クライシス・モンスター
――木漏れ日がさす森の中、獣道でハヤトはけたたましい雄叫びを浴びせられていた。
しかし、彼は少しも動じる様子はない。
至って冷静であった。
左後方には滝が流れていた。
そこから勢いよく流れ落ちる水流が立派な滝つぼを形成していた。
こんな状況でなければ、一定のリズムでザアアアと耳を打つ響きも癒しの音楽にもなりえるであろう。
眼前にはグルアアアと口を大きく開き、威嚇する《ハングリー・グリズリー》。
クライシス・モンスターはネイティブ・モンスターと違い名称や詳細が赤字で表示される。
思い返せばキダンの街を襲った暗雲も、赤字で《???》と表示されていた。
そして今、にらみ合っている熊のモンスターがまさにそれだった。
「もしかすると水を飲みに来ただけなのかもしれないが、クライシス・モンスターというなら容赦はできないな。APは13か」
ハングリー・グリズリーがよつんばいの姿勢をとった。
次に突進攻撃が繰り出されるとふんだハヤトは、腰に巻いたベルトのデッキケースから素早く二枚のカードを抜き抜いた。
「いでよ、《ポラリス団の槍使い》!」
カードから光があふれ出し、モンスターが姿を現した。
布地の服の上に鉄の胸当てとすね当て、その名の通り長めの槍を両手で構えた騎士モンスター。
胸当ての中央にある星形のエンブレムがポラリス団の象徴なのである。
ポラリス団の槍使いAP12 vs ハングリー・グリズリーAP13
グリズリーの突進攻撃を、槍使いは槍を水平にして受け止めた。
応戦したいところだが肝心のAPが1足りない。
槍使いはじりじりと押されていき、グリズリーは興奮しきった様子で叫びながら右腕を振り上げた。
そのするどい爪が怪しげに光った。
が、ハヤトはグリズリーが接近戦で隙をさらすこの瞬間を待っていた。
即座に取り出したもう一枚のカードを発動させた。
「スペルカード! 《魔物狩りの剣》」
スペルカードは端的に云えば『発動者本人が魔法を唱えるカード』である。
今回のように仲間の槍使いをサポートする武器を生成するカードもあれば、攻撃呪文や変化呪文などおうおうにして戦況に影響を与える効果を発生させる。
魔物狩りの剣:戦士・騎士モンスターに装備可能。APを3ポイントアップさせる。
槍が消え、代わりに曲線を描く朱色の長剣を手にしたポラリス団の騎士は、そのAPを12から15に上昇させてグリズリーを一太刀で切り伏せた。
ハングリー・グリズリーはデータ分解されていったが、アイテムを残すことはなかった。
「クライシス・モンスターはアイテムを落とさないって、うわさは本当みたいだな」
多くの狩人が討伐に出向いているが、いずれもアイテムを入手したという話は一向に聞かなかった。
戦闘を終えたハヤトは、滝つぼのそばにある大きな岩に腰かけた。
森の中を進み、ようやく一息つけるかと思った矢先に、
「いきなりクライシス・モンスターに出くわすとはな……」
辺りを見回しそれ以上モンスターが現れないだろうかと警戒することも忘れてはいけない。
旅だってから、クライシス・モンスターとの戦闘を幾度もこなしてきた。
野生のネイティブ・モンスターに比べてクライシス・モンスターのAPは総じて高めであることにハヤトは気づいていた。
いつ強敵が現れてもおかしくはないだろう。
それでも、ひたすら北を目指して進まなければならない。
行きつく街で情報を得る中で北部に〈魔王〉出現の手掛かりがあるのではと、うわさがまことしやかに広がっていた。




