表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジ・エンド・オブ・バトルストーリー  作者: ユリイカ
二章 タイフーン・ガール
9/24

第二話「紺色のジャージ」

「よーし!風子、今日からはグラグラルールでシゴクぞ!」


 気合を入れるトレパン。トレパンはアクロバティック柔道部の顧問だ。

 

「そのグラグラルールってのはアクロバティック柔道のルールよりも厳しいの?」

「いや、逆だ。実戦に近い形式を取っている」

「じゃあいいよ。禁止行為だけ直前に読むから」


 どこまでも試合に興味の無い風子。


「なぬっ!しかしそれじゃ圧倒的に不利だぞ!」

「そうでもないよ。むしろルールに縛られる方が不利だと思う。それにつまんないじゃん。私は何が来ても投げ返したいよ」

「バカな!勝てなくてもいいっていうのか!?」

「勝つ必要なんてあるの?」

「ハッ!」


 トレパンは風子の言葉にハッ!とした。

 そしてワナワナしはじめた。

 

「お、俺はいつしか勝つ事に取り憑かれて……」

「そういうのいいから(笑)いつもの練習でいこう!」

「許してくれ風子!よし、当日はとっておきのサプライズを用意しよう!」


 トレパンは痛快に笑った。

 

「サプライズ?」

「ああ、とってもビックリのサプライズだ。ビックリしすぎて逆に真顔になるくらいのな!」

「何それ(笑)何か怖いけど楽しみにしておくよ」


 アクロバティック柔道は風子が作ったオリジナルのスポーツで、他校にも同じ部が存在する程だったが、トレパン含め風子の相手になる者はいない為、風子は内心では退屈していた。

 

 一方、女子レスリング部では、キャプテンのエリリカが喝を入れていた。


「今日も気合を入れる為にまずタックルの練習から始める!」

「はい!」


 真面目な部だったが、どこにでもやる気のない生徒というのは居るものである。


「また、タックルの練習よ。いつまでやるのかしら」

「それより知ってる?キャプテンのショルダータックルって大木もなぎ倒すらしいわよ」

「いくら何でもそれは無いわ」

「ホントよ。こないだご近所さんが後ろから車に追突されたと思ったら、キャプテンのショルダータックルだったって話よ」

「あ、そういえば私も聞いた事ある。こないだ近所の子供がダンプカーに跳ねられたっていうから行ってみたら、キャプテンのショルダータックルだったって話」

「それは言いすぎよ(笑)クスクス……」

「何をしゃべっているの!あなた達!」

「す、すみません!」

「全く、人を何だと思っているのかしら」


 ダンプカー…じゃなくてエリリカは地獄耳だった。



 ある休みの日の話。

 エリリカはリムジンで移動中だった。

 

「お嬢様、今日はどうされますかな」

「爺、スポーツウェアのお店に行きたいわ」

「そんな事なさらずともオーダーメイドで、いくらでも……」

「いいから行ってちょうだい」


 気分転換に老舗のスポーツウェアのお店に行くエリリカお嬢様。

 店の中でジャージを眺めていると、そこには風子がいた。


「あら、風子じゃない」

「あれ?お嬢様が何でこんな店に?」

「何でって……庶民が着る服でも見てみようかと思ってね」


 いつものようにお嬢様キャラをふんだんに発揮するエリリカ。


「なんだ、もう新しいジャージが小さくなったのかと思ったよ」

「あたしゃ、成長期の子供か!」

「えー、でも見る度に大きくなるってクラスの子が言ってたよ」

「そんなわけないでしょ!それよりあんたは何しに来たのよ」

「私はお金無いから、見てるだけ」


 短パン姿の風子を見て、エリリカはビックリした。


「あんた普段着もスポーツマンみたいな格好なのね」

「へへ、私服とか苦手でさ」

「こ、今度私が見繕って差し上げても……」

「え?何て?」

「な、何でもないわよ!」


 登山用のバッグ売り場で止まる風子。

 

