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「異世界グランダリア生活記(1)~私はその日その時、森の中。冷めた視線の少女と出会った……/前編~」

 その時――――目覚めた私は森の中にいた。



 はじめはそこがどこかなどまるで見当けんとうもつかないものだったが……よくよく見回すと間違いなく、そこは森の中でしかなかった。


 思えば確か小学5年生の時だったか……。


 私は校外授業によって山の中にあるキャンプ場へと泊ったことがある。あの時は同級生たちと川で遊んだり、夜にはカレーライスをつくったりしたことが記憶におぼろと残っている。


 それ以来、私は山や森に行ったことがない。


 私にはまるでサバイバルな知識などない。校外学習で何か先生が色々教えてくれていた気もするが……そんなことはまるっきり忘れてしまった。そもそも友人とふざけていたのでまともに聞いてもいなかった。その時一緒につつき合っていた村山も、今では一児の父親として全うにしているのだから世の中わからないものである。


 ともかく、私は“その時”とても後悔こうかいした。その時というのは森の中でポツンと目覚めた時であり、私は着の身着のままその場にあることを理解するのに時間をしばらくようした。


 どのくらいか「ぼぉ~」として枝葉の隙間すきまからさす光を見上げたり、そこいらに茂っている草をながめたり、湿った土をさわったり……と。まるで夢心地にしていた“らしい”。


 「らしい」というのは自分ではその時どのようだったかなど覚えておらず、聞いた限りだとそのように呆然ぼうぜんとして座ったままキョロキョロとしていたようなのである。


 少女が……その時、私は彼女の名前など知るよしもなかったのだが……ともかく、“あの子”が言う限りには――


『あなたは不思議だったわよ。だって、困っていそうな状況なのにまるで落ち着いた様子だったからね? だからむしろあやしいなって、だからしばらく様子を見ていたの』


 ――ということらしい。落ち着いてみえたと彼女は言うが……それはそう、私は呆然として騒ぐこともなかった。


 だって何も解らなかったから。いや、自分が着の身着のままで何故なぜか森の中にいる……ということは解った。だが、だからといって「どうして?」が解決したわけではない。


 そもそもの話――森の中で目覚める前、記憶の中にある私はいつものように帰路を歩いていたはずである。


 いつものように貸し駐車場に車をとめて、いつものようにコンビニでおにぎりと缶コーヒーを買い、そしていつものように中々工事が終わらない道路の看板を遠目にながめながら歩いていた。


 歩いていつものように……窓からいつも私を眺めてくれる柴犬と少しだけ視線を合わせて、それからいつもの角を曲がるつもりだった。



 だが――――気がついた時には森の中だった。



 私の住んでいた街から何かしら自然を体験しようとするのならば……それも森の中にいたろうと言うのならば、少なくとも電車なり車なり、何らかの交通機関が必要である。とてもではないが徒歩では無理だ。大都会とは言わずとも、そこそこに発展した土地柄なのだから、それはそのはずなのである。


 じゃあ、きっと夢なのだろう。そこまでをあの時考えてはいなかったが……なんとなく私は森の中にいる事実を「これは夢なんだな~」と考えつつあった。


 最初は現実感というか「どうして森の中に」と、そのことを受け入れようとする意識があったと思う。しかし、大抵の夢のように次第と理解して「ああ、これは夢なんだ」と落ち着く心境にあったんだろう。


 きっと、だからこそ私はまるで落ち着いたかのように呆然としていた。どのように突拍子ない状況でも、それが夢なのだとすれば、ドキドキするにしたって安心というか納得がいく。そして目を覚ませばきっといつもの天井と置時計があって、携帯の目覚ましアラームがいつもの調べをけたたましくしているはずだ……と。



 しかし、思えばあの時……森の中で目を覚ます前、最期の時。



 私は決して飲酒などしておらず、体調も悪くはなかった。仕事で疲れてはいたが……それも気絶するほどではなかったと思う。


 というより……。


 私は無意識にでもあの柴犬の角から自宅まで戻ったのか? いや、それならまだいいが……まさか何かやまいで倒れてしまって本当の自分は今、病院のベッド上なんてことはないだろうな? いやいや、まさか、まさか……?


 もしかして自分は、何か脳卒中などで昏倒こんとうして命を……?


 まさかここは……その後の世界??


 ……などと。私の思考が中々覚めない夢に違和感を覚え、狼狽うろたえて泣きそうになってきた頃。


「‥‥、‥‥‥‥?」


 何か音があった。いや、それは『声』なのだとすぐに理解できた。


 理解はできたが…………“意味が解らない”。


「‥‥‥‥? ‥‥、‥‥‥‥??」


 そう、理解ができなかった。自分がなんで森の中にあるのか……それは夢なのだと仮にでも納得しようとはしていた。


 しかし、その時“彼女”が何を言っていたのか……これがまったく解らない。どうやら後に聞く限りだと「様子を探りながら心配してあげていた」とのこと。


 森の中で1人、呆然と座って少し涙が出そうな感情で見上げた“そこ”には……【彼女】が立っていた。


 その時のよそおいは【黒色のローブ】だった。頭をすっぽりと隠すようにして、身体もまるっきり隠れるように布地をまとった人物がそこに……た。


 だからその時は彼女が女性なのか……ましてや“少女”なのだと私に解るはずもない。なんとなくそこから発せられる声の感じで女の人かと察したが……まぁ、ともかくに何を言っているのかは解らなかった。


(こいつぁ……異国の言葉、英語かな??)


