第三十話
ちょっと予定していた内容と異なりますが、投稿します
こういう感じのキャラが、結構好みです
あの草原での狩りから一日経った今
俺は自室にて、昨日の反省会を開催していた
「で?何か怪我したって報告で聞いたんだが、その辺はどうなんだ?」
「おう、そうだそうだ。大丈夫なのか?」
……何故か、おっさん二人が居て、やいのやいの喧しいが……
酒なんか持ち込んでるガブガブ飲んでるし…
今早朝なんだが、この人ら、仕事は大丈夫なのか?俺の知ったこっちゃないが
「それは報告が上がっているはずだろう?これこの通り、もう傷痕一つ無いよ。凄いな、回復魔法って」
俺はおっさん共の酒の肴にされている事に目をつぶって、服を軽く捲って左脇腹を見せる
言葉通り、そこには昨日受けた、肉の抉れた傷が無く、痕も残らず消えて綺麗な肌を曝していた
「いや、確かに報告は受けたがよ。こういうのは直に確かめないと落ち着かないんだ、俺は」
そう言うのは、酒飲みおっさんの片割れ、この国の国王、ギュスターヴ陛下だ
便宜的に陛下等と尊称を付けているが、既に親戚のおじさん程度の扱いしかしていない
さっきも、ズカズカ上がり込んできたこの人に椅子も勧めなかった
まあ、椅子がそもそも一脚しか無いと判るや、どこからか調達してきて机も勝手に動かして居座り体勢を構築してしまったのだが
ホント、親戚のおじさんっていうか、まるまる一人暮らしの部屋に訪ねてきた父親って感じだ
「そうだぞ、サトル。そもそも、その報告もアルベルトが上げてきた正確さに欠けるものだけなのだから、陛下でなくても心配になろうというものだ」
こちらの、若干いつもより口調の堅いおっさんが、この国の国軍最高位である元帥閣下、ヘクターさんだ
この人も、最早俺に対する扱いが、完全に手の掛かる子供に対するそれだ
アンタは俺の母親か?
無事に帰ってきました、でも少し怪我しました、でも綺麗に治りました
これで別に問題ないだろうに、わざわざ早朝に部屋まで押しかけて確認しなくていいと思う
あと、酒樽と何やら食い物の乗った皿を持ってくるのは止めろと言いたい
なんで樽なんだよ、アンタらどれだけ部屋に居座るつもりだ
まあ、ヘクターさんは真面目な人だから、これは国王の命令なんだろう
だが、俺は同情しない
何故なら、さっきから当の国王を差し置いて、ガブガブと水の様に酒を飲んでいるのは、他でもないヘクターさんだからだ
ああ、この人は絶対に嬉々として、その命令に従ったのだろう
「それで?もう用事は済んだよな?俺はこの後、昨日の反省点の見直しをしたいんだ。だから、出てってくれると助かるんだが…」
最早、それらに突っ込む気力も湧かない俺は、完全に呆れ顔をしているだろう事を隠そうともせず、この大国有数の権力者二名に、迂遠に出て行けと命じる
本来なら、こちらは間借りしている立場だし、何より寝食の世話をしてもらっているのだから、こんな物言いは、例え相手が権力者でなくとも有り得ない無礼なのだが、もう俺はこのおっさん達に対して丁寧に接する事が難しくなってしまっていた
いや、別に嫌いって訳じゃない
寧ろ、こんな弱々しい役立たずな俺を、快く受け入れて、不自由しないように世話までしてくれているのだ
これで嫌える奴は、性格が社会生活困難なレベルで歪んでいるだろう
だが、この人達
偉い人達なのに、威厳というものを、俺の前であまり見せないのだ
今も目の前では、何やらよく分からない肴をつまみながら、酒をガブガブ飲んでいる呑べえの姿を晒している
これにどうやって、畏敬の念を抱けというのか、誰か教えてほしい
そうした理由で、どうしても尊敬とか敬意より親近感が先に立ってしまい、どうにも軽い扱いをしてしまうのだ
こればかりは、俺だけの問題ではないので、目の前で肴に舌鼓を打っているおっさん達にも協力してもらわなければならない
のだが、どうにも協力してくれそうにないので、彼らに対する扱いは、休日にダラダラしている父親に対するそれでいいや、と決心する
「おい、ヘクター。何かサトル、一人で反省会するんだってよ。どうする?」
どうする?じゃなくて、出てけよ
「サトル、反省点を洗い出しても、一人では良い改善案が浮かぶとは限らないぞ。俺達も参加しよう」
参加しよう、って既に決定かよ!?
どうでもいいが、俺達って、国王の意見聞かなくていいのか、主君だろ?