「あなた、登山なんてするの?」

「ううん、でも卒業したら旅に出るから」

「そうなの……全然知らなかったわ」

「誰にも言ってないしねー、言う友達もいないけど」


 エリリカも友達がいない事を言いたかったが、声に出なかった。

 

「エリリカは卒業したらどうするの?」

「まだ決めてないわ」

「そっか。でもお嬢様だから大変そうだね」

「ええ、いつまでも遊んでいられないわ」


 結局、風子に勧められてピンクのラインが入った紺色のジャージ(上)をエリリカが買った。


「私に似合うかしら、これ」

「似合うよ。私に似合わないって事はエリリカに似合うって事だよ」

「どういう意味よそれ」

「へへへ」

「ねえ、今から私の家に来ない?」


 エリリカが風子を誘う。


「えー、でもお屋敷とか苦手だしなー」

「いいじゃない、夕食食べるだけだから、ね?」

「分かった。じゃあごちそうになる」


 三条家の敷地内は運動公園のように広々としており、屋敷はどちらかというとこじんまりしていたが、中には最新の設備が整っているジムがあった。

 

「すごい!こんなジム、テレビでしか見たことない!」

「宜しかったらいつでも来て、使っていいのよ」

「うん。でも、今日はどうしてそんなに優しいの?」

「そ、そうかしら?」


 その時、ノックの音と共に爺が入って来た。


「お嬢様、ご夕食の準備が出来ました」

「爺、分かったわ。すぐ行く」


 爺は風子に向き直り、丁重に挨拶をした。


「風子様、いつもお嬢様と仲良くして下さりありがとうございます」

「い、いえ、その、いつも投げ飛ばしたりしてすんません!」

「何言ってるのよ」

「いや、エリリカがお嬢様だって事、再認識させられたっていうか」

「今まで通りでいいのよ。私達の関係はね」


 そう言ってエリリカは笑った。エリリカらしくない無邪気な笑い顔だった。

 


 夕食の時間、風子が今日一番の驚きの表情を見せる。

 

 「フォ、フォアグラ尽くし……」

 

 風子の前にはフォアグラのソテー、フォアグラのムニエル、フォアグラの天ぷら、フォアグラカツ、フォアグラの煮っころがし、そしてデザートにトリュフ!


「最後はトリュフかー」


 何故かガッカリそうな顔をする風子。

 

 ガツガツとフォアグラを食べる風子に、マシンガンのようにエリリカは質問を浴びせかけた。

 エリリカは風子に興味津々だった。何せ初めてできた友達だったのだから。


「あなたって4人姉妹なの」

「そう、私が末っ子ね」

「お姉さまはどんな人?」

「うーん、一人が美人で、もう一人も美人で、もう一人がゴジラ!」

「ゴジラ!?」


 ゴジラの顔マネをする風子。だが似ているはずもない。

 気を取り直すエリリカ。

 

「お父様は何をしてらっしゃるの?」

「博士!」

「まあ、ご立派な方なのね」

「そうでもないよ」

「でもちょっとまって、あなたの苗字って如月よね?キサラギ博士と言えば、あのバリアシステムで有名な……」

「そだよ」

「そ、そんな素晴らしい方がお父様なんてすごいわ!」

「でも私とは何の関係もないし」

「そんな事ないわよ。お父様のコネを使えば何だってできるわ」

「コネなんて使わないよ」


 あっさりと言う風子。

 

「そ、そうね……」

「一番上のお姉ちゃんは、お父さんの所に行ったみたいだけど、私はあのお姉ちゃんはあまり好きじゃないな」

「そうでしたの……」

「私の事はいいからさ。エリリカの事も聞かせてよ」

「そ、そう?じゃあ私の大好きなハムスターのハムちゃんの話から……」


 こうして夜は過ぎていった!

 ハムちゃんの話はいつかまたどこかでするとしよう!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