第四十五話
なんとか間に合った!
という訳で、ASAPで書き上げましたんで、どうぞ
「あぁ~……疲れた…………今回は久々に厄介な案件だったわね」
肉体的にはそれほどでは無いけれど、とにかく精神的頭脳的に疲弊した
「お疲れ様です。部屋に戻られたら、温かいお茶でも淹れましょうか」
そう言って慰撫してくれるのは、私付きの近衛兵アシュレイ……アッシュだ
アッシュには本当にお世話になっている
私が忙しくあちこちと動き回るのにも、嫌な顔一つせずに付き合ってくれる
たとえ、それがアッシュの仕事であっても、愚痴の一つ漏らしても罰は当たるまい
なのに、アッシュは陰口を叩く事も無く、寧ろ私を称賛すらしてくれる
そんなアッシュの至誠が、この卑小な身にとってどれほどの救いとなっている事か
きっと、当人は知らないだろう
「ありがと、アッシュ。でも、その前に確認しないといけない事があるわ」
常に私を立てて、影に日向に支えてくれるアッシュに、偽りなき感謝を述べるも、その提案に乗る訳にはいかない
「確認、ですか?はて、そうした案件は無かった筈ですが」
とぼけてみせているのか、それとも余程信頼しているのか
どちらにせよ、あの方には不思議な安心感がありますからね
だから、こうして傍を離れても平気なのでしょう
「何を言っているの?マイシマ様が迷宮に入られたでしょう?その結果の確認よ」
でも、私は気になって仕方がない
王都を離れている間、ずっと不安だった
彼の存在は、余りにも私自身と相似し過ぎているから
「……ええ、そうでしたね」
? 一瞬、アッシュの表情が変わった気がする
それも、少し怖い感じに
心から信頼する護衛に、在らぬ感情を抱きそうになって、慌ててそれを振り払う
「とにかく急ぎましょう?それほど時間に余裕がある訳でもないですし」
今は少しでも早くマイシマ様の安否が知りたい
時間に余裕がないのも事実だったので、その事を優先した私は、一瞬の変化を見間違いだと切り捨てた
「了解しました。では、城内の騎士団詰所に向かいましょう。そこでなら、結果を聞く事が出来る筈です」
「そうね。じゃあ行きましょう」
こういう場合、別に側付きの者に断る必要は無いのだが、どうにも私はそういう高圧的に接する事が苦手である
それも生まれの咎故にと諦めるしかない
騎士団詰所は現在位置からそれほど遠くは無く、急いでいた事もあって直ぐに辿り着く事が出来た
ちなみに、この一角には騎士団の詰所のみならず、戦士団、魔法士団の詰所も存在しています
更には、それら構成員が迅速に治療を受けられる様に、治療院の本部も併設されているのです
なので、それら詰所群に比べて遥かに大きな治療院の本部施設が、先ず視界に入ってきます
「そう言えば、今日はお母様は施設に詰めていらっしゃるのかしら?」
私の母、つまりこの国の王妃は非常に優秀な治療師だ
それも驚く事に、その様な貴き身分に在りながら、最前線で施療している、とびっきりの変わり者である
「寧ろ、王妃様が施設に居られない日の方が珍しいのではないですか?」
「それもそうね」
こんな会話が、違和感なく成立するくらいには、母の奇行は周囲に広く認知されている
「あら?あれは……お母様?」
「そうですね。どうしたのでしょうか?あの方が用も無く治療院をお出になられるなんて」
母の噂話をしていたら、治療院の正面入り口から当の本人が出てくるのが、遠目に確認出来た
アッシュの言う通り、忙しなく働く母が、何の用事も無く治療院から出ることは滅多にない
「何か御用があるのでしょう。引き留めては申し訳ないし、軽く挨拶だけしておきましょう」
流石に素通りはないが、忙しく動き回る母を長話に付き合わせる事は気が引ける
もっとも、仕事中の先生では、長話にそもそも付き合ってくれないのだけど
「了解しました」
アッシュの快諾を得て、目的地へ続く道から少し外れた所に居る母に声を掛けようとした時
母の顔が突然こちらに向いたかと思ったら、そのまま無言で迫ってきたので、妙な不気味さに若干警戒してしまった
「アイギナ。丁度いいところで会ったね。話があるのよ」
「あ、あの、お母さま……?」
「でね、話って言うのは……」
お母様は人の話を聞きません
というよりは、自身の都合を優先させるのです
流石にそれは、と苦言を呈した事もありますが、やはり聞いてくれませんでした