「おい、俺の意見は訊かんのか?まあ、参加するが」
そう言いながら盃になみなみと酒を注ぎ、一気に呷る
「肝心の俺の意見は訊かないんだな。それよりも国王のおっさん。アンタ、朝っぱらから酒かっ喰らってていいのかよ?あと、ペース速いぞ、もっとゆっくり飲めよ。後が辛いぞ」
一気に捲し立てて、反論を封じに掛かる
国王を、おっさん呼ばわりした時に、ヘクターさんが少し反応したが、当の本人が気にして無さそうだったので、スルーする事にしたらしい
「いいじゃねぇか、お前も俺達の意見を聞けた方が助かるだろう?あと、今日は休みだ。だから、朝から飲んでも問題ない!」
そこまで一息に言い切って、手酌で酒を飲む国王のおっさん
そして、何やら真剣な表情をして、こちらをじっと見つめてくる
流石におっさん呼ばわりは拙かったかな?と、反省する
「そして、これが何よりも大事な事だが……」
そこまで言って、何やら溜めを作る
怒らせちゃったか、と叱られる覚悟を決める
「二日酔いが怖くて、酒飲みがやってられるか!!」
瞼をカッと見開いて、目力強くして何を言い出すかと思ったら、酒飲みが何だって?
「そうだぞ、サトル。大人にはな、酒で洗い流さないとやってられない事が多くあるんだ。その為なら、二日酔いなんか怖くない。寧ろ、それを恐れて、酒を節制させられる方が恐ろしい」
真面目な筈のヘクターさん、もうヘクターでいいや、ヘクターが印象にピッタリの真面目な表情で、ダメな大人理論を訥々と語り出す
「ダメだ、こいつら。俺にゃあ手に負えん」
早々に彼らへのツッコミを放棄する事を決断する
思わず、口に出た俺の言葉に、ダメな大人達はガハハと笑って喰い付いてきた
「ガハハハハ!ダメだって!俺らダメだって!なあ、ヘクター!俺らダメだって!!」
「まあ、サトルはまだ子供だからな。大人の哀愁は理解出来んか」
おっさんが大笑し、ヘクターが苦笑する
最早突っ込む気はさらさら無いが、完全にただの親戚の集まりで酔っぱらってる大人になってるな
おっさん、もう酔っぱらってんじゃねぇか、だからペース速いって言ったんだよ!
「はぁ……もういいや。確かに、アンタらの意見を聞けるのは有り難いしな」
半ば諦めの境地で、連中を一人反省会に加える事に決める
連中が加わるなら、一人反省会ではないか
俺は、盃とつまみが置かれた机まで、自分の椅子を持ってきて腰掛ける
使っている机は食事用の円形の物で、三人で囲むのにちょうどいい大きさだった
それを、二人は対面に座り使用していたので、片方に少し移動してもらう事にした
「ほら、俺も座るから、もう少しそっち行って」
こういう場合、二人の内、立場の低いヘクターが動くのだろうが、国王のおっさんは何故か率先してずれたので、ヘクターもそれに合わせて、少しだけ椅子をずらした
こういうとこを見ると、国王のおっさんは良い上司だと思えるのだが、如何せん威厳を感じさせてくれないせいで、敬おうという気にさせない
これもある意味では、処世術と言えるのかもしれない
親しみを抱かせる、という意味では大成功だろう
畏敬の念は欠片も抱けないが
空けてくれたので、ちょうど正三角形の角に当たる位置に腰掛ける
「さて、では反省会を始めたいが…おっさん共、酒を飲むのを一旦止めようか?」
俺は、おっさん達に盃を今だけ置く様に求めた
流石に場が締まらないので、俺としては当然の要求をしたつもりだったのだが、ダメな大人達からは当然の権利を主張する様に、非難の声が上がった
「何でだよー、俺の楽しみを邪魔する気かー?サトルの失敗談を聞きながら飲む酒は最高だと思うんだがなぁ」
口を3の形に尖らせて、ブーブー抜かす国王のおっさん
考えない様にしていたが、俺を揶揄いたいだけじゃないか?
