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【ヴィーシャ】
「それでは第一回回復魔法研究会を始めたいと思います」
王宮に設けられた一室、私を含め十人程の魔法使いが円形の卓に座っている。
「では始めに座長から挨拶を……」
本人は乗り気ではなかったらしいけど、座長となった叔父様、この間挨拶を交わしたチャドラン師、その他多数の論文をものにしている名の通った研究家達……
「では次に現状での回復魔法の術式設計を行ったヴィーシャ師より術式の説明と改良への考察をお願いします」
「はい。そもそも回復魔法を作成する足掛かりとなったのは付属式の逆転接続を……」
回復魔法。本当は私よりも先に叔父様が作成しているのだけれど、叔父様は私の手柄にしたいらしく私が作成した事になった。
実際、私は独自に作成したのだし、叔父様は作成した後ほったらかしにしていた訳で、手柄と云えば手柄だろう。
いまいち釈然としないけど。
「……この様に、精霊魔法の『契約』術式に含まれる『召喚』と召喚指定を『異世界魔力』に設定する事で……」
ガンズのお陰で判明した光神教の秘密。
死霊術の基礎式に精霊魔法の付属式を接続なんて荒業、一体誰が思い付いたのか?
光神教の『奇跡』には他に効率化の為の『回復部位指定』がなされていた。その為ごちゃごちゃした作りになってはいたが。
「……高効率化には術式維持用の魔力を工面せねばならず……」
これが巧くいけば光神教の回復部位指定という形式よりすっきりとした形になるだろうし、汎用性も高まる。
回復魔法が完成したなら異世界転移魔法を研究しよう。エド達の為に……
……そこで私の中に違和感が生まれた。
叔父様?
叔父様は光神教の『奇跡』が異世界の魔力を召喚して行使されている事を知っていた?
ダンジョンを離れる前、私と話した日。叔父様は『魔力召喚』について大きな反応を示さなかった。当たり前に使われているかの様に。
『知らない』事には何にでも飛び付く叔父様が反応を示さなかったという事は『知っていた』?
何故知っている?
『奇跡』を研究した?
「……以上です。御静聴ありがとうございます」
「ヴィーシャ師ありがとうございます。では次に……」
研究したんじゃない……
……叔父様が『奇跡』を作った?
「……では本日の研究会を終了します。皆様お疲れ様でした」
会議室から出ていこうとする叔父様に声を掛けた。
「叔父様、ちょっと宜しいかしら?」
他の人達が部屋を出ていき、私と叔父様だけになるまで待つ。
「さて、どうしたのかなヴィーシャ」
「……叔父様は光神教の『奇跡』の内容を以前から知っていたのですか?」
あの日、話した内容を思い出せば、叔父様はエド達三人が転移した事を、光神教の回復魔法が異世界の魔力を利用した影響かもしれないと考察していた。
『異世界の魔力を利用する』事を聞いたばかりでそこまで気付くものだろうか?
まして『異世界を観測出来ない状態』で人を転移させる危険性まで指摘出来るだろうか?
魔法以外に気が回らない叔父様が私の仲間を気遣う様な話を私にするだろうか?
「知っていた。うん、知っていたという表現でいいのかな?まぁいいや。アレは僕の弟子でね」
……弟子?
「あの、叔父様?誰が弟子なのですか?」
「光神教の教祖アラノックだよ、もうだいぶ前に死んじゃったけど。ヒューマンは寿命が短いからね」
「……は?」
光神教の教祖?
ヒューマン至上主義の光神教、その教祖が叔父様の……弟子?
「え~と?百五十年くらい前だったかな?アラノックが弟子入りしてきたのは。センスは良かったけど魔力量が少なくてね、ヒューマンとしても少なかったね。だから冒険者向きではなかった。でも研究家としてならセンスの方が大事だし」
「その方が……?」
「そう、今の光神教の『奇跡』を作った。僕が考えた逆転接続と、自分の編み出した『異世界魔力召喚』を使って。あぁ!本人の名誉の為に言っておくけど彼がヒューマン至上を唱えた訳じゃないよ?彼は純粋に医療……医療魔法を創って広めたかったんだ。研究家として創り、彼の賛同者に臨床してもらう。それが光神教の大元だったのさ」
私は思わず叔父様を凝視した。
「それじゃあ私が産まれる前に回復魔法は出来ていたんじゃないですの?叔父様、なんで今までほおっておいたんですの!」
叔父様は気まずそうに目を逸らす。
「ぃや~だってね、逆転接続なんてガラクタ、どうでも良かったし?その頃僕既にリッチだったから回復魔法は必要なかったし?」
思わず床にへたり込んだ……価値観が違い過ぎる。
「いやでも僕だってアラノックには異世界魔力召喚は何が起こるか判らないよって注意したよ?エド君やステラ君みたいに転移が起こる可能性は極小だけど無い訳じゃないし。でもアラノックは人命救助が一番の人だったから」
人命救助が一番の人……
アラノック師は善意の人だったらしい。
死霊術の応用で人を治療するなんて巷間に知られたら回復魔法は広まらない。だからアラノック師とその弟子達は『聖光治療』と名付け、印象操作をした。
アラノック師死後、『光神教』と名を改め宗教団体にして諸国に広めそして……
「……その過程でヒューマン至上主義になった。アラノックの人道主義は利益と権力の追求に変わっていったんだ。回復魔法を『奇跡』と呼んで秘匿したのは競合者を排除する為。悪徳とみえるかもしれないけど、まぁ生物学に照らし合わせると実に本能的な発想だよ」
所属する群集団での地位確保と競合する他集団の排除……本能的ね、なるほど。
「でも叔父様、アラノック師の人道主義が今や大陸を二分していますわ」
「いや、アラノックはきっかけだよ?他種族と仲良くするのは元々難しいのさ。サウルの『万民協和』がかなりの無茶なんだ。メリットがあるからなんとか回っているけどね」
【ドラス】
「それで今夜はどんな悪巧みですか姫様?」
我等が定期連絡の最中に給仕係がくちばしを挟む。我甚だ不快なるも姫様は我を諌め、個体名チャルに答える。ただしドラゴン語にて。
『悪巧みとは酷いな、陛下に対し二心は無いと言ったであろう?現にチャドランを陛下に預けているのだから』
賢者チャドラン。我等の中で希少なる魔法の使い手。姫様子飼の一人。
『これは定期連絡、部外者は慎んで頂きたい』
「ドラスさんはドラゴン語だと口調が変わりますねぇ、でも陛下のお耳に入れる必要があるかどうかはこちらで判断しますね」
女狐が!
