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騒音被害

なんだ…なんだなんだ!!また、音が消えてたと思って吹雪の止んだ辺りを見渡したら…遠くに見える俺達のいた割れ目から、眼前に広がる広大な白い地上を幾多にも重なりあい、黒く染め上げていく虫がうじゃうじゃと湧いている。ゾッとするほど気持ち悪い光景だ。音がないのにカサカサと音が聞こえてきそうだ。どうしたら…逃げるにも、街まで距離がある。クズに瞬間移動(テレポーテーション)してもらって万が一にも本当に死んじまったら気分悪い。どうする。どうする。


《スゥ…》


脳内で何かが繋がった。クズの精神感応(テレパシー)だろう。


「(騒いでたらよって来ちゃったみたい。)」


相変わらず軽い調子で話すクズ。俺がさっきつい不満をぶちまけて説教したってのに凹む気配すらない。

ゲランの旦那は、パーティメンバーと娘さんの説得で殺しはしないだろうな。けど、まだ腑に落ちてないように見える。


「(…何……ローニャ、アレ何?)」


「(音が消えた原因よ。音を食べる虫…凄い量……こっちに向かって来てる。)」


「(ゲラン!どうする!)」


「(………逃げるにも、街へは虫共が邪魔だ。どうせ音を追ってくる。正面で戦うか。)」


戦う?正気かよ。いや、でも確かに音を追って逃げても隠れも出来ない。街へ逃げ帰れても、街まで追ってくる可能性は十分にある。あの数が押し寄せた時の被害なんて考えたくもない。


「(戦う?ダメダメ!それは、自殺行為だよ!)」


「(ああ?)」


「(ゲランさんの怪我まだ治してないし、それに虫達は音が欲しいだけだよ。命の取り合いじゃない。)」


……良い事言ってるように聞こえるが、虫共でも自分の眼の前で死なれるのが羨ましくて嫌なんだろお前。


「(音が欲しいたって、あの量だぞ!俺達が満足させられるわけねえ!!)」


「(うーん…カランさん。)」


「(はい。)」


「(音響魔法って使える?)」


「(あ、ああはい!中級までですけど使えます!)」


音響魔法?音の魔法か?そんなもんがあるのか。

ココは俺達に任せてくれとカランと前に出る。ゲランが不安そうだが、カランがやる気なので止めないでいる。


「(大きな音の出る魔法を頼めるかな?)」


「(はい。)」


「(よし…じゃあ、俺達で虫さん達にご飯をあげましょう!)」


「(はい!)」


ブォンっとあのロッドを取り出し、構える。立派なロッドにあっちのメンバーは驚きの表情だ。特にカラン。魔導師同士でわかる凄さってやつだな。


「(カランさんお願いします。)」


「(は、はい!大地に轟かせ 大気を震わせ 野を駆けろ “王者の咆哮”!!)」


詠唱…久しぶりに聞いた。クズは無詠唱だからな。

カランが魔法を発動させて、空気の流れが変わりカランが叫ぶ。音は無いが凄まじい音量であろう事は、振動でわかる。クズの方は、カランの魔法を確認してから何時ものようにロッドをテクニカルに振るい、雪に柄を突き立てた。


「(“火山大噴火”!)」


《ボゴゴゴゴゴ》


「「「!?」」」


音が聞こえる。小さいが確かに。音を轟かせているであろうロッドから振動が伝わる。アレだけの数ですら食い漏らす音を出してるって事か。死なねえよな…?

黒い虫共の行進が止まり、徐々に音が戻ってくる。それでわかったこと。


《アアアアアアアアアア!!!》


《ゴォオオオオオオオオオオ!!!!》


「うっるせええ!!」


耳を塞いでも頭が割れそうな程の大音量。グワングワンする!頭が痛え!!

二人の音にフラついてその場に座り込んだ。周りを見れば、全員座り込んで俺と同じだった。


「(カランは、獣の咆哮で…クズのはなんだ?噴火の音か?)」


もう十分だと思ったのか、二人はピタッと魔法を解いた。いきなりの静けさに耳鳴りが酷い。


「はぁ…はぁ……ふへぇ〜」


カランが疲れきった身体を雪に沈める。汗だくのカランに比べてクズはケロッとしてる。大丈夫かと屈んでカランを労わると、カランが照れたように大丈夫と顔を赤らめた。ほほぉ〜…若いっていいなぁ。