「サトル。まあ、そう固くならなくてもいいじゃないか。この場は無礼講だ。ほら、お前もどうだ?」
何やら諭す様な口調で、理屈にもなってない理屈を吐くヘクター
流石に酒は勧めなかったが、代わりにつまみの皿をこちらに差し出してきた
「いや、さっき朝飯食ったばかりだから要らん。というか、真面目にやれって。こちとら真剣なんだよ」
これも、俺としては当然の要求だと思う
この場に残って、反省会に参加したいと言い出したのは、この二人なのだから、これくらいの要求はしても罰は当たらないだろう
「何を言うか。俺達は何時だって真剣だぞ。これも国の為、延いては世界の為なのだ」
寝言は寝て言え、国王様よ
「安心しろ。意見はちゃんとするし、進行の邪魔もしない」
ヘクターさんよ、それは当たり前の事だぞ
俺の要求は、然も子供の戯言の様に、即座に却下された
なんか、理不尽に満ちた社会の縮図の様だなぁ、と現実逃避するが、連中はそんな事は許してくれないらしい
「では、先ずは戦闘の様子から聞かせてもらおうか」
「そうだな。アルベルトから報告は受け取っているが、どうにも偏向的というか、建設的な内容じゃなかったからな。改めてサトルから聞きたいな」
「アルベルトって、アイギナのお付きの?なんでアイツがサトルに付いてんだ?近衛の仕事はどうした」
衝撃の事実発覚
あの無能騎士は、なんとアイギナさんのお付きの近衛騎士らしい
ホントに、なんでそんな奴が俺に付いてきたんだ?訳が分からん
「勿論、初めは別の者が付く予定でした。ですが、アイギナ王女たっての願いで、アルベルトがサトルに付く事になったのです。まあ、結果は芳しくなかった様ですが」
そう言って、こちらをちらと横目で見てくるヘクター
どうやら、俺の心情が顔に表れてしまっている様だ
きっと苦い粉薬が舌に纏わり付いて中々飲み込めない時の様な顔をしているのだろう
「ん?アイツは俺も会った事があるが、そんな問題のある奴には見えなかったぞ」
もしそう見えたなら、おっさんに見る目が無かったか、奴の猫かぶりが余程上手かったのだろうな
アイツも、そんな事ばかり上手くならないで、戦場での判断力を磨けばいいのに
「……その様子だと、相当な目にあったみたいだな。取りあえず、話を戻して、戦闘の様子を聞くか」
国王のおっさんが、そう促してくるので、俺は出来るだけ正確に、客観的になるように努めて、語り聞かせた
アルベルトの態度に関しては、奴の個人的な感情の問題なので、この場では話題にしない
「つまり、奇襲の機会をアルベルトに潰されて、その結果苦戦する羽目になったと…」
「いや、奇襲の機会を潰されたのは事実だが、それと苦戦は関係ない。単に俺が鈍くさかっただけだ」
そう、確かに有利な条件を棄てざるを得なかったが、だからといって奇襲が成功していたら苦戦しなかったのか、と問われれば、そうだと断言するのは難しい
そう断言できる程上出来な動きが出来た訳ではないからだ
特に、ゴブリンの武器を受け止めた時と、二匹を倒した後に油断した事は、上出来どころか大いに反省しなければならない点だろう
特に油断した事は、俺の弱体化とは全く関係ない事だ
「ん?どうした、サトル。急に壁に手をついて」
うるさいな、反省だよ反省
だが、反省点ばかりではない、吉報もあったのだ
三匹目に腹を突かれた後、咄嗟に反撃を選択したが、あれは非常に良かった
あの場でもしも距離を離す事を選択していたら、大変なことになっていたかもしれないのだ
「そうだな。聞く限りでは、サトルの選択は正解だったと思うぞ。それほど深くないとは言っても、決して浅くない怪我をしていた様だし、やはり動きは鈍っただろう。二匹を同時に仕留めた手腕には脱帽だが、それは十全な状態だったからで、怪我をしていたならどうなっていたか判らんしな。まあ、その場合はアルベルトが割って入るだろうが」
ヘクターの言う通り、正直あのまま戦闘続行はキツかった
一瞬の出来事だったから痛みを無視できたが、継続的に襲ってくる痛みでは、流石にそうはいかないだろう
確実に動きが阻害され、判断力は低下し、結果として無能騎士の介入を許していただろう
故に、その判断は正解であり、その一瞬の判断が出来る判断力
それが落ちていない事は、俺にとってかなり嬉しいニュースだった
そう言えば、ステータスの項目に判断力って無いもんな
まあ、判断力なんてどうやって数値化するんだって話だが
「だが、聞くところによると、アルベルトの奴、かなり問題なんじゃないか?なんだ、ここで実践にするって。近くに敵がいる事を教えるのも良くないな。そんな実戦があるわけないだろうに。どう考えても面倒くさかっただけだろ。そんなにサトルの付き添いは嫌だったのかねぇ?」
「アルベルトはまだ若いので、教官の経験などは無い筈です。それを踏まえれば、あながち責められもしないのですが……今回は、アルベルトが事前に取っていた態度が、やはり問題視されるでしょう。明らかにサトルを見下していましたし、その為に、今回の任には乗り気では無かった様ですから」
やはり奴は無能だった訳だ、教官としては
なら何故にそんな奴を選任したのか、と訊けば、やはりアイギナさんの推挙が大きいらしい
アイギナさんには色々と心を砕いてもらったが、こればかりは余計な事をしてくれたと苦言を呈したい気分だ
