在った
そんな状態であっちこっちと視線を行ったり来たりさせた結果……
「あれ?俺、どっちから来たっけ?」
複雑に折れ曲がった……かどうかも既に判別の付かない廊下に佇み、どちらから来たのかすら解らなくなった俺は、いよいよ錯乱を極め
「え、あ、え?え、ええ?」
最早まともに言葉も発せなくなってしまった
そこまで落ち込むと、後は真っ逆さまに状態は悪化の一途を辿る
「……あ、やべ。泣きそ」
そんな涙もろい性質では無い筈だが、二進も三進もいかないこの状態
進むも敵わず、しかして戻るも能わない
手も足も出ない状況とはまさにこの事
肉体的には自由だが、精神的には身動き一つとれない状態になったも同然だった
その不安感たるや、大の大人でも泣き出すするほどの多大な圧迫なのだ
「うっ……くっ……」
必死に堪えるが、最早眼窩は涙で一杯だ
少し下を向いても、または瞬き一つするだけでも、一杯に溜まった涙は溢れ流れ出してしまうだろう
「……何をしている?マイシマ サトル」
唐突に名前を呼ばれる
いつの間にか目の前に立っていた人物の存在に、掛けられたその声で気付いた
「……エドガーさん?」
「そうだが、それ以外の誰に見える?」
そう、目の前に立っていたのはエドガーさんだ
その冷淡な言葉も、見る者を怯えさせる半目と三白眼も
その全てが、目の前の男がエドガーさんであると、俺の記憶が示していた
「ふ……」
「ふ?」
「ふ、ふぅうぅぅぅぅぅぅぅっ……!ふぐっ!うっぐぅぅぅぅぅっ…………!」
その時感じた安心感を、きっと誰も理解出来はしないだろう
そして、時間的にはごく僅かな間、しかし俺の主観では極めて長大な時間堪えていた涙が、その安心感と一緒に噴き出した
一応、大声で泣き喚かず声を堪える程度の理性は残っていたが、それにも勝る圧倒的な安心が、泣く事を止めようとは思わせなかった
「……落ち着いたか?マイシマ サトル」
何時もと変わらない淡々とした口調なのに、何故か優しさを感じさせるその言葉
エドガーさんは細面でイケメンだが怖い顔で、俺を見下ろしながらそう尋ねた
「(ズズズッ)……はい、お騒がせしました……落ち着きました」
垂れそうになる鼻水を啜り、殊勝に返答する
「気にするな、ちょうど探していたところだったからな……落ち着いたなら付いて来い」
そう言って、さっさと歩きだしてしまうエドガーさん
正直、完全に平静を取り戻したとは言い難い状態なのだが、置いて行かれる事に恐怖を覚え、その背中を追いかけた
新年一発目がこんな短くていいのか
幸先が悪い気がしてならない
理くんの精神性にすこし変化を与えました
とは言っても、実際にこれまで理くんの人格をしっかり描けていたかは自信が無いので、唐突に感じた人も居られる事でしょう
これから、彼の人間味を増していく予定です
さて、次回投稿は1月9日です
小中高生は既に新学期が始まっているのでしょうか
はっきり言って、何時三学期始まるとか、もう記憶に無いです
受験生の皆さんは、最後の追い込みに掛かっているんでしょうね




