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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第二部 喪失と挫折
48/130

第四十七話

長い!長すぎる!!

上手く纏めきれなかった、その様がこれだよ!


12000字あまりあります

あぁもうめちゃくちゃだよ

「………………………」


「………………………」


「おい、もういい加減に戻ってこい」


国王のおっさんの取り成す声が空しく響く

余りにもタイミングが悪かった

恐らく、肉親同士で気の置けない対話をしていたのだろう


(俺はそこに乱入してしまった訳だ……)


そして、アイギナさんのあられもない姿を目の当たりにしてしまった

アイギナさんも、まさかそんな姿を他人に曝してしまうとは思わなかっただろう

その証拠に


「………………………」


それほど広くはない執務室の、凡そ唯一の身を隠せる場所……執務机の陰にしゃがみこんで、恥じ入っているのだろう

殆ど姿を隠している為、恐らく、としか言えないが、想像は容易だった


「戻ってきなさーい。お母さんがー泣いてーいるぞー」


その情けない姿に呆れたのか宥めるのに飽きたのか、最早9割方遊びが入ったからかい混じりの説得を始めるおっさん

それで怒らせて、発奮させようって魂胆なのかもしれないが、どうやら手応えは無かった様だ


「………」


そういう俺も、余りにも気まずく、視線をチラチラとアイギナさんの居る机の陰へと向けては外すを繰り返すだけで、何らかの行動を起こせずに居た


「……ホントに、そろそろ戻ってきてくれ。サトルも、何時までもまごついてないで、いい加減用件を言え」


語尾に「鬱陶しい」と付いていても何らおかしくない位に、疲労感や倦怠感を露わにした顔でそう宣うおっさんに、自身の用向きを思い出す


「あ、ああ。ええと……頼みが有って来たんだが……その」


自分の情けなさと、しゃがみこみ自責しているだろうアイギナさんが気に掛かり、どうにも口から出る言葉の歯切れが悪くなる


「そもそも、入室の許可を与えたのは俺だ。それでお前が気に病む必要は全くないんだぞ、サトル」


呆れ混じりのため息と共に、気遣いの言葉が掛けられる

それは理解していたが、それでもなお今の彼女の有り様を見れば、罪悪感は拭い難く良識に纏わりつく


そう考え、今一つ心に響かなかったおっさんの気遣いも、もう片方の当事者には効果があったらしい

机の陰から僅かに覗く体から、ずっと続いていた羞恥の震えが消え去った

その事実に安堵したのも束の間


「」

優美さすら感じる所作で、不自然さすら感じる自然な起立で立ち上がったアイギナさん

だがその優美な肢体からは、所作から感じるそれとは真逆の鋭い殺意が立ち昇っていた

端的に言えば、怒っていた


(アイギナさんって沸点低いよなー)


と、暢気に考えながらも、体はアイギナさんを宥めに掛かる

話が進められなくなっては困るからだ


「アイギナさん。ひとまず落ち着きましょう」


……我ながら、何と程度の低い仲裁だろうか

苛めを前に立ち竦みなぁなぁで済まそうとする事なかれ主義な教育者じゃあるまいに、もっと気の利いた取り成しは出来なかったのか


後悔するも時すでに遅し


「お父様」


俺の愚にも付かないおためごかしなど、聴くに値しないとばかりに無視されて、その矛先は狙いを変える事無く目標に突き付けられた


「ん?戻ってきたか。だが、サトルの話を聞く方が先だ、後にしなさい」


急に真顔になって正論を吐くおっさん

その顔は寸分違わず為政者のそれだった

だが言葉の前後や行間を読むに、その裏側には邪気の無い悪質さが満ち溢れている

有り体に表現すれば、悪童のそれだ

超一流の大人の仮面で覆い隠しているだけに性質が悪い


「……お父様」


一際冴える気配に、その隠蔽が通用していない事を悟る

やはり、アイギナさんも超一流だった、という事なのだろう


「はぁ……解りました。確かに、今はそんな場合ではありませんね」


机の脇に立ち、今までは父親の側を向いていた顔が、その時初めてこちらを向いた


(……)


