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必罰世界

「お前がこの狂った世界を作った元凶か!!」










(………ああ、またか)



けたたましい叫びを耳にした『自分』は、眼前の存在を知覚してため息をついた。



世界の外側から眺め、法則を組み込み、安定した世界を作り出す。それが『自分』の役割。

通常『自分』と人間達は住む世界が根本的に違うため、かの世界から人間が『自分』に直接接触してくることはおろか、知覚すらできない。

だが極稀に、彼のように自分の領域まで辿り着く者が現れる時がある。


そういう時は決まって彼らの存在そのものを排除するのだが、はっきり言ってこの行程は、ただ世界を管理する仕事の中でも一番めんどくさいものだった。



『…………君は、何をしにここへ来たのかね?』



どうやってここに来たのかは聞くのを省いておく。

二度目が起こらないように何度も修正を繰り返しているが、毎回毎回彼らは違う方法でここにたどり着いてしまうからだ。




「決まっている! お前を倒して平和な世界を作るためだ!」


予想された答えに再びため息をつく。

ここに来る者の言う事は、いつだって決まっているのだから。


「………なぜ私を倒せば、平和になれると思う?」


この質問も毎回同じだ。

一応動機を確認しなければならないため、必ず最初にする。


「なぜって……お前のせいで、家族を失ってしまった人々が大勢いるんだぞ!?」


対する彼は『自分』の問いが想定外だったようで、少し言葉に詰まってから声を張り上げて答える。


それを聞いて、また『自分』はうんざりする。

どうやら今回の動機も、ありふれたものらしい。




『………それは言いがかりというものだよ』


「なんだと!?」


『自分』の言い分に、決まって彼らはふざけるなと怒りを見せる。

これも、飽きるほど見たことだ。



『例えばこの………殺人鬼に殺されたという被害者達の件だが』



過去のデータを参考に、彼に一番分かりやすそうな時代・人物・事件を彼の目の前に表示する。





『こちらの娘は同年代の娘を虐げて悦に浸る………君の知っている単語で言う所の『いじめっ子』という人種。こっちの若い男は幼い少女にのみ欲情し、性的暴力を振るう『ペドフィリア』という悪性癖の持ち主。………とまあ彼らは性根が腐った人間達ばかりだ』


「は………?」


『自分』の説明から被害者達の性格と性癖を知り、彼は理解が追いつかなそうに目を見開いている。

これも、変わらない反応だ。




『これが『自分』の世界法則の全容だ。君達が哀れな被害者だと思っている者達は、救い難いほどの悪意を持つ下劣な人間でしかない。『自分』は彼らの悪意の矛先が、真に善良な人間に向けられるのを防いでいるだけだよ』


善良な者に向けられそうになる悪意を、『自分』の思考誘導によって似たような悪意を抱く別人に向ける。そうすれば後は愚者達が勝手に自滅しあうだけであり、これによって善良な者は被害を受けず、悪意を持つ者だけが社会から排除される。





『何が不満かね?』





善良な者が理不尽な仕打ちを受けることのない理想郷の創造、そんな願いを抱いてここまで辿り着いたであろう彼は、目に見えて動揺している。

これも同じだ。



「そ………そんなのは傲慢だ! もしかしたら、彼らが改心するチャンスだってあるだろう!?」



そして、これもいつも通り……




『ないさ』


必死に反論を述べる彼を『自分』はバッサリと切り捨てる。

確かにこのような人種の中には、特定の人物・職業・趣味などに出会ったり、特定の分野で適度な挫折を経験することで改心することもある。当然『自分』は彼らがどのような出会いか挫折で改心できるかも、余すことなく予知している。

そしていかなるパターンでも絶対に改心しない者が、彼らという人種だ。


先ほどの被害者達が、どのような未来でどういった悪行を為すかを事細かに説明していけば、彼は武器を握る手に力を込めて震えている。大多数はここで何も言えなくなり、元の世界へ帰還する。

