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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第三章 公爵家の真実
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61 開幕1



「んまぁ!ウェリントン公爵様ではないですか、お久しぶりですわねぇ。今日はお会いできるのを心待ちにしていたんですよ」


 ペチュニアの高い声を聞きながら部屋の中へと視線を走らせる。夜になって六時を回る頃には、招待客たちはわらわらと屋敷の中を賑わせていた。テーブルには料理の皿が並び、飲み物の入ったグラスを片手にすでに赤い顔をしている男も居る。


 私は部屋の入り口に見知った二人の顔を見つけて、そちらへと歩みを進めた。


「お父様、アマンダ」

「おぉ、ジャンヌ!美しく着飾ったな、見違える」


 母さんにも見せたいぐらいだ、と独り言のように言って涙ぐむから、私は慌てて父親にハンカチを差し出した。アマンダは柔らかな桃色のドレスを身に付けてキョロキョロと周囲を見渡している。


 父がバッカス・ヘルゼンの信頼を得ているおかげでなんとかアマンダも今日のパーティーに呼ぶことができた。彼女とて今日の重要人物なのだから、必ずこの場に来てもらわないと。


 イーサンは父親であるバッカスに連れられて挨拶回りに出ているからか、アマンダは面白くなさそうな顔でこちらに顔を戻した。はたと、その目が私を見る。


「ちょっとジャンヌ……派手すぎないかしら?」

「なにが?」


 聞き返しながら私は自分の格好を見下ろしてみる。滑らかな赤い布地が波打って女性らしいシルエットを作ってくれるこのドレスは、今日のような晴れ舞台に相応しい。見立ててくれたのは洋裁店のマドルガ親子だ。


「真っ赤なドレスなんて貴女らしくないわ。裏方の仕事をするのにどうして、」

「あら、私は裏方なの?」


 ハッとしたようにアマンダが口元を押さえる。

 父ダフマンは不思議そうに私たちを見た。


「ドレスの色がどうしたって言うんだ?」

「小父様、ジャンヌったらこんなに華美な、」

「あぁ、そうだな。キャサリンが早くに亡くなったということもあってお前には年頃の娘らしい服も与えられなかった……こうして好きに楽しんでくれているなら安心するよ」

「ありがとうございます、お父様」


 私がにっこりと微笑むと、視界の隅でアマンダが下を向くのが見えた。顔を上げたら彼女はいったいどんな顔をしているのだろう。私たちには、きっと本音で話し合うべきことがたくさんある。


 一際大きな歓声が聞こえて、私はバッカス・ヘルゼンがマイクを持って登場したのを確認した。喧騒が収まるのを待って、満足そうに男は微笑む。父ダフマンはバッカスの声がよく聞こえるように、と数歩前へと歩み出た。


 そろそろ頃合いだろう。



「ねぇ、アマンダ」


 私の呼び掛けを受けて、アマンダは不思議そうな顔でこちらを振り返った。


「少しだけ二人で話したいの。私の部屋まで来てくれないかしら?」

「ジャンヌの部屋に……?」

「ええ。この空間は人が多くてゆっくり話すには向いていないわ。昔みたいに二人で話したくて」

「もちろんよ」


 いくぶんか明るい顔になったアマンダが頷くのを見て、私は踵を返して自分の部屋へと歩き始めた。バッカスがどんな話をしているのかは分からないが、背後からは控えめな拍手の音が聞こえる。


 埃っぽい部屋の中へと招き入れると、アマンダは少しだけ驚いたように目を見開いた。私がどんな場所で暮らしているかなんて知っているはずなのに、今はその反応もわざとらしいと思う。


 部屋の扉をわずかに開けたまま、私はアマンダの方へと向き直った。



「頻繁に掃除しないと、すぐにこうなっちゃうの。お屋敷の構造上仕方がないのか、上の階で誰かが歩き回るたびに埃が舞っちゃって」

「あらそう……それは、」

「だけど仕方がないわよね。お義母様が用意してくれた部屋だもの。クレモルンの生活はどう?」

「変わらないわ。小父様は忙しそうで……」


 アマンダは指先を擦り合わせながらそう言う。

 私は観察を続けながら、口を開いた。


「アマンダ………私に隠していることはない?」

「え?」


 青い瞳が信じられないといった風に揺れる。

 何も見逃さないために私は更にアマンダとの距離を詰めた。怯んではいけない。遠慮や配慮は要らないから、今はただ、真実を知りたい。


「どんなことでも良いわ。私は貴女の口から説明してほしいの。宿舎で過ごすイーサンに一人で会いに行っていたのは本当?」

「…………、」

「それに、マコーレイ・リンクス先生との関係も詳しく教えて。単に同じ病院で働いていただけではないんでしょう?だって貴女は、」

「気付いたの?」


 冷ややかな声に言葉を止める。

 アマンダはフッと息を吐いて微笑んだ。


「今更知ったのね。じゃあ、全部もう分かっているのかしら。貴女が南部の病院に転院したときに変だとは思ったのよ」

「毒を盛ったのは事実……?」


 私の質問には答えずに、アマンダは静かに部屋の隅を見ていた。賑やかになった化粧台の前には、自分で揃えてみたいくつかの可愛らしい化粧品が並んでいる。


「色気付いたのね。焦ったの?」

「違うわ!」

「悪いけど計画はこのまま進めさせてもらうわ。どうせ恋愛結婚じゃないんだし、愛のない結婚生活は貴女にとっても苦でしょう」

「計画……?」


 オウム返しに尋ねる私の前でアマンダは頷く。

 細い指がスッと私の方へと向いた。


「離縁は貴女の方からして。ヘルゼン伯爵家での生活はもう終わりよ。今までの努力、ありがとう」



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