6月 良かったよ
智紘のお願いにも似た問い掛けに、僕は首を縦に振った。
けれど、何をするのか具体的な事は聞かなかった。
正確に言うならば、聞けなかった。
昨日の今日だ…どこに地雷があるか分からない。
自ら危ない橋を渡るくらいなら、危ないかどうかさえ知らないままの方が身の為だ。
知らぬが仏。
無知こそ恐怖から一番遠いものだから。
何も聞かなかった僕は一旦教室に入り、持っていた鞄を自分の机に置いて、智紘と教室前の廊下で合流。
どこに行くのか分からない僕は、智紘の後を着いて行く。
ついさっき上がってきた階段を降り……2階……どうやら1階に降りるようだ。
黙々と階段を降りる僕達。
会話は、合流した時に交わした智紘の「じゃあ行くか」から何もない。
僕達の大きな沈黙とは裏腹に、周りでは他の生徒達の喋り声。
智紘との会話がない故に、よく耳に入る。
そこに混じって沈黙を破ろうにしても、今の僕には適当な話題を持ち合わせていない。
無理して話さなくてもいい気がする…沈黙は金だ。
無言は続き、階段を降りて1階に到着。
迷わず廊下に出る。
一体、智紘はどこに行くのか…?
この感じだと、僕が歩いてきたルートをそっくりそのまま巻き戻る形だが。
などと思ったのも束の間、智紘は昇降口に着くと、後ろにいる僕へ顔を向ける。
「少しだけど外に出るからさ、靴だけ持っていってくれ」
そう言って、智紘は下駄箱を開けて靴を取る。
僕は言われた通り、同じく下駄箱から自分の靴を取ったのだが、その時に智紘の言動が矛盾している事に気付く。
靴に履き替えるのではなくて持っていく?
頭にクエスチョンマークを浮かべていると、智紘は廊下に出て階段とは反対側に向かって歩いていく。
僕は急いで智紘の後を追う。
この先にあるのって渡り廊下…というか体育館の方?何の用があって…?
………僕は察した。
智紘がどこに向かっているのかを何となく。
渡り廊下に出ると、幸いにも外の雨はかなり弱まっていた。
「こんだけ弱まってんなら、制服もあまり濡れないだろ」
智紘は持っていた靴に履き替えて渡り廊下の真ん中から、舗装されているアスファルトの道に出る。
僕も同様なのは言わずもがなで、相も変わらずの雛鳥スタイル。
やっぱりだ。
智紘はこの先にある建物に向かっている。
だけど何をしに…?
いや、別にいいか。
着いたらそれも分かるだろう。
濡れたアスファルトを歩くこと約100メートル。
体育館近くにある、1つの建物の前に着いた。
僕には馴染みのない建物だが、智紘にとっては思い出が詰まっているであろう場所。
建物のドア付近に「男子バスケットボール部」と書かれている表札がある。
そう…男子バスケ部の部室だ。
昨日のインターハイ予選で負けてしまった智紘は…3年生なので引退。
智紘はバスケ部主将から元主将へと、肩書きが変わってしまっている。
もう部員ではなくなった。
じゃあ何で智紘はここに来たんだろう?と僕が思ったのは、智紘が"元主将だから"という理由ではない。
引退したからと簡単に切り離せるものでもないし、元主将だって、引退後に部室へ顔を出す事だってあるはずだ。
元生徒会長が意味もなく生徒会室に来るぐらいなんだから。
僕が不思議だと思っているのは…"僕"という存在だ。
智紘は何故、バスケ部と無関係の僕をここに連れてきたのか?その意図は?
そして僕は部室で何をすればいいんだ?