「…アイギナは、なんでアルベルトをそこまでしてサトルの付添人に押し込んだんだ?アイツが言わなきゃ、近衛が付くなんて有り得なかった訳だろ?そうすれば、元々予定していた騎士隊の誰か、適材の奴が任されたはずだ」
そう、確かにおっさんの言う通り、アルベルトは相応の実力者だという事は、その役職が証明している
目の前に居る二人が、コネや賄賂による不正な出世を許すとは思えないので、やはりアルベルトには近衛騎士に相応しい実力が備わっているのだろう
だが、冷静に考えてみてほしい
幾ら戦闘力に優れようとも、それがイコール戦闘教官としての実力、適性に繋がるか・と言えば、それは無いと答えるしかない
日本には、この様な格言がある
「名プレイヤー、必ずしも名監督に非ず」
現役でブイブイ言わしていた(死語)名選手が引退後、一転、監督としてその世界に留まるというのはよく聞く話だ
だが、彼が監督としてもブイブイ言わせられるか、それは彼に監督としての適性が有るか否かの問題であって、選手として如何に優れていたかは関係の無いものなのだ
今回は、正にそうした事と同じ問題が発生したのだろう
恐らくアイギナさんは、俺を純粋に心配してアルベルトを付けてくれたのではないだろうか
別に、遠回しな悪戯や、嫌がらせだとは僅かも思っていない
多分、アルベルトの事を相当に信頼しているのだろう
そんな彼にだからこそ、俺の付き添いを頼んだのではないだろうか、そこまでしてくれる理由が分からんが
だが、さっきも言った様に、アルベルトには騎士としての適性は有っても、教官としての適性は無かった
或いは、教官としての能力、と言おうか
そうしたものは、生まれ持った才能であったり、費やした時間から得られる経験であったり、そうしたもので磨かれるものだと思うのだが、アルベルトはまだ若く、そうした経験は積んでいなかった、いや、そもそもまだそういう経験を積む予定ではなかったのだろう
(これは、一概にアイツを無能と責められんな……)
誰だって、いきなり経験したことの無い仕事を任されて、誰にもケチを付けられない結果を出せ、とか言われたって、正直敵わないだろう
それ以外の、アイツの俺に対する態度や言動なんかは、まあ許容範囲内というか、別に間違ったことは言っていなかったので、そこは良しとしよう
「確かに、そうした者を選抜していました。実際、他の異世界人達に付いた騎士達は、全員隊長経験のある者ばかりですし。サトルの場合だけが例外ですね。私も、実力は十分だと認めてしまったので。申し訳ございません」
ヘクターが、国王のおっさんに頭を下げる
「サトルも、こちらのミスでとんだ目に合わせてしまった。出発前のアルベルトの態度を見た時点で、無理にでも変えておけばよかった。本当に、申し訳ない」
こちらに向き直り、しっかりと頭を下げて謝罪した
ここまでされる程ではないと思うが、やはり大人の世界には色々あるんだろう
子供の俺は、大人しく謝罪を受け入れる事しか出来なかった
「別に気にしてないよ。大体の事情も理解出来たしな。誰かを責めて、どうにかなるって問題でも無さそうだ」
そう、今回は色々と空回りした結果の出来事だったのだ
発端はアイギナさんの横車
それも、純粋に俺を心配してくれての事なのだから、そうそう責められるものではない
ただ、ちょっと過剰じゃないかな?とは思うが
次は、騎士隊の誰か
第一王女とは言え、アイギナさんの横紙破りを受け入れてしまったのは、公人としては大いに問題ありだろう、個人的にはどうでもいいが
次は、それを見過ごしたヘクター
これは軍の最高責任者として、ちょっと問題だとは思うが、それに関して俺がどうこう言うのは筋が通らない
故に、気にしていないと言ったのだ
そして、アルベルト
こいつもある意味被害者だろう
経験のない仕事を命じられ、それを好ましくない人間と一緒にしなければならないなんて、俺なら上司に直訴しそうだ
こいつに対する遺恨は遺さないと、密かに心に決める
総じて言えば、まあツイてなかったな、くらいか
正直この世界に来てからこっち、人情溢れる人達にお世話になった為か、多少の無礼はサラリと受け流せる心の余裕が生まれている
まあ、女神の所業で、明確な逆鱗も生まれているのですけどね
「その件に関しては、俺の方で何とかしておこう。それで、サトル。反省点はそれで終わりか?」
意外にも反省点が少ないから、国王のおっさんは不思議に思ったのだろう
そう言って、確認してきた
「……そう、だな。自画自賛する訳では無いが、事前にかなりの準備をしていたお陰か、省みる点は余り無かったと思う。この反省会は無駄だったかもな」
唯一の収穫は、アルベルトに対する認識を改められた事だが、そんな事に国王と元帥を付き合わせてしまったのが、なんだか申し訳なく思ってしまった
「済まなかったな。俺が大袈裟に、反省会だ、なんて言ったから時間を作ってくれたんだろう?なのに大した収穫も無かった。無駄足を踏ませてしまったな」
そう、この人達は、この国でも上から数えた方が早い権力者だ
そんな人が、休みだからって俺の安否を確認するのに、自ら足を運ぶ必要なんか無いはずなんだ
それなのに、直接訪れたのは、それだけ心配してくれたのだろう
反省会に参加したのも、反省点に対して適切な助言をする為
酒を持ち込んだのも、俺に気負わせない為だろう
「え?俺ら、ホントに今日は休みで酒盛りするつもりだったんだけど?なあ、ヘクター」
……ん?今なんて?