その時に胸中に走った熱を帯びた小さな何か

思えば、こうして向き合うのも初めての様に感じる

勿論、初めてでは無い


(それだけ余裕が無かったのか……)


この世界の連中は、揃って細面痩身の奴が多いが、アイギナさんも御多分に漏れず細身の、ちゃんとメシ食ってんのか?的な体型をしている

そんな疑問は馬鹿らしいと一蹴するかの様に、その存在を主張する胸部の大きな脂肪塊

お好きな人には堪らん程に、たわわに実る魅惑の果実

そして同様に、メシ食ってんのか疑惑を力強く否定するなだらかに張り出した臀部

こういうのを安産型って言うのだろう、ただの肥満とは発する威光が桁違いだ


(…………そう言えば、あの治療師って王妃様なんだよな)


正しく、あの母にしてこの娘在り、と云う事なのだろう

知らず、その身体に視線が向く


「………あ、あの……マイシマ様?そんなに見詰められますと、その……」


「あ……」


無意識のうちに遠慮なく凝視していた為に、当然の様に自身の変態的行為は気付かれる

気付かれた事に気付かず、更に無遠慮に見続けた為、どうやらアイギナさんの羞恥心が限界を迎えてしまった様だ


「あ、そ、その……申し訳ない」


我ながら、何と気の利かない弁明か、と呆れてしまう

が、こんな経験は初めてなので、それを自覚しても尚、気の利いた返しなど出来る精神状態ではなかった


「おやおや~?どしたどした?お二人さん、お顔が真っ赤だぞ~?」


そんな状態の俺に、ある意味で救いの声が福音の様に舞い降りる

実際には太いおっさんのからかい声だが、そんな事はこの際関係なかった

今の状態を掻き回してくれる、ただそれだけで有り難かった


(グッジョブ、おっさん!)


内心、賞賛の雨あられだったが、直ぐにそんな浮かれた気分も吹っ飛んだ

今まで見詰めていた先、その場に立つ優艶な女性が、収めた矛を再び取り出した為だ

それも、さっきと比べて穂先が鋭く大きくなっている気がする


(やっぱり怒ってるか?そうだよなー)


女性を厭らしい目線?かどうかは自覚が無いが、凝視したのだ

公序良俗に照らしてみても、女性の不興を買う行為なのは、火を見るよりも明らかだった


(謝らないと……!)