そして極小数は……




「そんな……そんなのは間違っている!」



こうして何の根拠もなく、頭ごなしに否定するのだ。

そして『自分』に刃を向けてくれば、後は削除するだけ。


だからいつものように削除しようとするが……









『…………だったら、君が理想郷を作ってみるかい?』


『自分』がそう口にしたのは、些細な気まぐれに過ぎなかった。



「なに?」



ふと思った。

これだけわかりやすく説明しているにも関わらず納得しないというならば、彼にとっての理想郷とやらが実際にどういったものなのか、作らせてみればいいのではないだろうか。


「それで私の世界よりも完璧で幸福度が高ければ、そちらを参考にこの世界の法則を書き換えるとしよう」


『自分』からの提案に彼はしばし悩んでいたが、やがて

決意を込めて睨む。


「………本当だな?」


『君に作れるものならば、な』






その後『自分』が管理している世界のコピーを作って彼に渡し、余計な影響がオリジナル世界に出ないように繋がりを絶っておいたのだった。














ふと少し前に、そんな約束をしたことを思い出す。




時間という概念すら曖昧なこの場所では、向こうの時間の進み具合から逆算するに、あれからもう何百年かは経っているかもしれない。

一応彼がどんな世界を作ったのか確認しておこうと、向こうの空間に分体を作って様子を見に行く。


見てみるとその世界は、なにやら荒れていた。

教会を始めとする宗教的象徴の建物や美術品が破壊され、人々は神を冒涜する言葉を吐きながら旗を掲げている。

見ようによっては不信心者によるテロと言えなくもない光景だが、人々の目に不信者特有の狂気はなく、むしろ確固たる信念を胸に互いに手を取り合っていた。


明らかに『自分』の管理世界と比べて混沌とした世界に首を傾げつつ、肝心の彼はどうなっているのだろうかと視点を変える。


そこはこの世界を管理するための領域であり、あちこちにヒビが入り今にも崩壊寸前だった。


視界の端で誰かが戦っている。

片方は5・6人ほどの人間の集団で、互いを奮い立たせて助け合い、眼前の敵に挑んでいる。

もう片方は世界の管理者となったことで強大な力を得て、異形に変じた彼だった。


「誰のためにやっていると思っているんだよ! お前らが僕の言う通りにしないから、不幸になるんじゃないか!!」


ふざけるなと眼前の人間達にそう叫ぶ彼の態度に腹が立ったのか、人間達はそれぞれ彼に罵詈雑言をぶつけながら、着実に彼の命を削っていく。

まるで子供のように癇癪を起こしながら目の前の集団に攻撃している彼は、こころなしか泣いているように見えた。


集団が何者なのかを調べてみれば、どうやら彼が管理する世界から出てきた人間達らしい。

彼らは互いの意見を押し付け合うかのように攻撃し、幾度の応酬の末についに彼が倒されてしまう。




「違う……俺はっ……間違ってない…! 間違ってない、はずなんだ……」




身体がボロボロでも、最期まで彼は自分の考えこそが正しいと呟きながら消えていった。

『自分』は一体彼の身に何が起こったのかと、過去のログを確認してみる。


『…………なるほど。悪業を成した人間には罰を与えるという、実にシンプルな法則を敷いたわけか』


誰しもが考える、悪人だけが罰を受けて善人には祝福を与える世界。

『自分』が管理する世界と違い、悪行を為した瞬間に直接罰が下されるゆえに、全ての人類は物心ついた時から『悪いことをしてはいけない』と刷り込まれている。


そうした知識が備わっていることから、全体的な秩序は『自分』の世界よりも高かった。





しかし、端的に言って彼はやりすぎた。

この法則は、罰に関する柔軟性が欠落していたのだ


例えば、我が子の飢えに耐えかねて盗みを働いた母親に罰を与えた場合、それが飢えを凌いだ子供に反感を抱かせてしまった。



『悪いことをしたら、神様から罰を受けるよ』


「じゃあ悪いことをしなければ、生きることすら出来ない人間は死ねとでも言うのか?」



このような総意が時代を重ねて蓄積し、神への不信感を抱く者が徐々に現れていった。無論そういった人間達は神への反乱を実際に行えば罰が下されるが、そんな彼らの活動に感化された者達は留まることなく増殖し続けていく。

こうしてこの世界は秩序の高さに反して、人間達の幸福度は全体的に低くなってしまっている。


そして世界法則への積もりに積もった不満は、ついには彼すら想定外のイレギュラーを生み出す。

彼の必罰の法則から脱却した者達………彼が『悪』と定めた行動を実践しても、罰を受けない特異な人種が生まれ初めたのだ。

当然ながら彼は、世界の秩序を乱しかねないこの異分子を排除しようとしたが、誕生のメカニズムがわからず根本的な原因を解消できないでいたため、見つけ次第信者達に直接討たせる方法で凌ぐしかなかった。


しかし状況はさらに悪くなっていく。


それまで世界法則を壊す害獣と恐れられていたはずのイレギュラー達だったが、その生き様が旧人類達の心にも響いていき神に反乱する者を徐々に増やしていった。


最終的に神こそが諸悪の根源であると定めたイレギュラー達は、世界法則の変革を願う人々からついには『新人類』と呼ばれて敬われていき、逆に神である彼は人々からの信仰心が地の底に堕ち弱体化を余儀なくされた。



彼は自身が正しいと思っていたことが万人に否定されたことを認められず、自らを否定する人間達こそが悪であるとして全人類の抹殺を決めた。

それを知った人類は、新人類達に神殺しの力を与えて希望を託した。



これが彼を敗北させた原因だ。


全てを理解した『自分』は、彼の末路に対し小さくため息をつく。せめて意固地にならず素直に彼らの意見を取り入れていけば、まだ長生きできたことだったろうに。それほどまでに『自分』の世界を変えたかったのだろうか。


神を討ち取った反逆者達は、自由を得たと互いに喜びを分かち合いながら元の世界へ帰っていく。







………この世界は、しばらく『自分』が管理するとしよう







しかし気まぐれから初めたことだったが、これはまた思わぬ収穫を得た。偏った法則が世界を支配すると、どのような結末になるのかのいいサンプルになる。




後始末を終えて戻ってくると、自分の領域に誰かがいた。


「お前がこの狂った世界を作った元凶か!!」


いつもならお決まりの流れを経てから削除するのだが、




『………なあ、一つ提案があるのだが』










コンセプトは『ハッピーエンドを目指して擦り切れた、旧主人公系ラスボスの成れの果て』。

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