「ええ、今日は久々の休暇で、どうせなら、サトルの体調を確認がてら酒でも付き合わせようかと、陛下が言い出してな」
……よく聞こえないなぁ………
「そうそう、ヒドイよなぁ。エドガーもリチャードも誘ったのに、あいつら素気無く断るんだから」
俺の気遣いは一体何だったのか…
「仕方がありません。財務卿も政務卿も、今はどこも忙しいですからな。我々とて、今日休みを取るまでは連日早朝から深夜まで働き詰めだったではないですか」
何か新キャラが紹介されている気がするが、ちょっと喰い付く気にはなれないなぁ
「はぁ……このおっさん共は……」
思わずため息を吐いてしまった俺を、一体誰が咎められよう
もう、ホントにね、おっさん連中に振り回される子供の気分だよ
いや、実際、おっさんとガキなんだが
「「……」」
そんな俺の様子を見て、二人は何やら黙ってしまった
不審に思い、じーっと見つめると、こちらに背を向けて、何か密談をし出した
(おい、なんかため息吐かれたんだが、アイツ、どうしたんだ?)
(さぁ?私は何分子供が居ないので、そういう機微にどうにも疎くて…陛下こそ、三人の御子がいらっしゃるのですから、その経験で何か分からないのですか?)
(無茶言うなよ。お前もさっき言ってたろ?忙しくて、子育てなんかしたことねぇよ。殆ど嫁さんとか侍従に任せっきり。おしめ替えた経験もないわ)
(……自慢げに言う事ではないと思いますが……それでよく、あんな立派に育ちましたね)
(まあな!俺の影響が無かったのが、逆に良かったんじゃないか?)
(だから、自慢げに言うことじゃないですって)
二人がひそひそ話している内に、俺も少し落ち着いたので、二人にはこちらに戻ってきてもらう事にした
「とにかく、反省会はこれにて終了!はい、解散!酒盛りなら他所でやれ!」
戻ってきてもらうというか、あっち行ってもらうと言った方が正しいかもしれない
追い出すような真似をするのは、本当は心苦しいのだが、このままここに居られると、まともに動く事も出来そうにない
それどころか、酒盛りに付き合わされるかもしれないのだ
それは正直御免被る
俺には時間がないのだから
「ええー!いいじゃねぇか、酌してくれよー、子供たちは誰も相手してくれないんだよー」
子供か!
「子供か!」
いかんいかん、つい本音が
どうにも、この人相手だと対応が雑になってしまうな
いやね?ホントに感謝しているのよ?でもね、どうにも以下略
心の中で、呆れ全部でそう思っていると、唐突に真面目な顔をした国王のおっさんが、こちらをじっと見つめているのに気が付いた
「まあ、そう言うなよ。お前は大した事は無いと言ったが、回復魔法で治療したのなら、体には負担がかかっているものなんだ。だから、今日は大人しく休んでいた方がいいんだぞ」
またもや寝耳に水情報が
それが本当なら、これからしようと思っていた、次の準備の為に動くのも控えた方がいいのかもしれない
そう言えば、今日は寝起きが悪かったが、あれはそういう事だったのかもしれないな
「初耳だが、まあ、思い当たる節はあるな。何より道理に適っている」
「そうだろう?だから、次の準備を始めるのは明日以降にしとけ。で、今日は俺らと食っちゃ寝しようぜ!」
なんでこう、こっちが神妙な気分になっているのに水を差すかね……
「サトル、食っちゃ寝にも、ちゃんとした理由があるのだぞ?別に遊んでいる訳では無いのだ」
「ヘクター……アンタが言っても説得力が無ぇよ…」
盛大にため息を吐いてしまったのも、無理からぬ事だと見逃してもらいたい
いや、言う事は一々もっともなんだが、さっきから一度として盃を手放さず、言葉を発していない時以外は大抵、盃に口を付けているのを、横目に見ていると、どうしても今の台詞に説得力を感じることが出来ない
というか、さっきから俺、ため息吐き過ぎじゃないか?