自分でも不思議なのだが、何故かその様な衝動に強く背中を押されてしまう

普段なら、正直どうでもいいと流してしまうのだが……


「あの、アイギ「で、サトル。話は何なんだ?」ナさん……ええ?」


最後の「ええ?」は、酷く乱暴な口調になってしまった

だが、人の言葉に被せる様な不躾な野郎にはちょうどいいだろう


「いや、頼みが有るんだろう?出来れば早くしてくれないか?流石に暇ではないのでな」


それを言われると弱い

確かに、仕事中に時間を割いてもらっている自覚はある

ただ、言い訳させてもらうと、色々と予想外の事態に見舞われて、その事を失念してしまっていたのだ


「マイシマ様?焦る事は無いのですよ?この不良父の事でしたら、お気に為さる必要はありませんので」


そう言って穏やかに微笑むアイギナさん

実父に対する辛辣さに満ちていたが、そこに含まれるある種の気安さに、憧憬の念を感じてしまった

とは言え、俺の用件を済ませる方向で満場一致しているので、それに大人しく甘えておく


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


そう、一言言い置いて、軽く息を整える

そして、自らの立場を内外に知らしめる為に、言葉を整える


「先ず、今までの俺の我儘に付き合ってくれた事に御礼をします。本当にありがとうございます」


散々に我儘をし通した、きっと多くの苦労を背負わせただろう

本当なら、相応の場に軟禁でもして、安全を確保すべきだっただろう

なのに、他と変わらぬ支援を受けられ、中枢の人間たちからは甚く厚情を賜った

有り体に言ってしまえば、俺達は余所者で、使える連中だったから重用され厚遇された

その中に一人だけの逸れ者、画一的な扱いの出来ない厄介者

こういう言い方は好ましくないが、俺だったら体裁を整えた上で放り出す

更に言えば、この世界の住人で無い俺相手なら、体裁を整える必要すら無いかもしれない

それこそ、身一つで放り出しても、短期的には問題にはならなかった筈だ


「俺はここにやって来て、有り得ない程の幸運に恵まれました」


元の世界で手にした多くを喪失した

文字通り、寝食を惜しんで身に付けた力

そして、家族を守るという誓い

何もかも無くなった

女神の意味不明な言葉一つで

だが、手にしたものも確かに有る


「国王様。貴方には、いや、貴方だけじゃない。アイギナ姫殿下、オルブライト元帥閣下と、この国の名立たる重臣方や、国賓であるレイリア皇女殿下にも。方々へ最初にお目通り適った折からずっと、数々の無礼を働いてきました」


それはもう、無礼の一言では片付けられない程に

相手は一国の元首だ

例え望まぬ邂逅だとしても、膝を着き頭を垂れて当たり前

求められたなら、たとえば彼の三跪九叩頭の礼であっても、しなければならないくらいに弱い立場だった

それを俺は、何を血迷ったか粋がって交渉だ駆け引きだと、随分と無茶をやらかした

今思い返しても、あの時に取った行動は正解だったとは思う、その事に後悔はない

だが、それが礼を尽くしたものだったか?と自問すれば、返る答えは否だ

一国の王に対して、面と向かって啖呵を切るだけでも、到底許される事ではない

正直、あの時怒鳴りつけたヘクターは、完全に正しく、それでいて甘すぎる程に穏当だった

仮に切り掛かられていても、全く不思議ではない態度だった


今もそうだが、本来国王の在所に事前の申し込みも無く押し掛けても、会ってなどもらえない

俺も一応は上流階級のしきたりなんかは知っているし、それに照らし合わせる意味がこの別世界であるのかは判らないが、少なくともここまで気安く訪ねられる訳が無いだろう

それどころか、こうして親しく話をする事自体が、明らかに常識外れなのだと、今更ながらに理解が追い付いた


アイギナさんにした事も、皇女様にした事も同様だ

王族皇族と近しく付き合うなど、周囲への示しがつかない事は、一般的な常識が有れば理解出来た筈だ

どこか、現実から逃げていたから

だから、彼ら彼女らと、現実的な付き合いが出来なかった、その事に思い至る余裕も無かった


「マイシマ様「アイギナ、今は黙っていろ」……はい、お父様」


「……すまないな、サトル。続けてくれ」


何やら、親子間でやり取りが在ったが、今の俺には慮る事が憚られた

どうやら、やっと現実というものを心が受け入れた様だ


「……今更態度を改めるというのも、皆様から頂いたご厚意に唾吐く事と弁えた上で、今はこの様に襟を正す不義理をお許し下さい」


そう謝辞を述べた時、視界に収めた二人の表情が緩んだ気がした

本当に気のせいかもしれないが、今は無性にその事が嬉しかった


「余り長々と駄弁を弄するのも恥の上塗り。早速ですが、本題に移らせていただきます」


そこでひと息吐くと、思った以上に口の中が乾いている事に気付く

口を湿らせる事に無意識でも気付かないくらいに、緊張していたのかと思うと、更に緊張が増す思いがする

そう自覚した途端に、唇は固く閉じ、舌は硬く動きを止め、歯の根すら合わない気すらしてきた


「あ、と……その」


折角ここまで格好がついたのに、何とも締まらない

それでも、言語機能は中々に正常化してはくれない


「マイシマ様、お気を静めて。先程も申しました通り、焦る必要などありません。私どもは、それほど堅苦しい仲でもないでしょう?」


「そうだな。サトル、以前にも言ったが、大抵の事なら叶えてやれる。なに、遠慮は要らん。権力なんていのは、時々使って知らしめてやらんと、忘れてしまう奴も出てくるからな」


