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ブラックボックス「GH」  作者: 透坂雨音
01

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「物盗り」


 砂粒は家主に、無断でその家に上がり込んでいた。


 リビングには、かろうじて息がある不法侵入者らしき男の姿。


 そして、その傍で倒れた小さな少女。

 その少女の傍らで呆然としている父親の姿があった。


「ああ、そんな……。そんなつもりじゃ、なかったのに……。とっさに体が動いて、すまない……すまない。許してくれ」


 父親は混乱しているようだ。

 自らの手で娘を殺めてしまったと勘違いをしている。


 よく見れば、娘はまだ生きている。

 呼吸をしているのが砂粒にも分かったからだ。


 これはおそらく不幸な事故だったのだろう。

 部屋を見回してそう思う。


 母親が傘を持って外出したのを見届けて、入った物盗り目当ての不法侵入者がいた。

 その男は、部屋を急いで荒らすのだが内部にいた父親の存在に気づかず互いが遭遇してしまう。


 あっけなく父親はそれを撃退するも次いでやってきた娘を勘違いして、危害を加えてしまった。


 そんな所だろう。

 雨が降らなければ、娘がもっと早く帰宅していれば、今ある状況とは何かが違っていただろう。


 物盗りは犯行を諦めたかもしれないし、もしかしたら逆に娘を人質にしていたかもしれない。

 今となっては分からない所だが、何となく後者になりそうな気はした。


 あの娘はそういう星の元に生まれたからだ。


 砂粒は、冷静に目の前の状況を眺める。


 愛すべき娘を失った直後に、血の繋がっていない娘を殺してしまったと勘違いした父親。

 彼の心は壊れる寸前だった。

 このまま放置すれば、間違いなくそうなるだろう。


「う……お父さん?」


 そうしている間に、少女が目を覚ました。


「お父さん、ねぇ、お父さん」


 少女は混乱し続ける父親へと呼びかけるが、父親はそれに反応しない。


 虚空に視線をさ迷わせて、よく分からない独り言を呟き続けるのみだった。


「違う、そんなつもりじゃ、許してくれ。俺が、俺のせいで、そんなはずは……」

「お父さん、どうしちゃったの。ねぇ、お父さん、やだよ。元に戻って。ねぇ……」


 少女は父親に呼びかけ続けるが、父親に変化はなかった。

 数々の不運が重なってできたこの状況を見守り続けていた砂粒は、状況を見計らって少女に声をかけた。


「やれやれ、まったく君ってほんとうに……ほっといても勝手に不幸になるんだね」

「さ、りゅう? どうして」


 少女はそこで初めて砂粒の存在に気が付いたようだった。


「他に言う事とか考える事は無いのかい? そこに転がってる見知らぬ人間は誰だとか、僕にいつからいたんだとか」


 そう砂粒が言えば少女は無断侵入者の事よりも、家族の事を優先するようだった。


「さりゅう、お父さんが戻らないよ」

「知ってる」

「呼びかけても、何にも答えてくれない」

「見てたよ」

「……お願い」

「何を?」


 わざわざ分かりきった事をこちらに丁寧に説明してくれた少女は、表情を歪めながらその「お願い」とやらの内容を口にする。


 嫌いなはずのこちらに向かって。


「助けて」

「何で」

「お父さんを、助けて。お願い。砂粒なら何かできるんじゃないの!? だからここに来たんじゃないの!?」

「君は僕の事が嫌いなんだろ、そんな人間に頼むの?」

「助けてほしいの。お願い、します」


 少女の真剣な声。

 そして、頭を下げられた。


 どうしてそう思ったのか、分からないけれど、中々この少女は無意識に鋭い所がある。

 それとも、ただの願望により思い込みかもしれないが、


 ならばと砂粒は思う。

 こちらも真剣に答えなければならないだろう。


「嫌だね」


 だからこちらは目の前の少女に、拒否の言葉を言い放った。


「……っ」

「ムシが良すぎるよ、君。今までこっちを散々嫌っておいてさ。困った時だけ頼るの? ひどいなぁ。自分で何とかしなよ。僕は助けたくない、大体嫌われている君にそんな事言われたって困るよ。僕はただのきみと同じ人間で、そう変わらない子供なのに。できるわけないだろ。自分が出来ない事を人に頼むなよ」

「そ、それでもっ」


 いつもなら、そこで会話が終了するところなのに、少女が食い下がって来た。


「砂粒は普通じゃないでしょ! あたしは知ってるんだ。砂粒は皆とは違う。助けて、お願い、何でもいいから力をかして、砂粒しかいないんだよ。何でもするからっ!」

「へぇ……」


 少しだけ面白身を感じた砂粒は、とある提案をする事にした。


「君の頼みを聞くのは嫌だ。君を助けたくはない。でも、ね。そんな事を言うのは僕だって心苦しいんだ。だからこの家から出て、生きてよ」

「えっ?」

「助けてあげても良いよって事」

「……」


 考え込んだ少女だが、ややあって頷いた。


「分かった」

「交渉成立だね。じゃあ、山の中の洞窟まで一緒にご同行いただこうか、住むとこに困るでしょ」

「お父さんは、ちゃんと助けてくれんだよね」

「もちろんさ。君と関係が無くなった人なら、目の前で困っている人を助けするくらいはしても良いって思ってるし。今はちゃんとするよ。君の代わりの養女をこの家において、この不法侵入者も野に離して、めちゃくちゃになった家の中も元通りにしてあげる。ここであった痕跡を全て消しとくから」


 その代わり、砂粒は言う。


 両親に、そしてその世界に永遠の離別を告げる事になる、その一言を。


「君も僕の言う事、ちゃんと聞いてくれないとね」



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