「ぬおーー!!」


「へ!?」


「娘に触るな!!」


まだ言うのかゲランの旦那は…。ズザァーッと二人の間に滑り込んだ。だが、表情に変化が起きた。


「お父さん…。」


「お前が黒の髪だろうと無かろうと娘はやらんぞ!!」


父親の表情(かお)だ。先程までの恨みを持ち蔑む種族の表情(かお)じゃない。必死さが違う。


「お、ぉお父さん!何言ってるの!?」


「そうですよ。お父さん…。」


「お前にお父さんと言われる筋合いは無いわぁ!!!」


…殺そうとしていた相手に娘が惚れかけてると知って違う意味で殺されそうになってる。


「冗談はさて置き。俺を殺さないんですか?どうなんです?」


「殺さん。死はお前にとって苦ではないと知った。なら逆に…ずっと苦しみながら生きろ。」


「!!」


「赤いの」


「ライゴウだ。」


「…ライゴウ、コイツを死なせるなよ。意地でも生きさせろ。」


「おうともよ。」


クズの顔を覗くと、絵に描いたような絶望の表情。泣きそうになってる。生きろと言われて絶望する奴はお前ぐらいだよ。クズ。


「…良かった。カラン、立てる?」


「うん。」


「なるほどぉ。流石、ゲランだ。んじゃあ、さっさと街に戻ろうぜ。もう昼だ。」


《……ォド…ド》


「?」


なんだぁ?なんか音が聞こえる。重々しい音が。それはどんどんこちらに近付いてきているようだ。

今度はなんだ?次から次へと問題が出てくる。


《ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド》


「「「………………。」」」


大きな雪崩が起きた。恐らく、先程の二人の魔法に生じた振動だ。全員 (若干一名逆走しかけたが、首根っこ掴んで)、無言で走り出した。だが……


「うっ、前方に停滞してる虫の群れ…後方には雪崩。」


「仕方ない。みんな、集まって!街まで飛ぶから!」


「え?この人数で魔法使ったら…。」


「大丈夫大丈夫。」


大丈夫じゃねえだろうが、今思い浮かべれる策はそれしかねえ。


「行くよ!“瞬間移動(テレポーテーション)”!」


《ギュン!》


一気に景色が変わる。そしてやはり投げ出される。山の麓だ…上で雪崩の音が小さく聞こえてる。


《ズシャーーーン》


「いってぇ!お前もっと着地考えろよ!!」


「あたたた…」


「うう…気持ち悪りい。」


「クズさん、クズさん大丈夫?」


「……………んぁ…大丈夫大丈夫。」


籠の薬草を二人して撒き散らしちまった。もう何回目だろうな、籠に戻すの。

カランがクズを心配して寄り添って拾うの手伝ってるが、後ろでそれを鬼の形相で睨む父親が居る。


「カランに手ぇ出したら不能にしてやる…。」


「殺すより残酷だぜ。流石、ゲラン。」


「お年頃ですもの。いいんじゃないですか?歳の近い異性と話すのも。」


「ダメだ!カランを獣の餌食にしてなるものか!」


あっちはあっちで盛り上がってんなぁ。んー彼女が出来たらクズも考えを改めてくれるかもしれないな。


「本当に…体平気なの?」


「平気、平気。心配ナッシング!」


「……………ごめんなさい。」


「?」


「僕達、クズさんに酷いことしたのに助けてもらってばっかで…それでお礼も言わないで、それどころか殺そうとして……。」


「俺は、気にしてないよ。それに、君達が死ぬのは嫌だからね。俺を恨んでるとか関係ないし。」


「!!……狂ってる位、心が広いんだね。」


「褒めてんのか貶してんのかどっちよそれ…」


「フフフ…」


おお!いい感じいい感じ。俺が置いてかれてる感はあるがいい感じじゃない。

街に着くまで、カランはクズにひっついてた。もう、旦那の顔がこえーよ。カランが楽しそうだから止められないらしい。


「ライゴウ。」


「なんだいゲランの旦那。」


「この後一杯どうだ?」


「お、いいねえ〜今日すげえ長かったよなぁ〜。もう日も傾きかけてるし。」


寒い雪山を登って薬草を採取して、割れ目に落ちて、旦那と会って、割れ目進んで、上から彼奴ら落ちて来て、地上に戻ったら言い争いして、虫が押し寄せたから二人がなんとかして、雪崩が起きて、山の麓に戻ってきた…って感じだ。凝縮された一日だ。

けど、まだまだ一日は終わってない。


依頼を終えて、報酬を受け取ったその体で二つのパーティはちょっと早めの晩飯だ。ひっさしぶりの酒にハメを外す。ローニャが心配そう見守る中でゲランとアンデルの飲み比べが始まり、居酒屋内の客もガヤガヤとどっちが勝つかで騒ぎ出す。

カランとクズは飲めないので、干しスルメや茹でた豆をつついてる。こういう時の未成年は可哀想だ。


「…あー耳が」


「音が無いのも嫌だけど、コレはコレで厳しいね。」


「クズ!嬢ちゃん!暇してんの?」


「……酒臭いな。」


「居酒屋の大人はそういうもんだよ!」


「確かに。」


クズ達のとこに来たのは、気になった事があったからだ。


「クズ、あの虫さ。あのままで良かったのか?繁殖し過ぎて、山の生態系とか崩れねえ?」


「あーそれは大丈夫だよ。自然の摂理はそう簡単に崩れないよ。花嫁争奪戦で半分以下になるから。」


「え?半分以下?アレがか?」


「そうだよ。全体の量は凄まじかったけど、メスはオスより少ないんだ。より強いオスが勝って、生き残る。弱いオスは負けて、死ぬ。死骸は他の生き物の餌となる。自然界のサイクルは素晴らしいよね。」


「お前って本当に物知りだな。」


隣で聞いてるカランの目がキラキラしてるぞ。気付いてやれよ。


「クズさん、博識…。」


「え?それほどでもあるな。」


うぜえな。


今日の無音を埋めるように騒ぎ立てた。音が溢れてる事にこんなに安心するとはな。若干何名か迷惑そうだが、それはそれだ!!!



結果、次の日二日酔いが酷くクズに笑われることになった。


フルッホ~フルッフルッ、フルッポォ~!

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