二人の気遣いが心に染みる

やはり、自分で思った以上に心が弱っていた様だ

視界が滲む理由を悟られたくなくて、顔を俯かせる

それでも見える二人の顔は、優しさを滲ませた微笑みを浮かべていた


「……それで、頼みたい事というのは、仕事を紹介して欲しいのです」


何とか、自身の不甲斐無さを振り切り、本題を語った時の二人の顔を、俺は生涯忘れられないだろう


「………………」「………………」


まず、国王のおっさんだ

こちらは完全に呆けてしまっている

だらしなく口を半開きにし、目の焦点が合っていない

椅子の肘掛けに置いた腕は、今にも滑り落ちてしまいそう……あ、右腕が滑り落ちた


そして、アイギナさん

こちらは、何か痛ましいものを見る様な目をしている

理由は判らないが、どうやら頭の痛い奴と思われてしまった様だ

そりゃあ、いきなり仕事紹介してくれ、っていうのはやり過ぎかな、と思わなくもないが

だからって、そんな痛ましそうな憐れんだ目をしなくてもいいんじゃないか?


「あの……」


流石に、そこまで非常識な事を願ったつもりはない

見ず知らずの相手ならともかく、この二人とはそれなりに友誼を結んできたという自覚がある

客観的に見ても、色々と面倒見てくれたり親しく付き合ってくれたりと、相応に親交を重ねている筈だ


(思考が混乱してるな、落ち着け落ち着け)


大丈夫大丈夫、問題ない問題ない、二人ともちょっと驚いただけだから

と、自分で自分に言い聞かせる


「サトル……いや、ここはそちらの流儀に合わせて、マイシマ殿と呼ばせていただこう」


三者三様の困惑からいち早く脱したのは、年長者のおっさんだった

そこは、年の功と言ったところだろうか

加えて、俺が襟を正した理由を、確と把握している様で、倣って厳粛な振る舞いを取る

その姿は、過日俺の私室で酒浸りになって管を巻いてた親父と、同一人物だとは到底思えない

正しく、一国の……いや、大国の王だった


自然と背筋が伸びる、そんな空気を醸し出しながら、おっさんは言葉を続ける

ちなみに、心の中ではおっさん呼ばわりだが、尊敬度合いはあの酒盛りの朝から桁違いに跳ね上がっている

親愛度合いは言わずもがなだ


「マイシマ殿。貴殿の願いを叶えるのは容易い。王たるこの職責が持つ繋がりは、それこそ国内に限れば不可能は無い程だ。それは、貴殿に授けた印章の効力からして、明らかであろう」


そう言えばそうだ

あれが有れば、何処へ立って行けるし、何処でも入れる、そういう話だったな

完全に失念していた

なら、こうして願い立てる必要すら本来なら無く、あれ使って適当な店に入り込めば良かったのかもしれない

無駄に緊張して、無駄に緊迫した気がする


「フフッ、その様子だと、その事に思い至らなかった様だな。全く……俺は言ったはずだぞ?それが有れば、女性用便所にも更衣室にも進入出来ると。何なら気になる女の子の部屋にも進入できるぞ」


