気持ち…
「何が起こったんだ…?」
それもそうだよな。長が判断に苦しんでいる。どうやら長だけ無事なようだった。だが周りはほぼ全滅と言っていいだろう。息はしているが機能はしていない。長以外の1人を除いては。
「これは奇怪な」
そう、人形であるエルフ、カロンの母親だけは自由に動けていた。たった今―呂雉―に魔法を飛ばしたところだった。魔法という概念のない世界にいた―呂雉―は初めて見る魔法にとても興味を示していた。
「火の玉が飛んできた。これは妖術なのか?」
「いや、この世界の魔法というものだよ。」
「そうなのですね。当たると無事では済まなそうですね。」
「そうだね。魔法とは言え本物の炎だからね、当たったら燃えると思うよ。」
「なるほど。私も使える不思議な力もこの世界のものなのですね。」
「それは君の行いだと思うよ。君の前世…ではないかな、君が行った事が力として使えるみたい。僕も君は初めてだから分からないな。」
「なるほど、まあまたこうして私のおもちゃが作れるだなんて楽しみでしか無いですね。」
「貴様一体何者だ?」
「控えよ。豚の分際で気軽に話していいはずがなかろう。まあ、だが今は気分が良い。貴様で力を試してやろう。」
「ぐっ…」
「妾はこの身体の記憶を少しは受け継いでいる。どうやらよほど貴様に恨みを持っているようだ。そこの女に対しても思い入れがあるらしい。その女に攻撃ができんようだ。」
「そんな弱点を話すとはあまり頭は良くないようだな。それを儂が放置するとでも思っているのか。」
「弱点?豚には理解できんようだな。そんなもの弱点にもならんわ。身体に魂がなじんできている、まだ5割といったところだがそれでも豚には負ける気はせぬ。」
「それが貴様の敗因となるのだ!」
「豚のさえずりも聞きあきた。そろそろ黙れ。」
「…!」
「さあ、また囀ってみよ。それともそこの人形でもけしかけてみるか?」
「…」
「どちらもできぬだろうな。妾の能力はどうやら【人彘】を作れるらしいな。」
彼女―呂雉―の能力は【人彘】相手の視覚・聴覚・触覚そして声を封じる事ができるらしい。この世界の魔法使い特化と言っても過言ではない。そりゃ長は勝ち目がないだろう。どうやら先ほどは長のみ効果範囲から省いていたらしい。俺は研究を10年したのにな…やはり彼女は頭が切れるらしい。
「何もできんか。だから豚なのだ、ほれ、地面に這いつくばれ。」
「…!」
触覚が無くなった人間は感覚を失う。立っていることもできなくなるらしい。地面にはいつくばった。
「ふむ、この世界の最初の人彘はこの老いぼれか。興が乗らんな。しかし、本体が貴様の苦しみが所望らしい。まずは右手をもらおうか」
「…!」
「声がないとつまらんな。ほれ、囀ってみよ。」
「体が動かん、なんだこれは儂の右手はどこ行ったのだ!」
「ああ。触覚も消したままだったな。これではさえずらんな。ほれ、解除したぞ。」
「え…?ぎ…ぎゃああ!!」
「ふむ、いい声で囀るではないかだが惜しむべくは女人じゃないことか…」
「はあ…はあ…もうやめてくれ…!」
「ん?まだ四肢が3つも残っているではないか。まだまだ続くぞ?気を保て貴様の苦しみが所望なのだ。」
「もう殺してくれ…」
「妾には豚の気持ちなど分からぬ。あるのは憐れみと侮蔑の目のみ。さあ、次は左手だな。」
「が…がああぁぁぁ!」
目の前では一方的な蹂躙が始まっていた。長はもう左足のみしか残っていない。さすがの非道さだな。あ、左足も行ったか。これで人彘の完成だな。心なしか呂雉も嬉しそうだ。だが、それではいけない。
「呂雉そろそろ時間だ。」
「わかりました。一時変わりましょう。」
「そうしてくれ。」
呂雉の雰囲気が変わった。ちゃんと指示に従ってくれたようだ。
「はあ…。はあ…。」
やっぱり結構体力を使うらしいな。でも完全に乗っ取られてなくてよかった。廃人にもなっていないらしい。相当強い恨みを持っていたらしい。
「さあ、きみはどうするんだ?」
「私は…」
彼女の目の前にはだるまの長が転がっている。
生かすも殺すも彼女次第だ。まあ、放っておいてもだるまに何ができるって話だけどな。遅かれ早かれ長は死ぬ。
「ルーク様私が長を殺します。」
「もちろんいいよ。」
「ありがとうございます。」
彼女はそう言うと長の首をはねた。最後の部分も亡くなった長は人間だったと思えないほど醜悪な形になった。人でなしにふさわしい末路だ。
彼女の目的は終わったようだ。さあ、回収に向かおう。




