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(更新14)

【ガンズ】


あれから二週間程経った。


ようやく全員が揃ったのでダンジョン探索を再開し、十階層手前辺りまで探索した。


暫くはこの辺りで稼ぐ事にしようとザップが決定した。これ以上深く潜るのは危険度が高いと判断したのだろう。


回復魔法が完成すれば深く潜るのも容易になるかもしれないが、ヴィーシャは手探り状態で完成はまだまだ先だそうだ。


十階層まで行って戻るとなれば四~五日ではきかない。まず一週間から十日といったところか。


今回の探索で、大体掛かる日数を把握したので、探索を終えて宿屋に帰ったら一週間程休む事に決まった。


まぁ順当だろう。


松明の弱い明り一つで、ジメジメとして何処から何が飛び出すか判らないダンジョンの中を十日程もうろつくのだ。


神経の太い奴でも参るのが当たり前だ。一日や二日休んだ位で直ぐまた潜るのは無理な話だろう。


休暇中はそれぞれお互いに干渉せず好き勝手過ごそうとも決まった。


四六時中顔を付き合わせ続けるのは精神衛生上よろしくないそうだ。ザップの受け売りだが。




という訳で、俺達は昨日ダンジョンから帰ってきた。


確かに疲労感があった。肉体的なものではなく精神的な。戦地で寝起きしていた時の様だ。


そのせいで丸一日寝てしまった。


さすがに腹が減って部屋を出ると辺りは暗く、丁度晩飯時。


ほぼ満員の食堂に入り飯を食う。


部隊長だった頃の癖でゆっくりと食っていると、ドヤドヤと冒険者が入ってきた。



……ヒューマンが三人か。



「済まないが部屋を借りたい。後、食事もお願いする」



ヒューマンの冒険者は東門に帰るものだが、夜も遅い。


こちらの宿屋で一泊した方が夜道を歩くよりましと考えたのだろう、ここは国営だからヒューマンにも権利はある。


俺の卓に給仕の狐──チャルという名前だったか──が三人を連れてやってくるのが見えた。



「あい済みませんガンズさん、こちら相席お願いしてもよろしいでしょうか?」


「……あぁ、どうぞ」



この間襲われたせいでヒューマン冒険者にいい感情を持ちあわせていないのだが、別人だしな。断る理由はない。



「じゃあお客さま方こちらにお座り下さい、今食事を運んで来ますから」



三人は俺に会釈すると席についた。



「ここって他種族専用じゃないんですか?」



三人の内の紅一点がリーダーらしき男に小声で訊いた。



「違うよステラ、ヒューマンが寄り付かないだけさ」


「寄り付かない、というより、寄り付けないといった方が正しいだろう?」



無視するつもりがつい、会話に入ってしまった。



「……そうとも云いますね。光神教がうるさいから」



そう言ってリーダーの男が笑う。



「あぁ失礼、僕はエド。こっちはチャーリーで、この娘はステラ。見ての通り嫌われ者のヒューマンです」


「……ガンズだ。珍しいな、他種族に偏見が無いヒューマンは」


「ヒューマンが皆、光神教の信徒ではないですよ」



エドはそう言って苦笑した。



「それもそうだが、珍しい事ではある」


「まぁ最初は『魔国』なんていうから、てっきり魔王が統べる国で世界を征服しようとしてるのかと思いましたが」



ぶふっ!


思わず噴いてしまった。確かに東側諸国では陛下の事を魔王呼ばわりしてはいるが。


あの陛下が世界征服か……無いな。


知らないとそう思えるかもしれない。



「この国に来て驚きましたよ。魔物……あぁ失礼、知的種族でしたか、皆平和に暮らしていて」


「ホント!ミノタウロスが畑耕してるの見て目を疑ったわ」



ステラという女がエドに続けて口をはさんだ。


む……?


俺は少し違和感を感じる。


ミノタウロスは農耕種族だ。菜食主義という訳ではないものの、肉より野菜を好んでいる。


だから大陸の東西を問わずあちこちで畑を耕していて、東側でも差別的な扱いをされていないし、普通に見掛ける種族だ。穴蔵暮らしのドワーフやサイクロプス、森から出ないエルフより多く見掛けるはずだ。