「さて、冗談はここまでにしよう。いい加減、つまみも無くなりそうだからな」
話を切り上げようとしているのは、正直有り難いが、そんな理由ですか?
そう思ったが、口に出す気力は既に無い
古来より、まともに酔っ払いの相手をしてはならない、と言い伝えられている
ならば、この心胆を覆う疲労の影は、その先達の教えに背いた報いなのだろう
黙っている俺を見て、続きを促されていると思ったのか、おっさんは言葉を続けた
「サトル、お前、次はどうするつもりなんだ?」
「は?」
思わぬ質問に、そんな素っ頓狂な声を上げてしまったが、それも仕方なかろうと思う
俺の姿勢は、目的は、些かもぶれていない、変わらずこの胸の内にあるのだから
「いや、は?じゃなくてな。次の行動をどうするか、って訊いたんだよ」
「いやいや、それに関しては、事前に言ってあるだろ?迷宮に行くって。だから、次は迷宮に向かうよ」
そう、今回の件で、幾つかの発見があった
先ずは、身体の調子
以前に比べて、遥かに性能が落ちているのを実感したが、一度経験してしまえば、それに戦闘思考を合わせるのは容易だろう
次に、ステータス外の能力について
戦闘時の判断力や戦術思考に翳り見られなかったのは、嬉しい誤算だ
探せば、こうした隠された要素はまだまだありそうだ
最後に、これが最も重要だが、今後も使える有効な攻撃手段を得た事だ
今回、最も確かめたかったのは、実を言うとこれだった
俺のステータスは低い、というのは既に納得している事だが、この世界に於いて、強くなると言う事は戦いに身を投じる、という事だ
そして、戦う以上は必ず持っていなければならないものがある
それは、相手を攻撃する手段だ
防御しか出来ないのでは勝利は得られない、当たり前の事だ
だが、この世界のダメージ計算は単純な減算方式だ
攻撃力魔法力が、対物力抗魔力を上回っていなければ、相手に有効なダメージは与えられない
これを覆す手段は、残念ながら見つける事は出来なかった
さて、それらを踏まえた上で、今回の戦いを振り返ってみよう
まず俺は、正面二方向から突撃してきたゴブリン二匹の攻撃をいなし、然るのち一撃で即死させた
そして続く不意打ちで負傷し、相手を思い切り殴り飛ばした後、防具重量を活かして腹部を踏みつけて殺した
ここまでで、疑問に思う点が出てくる
先の二匹は一撃で即死させたのに、後の一匹は二発、攻撃を喰らわせている
恐らくだが、この三匹にはそれほどの能力差はないだろう、見た目も大きさも、すぐに分かる様な違いは無かった
そして、誓って言うが、俺は反撃には全力を傾けた
痛みに体の動きが鈍ったかもしれないが、それでも今の俺が出来る最高の一撃だったという自信がある
それでもなお、先の攻撃よりも威力的に劣っていたという事実
これから導き出せる推論は二つ
一つは、急所への攻撃
当たり前だが、生き物である以上は急所というものは存在する
今回攻撃した部位は、最初の二匹が頭部、それも頭蓋を貫き脳髄にダメージを通した
後の一匹が側頭部に打撃、そして胸腹部を強く圧迫した
この内、致命傷を与えたのは、脳髄の破壊と胸腹部、内臓の破壊だ
当然、こうなっては生き物が生きていける筈がない
だが、ここで再び疑問が湧く
この世界に於いて、死に至る要因は数在れど、死という状態を生み出すのは、生命力が無くなった時だけだ
そして、生命力は先に述べた引き算でゼロにする事が出来る
この一つ目の推論は、この理屈に真っ向から反論するものだ
なにせ、肝心要の引き算を否定しているのだから
正確には、もっと複雑な計算式で使ってますよ、と今の方式に胡坐を掻くこの世界の人間を嘲笑っている、と言うべきだろうか
いやまあ、そこまで複雑な式にはならないんだろうが
例えば、急所に対する攻撃には一定の倍率が乗算される、とか
それが事実なら、脳ミソぶっ壊されても動いて攻撃してくる、頭を切り落とされても突撃してくる、とか考えられるんだが、想像したくないなそれは
さて、二つ目の推論だ
俺は、先の二匹には自前の武器で攻撃していない、という点に着目した
では何を用いたか
ゴブリンの頭に生えていた角を使ったのだ
つまり、単純な話、俺の拳の一撃よりもゴブリンの角での一撃の方が攻撃力が高いという事だ