そう言えばそんな事もあったなぁ……でも、今それ言ったら拙いんじゃなかろうか

そっと、アイギナさんへ一瞥向けるが、特に変わった様子は無い


「考えすぎか……?」


「サトル?真面目な話の途中だ。上の空は感心せんな」


おっさんの注意が入った

確かに、失礼にも程がある

自省して、再び態度を取り繕う


「んんっ!気が削がれたな……普通にしよう、そうしよう」


既に半分崩れていた気もするその態度を、今度こそ本格的に崩してしまった

本当に不良親父だわ、この人

とは言っても、悪感情を覚えないから、やはり人に好かれる性質なんだろう

そうでも無ければ、王様なんてやってられないのかもしれないな


「……」


そして、一切気に留める事無く、楚々として美しい起立姿勢を保つアイギナさん

この人のことは、本当によく解らない

先程までなら、こうしたちゃらけた態度には、頑として反対姿勢を貫いていた……というか怒っていたのだが……どうしたのか


「で、だ。サトル、仕事を紹介してくれという話だが……それは出来ん」


「な、何故ですか?先程は、その程度は容易い事だと仰ったではありませんか?」


思わぬ否定の言葉に、僅か動揺が走る

半ば反射的に言い募るも、どうにも説得力に乏しい


「紹介するだけならな。あと、いい加減それは止めろ。折角気楽な場なんだ、あまり堅苦しいのは止せ」


「……っ!じゃあ、言わせてもらうが、何故駄目なんだ?俺は穀潰しや冷や飯食いに甘んじるつもりは無いんだ!」


「それは本音か?」


本音か、と問われて気付く事がある

そう、これは建前だと

或いは見栄と言ってもいい

では、本音とは何か


「……俺は……俺は!アンタ達にただ甘えてぶら下がってるだけなのは嫌なんだ!俺はもう、どう足掻いてもアンタ達と対等にはなれない……ならせめて、独り立ちしたいんだよ!」


それが今の俺の本音、今の俺の真実

せめて、世話になった人に何かを返したい

それが無理なら、迷惑を手間をかけたくない

せめて、誠実で在りたいのだ


「……それがお前の本音か、サトル。ならば、俺も相応に応えねばならんな」


「なら……」


「まあ、聞け……と、その前に、だ。お前の言葉によれば、俺達は恩人という事になる訳だが……恩人に集るのがお前の世界の道理なのか?」


「それは……」


それは、考えなかった訳じゃない

確かに、俺は世話になった人に、先ず仕事の斡旋を希望した

礼を述べるでもなく、先ず考えたのがそれだった

浅ましいと言われればそれまでだ

自分でもそう思うし、改めて指摘されれば恥じ入る心が先に立つ


「と、それは冗談だが……別に、仕事がしたいから紹介してくれ、なんて言ったくらいで嫌厭したりせんさ。それに、ちゃんと理解はしているみたいだしな」


どういう事だ?話が見えない


「解る、解るぞ。今のお前の心情が手に取る様に解る。では、説明しよう。何故、お前に仕事の紹介が出来ないか」


結局はそこに行き着くのか

どんな理由があるというのか


「サトル、それはお前の安全が確保出来ないからだ」


俺の安全の確保?思ってもみない理由だった

だが、そう言われれば、色々と納得も出来る

ここ最近は鳴りを潜めていたが、以前は俺に対する悪感情が、城内に渦巻いていた

そして、今思い返せば、今日ここに来るまでの間、ごく僅かではあるが、例の悪感情を感じた気がする

それよりも、今後の事に思考を費やしていたから、意識しなかっただけで、記憶を探れば小さな不快感を思い起こす


例えば、あの治療院の職員は?

都合よく色々と用件を済ませられた事から、大して気に留めなかったが、瞳に侮蔑が滲んでいた様に感じる


例えば、城門を潜った時は?