こうした疑問が僕の頭の中で渦巻いている最中、智紘はポケットに手を突っ込んで部室の鍵を取り出し、鍵を開けて部室に入る。
しかし僕は部外者。
流れのまま中に入っていいのか分からず、部室の前で迷っているいると「そこで突っ立ってたら濡れるだろ。中に入れよ」と、智紘が言ってくれたので、その言葉をきっかけに僕も部室の中へ。
すると…部室の中は暗かった。
要するに電気を付けていないのだが、何も見えない訳じゃない。
何をしているかは判る暗さ。
智紘は電気を付けずに、ロッカーを開けて物色している。
けれど、そのロッカーは智紘が使っていたロッカーだとすぐに分かった。
開いたロッカーの扉には「荒家 智紘」とステッカーらしきものが貼ってあったから。
僕は出口のドア前で突っ立って、物色している智紘を見ている。
智紘はロッカーに入っていた物を少しずつ制服のポケットに納め、最後に紐が付いたナイロン製の袋に何かを入れた。
大きさと形からすると、試合で使うバッシュだ。
そして智紘はロッカーの扉を閉めて…扉に貼ってあったステッカーを剥がす。
「悪い、待たせたな頼斗。用は済んだし戻ろうぜ」
「えっ?」
僕、何もしてないんだけど…。
驚く僕に対して、口元を緩めている智紘。
状況がよく読み込めないまま、智紘に外へ促され部室を出た。
部室の鍵を閉めて、智紘は濡れたアスファルトの道を引き返して歩く。
動揺を隠せない僕は、取り敢えず智紘の後ろに着いて歩いた。
部室に着けば分かるだろうと思っていたが、分かるどころか謎は深まるばかり。
必要以上の会話をしない智紘は、どこからどう見たって不自然だ。
それに、こんな煮え切らない思いを抱えた状態で、授業に臨むなんて気持ち悪い。
だから僕は自分を奮い立たせる。
たとえ智紘の地雷を踏んしまっても、僕は躊躇わない…。
「ねぇ、智紘」
「ん?何だ?」
智紘は背中を向けて歩き続ける。
表情は見えない。
声のトーンは明るかったけど感じ取れる空気感に明るさはなく、今の空みたいな…色で言うと鉛色のような雰囲気が智紘からは漂っている。
重い空気に押し潰されそうで言葉を引っ込めたくなったが、ここで僕が黙ってしまったら今日の事はもう聞けない気がした。
僕は躊躇わず口を開く。
「用事は、もう済んだの?」
智紘が部室で言った言葉を、僕はここで聞き返した。
「あぁ、済んだよ」
智紘は最低限のことしか言わない。
続けて何かを話す感じも無かったので、僕が再度質問をする。
「部室では何してたの?」
じわりじわりと話に踏み込んで行く。
「何って、見てたんなら分かるだろ?ロッカーの整理だよ。本当なら昨日の帰りにするつもりだったんだけどさ」
昨日の帰り…試合が終わった後、学校に戻ってきたのかな。
「それに……この時間なら朝練も終わって部室には誰もいないしな」
この時初めて…智紘の口から陰りのある言葉が出た。
僕は慎重に言葉を選びながらも智紘に尋ねる。
「誰とも…会いたくなかったの?」
ニュアンスからして、そんな口振りだった。
「…まぁな。だって恥ずかしいだろ?部活引退したやつが、その次の日に部室にいるとか未練がましいにも程があるしな。だから、誰もいない時間を見計らったって訳さ」
さっきとは打って変わって陽気に話す智紘だが、表情が見えないのもあり、気丈に振る舞っているような…無理やりな明るさを感じた。
でも、僕はその明るさに合わせる。
「智紘にもあるんだね、恥ずかしいって気持ち」
軽くバカにしたみたいに言う僕。
「どこをどう見たら、俺が羞恥心の欠片もないやつだと思うんだ?」
智紘は顔を横に向け、目だけで僕を見る。
「どこって、そりゃあ日頃の行いでしょ。女の子と遊びたいとか、人目も気にせず平気で言うんだから」