エドといい、ステラといい、何か……ずれている様な……



「お待ちどうさま~」



給仕が料理を並べ、三人が食事を始める。人懐っこいのか食べながら話を続ける。



「ガンズさんっていったっけ?ちょっと訊くけど、ゴブリンとかって知的種族なのかい?」



今度はチャーリーという男が訊いてきた。



「……いや、ゴブリンは厳密には違う。共通語を話せる者が少ないし、野蛮な暮らしで他種族とぶつかったりするからな。それでもこの国ではだいぶましだろう」



ゴブリンやオークの中で山賊の様に振る舞うのはごく一部だ。


ヒューマンの山賊も多いから、十把一絡げにするのもどうかと俺は思っている。



「街の中にゴブリンを見掛けたんだけど、大丈夫なのかい?」


「ゴブリンにも向上心はある。ヒューマンの山賊より彼等は上等だ」



チャーリーが気まずそうな顔をするとエドが笑って肩を叩いた。



「一本取られたね。本当に面白い世界だ、ヒューマンよりゴブリンが上等かぁ」


「あのぅ、ガンズさんて、なんて種族なんですか?」



あぁ俺は珍しいだろうな、ミノタウロスとちがって少ないから。



「ステラ、俺はオーガだ。少数種族だから……」



珍しいだろう、と言おうとした瞬間。


三人が一斉に立ち上がった。


訊いてきたステラなど勢い余って尻餅を付いている。



「……オ、オーガ?」


「……でもエド、角が無いぜ?おいガンズさん本当にオーガなのか?」


……角?



「俺達オーガに角は無いよ、ミノタウロスじゃあるまいし」


「二人とも落ち着こう、失礼しましたガンズさん……」



エドの言葉に二人も謝りながら席に着く。



「一体どうした?」


「お気を悪くしたら済みません、以前住んでいた村でオーガに村人が食い殺された事が」


「はぁ!?そんな馬鹿な!俺達は確かにヒューマンから人喰い鬼なんて呼ばれるがヒューマンを食べる事は無い、訂正しろ!」


「ぃや確かにオーガだったんだ」


「オーガに角など無い!角が付いているのはミノタウロスだけだ!」



俺は腹立だしい思いをしながらも、先程の違和感が更に大きくなっている事に気付いた。


俺は大きく息を吐いて椅子に座り直し、姿勢を正した。


……冷静になろう。



「大声を出して悪かったな……俺達オーガは戦闘種族だ、傭兵をやるか狩人になるくらいしか能がない。だが戦でもない限り村を襲うなんて真似はしないし、ヒューマンに限らず知的種族を食うなんて事は無い」



俺がそう言うと、エドが頭を下げた。



「本当に失礼しました、ガンズさん。訂正します、僕達の村を襲ったのは『オーガ』と呼ばれる怪物であって、貴方達オーガという種族とは別物です」



……別物?


……オーガという怪物?



「……ちょっと待って欲しい。エド、オーガは俺達しかいない。俺達は古の巨人の末裔、鎚打つサイクロプス、耕すミノタウロス、闘いのオーガだ。怪物?ドワーフやエルフより旧い血筋の名前を怪物に付ける程お前達の村は常識が無いのか?」



例え光神教の連中でも否定は出来ない。


デーモンの末裔ヴァンパイア


ドラゴンの末裔ドラゴニュート


そして巨人の末裔の俺達三種族


我々は旧い旧い血脈で、他種族はずっと後に生まれてきたという事を。


猿をヒューマンと呼ぶか?呼ばない。


犬をビーストマンと呼ぶか?呼ばない。


怪物にオーガの名を与えるか?



「お前達は何者なんだ?さっきから言葉の端々に違和感を感じているんだが?」



俺は声を潜めて訊いた。


三人は互いに顔を見合せる。やがてエドが言った。



「ガンズさん、貴方は誇りを持った方の様です。きっと誠実さも……ただ、ここで話すのは……」


「……俺の部屋で聞こう。飯が済み次第」



手早く飯を済ませ、三人を伴って部屋に招待する。



「……部屋、広い」


「こっちの宿屋を常宿にしようか?」



殺風景な部屋だが、三人には好印象らしい。


ヴィーシャの部屋ならお茶もあるのだが、生憎買い置きが無い。



「さて、俺が訊きたいのはエドが言った言葉の意味だ」



エドが首をかしげる。



「……いつ、何を?何か変な事を言いましたか?」


「ゴブリンの話をした時だ。こう言った、面白い『世界』だと。この国を面白い国と言うなら解る。だが……世界?」



エドは俺の言葉を聞いて額を叩いた。



「しまった、ついうっかり」



自分の失敗に苦笑しながら続ける。



「貴方は目敏い人ですね……いや『この世界』のオーガが賢いとは思いませんでした」



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