聞いた話だが、古武術には、刃物を持った相手の腕を取り、切っ先を相手に返す、という技術が存在するらしい
これは、武術の本質に則った技術だ
即ち、弱者が強者を制する、という事
この場合の弱者は刃物を持たない者、強者とは刃物を持つ者を指す
これを俺の場合に置き換えてみよう
強者とはステータスが高い者、そして弱者はステータスが低い者、つまり俺だ
詳しく説明すると長くなるので、結論に入るが、つまり相手の武器、この場合は牙や爪、角などだ
それを利用し、敵にダメージを与えるという戦術が有効だ、という話だ
更に発展させれば、敵の攻撃を別の敵に命中させて、同士討ちを狙う、という事も視野に入る
これは、実は俺の戦闘スタイルに合致する戦術だったりする
俺の戦闘スタイルは観察、待ちが基本だ
そして、防御、回避、受け流しを行い、隙を見て反撃、というのが俺の常道なのだ
故に、先の戦い方は俺にとっては普段の延長線上の事で、何も難しいことではない
今回は、油断から不意打ちを受けてしまったが、本来は多数との戦いでこそ本領を発揮できる
という訳で、今後はこの戦術が基本となるだろう
と、考えに没頭してしまったが、おっさん達はじっと待っていてくれたようだ
これが大人の余裕かね?
そんな事を考えるが、先ずは返答する事を優先する
「今回の事での収穫は大きかった。迷宮に入っても何とかなる可能性が出てきたんだからな」
俺は出来る限りの誠意を込めて言葉を吐き出す
この人達は、恐らく俺に勝算が、勝ち残る可能性が無いと判断すれば、俺の迷宮入りに反対するだろう
それどころか、迷宮入りを妨害してくる可能性もある
そうなれば、直ぐに迷宮に入るのは絶望的になるだろう
なにせ、外で狩っても経験値は手に入るのだから、なら外で狩ってこい、という話になるのはごく自然だろう
だからこそ、ここで半端な態度を見せる事は出来ない
本気なのだと、死に急いでいるのではないのだと、理解させなければならない
それは、言葉を尽くして得るものではない、態度で示さなければならない
「もう一度言うが、死ぬ可能性が極めて高い。お前が見出した可能性も、どこまで当てになるか分からん。それでも行くんだな?」
「行く。ここで立ち止まったら、俺はもう二度と立ち上がれないだろう、この先の人生をずっと這い蹲って生きる事になる」
生き甲斐を失った人生に、如何程の価値が在ろうか
勿論、長い人生、他の生き甲斐を見つけることが出来るかもしれない
だが、それはここで退く理由にはならない
故に俺は往かなければならない、俺の今までを無駄にしない為にも
「………はぁ〜……頑固な奴だな、おい。なんか、こういうやり取り、他にもやった記憶があるわ」
やがて、根負けしたのか、おっさんは深くため息を吐いた
他にも云々は知らん、気になるが、今はスルーだ
「陛下、良いではないですか。若いうちの無謀は寧ろ進んでせよ、とも言いますし。死んだら死んだで、そこまでの人生だったと諦めましょう」
そんな格言初めて聞いたわ、あと、人の人生を勝手に諦めるなよ
「分かった分かった!じゃあ、サトル。お前にこれを渡そう」
そう言って国王のおっさんが懐から取り出したのは、一つの不思議な光沢を放つメダルだった
それを受け取り、色々な角度から眺める
青紫色のメダルは、光に翳すと不思議と赤系の光が照り返ってきた
そんな不思議な金属で出来たメダルの表面には、何やら模様が刻まれている
単純な模様で、交差する剣が四角く浮き彫りにされた中に刻まれている
「それは俺の紋章だ。それを持つという事は、俺の勅命を受けて動くという事を意味している。このカエシウス王国内で、それを持っていて入れない場所は無い。どんな機密のある場所でもな」
ごくりと固唾を飲む音が聞こえる
それほどの物を渡すとは…
事ここに至り、俺を高く評価していると言った言葉が、より真実味を帯びて重く圧し掛かってくる
これを渡された事は、俺が望んだ以上に、重い責任が付随するものだ
「重いだろう?それが特別であるという重みだ。お前はそうなろうとしているんだ」
後半、言ってる意味は理解出来なかったが、前半は理解出来た
国王はこれほどの重みを背負って、その地位にいるのだ
途端に、自身の都合しか考えていなかった事が恥ずかしくて仕方がなくなった