あそこには多くの人が行き交っていた

全員が素通りしていた訳ではない故に、足を止めて検視を待っていた彼らの目には言葉には、ささやかな誹謗が隠れていた様に思う


感じるだの思うだの、感覚の域を出ないが、それでも過去にそうした事実がある以上は、気のせいと流すのは難しい

つまりは


「俺の迷宮攻略失敗が呼び水となって、また悪評が高まっている、という事か?」


それ以外の理由が思い浮かばない

そして、それはおっさんの返答によって確定した


「その通りだ。それも、俺の戒厳令が効いているにも関わらずだ。これが何を意味するか、解るな?」


解らいでか

そして、理解したからこそ、先程の言葉になお反発を覚える


「なら、尚更この王都を離れた方がいいんじゃないか?別に俺は、都会で暮らしたいなんて夢見がちな事は言わない。ただ、最低限日々の糧を自身で稼げる様になりたいだけだ」


ただそれだけ、というのも、ある種贅沢な望みであるのは理解している

だが、それすら望む事を許されないというなら、そもそも望みを聞くなどと言わなければいいのだ

言った以上は、最低限話を聞く位はしてもらう

吐いた唾は飲めず、覆水は盆に返らない


「それも駄目だ。俺の目が届かない場所も、この国には在る、忸怩たる思いだがな。ならば、俺の膝元に居てもらわなければ、身の安全を保障する事は出来ない」


俺の幼稚な理屈など、次から次へと切って捨てられる

いや、丁寧に論破されているのだ、無碍に扱われている訳では無い


「……ならどうすればいい。俺はもう何も出来ないのか?」


自らの無力さを、まさかこんなところで、またもや思い知らされるとは考えなかった

どうにも、らしからぬ幼稚さ浅慮さが目立つ


「お父様、そろそろ本題に入られては如何ですか?」


「クククッ、いや、スマンな、サトル。だが、何時気付くかと思っていたが、案外気付かれないものだな」


「?……どういう事だ?」


訳が分からない

二人は何かに気付いて、というより、俺が何かに気付けていないのだろう

だが、そうだと知っても、その先に思考が至る事は無かった


「気付かないか?俺の目の届かない場所では、お前の安全は保障出来ない。なら、俺の目の届く場所なら、お前の安全は保障出来るという事にならないか?」


確かにその通りだ

少し乱暴な理屈だが、そう考えるのは比較的自然な論理の決着だろう


「つまり、王都の仕事なら紹介出来ると?だが、それならそうと、初めから言えばいいんじゃないか?回りくどい事をせず」


思わず文句が口を突く

頼み事をする側の人間の取る態度では無いが、こちらは真剣に頼み事をしているのだ

だから、拒絶するにしても真面目に拒絶してほしい

安易に揶揄われるのは、やはり受け入れ難い事だった


「それに関しては謝ろう。だが、普段のお前ならこの程度の知恵は回ったのではないか?寧ろ、気付かれない事に違和感を覚えた程だぞ」


それは言い訳だ、と言い募る事も出来たが、ささやかな俺の矜持がそれを許さなかった

確かに……と、今この場での会話だけで、何度そう思わされた事か

明らかに理解力や思考力が働いていない

心が弱っているなどという些事では、到底説明しかねる状態に俺は在る様だ


「……まあいい。今は話の続きをしよう」


そうだ

今重要なのは、仕事の斡旋の可不可であり、精神状態は後回しでいい

メンタルチェックは、後でじっくりと行おう


「回りくどいのは止めろと言われたからな。端的に言うぞ、サトル。仕事がしたいなら、城中で働くんだ」


その言葉を聞いた瞬間、僅かに思考に空白が生まれた

実際に自覚出来た訳では無いが、確実に思考に穴があるのが判る

あれだ、さっきおっさんが呆けていた時があったが、それは今の様な状態に違いない

はっきり言って、在り得ない提案だった


「待て待て待て、ちょっと待ってくれ!俺を不快に思ってる奴らは城の中にこそ居るんじゃないのか!?」


そもそも、俺達の存在は周知されていない筈だ

確か、ある程度育つまで、そして肝心の事態の推移を見て、公表するか決めるって話だった筈だ

つまり、俺を知り、尚且つ敵対感情を抱いているのは、主に城勤めの人間だって事だ

なのに、その敵陣真っ只中に放り込もうというのは、話の筋からしてまるで理解が出来ない暴挙としか思えなかった


「やはり、理解力が落ちているな……よく考えろ、そいつらの親玉は誰だ?そいつらに命令できる者の中で、最も偉い立場に在るのは誰だ?」


「そんなのは決まっているだろ…………そうか、そう言う事か」


そうだな、その通りだ

そう言えば、最初に俺への悪感情から来る暴行への発展を抑えたのは、目の前のおっさんだった

ならば


「逆に、おっさんの手近に居た方が、安全保障はし易いという訳か」


理解してしまえば、成程これ以上無い就職先だと思える