今ではそれが当たり前と受け入れてしまっています
ですので、直ぐに対応可能です
「アンタのお気に入りの男が迷宮で重傷を負って昏睡してたんだけど、ついさっき目を覚まして、軽く診察したけど全快したから」
「な!?え……なん!!?」
……対応不可能でした
いきなりの衝撃情報の連続に、赤面するやら血の気が失せるやら
最終的には安堵出来たので、それは良しとしましょう
「ああっと、つまりマイシマ様は今治療院に居られると言う事ですね?」
知りたかった事はお母様がひと息に言い切ってしまったので、それだけを確認する
(……ご無事であるなら、それでいい)
冷静に働く思考の裏側は、強い安心感でいっぱいだった
自分でも不思議だけど、何故か彼に執着してしまう
(よく似ているから?それだけで……。そもそも、それだけなら今までだって何人か居たわ)
傷付いたから、傷付けられたから
守られたから、守りたいから
そんな事、世の中にはありふれている
それに
(そんなの……そんな理由で好…になるって、まるで傷を舐め合っているみたいじゃない)
好感と恋心を同一視してはいけないと、自戒する思考はすぐさま打ち切られることになる
「なんだい、それだけかい?他の女の影とか自分の事を何か言っていなかったかとか、身体の寸法とかナニの大きさとか、もっと他に訊くべき事があるだろうに」
「はぁっ!?何を言っているのお母さん!ちょっと、ちょっちょっと!ここ外!普通に人通るから!」
母はこういう時、本当に嫌だ、恥ずかしい
なんというか、あっけらかんとしている
いわゆる、もにょもにょ……っとした事に対する忌避感や羞恥心というものがない
(だからって、立場のある身でこんな誰が通るかもわからない場所で!)
母は立場に頓着しない
いつでも気ままに振る舞う
それが羨ましくもあったりと、母には複雑な思いも抱いているのだが
「ん?それがどうしたんだい?」
これだ
恥?世間体?他人の目?
そんなの気にしてたら、何も出来やしない
そう言って憚らないのが母で、そんな母に惚れ込んだのが父だ
これで、かつての筆頭貴族ファーレン家の御令嬢というのだ
初めて聞いた時は、貴族ってそういうのだったっけ?と思ったものだ
「はぁ……いえ、もういいです」
「なんだい?すっきりしないねぇ。まあいいさ、でだ」
こっちが諦めると、母も同様に諦めてくれた
前者は逃避で後者は看過という違いこそあれ、母はしつこく付き纏いはしない
「………」
気付けば母はこちらを、黙ってじっと見つめていた
話が終わると、必ずこれをするのが母の癖……の筈だ
弟妹はされたことがないと言っていたが、私は必ずこれをされる
何なのだろうか……よく判らないけど、なんだか落ち着かない
「ん、よし。アンタたち、今帰ってきたんだろう?」
よく判らないままよく判らない内に解放されたらしい
あの状態はあまり好きではないので、正直ほっとした
「は、はい「でだ、あの人に渡してもらいたい物があるんだけどね」…何でしょうか?」
返事も聞かずに話し続けるのも、母の特徴だ
なら訊かないでほしいと思うのもいつもの事
「はい、これ。よろしくねー」
何やら結束された書類を手渡され、またもや返事を聞かず、さっさと治療院の中へ戻っていってしまった
……お母様
娘は何が何やら解りません
「……それを陛下の元へお持ちすればよろしいのではないでしょうか」
母のいつもの無体に固まっていた私に的確な助言を与えてくれたのは、ずっと傍観していたアッシュだった
そう、傍で観ていたのだ、アッシュは
「……そうね、そうなのでしょうね。ところでアッシュ。助けてくれてもよかったのではないかしら?」
完全な八つ当たりだが、仕事中の母に巻き込まれ、もみくちゃにされた私はもう止まれない
アッシュのすまし顔を睨み付け、負け犬根性丸出しの捨て台詞を吐き出す
「いえいえ、滅相も無い。私如き従者風情が、王室の会話に割り込むなど、なんと畏れ多い事か」
……それを言われてしまうと、私には何も言えない
それを知っていて言うのだ、この人は
「……知らない!行くわよ、アッシュ。これを陛下にお届けしなければ」
言い負かされた事に対する些細な憤りも、よく判らない母の行動も、結局会いに行けなくなったマイシマ様の事も、今はそんな使命感で覆い隠してしまう
「了解しました」
