初恋を終わらせる日
申し訳ございません。
以前投稿したものが、短編での投稿となっており、再度作成し直しました。
こちらで新しく連載を続けていきます。
貴族が集うダンスパーティーの最中。
私はある男性の目の前に立っていた。彼は私の婚約者で、ルーカス・アルギロス。伯爵家の子息だ。彼の隣には、私ではない別の令嬢が立っている。
「もう私は疲れてしまいました」
私は、まっすぐに彼の瞳を見つめた。
何度話しかけても、彼は私を見てくれない。ほかの令嬢にはあんなにも優しく微笑むのに、私にはいつだって冷たい。
「もう、これ以上あなたの振る舞いを見ていることはできません」
幼い頃は、あんなに仲が良かったのに。もう、あの頃の彼はどこにもいない。
「さようなら……私の、大好きだった人」
そう言って、私は震える手で小瓶を傾けた。それは用意していた毒薬だった。
──コロン。
毒薬をすべて飲み干すと、小瓶が私の手から滑り落ちた。
「きゃああ」
周りからは悲鳴のような声が聞こえた。
私は思わず倒れ込み、全身の力が抜けていくのがわかった。のどが焼けるように熱かった。声を出そうとしても出せない。あまりの苦しさにのどに手を当てるが、指先の感覚も失われていく。そして、視界がぼやけ、意識が遠のいていく……。
(ああ、もうこれで解放される……。彼から。そして私の初恋から……)
もう何も考えたくなかった。ただ、すべてを手放して楽になりたかった。
意識が暗闇へと落ちていく中、誰かの唇が私の唇に触れた気がした。
その瞬間、身体が淡い光に包まれた気がした。唇に触れた感触は、温かく、とても優しいものだった。
ただ、その感触すら現実なのか夢なのか……。
私には、もうわからなかった。
◇◇◇
重い瞼を開けると、見慣れた天井が目に入った。どうやら私は自室のベッドにいるようだ。
しかし、不思議なことに身体に痛みはなく、焼けるように痛かったはずの喉にも、違和感ひとつなかった。
(あれ? 私、毒薬を飲んで死んだはずじゃ……)
身体を起こし、鏡を見ると、そこにはいつもと何も変わらない自分の姿があった。先ほどまでと何も変わらない、薄紫色の髪に桃色の瞳をした自分が映っている。
「え……? どうして」
私はベッドの上で記憶を巡らせていた。
私は、ライラ・メイフィールド。十八歳の男爵令嬢だ。私には幼い頃から婚約者がいる。いつも優しい彼のことが、私はずっと大好きだった。あの頃は両想いなのだと思っていた。
しかし──。
私が16歳になった頃から、彼の態度は冷たくなってしまった。それはちょうど彼と同じ学校に通い始めた頃だった。
今まではあんなに名前を呼び合って話していたのに。名前を呼ばれることも、目を合わせることさえなくなった。
私の何がいけなかったのだろう……。考えれば考えるほど、そうなった理由がわからなかった。
彼の隣にはいつも別の令嬢がいる。それも私より身分の高い、伯爵令嬢や侯爵令嬢まで。彼女たちに微笑みかける彼を見るたび、私の胸は締めつけられた。
きっと彼は、私が婚約者として釣り合っていないということを、私に見せつけているのだろう。
ダンスパーティーでは婚約者をエスコートする決まりがある。けれど、彼が私をエスコートしてくれることはなかった。
しかし、私から婚約破棄の話をしても、なぜかいつも不機嫌な顔でかわされ、まじめに話を聞いてさえもらえなかった。
そして耐えられなくなった私は、先ほどのダンスパーティーで毒薬を飲んだ……はずだったのに。
なぜ生きているのだろう……?
その時、荒々しい足音とともに、メイドの声が聞こえた。
ドタ、ドタ、ドタ。
「──お待ちください! 今お嬢様は気を失っていて」
──バンッ! 荒々しく扉が開いた。
私は驚き、目を見開いた。扉に目を向けると、婚約者のルーカスがいた。
彼は私を見ると、なぜか一瞬だけ、安堵したような表情を浮かべたように見えた。
……しかし、次の瞬間にはいつもの冷たい顔に戻っていた。
「ルーカス様……」
「はっ。目が覚めたんだな。お前は本当に人騒がせな奴だ」
彼は呆れたように言い放ち、ベッドにいる私に近づいてきた。そして、私の頬をつかむと、自分の方へ引き寄せた。彼と私の顔が近くなる。
「な……なんですか、急に。やめてください」
「はあ……」
彼は私の顔を確かめると、すぐに手を離し、大きくため息をついた。
「もうこんなことはするな」
「……」
それだけ言って、私の自室から出て行ってしまった。
一体、何がどうなっているのだろう……。さっぱりわからない。
第一話、読んでいただきありがとうございます!
こちらの物語は、十話完結の短編小説となります。
最後までお楽しみいただけますと嬉しいです。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




