第7話:警備員、労働組合と一人三役の不条理を論破する 〜ケルベロス、三者三様の労働争議〜
かつて冥界の門の地獄の番犬、ケルベロス。
現代に転生した彼ら?は、その【交代不要の監視能力】を悪用され
年中無休の商業施設で警備員として働いていた。
しかし、頭が三つあるということは意識も三つあるということ。
彼は今、労働組合を巻き込んだ【前代未聞の労働契約】の渦中にいる。
【本編】
「というわけで!昨今の深夜警備における負担増を鑑み給与の三倍増額、若しくは休憩時間の義務的
確保を要求します!」
警備室で、健一がクールに主張する。 対面で座る店長は、ふんぞり返って鼻で笑った。
「健三くん、何を言ってるんだい? 君達は三人で一つだろ?つまり、健一くんが監視している間に、
健三くん右が寝ればいいだろ?三人で一つなんだから、休憩なんて必要ないだろう?
むしろシフトの効率的で言えば素晴らしい人材だよ!」
健三が、机をガリガリと引っ掻きながら低く唸る。
「グゥルルルル…寝る暇が無いなら、目の前のお前の足を噛み千切って休憩代わりにしてやろうか!」
健二が慌てて健三の耳を噛んで制止する。
「やめろ!健三! 店長、すみません…健三のヤツ空腹で少し気が立っていて…」
「ほら~やっぱり三人とも意見がバラバラじゃないか!」
と店長。
そこへ、労働組合の委員長が割って入った。
「店長、それは理屈が通りません
労基法では身体一つに対して休憩を一時間と定義しています
三位一体の理屈からすれば、健三さんが起きている限り、他の二人も身体は緊張状態にある
これは『休息』とは言えませんよ!」
店長は眼鏡をずらして反論する。
「いやいや!脳科学的に見れば『脳の休息』が大事なんだ
左が事務処理をしていれば、右の頭はレム睡眠のはずだ
君たち三位一体兄弟は、究極のマルチタスクなんだよ!
給料が一回分で済むのは、会社としてこれ以上の節約はない!」
健一が、キーボードを叩きながら冷徹に言い放つ。
「論理的誤謬です!
店長、私の左脳が監視中、健三がレム睡眠に入ると本能的な防衛反応として健三は寝言で『吠え』ます
昨夜、深夜のショッピングモールに『ワンワン!』という咆哮が響き渡り
客から『警備員が犬のモノマネをしている』というクレームが五件入りました
その責任は誰が取るんですか?」
「えっ…」
更にと、健二が悲痛な顔で続く。
「食事の時も大変なんです!
僕がカップ麺を啜っている時、健三がジャーキーを欲しがって涎を垂らし
健一が『栄養バランスが悪い』と毒を吐く
休憩時間さえ、僕の頭の中で会議が続いていて一秒も休まらないんです
これで『一人分の給料』ですか?」
店長はたじろぐが、まだ諦めない。
「しかし、もし君を三人に分けて雇ったら更衣室のロッカーも、健康保険も、社会保険も三倍だぞ?
経営者としてはやっていけん!」
健一は、店長の目を真っ直ぐに見つめた(三つの瞳で…)
「ならば、こうしましょう店長…
我々を『警備員一人』としてではなく『警備契約:ケルベロス警備隊(三名分)』として
契約し直してください
その代わり、我々は交代でシフトを組み、24時間一度も『休憩なし』で稼働します
その代わり、社会保険は会社負担の特例を…」
「待て、それだと逆に会社側の負担が!」
結局、激しい議論の末に以下のような特別契約が結ばれた。
給与体系:一人分+「多重人格手当」「多言語対応手当(吠え方含む)食費補助(肉代)」の支給
休憩規定:営業終了後の二時間は、三つの頭すべてを「シャットダウン」
完全休息時間を義務付け、その間は施設内の防犯カメラを停止
福利厚生:会社は、月に一度、健三が欲しがっている最高級の骨付き肉を支給する。
店長は
「なんて…面倒な社員だ」
と頭を抱えたが、翌朝、三人分(三頭分)の眼光で 侵入者を即座に威嚇・制圧する健三の姿を見て
渋々ながらも納得せざるを得なかった。
警備室の休憩時間、三つの頭が同時に「ふぅ」と溜息をつき 三つの缶コーヒーを同時に開ける。
「やっぱり、労働組合は大事だね」
と健一…
「だが、社会保険を三倍にするのは時間の問題だ」
と健二
「肉…食いたい」
と健三…
ケルベロスの現代サバイバルは、今日も組織の歪みと戦いながら 三つ首で乗り切るのだった。
【今週の妖怪労働豆知識】
多頭の魔物が現代で働く場合、もっとも揉めるのは「休憩中の意識」脳が物理的に繋がっている以上
完全な遮断は不可能です。
経営者の方は「多頭社員」を雇う際は必ず【頭の数だけコーヒー代を出す】という
福利厚生を設定しましょう。
それが円満な労使関係への第一歩です。




