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第百一話

続きです

今回で急に出現した迷宮行編(適当)終了です



消えていく二体目の……最初に遭遇したスライムを見やり、自らの欠点を危惧する


魔法が使えない


火、水、氷、風、土

それら属性に対して、一切の適性が無かった事は、俺を強く落胆させた

まだ、自分が力を奪われていた頃の出来事でもあった為、その落胆も一入だった


回復魔法にも適性が無かった

五つの属性に対して適性が無い場合は回復魔法の適性がある、という定説がある

これは必ずしも当て嵌まるものではないが、その実大概の件に当て嵌まる説でもあった


そして、俺という奴はその大概から漏れ落ちた少数派だ

天は、要らない剣の天稟は与えてくれても、こういう才能は与えてはくれなかったらしい

天は二物を与えずとも言うが、どうせなら、と思ってしまう


「気にしてもどうにもならないか……」


完全に消え去ったスライムを見届け、その戦利品を頂戴する

歩み寄るその先には、素朴な形の飾りっ気が少ない腕輪が落ちている

俺はそれを、腰を屈めて拾い上げる


「は?」


直後に素っ頓狂な声を上げてしまったのは、それが何であるのかが、またも何故か理解出来たからだ


「……バカだろ」


呆然として、その腕輪を見詰め、悪罵を呟く

勿論、この状況を設定した師匠に関わる某かに対してだ


収集魔法道具


この腕輪の正体だ

それは組合が、下は今日登録したばかりの幼子から、上は国王陛下の物まで

厳重に管理し、迷宮に入る際に支給している超便利道具

手に入れた戦利品から持ち込んだ荷物まで、何でも収納可能な優れもの

それだけに、嘗ては不正の温床にまでなったという、曰くつきの代物でもある


「そういえば、これも最初は女神から与えられたって話だったな」


石板と同じ、超越的な存在の手が入った道具

量産化は成功しているが、その事は特別性を損なう事に繋がらない


そんな特別な代物が

何故か今、俺の手元にある


「確かに。確かに、荷物が多くなるのは懸念していたがな」


成程、その懸念を一挙に片付けるには、これはもってこいの道具だろう

だが、敢えて言わせてもらう


「自分らの関与を、少しは隠そうとか思わないのか」


こう、黒幕的な

真っ暗な部屋で、モニターを眺めながらグラスを傾ける様な

膝の上で毛足の長い猫を優雅に撫でる様な

そんな感じを大事にしてほしい


「………まあ、言っても詮無いか」


何といっても、有り難い事は有り難い

俺は早速荷物を取り込ませる

万が一があったら怖いから、先ずは肉一包みだけ


「入ったな」


次は出してみる

光を放ち、包み紙に包まれた肉が出現する

地面に直接置かれて出現した 汚い


「まあいい」


もう一度回収する

すっと吸収される肉


思った事は一つ

実に便利である


「……あっちだったな」


最早これ以上に言うのは止す

これが便利な物である、それだけで今は納得すべきだろう

それより重要な事があるのだ


呟きつつ歩を進める先は、光る木々の在った場所

それほど離れていないが、不思議と目立つ見た目のそれを見失ってしまっていた

互いを追い掛け合い、回り続けた虎の様に、盛大に暴れ回った為だろうか


「尤も、溶けて無くなったのは虎じゃないがな」


バターじゃなくて光になったスライム

その戦利品はまさかの逸品だったが


「……そういえば、もう一匹の戦利品は見てないな」


その精神的余裕も無かったが、すっかり失念していた事を思い出す

まさかそちらも収集魔法道具ではないだろう

ならば、そちらが真の意味での戦利品である事になる


これから数十日の間ここの世話になるのなら、今の内に手に入る品の確認をしておきたい

その想いから進む足は、狙い過たず目的の場所に辿り着く

確かにそれほど離れてはいなかった


「何だこれ?」


地面に落ちていたのは、コルクで栓をした無色透明な瓶

その中に、これまた無色透明な液体が詰まっていた


拾い上げてみると、やはりこれが何なのかが解る


「ゼリー……?何の為に?」


これまで俺の手元にやってきたのは、どれもこれもが今の俺に必要な物ばかりだった

だからこそ、その出来過ぎたご都合展開に、何者かの意思を露骨に感じたのだ

その後の追い込みなどから、師匠の関与も確信した


ならば、これは何だ

半液体のゼリー、らしい

俺が今しがた切り刻んだあのスライムの身体の様なものだろうか

これには何ら特殊な作用などは無い様だ

本当に、ただの半液体


知らぬ間に消えていた左足の脱力感

気付いたのは、この瓶の中身に思いを馳せたから

