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お望み通り、悪妻になりましょう  作者: おのまとぺ
第二章 ヘルゼン伯爵家の悪妻
35/82

34 可能性



 不安はあったが、順調に進んでいる。


 ハンベルクの祖父母に連絡を取って、週末に件の毛皮を譲ってくれたという人に会うことも出来そうだ。ペチュニアは相変わらず私に会うたびに嫌な顔をしてくるけれど、イーサンは喜んでいるし、屋敷のメイドたちも私の変化を誉めてくれた。


 お化粧もいろいろと試してみたら楽しいもので、自分が綺麗にすることで周りの対応も変わるのだと分かった。こそこそと背を丸めて歩いていた大通りも、今では堂々と歩くことができる。気持ちに余裕が持てたお陰だろう。



「おはようございます」

「ジャンヌ様、おはようございます!」


 ヘルゼン宝石店での勤務も二週目に入れば、だいたいの接客の流れも掴めて来た。常連の顔触れも頭に入ったし、売り込み方も分かって来た気がする。


「今日はコリーナさんがいらっしゃる日ですね」


 緊張した面持ちでそう言う店員に、私は頷いた。


「ええ。洋裁店で飾る人形のコーディネートに、いくつかアクセサリーを使いたいんですって。気に入っていただけるものがあると良いんだけれど……」


 これもすべて、マリーの協力の賜物。

 どうやって打診してくれたのか不明だが、三日ほど前に突然コリーナ・マドルガから「上質なものを購入したい」と話があったのだ。


 もちろん私だって緊張している。いずれは隣り合う店同士、洋裁店でもヘルゼンの宝石を取り扱ってもらえれば、とは思っていたが、もっと先の話になると思っていた。だから毛皮の入手を進めて、少しでも交渉の手札を増やそうとしていたのに。


(まさかこんなに早く実現するなんて……)


 ソワソワしながら待っていたら、入り口の扉が開いて膝丈の濃い紫色のセットアップを着たコリーナが店に入って来た。葡萄を模したガラスのブローチを身に付けている。



「お久しぶりね、ジャンヌさん。前に会った時と随分雰囲気が違うわ。見違えちゃった」

「ありがとうございます。マリーさんのお陰です」


 笑顔を返しながら店の奥へと案内する。テーブルと椅子が置かれただけの空間だが、コリーナは机の上に置かれたものに興味を持ったようだった。


「これは……?」

「いろいろな動物の毛皮です。肌触りや温かさを比較したかったので、サンプルとして用意してみました。染色も可能ですが、若い世代ではそのままの色合いを楽しむ方が多いようですね」

「シックなドレスでも、毛皮はポイントになるのよ。高級感があって、コーディネートを格上げしてくれる……」


 うっとりしたように呟いて、コリーナはその手をハンカチ大の毛皮のサンプルの上に滑らせた。


 本格的な寒さが到来する前に、どうにかしてヘルゼンで仕入れの糸口を掴みたい。だけどそれ一本で勝負するのは少し弱い気もする。季節を問わずに需要があって、他の商会と差が付けられる何かがほしい。


 考え込んでいた矢先、前屈みになったコリーナの胸元に輝くブローチが目に入った。キラキラと光を反射する小さなガラスの球体が、葡萄のように集まった可愛らしいブローチ。



「あの、これはどちらで………?」


 私の目線を追ったコリーナが「あぁ」と言った。


「これは妹のお土産よ。珍しくて気に入ってるけど、ガラスだから割れやしないか心配で」

「見せていただくことはできますか?」


 もちろん、と快く頷いた女店主は、私の手のひらの上にブローチを置いてくれた。


 確かに美しい見た目だが、コリーナの言う通り、扱い方に気を付ける必要はあるだろう。ガラスを使う以上はヒビやカケの危険性は避けられない。だけど、もしもこれがガラスではない他の物質だったら?


「そうだわ……加工出来るかもしれない」

「え?」

「コリーナさん、以前宝石は身に付ける人を選ぶし高価だって仰ってましたよね?」

「あぁ、そういえばそうね……」

「軽くてお値段を抑えられれば、もっと身近な存在になるでしょうか?」

「宝石が……軽い?」


 私は急いでメモ帳を取り出す。

 クレモルン邸で使っていたノートは相変わらず行方不明で、探しに行く時間もなかったから、今は代用品を使っている。こうやって思い立ったアイデアを貯めていけば、きっと役立つはず。


「上手くいきそうならコリーナさんに一番にお話しします。きっと、良い形になる気がします」

「何か分からないけれど………」


 コリーナ・マドルガはそこで言葉を止めて、口元を押さえて笑い出した。私は不思議に思ってその様子を眺める。


「ごめんなさい、笑うのは失礼よね。だけど貴女を見ていると、若い頃の自分を思い出すの」

「………?」

「ミシン一台と限られた布地で店を始めた。お客様が来ないなんてザラだったけど、それでも、将来は明るいと信じていた。だって私は私の可能性に賭けていたから」


 だから上手くいったでしょう、とちゃめっ気たっぷりに微笑むコリーナの顔は、確かにマリーとよく似ている。私は亡き母のことが恋しくなって、なんとも言えない気持ちになった。


「そうですね……信じています。何があっても私だけは、私の人生を諦めません」



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