第四章・第3話:声がかかる順番
第四章・第3話:声がかかる順番
昼休みの廊下は、いつもより人が多かった。
三学年合同授業の話題が、すでに学園中に広がっている。
「五人一組だって」
「クラス混成らしいぞ」
「誰と組むか、もう決めた?」
そんな声が、すれ違いざまに聞こえてくる。
Sクラスの教室前も、落ち着かない空気に包まれていた。
扉の外を通る視線が、何度も中へ向けられる。
「……視線が多いですわね」
リリスが小さく言う。
ユウは軽く笑って返した。
「気になるよな。
でも、編成前なら……こうなるのも仕方ないと思う」
マリアとティナは、いつも通り少し後ろに控えている。
人の出入りが増えても、その位置は変わらない。
やがて、廊下に足音が止まった。
「……失礼します」
控えめな声。
ユウが顔を上げる。
「どうぞ」
扉が開き、二人の生徒が姿を見せた。
一人はAクラス、もう一人はBクラスの制服だ。
「合同授業の件で……」
「その、五人一組の……」
言葉を探す様子に、リリスが静かに応じる。
「お話し、伺いますわ」
二人はほっとしたように息を吐いた。
「俺たち、前衛と支援を担当できます」
「実践経験は、そこそこあります」
ユウは二人を見て、柔らかく言う。
「来てくれてありがとう。
すぐに決めるわけじゃないけど……ちゃんと考えておくよ」
二人は深く頭を下げ、教室を後にした。
扉が閉まると、ティナが小さく目を瞬かせた。
「……もう、声がかかり始めているんですね」
ユウは肩をすくめる。
「まあ、早い方が動きやすいしな。
遅れると……どうしても選べる相手が減っちゃうし」
リリスは机に手を置き、視線を落とした。
「選ばれる、というのも……責任ですわね」
ユウはその言葉に、少しだけ柔らかい声で返す。
「分かるよ。
誰かの未来に関わるって、軽い話じゃないからな。
……だからこそ、こっちも慎重に選びたいと思う」
次に来たのは、Cクラスの生徒だった。
今度は一人だ。
「単独参加も考えてたんですが……」
「やっぱり、Sクラスと組めるなら……」
期待と不安が混じった声。
ユウは淡々と、しかし冷たくはなく言う。
「強いだけじゃ続かないからな。
状況を見て動けるかどうか……そこが一番大事になると思う」
「……はい」
生徒は少し背筋を伸ばした。
「それなら、見てもらえるよう動きます」
去り際の足取りは、来たときよりもはっきりしていた。
リリスが、その背中を見送りながら言う。
「“入りたい”という理由だけでは、足りませんわね」
ユウは軽く笑う。
「気持ちだけじゃ、どうしても限界が来るからな。
……続けられるかどうか、そこを見たいと思う」
マリアが控えめに口を開く。
「……選ぶ側は、疲れます」
リリスは微笑んだ。
「ええ。ですが、それも役目ですわ」
午後になると、廊下の人影はさらに増えた。
声をかける者、様子を見る者、距離を測る者。
中には、扉の前で立ち止まり、何も言わずに去る姿もある。
ユウがぽつりと言う。
「声をかけないのも……その人なりの判断なんだろうな。
自分の力量を分かってる人ほど、慎重になるし」
放課後。
教室に残ったのは、四人だけだった。
リリスが静かに言う。
「まだ、決める必要はありませんわね」
ユウは窓の外に目を向ける。
「ああ。焦る必要はないよ。
明日になれば……誰が本気で、誰が流れに乗っただけなのか、少しは見えてくると思う」
校庭では、すでに小さな輪がいくつもできていた。
五人一組。
声がかかる順番。
選ぶ理由と、選ばれる理由。
それらは、目に見えない線となって、学園を静かに分け始めていた。