「言うくらい良いじゃねーか。どうせ誰も聞いてねーよ?あんなの。それに、人目は気にしてるつもりだけどなぁ。知り合いじゃなきゃ、別に恥ずかしいとか思ったりしないだろ」
智紘が恥ずかしくなくても横にいる誰かだったり、聞いている僕が恥ずかしいんだけど、それ。
言い終わった智紘は、横に向けていた顔を正面へ戻す。
知り合いじゃなきゃ恥ずかしいと思わない、か…。
僕は智紘の言葉を反芻し、咀嚼する。
1つ1つを噛み砕いていくと、謎で不明瞭だった部分の靄が晴れていった。
「じゃあさ…」
僕は核心を突く。
「何で僕を部室に連れてきたの?」
背中を向けて歩いていた智紘は、ピタッと立ち止まった。
智紘の言動には矛盾がある。
そして僕は、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「ロッカーを整理するだけなら智紘1人で来れば良いのに、僕を誘った理由は?」
「……………」
「部員に見られたら恥ずかしいから、見張っててほしいという理由で誘ったのならまだ分かるよ。でも僕は突っ立ってただけ。もっと言えば、僕はずーっと智紘を見ていた」
「…………」
「部員に見られるのは恥ずかしいのに、僕なら平気なの?」
「………」
「それは、僕が部外者だから…?」
智紘は一向に喋らない。
僕の言葉が聞こえてないのかと思うくらいに。
それ程までに無反応だった。
智紘は微動だにしない。
氷漬けにされたのかと思うくらいに。
それ程までに不動だった。
「どうなの?智紘」
僕はそんな不動で無反応な背中に問いかける。
すると…智紘は天を仰いだ。
水滴みたく弱い雨が降る、鉛色の空を。
「勇気が、無かったんだ」
智紘は喋った。
僕は驚き、逆に言葉を失う。
驚いたのは智紘が喋ったことに対してではなく、言葉そのものに。
智紘は続ける。
「俺は1人で部室に行く勇気が無かったんだ。試合に負けて、脱け殻になって、引退して…後輩にどんな顔をして会えばいいか分からなくなっちまったんだよ。だから頼斗を誘った。部室で誰かに会ったとしても、頼斗を体の良い口実に使えばいいんじゃないか…そう思ったんだ。見られるのが恥ずかしいなんてのは後付けさ。口をついて出たのが偶然それだっただけだ」
吐露した智紘は振り向いた。
「だけど…一番の偶然は、廊下で頼斗に会ったことなんだけどな」
そう言って智紘は、笑顔を見せる。
笑っているのに、どこか悲しげな笑顔を…。
「笑ってくれて良いんだぞ?引退したとはいえ、元主将が誰よりも引きずってるんだからな。情けないっつーか、格好悪いっつーか…」
智紘は視線を落とし、頭をガシガシと掻く。
相当参ってる様子の智紘を、僕は励まし慰める。
「笑わないよ。だって智紘は、笑われるような事は何一つしてないでしょ。情けなくもない、格好悪くもない。智紘は誰よりもバスケに一生懸命で、誰よりも部を思ってた…それだけだよ。それに、試合中の智紘は格好良かったよ」
嘘偽りのない言葉で、僕は智紘を否定した。
僕から似つかわしくない台詞が出たせいだろうか。
智紘は頭を掻くのを止めて、軽く鼻で笑う。
「それだと、試合以外じゃ格好良くないみたいじゃねーか」
今日の中で一番柔らかい笑顔を見せた智紘。
「そういう意味で言ったんだけど?」
僕は半笑いで返す。
「ははっ…手厳しいな」
智紘は口元を緩めながら振り返り、渡り廊下の方へ歩き出す。
僕もまた、智紘の3歩後ろの距離を置いて歩く。
今更横に並んで歩くのは、何だか変な感じがする。
少なくとも今日一日は智紘の横を歩くのは難しそうだ。
他人からは変な目で見られそうではあるけども。
「そう言えばさ」
再び歩き出し間もなくして、智紘が話を始める。
