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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第四章 新しい未来
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81 続く日々



「なんだか変な気分だわ。扱う商品は変わらないのに、お店の雰囲気は全然違うみたい」


 くるくると身体を回転させて周囲を見渡しながらそう言うコリーナに、私は微笑む。


「赤を基調にした装飾に変えたんです。今までは壁も店の看板も真っ黒だったので」

「まぁ、辛気臭い感じはなくなったわね。やっぱりヘルゼンよりはセンスがあるわ」

「皆さんのアドバイスのおかげです」


 ニヤリと笑うコリーナの後ろでは、娘のマリーやその先輩のヘザー、クリストフにセドリックまでもが興味深そうに店内を物色している。


 チリンチリンとベルの音が聞こえて目をやると、大きな紙袋を片手に持った父ダフマンとお手伝いのメルトンが店に入って来たところだった。


 離縁が成立して二週間が経った。

 そろそろ頃合いだろうということで、晴れてヘルゼンの宝石店の改修を行なったわけで。店員たちは新しい店を前に喜んでくれたので、とりあえず胸を撫で下ろす。



「私一人では絶対にこんなに早く店を開けることはできませんでした。皆さんの協力に感謝しています」

「ちょうど暇だったんです。それに、ジャンヌさんを助けてほしいってハンベルク子爵家のお二人に頼まれましたから」


 彼らももうすぐ到着するはずです、とセドリックは時計を見ながら言う。祖母の脚の具合もようやく回復したので、今日は久しぶりに王都を案内するつもりだ。


「あ、これってもしかして試作品を作っていたブローチ?」


 ヘザーが指差す先には、木箱の中に輝くシルバーのブローチが並んでいた。いずれも種類の異なる小さな宝石が嵌め込まれている。


「はい。持ってみてください、軽いんですよ」

「でもお高いんじゃないの……?」


 緊張した面持ちで尋ねるヘザーに、私はブローチの材質が銀であること、使われている石は石切場で出た破片を再利用したものなので値が張らないことを伝えた。


「コリーナさんのお店で扱ってる毛皮のティペットにも合うんです。秋冬は気持ちが沈みがちですけど、首元に明るい色を持ってくると……」

「ジャンヌ、仕事人間みたいになってるぞ」

「…………お父様には言われたくありません」


 飛んで来たヤジに唇を尖らせる。


 視界の隅でクリストフが鼻をヒクヒクさせているのが見えた。目を閉じて熱心に匂いを辿っていた小柄な身体が、父ダフマンの隣に並ぶ。


「もしかして……マドレーヌですか?」


 どうして中身が分かったんですか、とビックリした顔で袋を開いて見せる父の姿を見ながら、私は心がどんどん温かくなるのを感じた。


 南部での生活で、初めは笑顔が少なかった父ダフマンも、今ではいろいろな表情を見せるようになった。たぶんそれはヘルゼンで働いていた頃よりも充実した毎日を送れているからだと思う。私たちを支えてくれている皆のおかげで。



「しかし、ユーリ様は仕事が長引いているのでしょうか?お揃いになったらお茶にしようと思っているのですが……」


 困ったようにメルトンが言うので、私は思わず口を開いた。


「ユーリさんは今日、お家からいらっしゃるそうですよ」

「ユーリ……さん?」


 眉を寄せたマリーが奇妙な顔でこちらを見る。その隣ではヘザーも雷に打たれたような表情をしていた。何か失言があっただろうか、と思い返す間もなく、クリストフがポンと手を叩く。


「そういえば、週末は公爵にご挨拶する予定なんですよね。結局どちらから告白されたんですか?結婚式はいつ頃の予定で?」

「えっ?」

「け、結婚……!?」


 完全に硬直する騎士団女性コンビを前に、私は慌てて訂正する。


「違います!クリストフさんも変な情報を流さないでください!私はもう隊員の妻ではないので、名前で呼んでほしいと言われて、呼び方を変えただけです。それに、公爵家には宝石店を改装する際にお世話になったのでお礼の挨拶を、」

「あ、噂をすれば」


 必死で弁解する私の話を遮ってクリストフが店の入り口を指差す。ちょうどユーリが扉を押し開いて姿を現したところだった。



「いやはや、焦ったいですねぇ」


 ニヤニヤと笑いながらまだクリストフがそんなことを言うので、話題を変えるために私は「お茶にしましょう!」と提案した。


 各々が皿やマグカップを探し始める中、コートを脱いだユーリが私の隣に座る。買って来てもらったマドレーヌを机の上に並べながら、私はなるべく意識しないように自然な動きを心掛けた。


「どんな噂話を?」


 揶揄うような口調に、顔が赤くなるのを感じる。


「……皆さんが、私たちの仲を誤解していたので」

「誤解?」

「なので、結婚がどうとか……」


 言いながら恥ずかしくなって声量が小さくなる。夢の夢にも程があるので、口に出したらより一層情けない。身体を縮こまらせる私の左手に、ユーリの右手が重なった。


「遠くない未来の話だな。先ずはもう君が迷わないように、捕まえておかないと」


 喜ぶべきか、羞恥心で顔を覆うべきか。

 いずれにせよ、今の私の手はこの鬼の騎士団長にがっしりと掴まれているので、たぶん当分はどこにも行けない。だけどそれでも良いと思う。



「あぁ、やっぱり!ジャンヌ嬢は立派な泥棒だったわけですね……!」


 少し離れた場所で、勝ち誇ったように叫ぶクリストフの声が聞こえた。




End.



ご愛読ありがとうございました。

こんなに長くなるとは思わず、なんとか完結できて良かったです。

番外編があるので落ち着いたらまた更新いたします。


アルファポリスの方で新しいお話を書いているので、そちらも引っ張ってくる予定です。

とりあえず、これにて連休に突入します。

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