どんな感じがするのだろう、という稚拙な好奇心

それが、この左足に被ったあの感触を連想させた


「……仕舞っとこう」


そうなると、もうこれについて考えを巡らせる気にはなれなかった

腕輪を操作し、瓶を仕舞う


俺はそのまま、目的の光る木へと向かう

この場所はその直ぐ傍で、既に木々の隙間からその輝く光が漏れて見えていた

これなら見失う事はあり得ない


「こうして見ると、神秘的というより不気味という方がしっくりくるな」


俺は光る木を見上げながら、独り言ちる


木は、下は地面から顔を出した根元から、上は枝葉末節に至るまで

残らずキラキラとした光を放っている

あまり強くない光は、眩惑する事なく直視を許す


本来ならこの光景に神聖性すら感じるのかもしれないが、俺はひねくれているのだろうか

目の前で光り輝く木を見詰め、気持ち悪さすら感じてしまっていた


「まあ、とりあえず伐ってみるか」


これもまた何となく

他の木々と違い、一発切れ込みを入れれば伐り倒せると解った

俺は腰に佩いた曲刀……ではなく、荷物の中にある小刀を取り出す

幸いにして、収集魔法道具はそういう小回りも利く造りになっているので、直ぐに小刀だけを取り出す事が出来た


無造作に切れ込みを入れる

抵抗は無かった

豆腐を切るよりも簡単に刃が通り、光る木の樹皮に小さな切れ込みが入る


直後、切れ込みは不自然な拡がりを見せ、やがてその拡がり深まった切れ込みに、自重を支えきれなくなった木が、ゆっくりと倒れていく


その光景を、少し離れて見ていた俺は、倒れた木が巻き上げた砂塵や木々の間に隠れるまでを見届ける

やはり不自然な程に巻き上がる砂塵や散る葉っぱで、その姿を完全に見失った

次に俺が確認したのは


「……わぁ、きれいな薪だぁ」


樹皮まで残らず取り除かれた、長方形の立体に加工された薪の束だった

ご丁寧に、麻紐の様な物で括られ纏められている

それを見た時の心情たるや、如何ばかりか


全ての希望を失った無実の罪人の様な目で、薪の束を収納する

まだ光る木は幾つか残っている

それも薪に変えて回収、ついでに出た何かが詰まった瓶も回収する

実に機械的に淡々と熟していく


その後は敵が出現する事も無く、出口見つけて外へ出る事が出来た

その間の事は、よく覚えていない



気付けば外に居た

すっかり夜闇は深まり、己の影さえ見付ける事が出来ない


それでも、まだ呆然としていた俺は、手元から聞こえて来た硬質な破砕音で正気を取り戻す

音の元を見ると、腕輪が罅割れ、中身が全て地面に放り出されていた

相当な量だ、このまま放置する事は出来ない


人間、すべき事があると動けるものだ

正気を失っている場合では無いと、自らを叱咤する事が出来る


俺が出た場所は、迷宮への入り口の直ぐ隣だった

拠点の洞穴は直ぐ傍だ

俺は急いで、抱えられるだけの戦利品を抱えて、洞穴とを往復する


「あっ」


途中、不安定に抱えられていた瓶を地面に落としてしまった

一度ならず二度三度と

そんなに量があったと思わなかったが、落とした分と無事に運べた分を数えたら、意外と個数が多かった

因みに、中身は半液体のゼリーと謎の土色の粉塵だ

本当に、使い途が理解出来ない

とはいえ、放り出すのも勿体無い気がする


「貧乏性と言われても、こればかりはどうにもならんな」


全回復アイテムも、結局最後も使わずに取っておく性質だ

もう、こういう性分だと割り切るべきだろう


そしてもう一つ


「何度か経験してるが、割れ物の掃除は怖いな」


地面に落ちて割れ砕けた瓶と散乱した中身

そのまま放置出来ないのも、俺の性分

割れた瓶の破片の、特に目に付く大きな破片から摘まみ上げて片付けていく

この時点でも割と怖いが、割れ物の掃除は小さい破片からが本番だ


「……箒が無い」


ここで大きな躓き

箒が無ければ小さな破片の掃除は覚束無い

仕方ないと、何か代用出来る物を探す


見付けたのは薪

これは本当にいっぱい出た

1束で一晩保ちそうな量の薪が、全部で9束

この中から一本を抜き取り、スクレイパー代わりにする


「……なんだこれ?」


もう、この言葉を言うのは何度目だろうか

その都度、異常な状態を目の当たりにするので、正直勘弁してほしい


今度は、集めたゴミの異常が原因だ

出たゴミは、割れた瓶の小さな破片、中身のゼリー、謎の粉

俺が薪のスクレイパーを使って集めたかったのは瓶の破片だが、ゼリーと粉も一緒に散乱していた為、纏めて集積する事になる

結果、ごちゃごちゃと撹拌されたそれらは、不思議と粘土の様な塊に変わっていった

キラキラと光るのは、恐らく瓶の破片だろう

ならば、それ以外は?