「いつだったか前に「「奇跡は積み重ねの集大成だ」」って言ってたよな?」
「え、僕が?言ったっけ?そんな事」
「頼斗が覚えてなくても、俺が覚えてるんだ。間違いねーよ」
「そう……それで?それがどうかしたの?」
「あぁ…最初頼斗から聞いた時は、ふーん…くらいにしか思わなかったんだけどさ、昨日ふとその言葉を思い出したんだ。奇跡は積み重ねの集大成…まさにその通りだった。バスケってな、制約だらけのスポーツなんだよ。チームがボールを持ち続けてはいけない、ボールを持って進まないことは許されない、そんな雁字搦めの制約下の中でやってるのがバスケットボールだ。1点の重みを感じながら点を積み重ねていく。そこに一発逆転なんかない。バスケには"みんなが言う"奇跡なんて無いんだよ。あるのは"頼斗が言った"奇跡の方だ。それに気付くのがもう少し早かったら、昨日の試合も何か変わったりしたのかも…なーんて思ったりしたんだ。終わった後で大切な事に気付く…よくある事だな」
語り終えた智紘は、歩きながら笑顔を僕に向ける。
「大切な事に気付いたのなら、それで良いんじゃない?」
「まぁ、そうだな」
智紘は顔を正面に戻しながら言った。
納得した様子の智紘に、僕は思った事を言う。
「別にバスケが一生出来なくなった訳じゃないんだからさ。智紘も進学するつもりでしょ?大学でバスケやるのもアリなんじゃない?」
智紘はすぐに返す。
「いや、バスケはたぶん…もうしない」
「何で…?」
「前から決めてたんだ…バスケは高校までって。受験もあるしな。どうしたってバスケに打ち込む時間が少なくなる」
「スポーツ推薦があるじゃん」
「バカ言うな。2回戦落ちの選手が推薦取れるほど甘いもんじゃねーよ。それに何つーか……完全燃焼したって感じなんだよ。燃え尽きて灰になった、みたいな?だから大学ではバスケやる予定はないんだ」
「そっか…」
「何で頼斗が辛気臭い顔をしてんだよ、俺の事だろ?まぁ…しないとは言ったけど、ボールを触らないってことじゃねーよ。気分転換とか、体動かしたい時はやると思う。ただ、本気ではやらないってだけだ」
「だったら、良いかな」
僕がそう言うと、またもや智紘は鼻で笑う。
「頼斗は俺の何なんだよ」
そっと微笑む智紘。
僕もちょっと変なことを言ったかな?と思ったが、智紘が笑顔になったのなら構わない。
言葉の1つや2つで笑ってくれるなら、安いもんだ。
渡り廊下が目前まで迫ってきた。
前を歩く智紘が渡り廊下に差し掛かるくらいの所で、後ろを向く。
「先に教室に戻っててくれないか?俺は部室の鍵を職員室に返しに行ってくるからさ」
「分かった」
智紘は渡り廊下を通り過ぎ、僕は靴を上履きに履き替えようと視線を落とした時。
「頼斗」
智紘の呼ぶ声。
僕はふっと智紘が歩いて行った方を見る。
「頼斗に会えて、良かったよ」
体を横にして顎を軽く上に上げ、笑みを浮かべて僕を見る智紘。
言い終わると笑顔を残して、ゆっくり去って行く。
僕はというと…。
ただただ素直な言葉に驚き、キョトンとしてしまった。
上履きを履こうとした手が止まってしまうくらいに。
渡り廊下の中心で固まってしまった僕は、どうにか頭を切り替えて、教室に戻ろうとその場から離れる。
基本バカなことや、ふざけたことしか言わない智紘が、あんなことを言うとは…。
変な物でも食べたのか?と茶化したい所ではあったけど、あそこまでの直球で来られると受け入れる他ないし、相手からの謝辞を踏み躙る程、僕はひねくれた性格でもない。
智紘の真っ直ぐな言葉には驚いたものの、しっかりと、僕の心に響いたんだから。
それにしても…。
僕は少し前の智紘を思い返す。
バスケはもうやらない、か。