アッシュはいつも通りの言葉を返して、粛々と半歩下がって斜め後ろに付き従ってくる
少しだけ、ほんの少しだけ苛つきと鬱陶しさを覚える
それも僅かな間で綺麗に消え去ったが
「それにしても、これは一体何の書類なのかしらね」
少し話が途切れたので、丁度話題になりそうな物を話題に持ち出してみた
「気になるのでしたら、中を検めてみてはいかがですか?」
冗談めかしてそう答えるアッシュ
「ダメよ、アッシュ。検めて…なんて。これはお母様からの預かり物なのですからね」
そんな言い方では、中身を危険物と疑っている様に聞こえる
この場には私達しか居ないから問題ないが、他所でやったら大問題になりかねない
「承知しています。御身の前だからこその、悪ふざけですよ」
気安く返す言葉には、強い信頼が感じられる
それがこの上なく心地良いと感じる様になったのは、何時以来だろうか
「そろそろね」
そう呟く私に、アッシュは言葉を返さなかった
その沈黙すらが、私には心地良かった
辿り着いた陛下の執務室
護衛に立つ近衛兵……その実は、更に選抜された特務隊の者達に断りを入れ、扉の前に立つ
「陛下、アイギナです。先生からの預かり物を持参いたしました」
ノックして名乗りを上げ用件を述べる
一通りの礼儀を通すと、中から入室の許可が下りた
「失礼します」
部屋の外にアッシュを残して、入室する
基本的に部屋の中には護衛は居ない
執務室には窓も無く、また隠れる様な場所も一切ないからだ
入れるのは、今通った扉だけ
調度の類も、執務机と椅子だけ
それ以外は本棚すらないのだから、隠れるも何もないのだが
「アイギナ、今戻ってきたのか?」
真っ直ぐ面前に向かい、書類を手渡す私に、そう問いかける父
ありきたりな話のとっかかりだ
「はい、例の件。折衝は無事完了しました」
端的に成果を報告する
父も、わざわざ詳細に説明せずとも理解できるので
「そうか、ご苦労だったな」
ただ労いの言葉だけを頂戴した
確かな信頼関係在ってこその対応と言えるだろう
そんな信頼する父王の様子がいつもと違う事に気が付くのは、実に自然な反応だと言える
「……お父様、何かお悩みが有るのですか?」
少しの躊躇を越えて、問いを投げ掛ける
親子とはいえ僭越か、しかし案じる心の動きは抑えがたい
その葛藤の表れだ
「………………少しな」
長い沈黙の後に、曖昧な肯定だけが返される
そうなれば、更に気に掛かってしまうのが人情というもので
「詳しくはお話頂けませんか?」
先程までの、僭越うんぬんという葛藤はどこへやら
親子の気安さを前面に押し出しつつも、気品を失わない程度には物腰丁寧に
「………………………………………………怒らない?」
訊ねる言葉に、さっきの三倍の沈黙付きで返ってきた答えは、ある意味で予想を裏切るものだった
それは……
「怒る可能性がある……という事でしょうか?」
心配してある意味温まっていた心が、一気に冷え込むのが自覚できる
こういう時、本当に拙い事を仕出かした訳ではないものの、確実に神経を逆撫でする様なバカを仕出かしているのが常だ
公人として、大国の第一王女として怒る事は無いと確約されたが、個人として、一人の人間アイギナとして激怒する事もまた確約されてしまったのだ
「………………………………………………………………………………………………うん」
今度はさっきの倍、最初の六倍の沈黙が付いてきた
そして、付いてきて欲しくなかった肯定の一言も、付いてきてしまった
「……話してください」
とはいえ、先ずは話を聞かない内は判断し切れない
もしかしたら、本人の思い過ごし思い違いの類で、なんだと苦笑して流せるかもしれないから
…………淡く儚い願望だけど
「じ、実は……」
そうして父が告白した話は、十分に私を激怒させるに足る内容でした
マイシマ様を手中に収めんが為にした画策
その信条を理由に追い込みを掛けて
目的を諦めさせて手元に囲ってしまおうと
その為に私の友人達を口実に使ったと
あまつさえ、それはとんだ勘違いで
マイシマ様の目的が果たされれば、こちらとしても万々歳で
でも果たせるとは思えなくて
でも今回の謀りはすべきでは無かったと
怒りで思考が滅茶苦茶に乱れ切って、理解が散文的になってしまった
だけど、大体こんな感じの弁解を父はその――最近口臭が気になり出した――無駄に形の整った口から垂れ流した
ダンッ!!!