 などと思って傾聴けいちょうしてもまったく解らない。


 彼女は随分ずいぶんとゆっくり、おそらく私が落ち着くように気をはらってくれていたらしく、丁寧ていねいに話してくれているなと感じはしたが……。


 元々、ずかしながらてんで英語はできず。しかし、何か単語くらいはと耳をますが……やっぱり解らない。


 ちなみに、後に聞いた限りだと「別に気をつかってなどいない。元々こういう話し方だ」と彼女は言った。確かに、今現在にしても彼女はゆっくり……というか、いつも冷静にたん々としている。自信に満ちているというか……そういう、常に何事からも一歩距離を置くような洞察に重きを見る立ち回りは実に彼女らしいと、今では納得できる。


 ともかく私は言葉が理解できない状況から、咄嗟とっさに「解らない、言葉が解りません」と発した。もちろん、私の国の言葉である。


 黒いローブの彼女は首をかしげた。それはそうだ、今なら納得できる。


 私は続けて「アイム・ドント・スピィーク・イングリッシュ! ……アイム・ジャパァン! オゥケェ??」と言った。これは私ができる最大限の異国語である。


 黒いローブの彼女はまた首を傾げた。それはそうだ、今なら納得できる。


 私はどうにか「言葉が解らない」ということを伝えようとするが……これをいざ、ボディランゲージ(肉体言語)にしようとすると難しい。せいぜい、口元で手をパクパクとさせてから腕を左右に広げて首を振る……その程度が発想の限界だった。


 黒いローブの彼女はいぶかにした。彼女がローブのフードを少しめくり、そこにあるあかひとみあらわとすると私は「ドキッ!」とした。


 それはそうだ、今なら納得できる……実に危ない場面だった。


 もし、そのままだったらどうなっていたのだろうか? それは解らない。何故なら、その直後にいまだもって理解できない奇跡……としか言いようのない事態が発生したからである。


「……“ふぅ。あなた、私を馬鹿にしているの? なに、その顔……こまっているのかと思ったら、実はただのおかしい人なのね?”」


 黒いローブの彼女は“そう言った”。それを聞いた私はあわてて“こたえる”。


「え!? い、いえいえ……そんな馬鹿にしているとか、そういうことではなくってですね? あの、私は…………あ、アレェ??」


 「応える」としたが、応えになっていたかどうか……。どうにか初対面の人から「馬鹿にしている」などと印象を受けないように取りつくろって応じたに過ぎない。


 そして言いながら私は気が付く。


(あれ? 今、彼女が何を言ったか解ったぞ……?)


 そのように、おそらくキョトンとしていたであろう私。それを見る彼女の表情は訝し気というより“冷めた”様相になっていた。


 私も職業柄、初対面の際にあたえる印象を咄嗟とっさに良くしようとしていたに違いない。だから変にでも落ち着いた様子を……「自分はまともですよ」と、そういった姿を見せようとしていたのであろう。


 それが、つい先ほどまでにあった“わけのわからない動きと言葉をく男の姿”からして、むしろ怪しい感じになってしまった。


 つまり、“ほんとうはまともなのに、わざとふざけていた”という具合に彼女は感じたのである。というか、「そういう人をだますイタズラが趣味しゅみの人かと思った」と後に言っていたから間違いない。


 冷めた表情の彼女はその瞳から赤の色合いをはらうと、あきれたように溜息ためいきをついた。


「はぁ……バッカみたい。たまに親切しようとするとこんなのだもの。やれやれ、れないことなんてするもんじゃぁないわね……“師匠”ったら、余計なこと言うものだわ」


 そう言うと黒いローブの彼女は私に背を向けた。私は当初、彼女の態度の意図が解らずにただ「ぼぉ~」っとしてその背中にある金色の刺繍ししゅうを眺めていた。



 黒いローブの背中が遠ざかっていく。見知らぬ森の中、見知らぬ人が去っていく……。



 そんな状況に気が付いた私はふと、“不安”になった。


 だって思えば何も頼りがない。いや、どうせ夢なのだから慌てることはないと思ってはいた。しかし、私には確信がなかった……。


 きっと夢なのだと思ってはいるが……さきほどにもあったように、私はこの時の状況が本当に夢なのか? もしかしたら死後のなにがしかなのか? それとも……と、迷う気持ちがいていた。


 というか、そもそも夢だとしても夢の中にあるうちは意外と本能にしたがった反応をするものである。「危ない!」と感じたらけるし、「怖い!」と感じたら逃げる。


 たとえそれに夢の確信があったとしたって、きっと誰しもそうするのではないだろうか? 少なくとも私は気が弱いからなのか、夢の中で危険な状態になるとちゃんと慌てたり怖くなったりする。


 だからこの時の私は立ち上がって勇気の一歩を踏み出し、そして声を張ったのである。


「――――待った、危ないッ!!!」


 森の中に私の声がひびき渡った。精一杯に、反射的でありながらも強いさけびだった。


 そうした場合、本当はおもに何が危ないのか、どうすればよいのかを端的たんてきに叫ぶほうがよいらしい。だが、ともかく私は咄嗟のことだったので「危ない」と叫んだ。



 黒いローブの背中……茂みに入ろうとした彼女の姿。



 そこにおおいかぶさろうとするばかりに、【黒い影】が木々の狭間はざまから飛び出した……。






つづく






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