智紘は明るく語っていたが、その明るさの中には当然、喪失感があった。
高校生活の全部とは言えなくとも、大半を占めていた物を智紘は失ったんだ…無理もない。
けれども、どこか清々しさもある不思議な感じだった。
それが喪失感から来るものなのか、はたまた完全燃焼から来るものなのかは僕には分からない。
分かるのは、ロッカーを整理をしていた時とは顔付きが変わったという事。
まるで憑き物が落ちたみたいに。
つらい事でも話してみると気持ちが楽になる事もあるし、さっきの会話が智紘にとってのそれだったのなら僕は嬉しい。
智紘には智紘らしく、明るくいてほしいから。
教室に戻ってきた僕は、自分の席に着き、鞄から教科書とノートを取り出す。
そして机の中へ教科目毎に教科書とノートをセットで収納。
僕のルーティンとも言える。
さて、ホームルームが始まるまでどうするか。
本を読むのも良いが、もう残り時間は少ない。
じゃあ、ボーッとするか。
何も考えない時間というのも、案外必要だったりするもの。
僕は窓際の自分の席から、窓越しに空を眺める。
窓ガラスに水滴は付いているが、どうやら雨は止んだ模様。
一時的とはいえ、天気の回復は好ましい。
授業が終わって家に帰るまで、雨が降らないといいな。
教室内の人口密度が徐々に高くなってきた。
そろそろ予鈴が鳴る頃だろうと思っていると、智紘が教室に戻ってきた。
直球も直球な言葉を放った後なのだから、今になって照れたり、そわそわしたりしてるんじゃないかと思ったのだが、智紘は何も無かったかのように平然としている。
強心臓かよ。
その時、正解ですと言わんばかりに予鈴が鳴った。
予鈴をきっかけに各々自分の席に着いて、担任教師が来るのを待つ。
待つと言うよりは、喋っているだけ。
やがて本鈴も鳴る。
いつもと変わらない風景だ。
………と思っていた。
何だか………様子が変だ。
教室の前方廊下側にいる生徒達がやけに騒がしい。
そこから他の生徒達が何だ何だと、波立つように喋り出す。
次第に教室内がざわついていく。
どうしたんだろう?と僕も気になり、前に座っている金子君に「何かあったの?」と聞いてみた。
金子君は食い気味に「それがさぁ!」と言った瞬間、ガラガラガラ…っと扉がスライドされる。
僕はすぐさま扉の方へ目を向けた。
そこには担任教師と、見知らぬ女子生徒がいた。
みんなの視線はその女子生徒に集まり、ざわめきも最高潮となる。
担任教師が「静かにっ」と語気を強めて言うものの、逆効果と言っていい。
この喧騒に紛れて「可愛い」だの「タイプだ…」だの色々な言葉が飛び交う中、後ろの席にいる誰かが僕にギリギリ聞こえるレベルでボソッと「ちょっ…デカくない?」と言っていた。
分かる…言ってるのは身長の事ではない。
敢えて何がかは言わないけど、確かに大きい。
担任教師の何度目かの制止により、騒ぎは小さくなった。
咳払いをする担任教師。
「転校生を紹介する。今日からクラスメイトになる、安治川美琴さんだ。みんな仲良くするんだぞ」
あじかわ…みこと?………いや、気のせいだな。
名前が同じだからって………ん?
何故か教室内が再びざわめきだす。
さっきのとは違う、別の種類のざわめき。
クラスのみんなは動揺していた。
僕も例外ではない…動揺してしまう。
そうなった理由は黒板にあった。
担任教師に紹介された女子生徒は、黒板に名前を書いているのだが、それがみんなに動揺を与えた原因だった。
名前を書き終え、挨拶する女子生徒。
「グッドモーニングエブリワン。安治川美琴です。今日からよろしくお願いしますね」
満面の笑み、そして流暢な英語で挨拶する彼女。
黒板に書かれていた名前は漢字ではなく、筆記体だった。