粉は土の色をしていた

その色は、今この塊に吸収され、その所有権を完全に奪われている

ゼリーは何処へ行った?

塊を突いてみると、ブヨブヨとした触感が返ってくる

恐らくだが、この塊の粘結に使われたのだと思われた


「……粘土か?」


その使い途が全く理解出来なかったゼリー

知らぬ間に……恐らく俺が茫然自失としていた間に手に入れた粉

これは、併せて使用する類の、所謂調合素材だったのではなかろうか


「だからなんだって話だが」


目の前のブヨブヨを弄り回して、色々試してみてもいいのだが、混ざる瓶の破片が危険だ

当初の目的通り、これは破棄する事にする

とは言っても、持ち帰る袋も無い現状では、破棄も容易ではない

試しに地面を掘ってみたが、木々がそうであったように全く掘り進める事が出来なかった


「……迷宮内で手に入れたモンだし、次に迷宮に入る時に中で放り捨てればいいか」


我ながら見事な不法投棄っぷりだが、幸いなことにそんな法律は無い

そもそもが、迷宮内では破損した武具の部品などが放棄される事もあるのだ

それらは知らぬ間に消え失せているのだという

ならば、ゴミの投棄も……してもいいよね?


「これは迷宮入り口の台座に置いておこう」


ブヨブヨした茶色い何かを掴み上げ、台座の上に安置する

こうしてみると、なんだか神聖な物に見えてくるのだから、人間の感性とは実に身勝手なものだと思う


とにもかくにも、ゼリーと粉の使い途も判明した

後は、暇な時にでも娯楽の感覚で弄って試してみるだけだ


「今は飯の方が優先だよな」


色々と怒涛の展開で、すっかり忘れて、最早空腹感すら消え失せていた

だが、空疎な虚無感は腹の内に残り続けている

端的に言って、胃袋が空っぽで寂しいと泣いているのだ


毎日毎日、とてもお世話になっている胃袋さんが泣いている

これは、お助けせねばなるまい


「ぶすり、と」


俺は肉の塊に小刀を突き刺す

串が無いのだ、その代用として使わせてもらう

その前に、曲刀を抜き放ち、薪を切り分ける

簡易に切り分けた薪で台を組み上げ、束を括っていた麻紐の様なもので縛り付ける

出来上がった台に、細く長く仕上げた竿を二本掛ける

そこに小刀に突き刺された肉の塊を慎重に置く


簡易肉焼き器の出来上がりだ


その下に薪をそのまま組み上げる

慣れた手付きでさっさと組み終えると、荷物の中から一発着火火打石を取り出す


「……ホントに一発で点いたな」


そもそも火打石だけで薪に火を点ける事自体が現実的では無いのだが、そんな事はなんのそのと言わんばかりに、目の前では薪が火に侵され、次から次へとその身を焦がしていく

少し火勢が強いと感じたので、組んだ薪を少し動かして肉と火の距離を調整する

ここでも、曲刀が活躍してくれた


「火箸代わりにされて、こいつも可哀想にな」


時々肉を返しながら、滴り落ちる脂の滴が、燃え盛る焚き木に落ちて跳ねる音を聞きながら

曲刀の柄を握って、薪を動かしながら

燃える火に照らされながらも、確実に夜は更けていく


ふと見上げた空は、一面一様に墨染の暗闇が拡がっていた

昔呼んだ絵本に、虎が木の周りを回ってバターになったってのがあった

タイトルは覚えてない


収集魔法道具は都度壊れます

理だけに渡すのも理不尽だし、悪目立ちしそうだしね


謎のゼリーと茶色い粉は、この場だけの限定アイテム

この先には一切関わる事に無いアイテムです、多分


………特に言うべき事が無い

次回から鍛錬開始ですが、事前予告通りにパパパっと投稿します

二話分ありますが、同日に投稿します

よって、次回投稿は9月18日に二話同時投稿となります


今確認したら、それなりに修正しないといけないみたい

もしかしたら、誤った内容で投稿されるかも

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