就業環境は最低極まる可能性が高いが、何せ社長(仮称)が全面的に味方に付いてくれるのだ

仕事をサボって、一緒に釣りにだって行けるだろう


「その通り!一度理解すれば、やはりそこからの話は速いな。で、受けるか?この話」


答えなんて解り切っていますよー、と言わんばかりのドヤ顔ニヤケ面で、そう尋ねてくるおっさん

軽く苛つくが、確かに渡りに船だと言える、乗らない手は無い

だが、ほいほいと乗ってしまうのは、何だか悔しいので、軽くいじってやろう


「だが断る……と言ってもいいのかもしれないがな。おっさんに揶揄われる未来が見えるし」


「なんだ、嫌なのか?親愛の証だぞ?」


何だ、その好きな女子を苛める男子小学生みたいな理屈は

実際、あんたにいじられて、ちょくちょくアイギナさんが怒ってるだろうが


「別に嫌じゃないさ。あんたは、それに対して反抗を許さない様な強権家じゃないからな」


元の世界にはよくある光景だったが、家庭の長は父親で、その父親に対する反抗は許さないという風潮があった

「文句があるなら出て行け、ここは俺の家だ」「親に逆らうなんて十年早い」等々、個人色はあっても父権主義者の横暴な発言には、多くの人が記憶を刺激される事だろう


「だがな、あんまりやり過ぎると、子供には嫌われるんだぞ。その辺、ちゃんと理解してるか?」


「おう、してるしてる。で?ウチで働くって事で良いんだよな」


適当に聞き流した様に見えるが、そうでないのは対話している俺には丸わかりだ

口調に邪険さが感じられない

判り切ってる事を言うな、生意気な事を抜かすな、という感じが無い

それだけで、不思議とちゃんと聞き入れてくれていると感じるのだから、やはり俺はこのおっさんを相当に信頼しているんだろう


「おう、良いよ。というか、それ以外に道は無いみたいな言い方して、本気で断られるとは思ってなかったんだろ?嫌だね、大人って奴は。ガキの浅知恵なんてお見通しって感じでさ」


憎まれ口を叩いて、細やかな抵抗は示しておく

ただ、望む効果があったと問われれば……

目の前でニヤニヤしている面を見れば、言わずとも答えは判ろうというものだ







サトルが退室した

終始力強く感じられる立ち居振る舞いだった

初めの時以来の、慇懃な振る舞いにも、力を感じられる


「俺の杞憂で済んでくれたか……」


俺は、サトルに相当惨い仕打ちをしてしまったのでは?

そう、思い悩みながら、娘に打ち明けたり、サトルに対峙したりと

何ともはや、今日一日にどれだけ事件を盛り込んでくるのか

特に信奉している訳でも無い女神オースベルに文句を言いたくなった


「さて、お父様。約束通り、色々とお話しましょうか?」


軽く気落ちと安堵に、心を翻弄されていると、悪寒を覚える空気がすぐそばから発されたのを感じた


「ア、アイギナ?どうした、ずっと黙っていたが……サトルの処遇に関して、何か意見は無かったのか?」


我ながら情けない事だが、アイギナに怒られると、つい身が竦んでしまう

怒らせているのは、大抵俺の態度が原因なのだが……

こればかりは、もうどうしようもない


「いえ、先程仰ったではないですか。今はマイシマ様の話が優先だから、後にしろ、と」


確かに言った

だが、それでずっと黙っていたのか?

流石に短絡的だと思うが


「んんっ!判った、それで?何の話だがっ!!?」


少し落ち着こうと、軽く咳払いをして話を促してみたら、余計な行動まで促された様だ

いきなり胸倉掴まれて、頬を叩かれた

ここまでされるのは、正直珍しい

それだけ、腹に据えかねているという事なのだろう

それが好いた男の事なのだから、父親としては嬉しいやら寂しいやら


因みに、記憶にある中で最も印象的なアイギナ激怒の場面は、確か初物を揶揄った時だったか

あの時は、妻にも大層怒られて、下の娘も暫く口を聞いてくれなかった

唯一、息子だけが同情的だった……それでも辛辣さはあったが


「お父様は、マイシマ様に罪悪感を覚えないのでしょうか?正直私は、マイシマ様が仕事の紹介を希望された時、とても悲しい気持ちになりました」


成程、そう言う事か


「……それは違うな、アイギナ。あそこで、俺は謝罪する事も出来た、自らの罪を告白し、懺悔し、赦しを乞う事も出来た。だが、そうはしなかった……何故か?」


俺だって辛かったさ

俺は、本当にアイツの事を気に入っていた、いや今だってそうだ

手元に置きたいと思ったことも嘘じゃない

それはただ優秀な人材だからというだけじゃない

何だかんだとアイツとはそれなりに付き合ったが、あんなに真っ当に向き合えたのは、本当に何時以来か

大抵の奴は俺の立場肩書に大して、恐れを成すか、下衆な欲を抱くかのどちらかだ

そんな中で気の置けない相手っていうのは、それはもう貴重なんだぜ?

