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第五十六話 凋落する思考 

月曜日の投稿をすっぽかしてしまいました…

申し訳ないです…


―シラーナル星系 第三惑星軌道


海都標準時 9月21日 午前2時55分


星から少し離れた空間に、突然青い光が渦を巻いた。一つの点から現れた青い粒子は一筆書きで流れるように螺旋を描き、白や薄青の光の帯がその螺旋の間隙を埋めるように後に続いていく。光の渦潮が大きく、中心点が明るさを十分に増していくのに合わせて、その中から数十隻の艦が鼻先を見せた。

一つの出口から一斉に滑り出てきた艦はどれも攻撃性を感じさせない。分厚く、幅広で、艦底部は洋上艦のように滑らかだ。星を渡ることよりも、星へ降り立つために造られた艦、揚陸艦である。


艦隊の先頭で渦潮をいち早く抜けた風早(かざはや)の艦橋で、イラクサは二、三度頭を振った。何度ワープを経験しても、入るときと出るときには何とも言えない浮遊感と、脳を揺すられたかのような衝撃は未だに慣れない。

「ワープ終了、出現座標異常なし」

「艦隊落伍艦なし、陣形解除」

風早と電測士が相次いで報告する。

殿の駆逐艦が渦潮の中心から完全に抜け出すと、円錐のように広がっていた光の渦は真ん中から霧散していった。最後の青い粒子が消えたのを合図に、密集していた艦隊はゆっくりと間隔を広げる。

「左舷前方、シラーナルⅢ、メインモニターに投影します」

そう言いながら電測士がコンソールを数回叩くと、目の前に赤白い星が映し出された。黒ずんだ大地を白い網目が覆い、無数の赤い光がまるで灯台の航空障害灯のように揃ってチカチカと灯っている。黄ばんだ雲が筋状にあちらこちらで渦巻き、地面はもとより大気すら不安定で汚染されていることを如実に示していた。


イラクサは息を詰まらせる。

以前画像としては見た。報告も聞いた。それでも、実際に目の前にした時の衝撃は大きい。

「生きてるの…?ここで?」

目の前にあるのは完全に汚染された大地で、とても人が住めるようには見えなかった。それどころか生身では数時間も持たないだろう。生存者がいるとは到底思えなかった。

「もし生存者が存在するとすれば、現在地から見て惑星の反対側だと思われます。海洋に隔てられた小型の諸島が複数確認されました。極点付近にも非侵食点が存在しますが…」

思わず口から零れた弱音を風早が拾う。彼女はサブフレームらしく集めた情報を簡単にまとめてくれた。

まだ希望を捨てるな、ということかもしれない。

「前方の第68戦隊より入電、『現状生存者の痕跡は観測されず、本隊は表面の構造体への攻撃を続行する』とのことです」

通信長を兼任する副長が、通信卓に向かったままで内容を読み上げた。

直後に投影された星の表面が小さく爆ぜる。どうやら彼らはコロニーの根元を狙っているらしい。

後々面倒ごとの種にならないといいな、と一瞬思ったが、地上砲撃のことは大砲屋の彼らが一番よくわかっている。わざわざ口をはさむ必要はないだろう、どうせすぐに人が住めるようになるわけでもない。


「了解、本艦隊は惑星の裏側へ向かう。乙四に周辺の敵個体群の位置情報を要請」

意識を自分がすべき仕事へと切り替えて、艦橋内に命令を出す。

イラクサの声が届くと通信長と風早と航海長が一斉に動き始めた。星の反対側にいる乙四任務部隊に通信を送り、この艦の周りにいる第九強襲艦隊の各艦の針路を同期させ、移動するのに丁度良いルートを探していく。

ワープアウトしてから弱い光を放つばかりだったノズルから、動力の接続音と共に青い炎が迸った。重量感のある艦体がゆっくりと前進を始める。それに連なるように、護衛の駆逐艦や揚陸艦たちも加速を始めた。

「乙四より返信。『大陸側の構造体及び惑星内部よりオルムディアの活性反応増大。個体群の戦闘機動にも異変あり、降下の際には最大限警戒されたし』」

通信長が返信の内容を読み上げるにつれ、艦橋の空気が張り詰めていく。

状況は思っていたよりも深刻だったらしい。


イラクサも深く考え込んだ。

構造体が活性化するのはわかる。あれはいわば巣だ。一部が刺激されれば全体が戦闘態勢に入る、というのは生き物としても自然に思えた。

それよりも問題は惑星内部に反応があるという話だ。もし、それが本当ならこの惑星の脅威度が跳ね上がる。表面が侵されるだけでなく、内部まで完全に侵食されたとすれば、完全に一つのオルムディア個体になってしまう。

この周辺の個体の異変が起きた時期から予想すると、コロニーが成長を始めたのはここ最近、少なくともひと月かふた月だろう。それで惑星内部まで侵食されたとするならば、それより以前から侵食された星はどうなっているのか、想像するのも恐ろしい。


「…官、指揮官?」

風早の声で意識が現実に引き戻される。

ふと目を上げると艦橋要員の目線が自分に注がれていた。どうやら黙り込んでしまっていたらしい。

「…ごめん、ちょっと考えてた」

軽く謝ってから、思考を落ち着かせるために深呼吸する。

「まもなく非侵食領域、南洋上空に到達します」

航海長は舵を握ったままそう言った。

そろそろどうするか決めなければならない。

「…風早、一番生存確率が高いポイントは?」

腹を決めて風早に尋ねた。

生存者がいることを証明するのは簡単だ、一人見つければいい。でもいないことを証明するのは困難を極める。

「…一番は南洋で大陸から隔絶された諸島部です。次点で大陸沿岸部の一部地域。極点付近は侵食こそないものの、氷で覆われていることから居住はできないでしょう」

風早は少し考えた後今わかっている情報を整理して答えた。

「わかった。まずは無人機から落とす。その間に軌道上から地表をスキャン、生活の痕跡を探すよ」

まだ人は降ろせない。


居ないことを証明するのは、第九の役目ではない。

居るかもしれない人を探すのが使命だった。



オマケ


艦艇解説

風早(かざはや)型強襲揚陸母艦 風早

全長:565m

武装:21.6cm連装実体弾兼用集束徹甲型陽電子砲塔

   (上部前方2基 艦橋後方1基)

   垂直ミサイル発射管 計36セル

   (上部と下部に12セルずつ 両舷に各6セルずつ)

   13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔

   (両舷3基ずつ)

   多目的投射機 32基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 36基

   艦載機搭載数 72機

   七二式甲冑型汎用攻撃機(地上戦仕様)

   5個宙隊合計40機

   六八式汎用輸送機28機

   七一式航空機型戦闘偵察機「彩星(いろほし)

   合計4機

   七一式降下艇 36隻

同型艦無し


惑星降下を専門とする第九強襲艦隊、その旗艦を務める艦。

艦内の容積が大きく、多数の艦載機や降下艇を運用できるように設計されている。また降下した部隊の傘として運用できるように防空火器はかなりの充実っぷり。

病院船、避難時のシェルターとしての要素も兼ねられるよう、医療設備から大人数が居住できる区画も設計段階から組み込まれた。

当然の如く対艦戦闘は考慮外なものの、強行着陸のために備えられた強力な偏向幕と高い抗堪性からくる耐久力は戦艦級。

滑らかな艦底部の形状は、惑星の洋上をそのまま航行できるようにするため。


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