部屋の中に乱暴な轟音が鳴り響く
私が執務机に乗り上げた音だ
そのまま父の胸倉を引っ掴んで引き寄せる
きっと今の私は、誰にも見せられない淑女失格の表情をしている事だろう
だがそれがどうした?
そんな世間体などどうでもいい
今この瞬間、最も大事なのは、在り得ざる愚行……愚かというのも愚か者に申し訳ない位のバカをやらかした父を誅罰する事だ
「ア、アイギナ……落ち着こう?な?暴力は良くないぞ」
そんな宥めかかる言葉さえ癇に障る
自身の激情が、為政者として統治者として、あってはならない愚挙であると自覚しても尚有り余る憤激
身の内で吠え猛る暴虐は、黒々と意識を染め上げる
(ああ……どこからこれほどの暴威が溢れ出てくるのか……)
猛りに走る心の裏側で不思議と平静にそう考えるが、表の猛りは留まる事は無い
「ま、拙い!!」
焦る父の言葉を聞き流す
心なしか辺りが暗くなっている気がしたが、そんな些末事はお構いなし
今まで生きてきた記憶にも無い程に怒り狂った私は、どうせ通じないのだからと全開の敵意を宿した拳を振り下ろす
「……陛下、マイシマ サトル様が面会を求めていますが……如何致しましょうか?」
最中で、響くノック音と誰かの問いかける声
その声に含まれていた名前に、黒く染まった思考は漂白され、猛りは穏やかに鎮められる
「………アイギナ?戻ってきたのか……」
父の声が、安堵に満ちた声が聞こえたが、ただ聞こえただけで、意識に入り込む事は無かった
何故なら、その時私の意識は二つの感情に占拠されて混乱を極めていたのだから
(え?マイシマ様が!?ここに!!?やだ、こんなはしたない姿!)
(何今のは!?私何をしようと?)
自身の行いへの強烈な恐怖
気になる男性に対する見栄
(それより何よりマイシマ様!ここへいらっしゃるの!!?大丈夫なの!?)
それらも結局は心配に上書きされてしまう
お身体は……母の話では全快したらしい
でもお心は?父の愚かな謀りで傷付いていらっしゃるのでは
「…ああ、その者なら通して構わん」
父のその言葉に、やっと自分の状況を認識出来る様になったところで、マイシマ様が入室してきました
「待って!私」
今とてもお見せできない状況なんです!と叫ぼうとするも声は出ず
執務机の上に膝立ちになって父の胸倉を掴み上げた姿を、マイシマ様に見られてしまった
(ああ……終わった……私のもにょもにょ……終わった)
ASAPって宇多田ヒカルの曲あったよね
俺はSAKURAドロップスが好きですが
さて、今回は王妃様の人柄の紹介で前半を
そして、アイギナの強化フラグに後半を費やしました
はい、アイギナさん強化フラグ立ちました
さてどんなものでしょうか、という事で
アシュレイ(愛称アッシュ)はついでです
次回は理くんの独白、というか自身の今後の展望について考えます
その上で、今回の最終場面に遭遇、という形で締める事になる、かな?多分
ただ、今月はこれが最後の投稿になる可能性大です
前回言いましたね、抱負を早速破っちゃうよって
それです、メチャクチャ忙しくなります
という訳で、次回投稿は三月になると思います
乞うご期待!
面白いと思って頂けたら
評価、ブクマお願いします
励みになります
↑
以上定型文