探索者として活躍していた頃に出会い、パーティーを組んだヘクター、エドガー、リチャードを拝み倒して、城に入ってもらったのもそれが理由だった


「アイギナ……サトルは俺のした事を知らない。俺がアイツにした事を知らないんだ」


「それが何ですか?悔いる気持ちが有れば、たとえ発覚していない罪でも告白出来る筈です。それをしないという事は、罪悪感を感じていないのだと邪推されても仕方ないのではないですか?」


我が自慢の娘は、実に鋭い着眼点で痛い所を遠慮なく突いてくる

だが、娘は肝心の所を見ない振りしている


「サトルに、それを受け止めるだけの余裕があるか?」


そう、今のサトルは、手酷い挫折から何とか立ち上がろうとしている最中だ

そんな中、こちらの一方的な事情で、更に重荷を背負わせるのは、本当に正しいか


「正直に白状しよう。俺にはどうすればいいか、どうするのが正解か判らん」


判る訳が無い

ならば、せめて


「せめて、今、アイツの邪魔にならない方を選ぶしかないじゃないか」


きっと、今の俺はひどい顔をしている事だろう


アイギナのステータスを知った時、それを見た妻が自らを責めた時、弟妹達のステータスをアイギナが知った時、アイギナの決意を知った時

人生に、どうしようもない苦しみ悲しみは数在れど、本当に辛かった時というのはそれくらいだ

だがそれらは、本質的に俺の失態というものは無かった

それら全ては偶然の産物であり、彼女らに対する責任は在れど、起こった出来事に俺の責めは無い


しかし、今回は違う

間違いなく俺が画策し、俺が命じた、全ては浅ましい私欲から発した事だ

そのせいで今サトルは苦しんでいる……のかは、当人で無ければ判らないだろうが、少なくとも俺の罪が重いのは間違いない


「何時か必ず、俺はこの罪を償う事になる。必ずな……」


結構この後、ネタバレ的な事書いてるので、気にする人は飛ばしてください





多分この後、アイギナさんに滅茶苦茶怒られたと思う

ちょっと揶揄い過ぎたからね、仕方ないね


ところで理くん、百合ちゃんの事全然考えませんね

お前守るんちゃうんかい、と思われた方も居られるかもしれません

その辺の考え方の変化も描写出来てると良いのですが


就職先が決まりました(強力なコネ、羨ましい)

今の理くんの頭にあるのは、如何に恩を返すかという事だけです

この状態でどうやって、理くんの強化に繋げていくのか……

正直、まだ明確に思い浮かべられずにいます


国王様……おっさんとここでも呼称しましょう

さて、そのおっさんですが、ちょっとおちゃらけ過ぎましたね

その辺不愉快に感じた方もいらっしゃるかと思います

一応、最後にフォローはしましたが……どうでしょう

ちなみに、罪を償うとか思わせぶりな事言ってますが、その辺どうするかはまだ決めてません

侵略者との戦いの中で、サトルを庇って死ぬかもしれないし、何か大きな我儘を聞く羽目になるかもしれない

個人的には、物語の進行に特に必要のないレギュラーキャラの死亡は好みではありません

が、必要なら容赦なく殺します

思い付き次第ですかね


次回は、理くんがお城で働き始めます

そして、その中で第三部の中身に少し触れ、クラスメイト達の王都出発の報を知る事になるでしょう


次の更新が今月最後の更新になると思います


そして定型文

面白いと思って頂けたら

評価、ブクマお願いします

励みになります


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何故、ゾロ目ってそんなに有り難がられるんですかね?

見目によいからかな?

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