こやつの働きで長老会を瓦解させる事に成功するも、我等の思惑もまた潰えた様なもの。
『ドラス、矛を納めよ。チャルよ、これからの話は結果的に陛下の利となるであろう、共に聞こうではないか』
「ありがとうございます姫様」
『……姫様の御心のままに。報告します、王都内光神教神殿にて不穏なる動き。武具を揃え、神殿地下にて集団演習を怠らぬとの事』
『予想通りではあるの、工作は?』
『万全でございます姫様。次に国外各地へ放った細作より。ラムール改め光神法国が各国へ働きかけ、連合をなす構えをみせております』
「それは宜しくないですね姫様?」
『連合を成立させ次第、攻めてくるか。その際、王都の光神教徒が呼応して襲ってくると。ヒューマンらしい策ではある』
姫様、卓を拭きながら微笑す。
『時にチャルよ、陛下は光神教に対する用意は万全か?』
「はい姫様。それについて陛下より御言葉が御座います。王都内の光神教徒蜂起の日は掴んでいるので安心せよ、と」
姫様大笑す。
『……であろうの。流石は我が殿、我が夫にふさわしい御方。我もその日を予想はしておる、答え合わせといこうか?』
姫様、そして個体名チャルが声を重ね。
「「結婚式当日」」
【サウル】
謁見の間。
余の前に現れて挨拶の口上を述べたのは光神教の大司教マルト、王都にそびえるキンキラした神殿の女主だ。
神殿のキンキラが霞む程のド派手な衣装に身を包み、元が分からなくなる程濃い化粧のヒューマンの婆ァ。
まぁ婆ァと言っても実は余より二十歳程上なだけ。短命種の悲哀というべきか。
いや、回復魔法の応用で若返っているかもしれん。実はもっと歳上か?
「久しいな、マルトの方。して?今日は何用か?」
「はい、陛下はこの度御成婚なされると耳にいたしました。しかしこの地では結婚を取り持つ祭祀がおりません。微力ではございますが私どもにお任せ願えませんでしょうか?」
婆ァそうきたか。
神殿の中、余と奥の周りを信徒で囲えば弑逆も簡単という訳だ。
「心遣い感謝するが、余の后はドラゴニュート、結婚式の主役は妻というもの、故に先方の婚儀を採る事となっておる。これを今変更してヒューマンの形式を採用すれば先方は蔑ろにされたと邪推するだろう」
「……それは気が付きませなんだ。僭越でございました」
「なに、しばらくすれば近隣諸国より寵妃が輿入れする事もあろう。市井の妾とは違い日陰者ではない故に、その者が望むならささやかな式など頼むとしよう、それで良いかなマルトの方?」
どうだ婆ァ、面子を保ってやったぞ?
「ありがたく存じます陛下。それでは失礼致します」
さっさと帰れ、後が詰まってるんだ。
「アドレア王国大使トリアス殿、イルベ王国大使サントバ殿、ゴース王国大使イリリアス殿」
三人の大使を一度に呼びつける。この謁見は余からの申し入れだ。
同じ内容を話すのだ、一度に済ませたい。
「お三方、余の呼び掛けに貴重な時間を割いていただき感謝する」
この三国は余の国に国境を接している。
東側諸国では『魔国に対する防波堤』とみなされているが、余の国にとっては交易のお得意様。
『万民協和』のお陰で他種族への風当たりも酷くない。また光神教も蔓延っていない。
大体、三国合わせても余の国より小さいのに防波堤を期待するとか。板挟みで大変だろうに。
「今日お三方を呼んだのは他でもない。アドレア、イルベ、ゴース三国と我が国との相互同盟の御誘いなのだ」
「なんと!」
「それは貴国の後ろ楯を?」
「おぉ、それならばありがたい御話でございます」
「うむ。無論軍事的な同盟でもあるが、今まで以上の交易の強化、そしてこれが一番重要であるが……」
三国にとって余の国との軍事同盟程ありがたいものはないだろう……今までは。
それ以上の餌をぶら下げてやる。
「……文化、学問交流を考えておる。例えば回復魔法は?良い交流の機会を提供出来ると余は思うが?」




