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「弟子」
ヴィンセント・ロメイ・エレメントスは、ごく最近拾った少女を連れて旅をしていた。
子供の扱いには不安があったが、こちらも弟子を取りたかったので仕方がなかった。
過去に調合士の少女を弟子にしていた事があったので、多少我がままでもなんとかなるだろうと踏んだのだ。
「最もその少女は私の試験に不合格になったので、こちらは死んだふりをして彼女の前からは姿を消しているがね」
「いじわるだー」
「君には彼女の分まで、サテライトの開発をしてもらいたい。私がどこかで野垂れ死ぬのは構わないが、この発想と技術は後の世に必ず必要になると見ている」
「できません」
きっぱりと断られた。
「……」
接してみて思う。
子供の相手とはかなり労力を使うし、よく分からない生き物だと思い知った。
気まぐれなネコウのようで、何にでも興味を示したかと思えばその熱はすぐに冷める。
行動の予測は不可能で、とても先読みが困難だった。
「びんせんとが遊んでくれないから、あたしつまんないです」
「さん……か師匠を付ける様に言っただろう」
「やだぁ」
「……はぁ」
このようにコミュニケーションすらおぼつかない有様だ。
「おい、娘。貴様は俺の何が気に食わないのだ」
「んー。利用できそうだからって人を操ろうとするとこです。あと、上から目線?」
だが、勝手かと思えばひどく的を得た事を時々言ったりもするから簡単に、侮る事も出来ない。
「なぜ俺はこんなものを拾ってしまったのだ」
「分かんないー。それは、昔のびんせんとに聞いてください」
膠着状態に陥ったこちらの仲をなだめるのはいつもヨミの役目だった。
黒い塊。
靄の様な生き物。
なんにでもなれる、変化できる生き物かどうかも怪しいそれは、自分がかつて何かであった事だけ覚えている意味不明の生物だった。
黒い塊であるヨミが少女の肩に乗れば、少女は楽しそうな声を上げる。
「ヨミ、一緒にあーそぼーっ」
この世界には終止刻がもうすぐ訪れる。
噴出した空中の飛散物……・闇の魔力を塔で吸着するという方法もあるが、サテライトを空に打ち出して吸着させた方が効率がいいのは確かだった。
その理論や方法の研究をしているのだが、安心して受け継げる人間がいないのが最近の困った事だった。
前の弟子を切り捨てるのではなく、残しておくべきだったのかもしれない。
喧しく騒ぐ娘の声を聴きながら、ヴィんセントはそう思っていた。