それと同時に、それほどの人物が期待を掛けてくれている事に、喜びが湧いてくる
「それでも、その重みも強さに変えて見せる」
そう言葉にして、決意を新たにする
その実、大した意味はない
ただ、このメダルを有効活用する
そして強くなる、それだけの言葉だった
偉大なる先達にそう誓うと、国王達はその顔に優しさを感じさせる笑みを浮かべた
もしかしたら、勘違いをさせてしまっただろうか、と思いながらも訂正はしない
徐に立ち上がった二人は、国王のおっさんがつまみの皿と盃、二脚の椅子を、ヘクターが大きな酒樽を抱えて扉から出て行こうとする
その途中で立ち止まると、こちらを振り返り、こう尋ねてきた
「もう向かう迷宮は決めているんだろう?どこを選んだのか、教えてくれないか?」
そう問われた俺は、隠す理由もないと、端的に答えを示す
「王都第三公園迷宮へ」
聞くに何とも穏やかな名前だが、これでもれっきとした迷宮で、規模としては小規模の迷宮に該当する
この王都内に二つ存在する迷宮の一つだ
その立地条件、小規模迷宮であることから、王都の住民は皆、初めて進入する迷宮としてここを選択する
文字通り、王都に幾つかある公園の内、第三公園と呼ばれる公園の中に入り口がある、地下に存在する迷宮だ
弱っちい俺が選ぶには、妥当な選択だと、自信をもって言える
「そうか」
それだけ言うと、再び歩を進める国王のおっさん
最早完全に俺の中で定着したおっさん呼びだが、この胸の内には強い尊敬の念が刻まれている
熱い感情を胸に見送る俺に、何やら言い忘れた、という態で言葉が投げ掛けられた
「あ、そうそう。どこでも入れるとは言ったけど、女性風呂やトイレ、更衣室なんかには入れないから、それは気を付けろよ?普通に捕まるぞ」
………はい?
何だろうか、幻聴?そうだ、幻聴だな
「そういえば陛下、前に仰ってましたね。若い頃に父親から紋章を頂いた時に、女風呂覗けるんじゃないか?って思ったと。まあ、私も男ですから、そう考えるのも分かりますが」
真面目なヘクターも、何やら便乗しだした
そんな暴露は要らんのですよ、エロ親父どもよ
幻聴ではありませんでした
何か言わねば言い返さねば、と思いながらも、余りの事態に思考が混乱して使い物にならなくなり、何のリアクションも返す事が出来なかった
それをどう勘違いしたのか
「ハハハハッ!!図星か!しょうがねぇ奴だなぁ…」
「サトルも男、という事でしょう。サトル、それを責めはしないが、程々にな。覗きは犯罪だぞ?」
二人とも、顔がニヤニヤしてて、非常にひじょ〜に腹が立つ
混乱に加えて苛立ちが追加され、思考のエンストは容易にリカバリー出来ない領域に突入した
口をパクパクと言葉を発さず、顔は赤面、怒りで真っ赤に染まっている
確かに、見方によっては図星を指されて羞恥に震えている様に見えるだろう
そして、俺が不具合を起こしている間に、おっさん共はさっさと部屋から退散していた
俺はそれを見ている事しか出来なかった……
少しして体が言う事を聞いてくれる様になった
直ぐ様部屋を飛び出し、去っていった狒々爺共の背を捜す
「あ、あのクソ親父どもが〜〜っ!!!!」
相当の時間が経っていたせいで、完全に取り逃がしてしまったと理解して、憤りが咆哮となって迸る
その咆哮も、肝腎のろくでなし共が居ないのでは、ただただ空しく城の一室に響くだけだった
今回と次回は、当初、と言いますか、前回終わり時点で考えていた話と異なります
詳しくは同時投稿の次話後書きにて
さて、ここからは私的な話です
いつも通り、興味ない、知るかボケ、という方は読み飛ばして下さい
多分、ネタバレ的なものも含みます
私は、こういう親父くさいキャラが好きです
正直、書いててとても楽しかったですが、そこから真面目な感じに繋げるのに、非常に苦労しました
のんべえも好きです、但し、自身に害が及ばない内は
そうした私の感情が、理くんの態度から感じられるかもしれません
あと、軽く世界に対しての考察的なものが入っていますが、恐らくこの二部の間だけしか活用されないでしょう
何せ、これは主人公である理くんが、最終的に逸脱した強度を得る物語ですから
まあ、そんな簡単に世界最強にはさせませんが
暫くは、波原少年と肩を並べるくらいに落ち着かせるつもりです




