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~4.

「いやぁ二人とも悪いなぁ。応援ありがとう」

「……まぁ、暇だったから」

「そんなん言うてる割には、熱の籠もった声援に聞こえるけどなぁ」

「気のせいだ。ほら汗ふけ」

「和哉君、夏樹ってば今日は珍しく早起きでさぁ」

「百瀬、余計なこと言うな」


 今日は和哉のバスケの試合。うちの高校が試合場として使われているこのゲームに誰かさんのせいで来るハメになったのだが、これまた面白いんだ、対戦相手が。

 やたら声のでかい指令塔に、全くシュートの決まらないフォワードに、技術も身長も足りていないセンター。こんなんでよく試合に出ようと考えたものだ。


 一方、和哉の属するうちのチームはそこそこ上手い。副キャプテンの和哉はセンスのいいスウィングマンで、次々にシュートを決める。キャプテンは器用で頭の切れる指令塔で、アシスト能力が逸品。他の奴らは際立って目立つものはなさそうだが、指令塔の見事なまでのプレイスタイルがチーム全体に影響している。

 あと一人得点力の高い人材が入れば文句無しに良いチームに化ける。まぁ和哉達が引退したら弱小チームに成り下がるんだろうけどな。


「夏樹! 和哉君またスリーポイント!」

「やっぱセンスあるなぁアイツ」


 いつもの飄々とした雰囲気を残したままであんなにキレのあるプレイをされると、なんだかこっちが調子狂うようだ。アイツ、楽しそうだよな、本当。

 ――和哉に初めてバスケ部に誘われたのは一年のときか。いつも一緒にいたくせに、アイツが俺のバスケの才能に気付いたのは二学期の体育の授業でのことだった。

 一年ぶりくらいに触ったバスケットボールも、初めて狙いを定めた体育館のゴールも、全く違和感はなかった。ボールを床につけばエンジンがかかり、そのままリングめがけて走ればブレーキはかからない。俺の手から放たれたボールがネットをすり抜ける音が気持ち良かった。


 和哉は唯一クラスで俺に対抗できる人物で、息を切らしながらボールを奪い取りに来ていた。あのときのアイツの顔は、般若の面よりも恐ろしいものだった気がする。

 そんなおかしな関西人が、チリンチリンと鈴の音を鳴らしながら毎日のように言っていた。


『――夏樹、バスケ部入らへん?』


 運動部のシステムや雰囲気が俺に合わないことは以前に身をもって知っていた。途中で辞めるのもわかっていたし、何より文芸部での活動もあったから丁重にお断りさせていただいたさ。

 ところが、諦めの悪い和哉は最後の最後に勝負を持ち掛けてきた。


『――俺が三本先取したら、バスケ部入ってな』


 俺の返答などには耳を傾けない鈴野郎は、いつになくやる気満々の表情でクルクルとボールを指の上で回し始めた。

 しかし、そんな余裕も2分後には消え失せたようで、やたら清々しいスマイルを浮かべながら完敗宣言をしていた。少々申し訳なくも感じたが、奴の爽やかな負け面は俺のそんなふざけた気持ちをすぐに吹き飛ばしてくれた。


「やったぁ! 勝ったよ夏樹! 和哉君勝った!」

「おう。随分一方的な試合だったな」


 まぁ、所詮はどこの高校でも出場できる予選。とんでもない強豪校にぶち当たるまでは案外とんとん拍子に進むんじゃないだろうか。


「バスケって本当燃えるよね!」

「スポーツなんて、暑苦しいったらありゃしない」

「今の言葉、和哉君にチクリます」

「勝手にしてくれ」


 まぁ、何はともあれ無事に一回戦突破だ。おめでとう、副キャプテン前川和哉。この調子で次も面白い試合を頼む。



「余裕に見えたかもしれんけども、キチキチやったで、ウチのチーム」

「そりゃお前が動き過ぎなんだよ」

「んなことないわ。皆気合い入れてボール追ってたやろ」

「とにかく! 二回戦進出おめでとうだね!」


 去年は和哉がスタメンになった年で、丁度この時期に同じようことを百瀬が言っていた。結局準々決勝で負けてしまったが、和哉の活躍はかなりのものだった。

 和哉の帰宅準備が整い、まったりと正門に向かう途中で和哉が口を開いた。


「夏樹、例のアレやるで」

「はぁ、またかよ」

「ええやん。恒例行事と何も変わらん」

「俺が勝ったらジュース奢れよ」

「またか! 自分セコいなぁ」

「セコくて結構。ちゃんと奢れよ」


 和哉が言う『例のアレ』とは、もちろん三本先取の勝負である。ひとつのゴールを目標に、ひとつのボールを奪い合う『例のアレ』。やる度に俺のバスケ部入部がかかっているらしいのだが、三年になった今でも同じ条件なのだろうか。


「和哉君! 今日こそは勝てるよ!」

「さくらも見ときぃ。今日は二本とったるわ」

「三本目もとっちゃえー!」

「おい。文芸部部長だろお前」


 中庭の微妙な位置にあるそのバスケットゴールの近くに鞄を投げ捨てた和哉。その鞄の位置をめがけて俺の鞄を投げると、振動でやかましい鈴の音が鳴り響いた。

 ちょうど喉も渇いていたし、奢ってもらうとしようか。

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